『クリエイターのヒミツ基地』

『クリエイターのヒミツ基地』Volume25 SwimmyDesignLab(クリエイティブ集団)

『クリエイターのヒミツ基地』Volume25 SwimmyDesignLab(クリエイティブ集団)

プレイリードッグ、アルパカ、バク、なまけもの……つちのこ? まるで子どものいたずら描きのようなキッチュでポップな動物たち。実在の動物を独自の観点と偏見でビジュアライズした「SwimmyAnimalLab」プロジェクトの作者としても注目される吉水卓さんは、クリエイティブ集団SwimmyDesignLabを主宰する気鋭のアートディレクター。アメリカでファインアートを学び、「ほとんど何も知らないままデザイン事務所を立ち上げ、アートディレクターを名乗った」という吉水さんの柔軟で鋭い感性は、どのように培われていったのでしょう。数々の作品が生み出された代官山の住宅街の中にあるオフィスで、最新プロジェクトにまつわるお話も交えて伺いました。

テキスト:阿部美香
撮影:CINRA編集部

SwimmyDesignLab
(すいみーでざいんらぼ)
グラフィックデザイナー、ウェブデザイナー、写真家、イラストレーター、トラックメイカーから成り立つ、クリエイティブ集団。個々が多様なニーズに対応し、メディアを問わず『デザイン』と『アート』の境界線を超えた、斬新な創作活動を行う。2012年よりスタートした、独自の観点で再構築した動物をコンパイルしたプロジェクト「SwimmyAnimalLab」で、さまざまな企業とコラボレーションするなど活動の幅を広げている。
http://www.swimmydesignlab.com/

SwimmyDesignLab

「アートより音楽」だった男がアートディレクターを名乗るまで

高校を卒業してすぐに渡米。多くの芸術家を輩出しているアートスクールに進み、ファインアートを中心に総合美術を学んでいた、吉水さん。さぞ大きな志を抱いてアートの道を目指されたのだろうと、そのきっかけを伺ってみると、意外な答えが返ってきました。

吉水:絵を描くことは好きでしたが、特別な志はなくアメリカに行ったんです。僕が普通に大学に進む気がなかったのと、父親が海外で長く仕事をしていたこともあり、「じゃあアメリカの大学に行ってこい」と送り出されてしまって(笑)。英語も喋れない中で、いちばん語学力の必要ない科目が、美術だったんです。

そこから本格的にファインアートの世界に触れた吉水さんは、スカルプチャー(立体造形物)をメインで制作しながら、授業の一環としてデザインも学ぶことに。その経験を活かして、帰国後に自らデザイン会社「SwimmyDesignLab」を立ち上げます。しかし、「アートやデザインで身を立てたいという特別なこだわりがあったわけではなかった」と、吉水さんは振り返ります。

吉水:アートディレクターとして仕事をしていますが、実は今でもデザインをどうしてもやりたい、というわけではないんです。物作りには昔からずっと興味がありますが、題材は音楽でも文章を書くことでも何でも構わない。ただ僕にできることがデザインだっただけ。事務所を作ったのも、アメリカで描きためた絵がたくさんあって、それを使えばいいだろうと考えただけなんです。好きという気持ちだけなら、音楽への熱のほうが高いかもしれません(笑)。

大手企業とのコラボレーションや、ちょっと意外なL'Arc〜en〜Ciel、シドといった人気アーティストのコンサートグッズなど、さまざまなプロダクトを手がけ、アートディレクターとしてキャリアを重ねている吉水さん。「僕にできることはデザインだけ」と謙遜しても、吉水さんの大胆な発想は、アーティストと比べても、とてもラジカルなものに思えます。そのバックボーンには、やはりご自身も語る通り、音楽の存在が欠かせません。

吉水:高校時代は時代的にもメロコアとハードコアが流行っていた頃で、パンクバンドをやってました。アメリカに行ってからもヒップホップのトラックメーカーをやっていましたし、その後も世界中のマニアックな音楽にハマったり。本当にデザイン以上に、音楽にどっぷりでした。実は、一緒に会社を立ち上げたパートナーも、バンド時代の仲間なんですが、当時は見た目も全然違っていて、今でも耳に大きな穴が開いていますよ(笑)。

吉水さん

パンクミュージックがルーツのひとつと聞くと、なにやら吉水さんのラジカルな発想も理解できるような気がします。若い頃のスピリットが、今のお仕事にも影響を与えているのではないのでしょうか。

