福岡から始まる、アジアへの新たな幕開け「ASIAN NIGHT SUMMIT」

数多くの有名ミュージシャンやバンドを輩出し、独自の音楽シーンを発展させてきた街・福岡は、全国的にみてもクラブの数は多い。その福岡のクラブシーンの1つの象徴であった『MILLS』の歴史が終わると告げられたのは2016年8月。そのラストパーティとして開催されたのが「ASIAN NIGHT SUMMIT」だ。 近年、福岡市はクリエイティブ・エンターテイメント都市・福岡を目指し「Creative Lab Fukuoka(クリエイティブ・ラボ・フクオカ)」を設立。様々なイベントに協賛し、国内外にその魅力を発信し、今後、アジアの玄関口として、グローバルな発展を目指す。そんな「終わり」と「始まり」を感じさせる、「ASIAN NIGHT SUMMIT」の現場に潜入した。

本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

福岡をカルチャーの首都とする「新アジア圏構想」の幕開け?

福岡に秋を告げるお祭り「放生会(ほうじょうや)」が終わり、街はすっかり秋めいてきた。9月に入ると、「NAKASU JAZZ」「MUSIC CITY TENJIN」といった音楽イベントが立て続けに開催され、福岡市は音楽が溢れる街へと姿を変える。9月24日、25日に開かれたイベント「MUSIC CITY TENJIN」の前夜祭として、23日に福岡の最重要クラブ『MILLS』でアジアのユースカルチャーに影響力を持つDJ・ミュージシャンを招聘したオンリーワンなクラブイベント「ASIAN NIGHT SUMMIT」が開かれた。

イベントが開かれた『MILLS』は、サウンドクオリティをはじめ質の高い箱(クラブ)として、多くのDJや音楽好きに愛された福岡を代表とする老舗クラブ。今回の「ASIAN NIGHT SUMMIT」は「MUSIC CITY TENJIN」の前夜祭としてだけでなく、『MILLS』のラストパーティとしての側面も持つ。

前売りチケットは早い段階で完売。福岡を首都とした「新アジア圏構想」の第一歩といわれている。ラストパーティでありながら、福岡を首都にした第一歩!? 一体どういうことなのか? はやる気持ちを抑え、21時のオープンと同時に『MILLS』に足を踏み入れた。

出演/
■ASIAN's DJ
MAX SHEN (SHANGHAI), DJ Dark Lo (TAIPEI), RED-I (MANILA), JASE NGUYEN (VIETNAM)

■FUKUOKA's DJ
JOHNNY&MARR(常盤響&STEREO渡辺), BRISA, NAKAZAWA(Asian Vibes), CUNTA(SPICEUP), HAMA(SPICEUP), DJ KUMA(WAX PRODUCTION), KO*HAYASHI(STEAMWORK), KIT-CUT(SKANKIN' SOUND SYSTEM), NON-DI(BINGOBONGO)

■Live
Swallowtail Butterfly (KOREA), Colteco (FUKUOKA), NONCHELEE&AIR冗談(FUKUOKA)

■VJ
NiNE Ist (KOREA), PicoPicoHammer (FUKUOKA)

これからは、アジアへ向けてアウトプットする時代

まずは、イベント開始の前に主催者である宮野秀二郎さんにお話を伺う。宮野さんは以前から東京ありき、東京経由のファッション業界や音楽業界の成り立ちに疑問を感じていたと言う。そして今、「東京から福岡にインプットする時代は衰退期に入り、これからはアジアへ向けての福岡のカルチャーをアウトプットする時代の創生期に入ったのではないか?」と考えるようになっていったという。

日本はアジアの各都市と比べても夜の観光産業が弱い。そこで、「クラブを夜の観光資源にできないか?」と考え、この「ASIAN NIGHT SUMMIT」の開催にいたったと話す。