吉水:いわゆるパンク精神がなかったら、こんな仕事やっていけないでしょ(笑)。僕の場合アートスクールも中退し、帰国後もフラフラしていて、初めての仕事がこの事務所で「アートディレター」を名乗ってから、なんです。当時は何もかもぶっつけでしたから、自然と規格外な発想になっていたと思います。それに僕は、いわゆるアーティスト肌ではない。もちろん自分の作品にコンセプチュアルな考えは持っていますが、ファインアートの作家のように、声を大にして言うのは恥ずかしい。かといってアートに造詣がない代理店的な発想も違う、と思ってしまうんです。どちらの仲間にも入れないんですね。

さらに吉水さんは、ご自分の作家性をこう分析されます。

吉水:そもそも、内にこもってじっくり作品を練り上げる物作りは、性に合わないんです。自分のやったことにリアルタイムでレスポンスがないと続かない。バンドもそういうものですよね。「これどう?」「いいね!」という仲間のレスポンスがあるから創造力も高まります。あの感覚が忘れられなくて、デザイン会社を作ろうしたときも、バンド仲間をパートナーに誘ったんです。

たしかに、デザインの仕事はチームプレイで作り上げるもの。そして、アートとビジネス、どちらも持ち合わせながら、どちらの感性とも違う吉水さんが、作家ではなくアートディレクターになられたのも、必然だったのかも知れません。

コマーシャルとアートの絶妙な狭間を泳ぐ作品性

そんな吉水さん、手がける作品も斬新でラジカルです。今の代表作とも言える「SwimmyAnimalLab」は、頭の中のイメージだけを頼りに動物をハイスピードの一発描き(1枚描くのに要する時間はわずか15秒ほど!?)で仕上げてしまうそうなのですが、これはどのように作り上げられたのでしょうか。

吉水:デザインの仕事というのはクライアントありきなので、相手のニーズに合わせて、僕らの作風も変わります。だから逆に、自分たちから何か発信できるものはないか? と考えたのが、もともと好きだった動物を再構築し、オリジナルの図鑑で見せる、ということだったんです。

それが2012年のこと。吉水さんはこの可愛らしくどこか毒気のある動物たちを、ありとあらゆるデザインイベントや展示会に出品し始めました。その数、年間で10件以上。毎月のようにイベントを行っていたそうです。その甲斐あって、さまざまなコラボレーショングッズが発売になり、プロダクトは大手商社とのライセンシー契約を結ぶまでに成長しました。

吉水:小難しいことは考えずシンプルなコンセプトで、僕自身が楽しんでやれるものにしました。それは過去に「結婚を申し込みにきた男と娘、その父親が織りなす物語」をアパレルで展開するという、あまりにトリッキーなコンセプトの企画で失敗したからなんです(笑)。次はひと言で説明できるものがいいなと、いろいろ削ぎ落としていった結果、「イメージのなかの動物たちの図鑑」という、分かりやすいコンセプトになったんです。

これに手応えを感じた吉水さんは、今年さっそく次のプロダクトを始動しました。

吉水:新プロジェクトの「HOZON HOZON」は、ありふれた缶詰にありえない缶詰のラベルを貼付ける、というもの。これも全部、先にギフトショーという発表の場だけ押さえて、ギリギリで一気に描き上げました。僕、もともと直近のことしか考えられないので(笑)、面白いと思うアイデアは出し惜しみせず、すぐに実現したいんです。

「HOZON HOZON」

HOZON HOZONに込められたメッセージも、あの動物たちと同じようにキュート&ユーモラスで、ちょっぴりシニカル。ビートルズ風のキャラクターが描かれた「リバプールの缶(トリップ2回分)」、開けても開けても……を想像させる「マトリョーシ缶(5缶)」など、ウィットに富んだラインナップです。

吉水:例えばリバプールの缶なら「ヨーコの手作りトリップが2回分入った缶詰」というように、それぞれ裏面にバックストーリーが書いてあります。デザインの細かいところにも、ちょっとしたジョークを盛り込んでいて、そのまま缶詰にしてもいいでしょうし、ラベルとして使っても面白いと思うんです。これも興味を持ってくれる方にできるだけ多く出会って、面白い展開ができるよう、いろいろな場でアピールしていきたいと思っています。

今年も、持てるクリエイティビティをいかんなく発揮していくであろうSwimmyDesignLab。今後は活躍のフィールドを、どのように広げていきたいと考えているのでしょうか。

吉水:オリジナルのプロダクトは、自分たちのクリエイティブを伝えられるコンテンツにしたいんです。アートとしてビジネスになるブランディングを考えていきたいですね。……やっぱり何らかのカタチでファインアートにも戻りたいし、海外でリベンジしたい気持ちもあります。その足がかりとなればうれしいですね。

ただ絵を描くだけではなく、ユニークなコンセプトも含めたトータルコンテンツをコマーシャルな感性とアーティスティックな感性で融合し、発信していく吉水さん。SwimmyDesignLabの次なる仕掛けに、目が離せませんね。

吉水さん
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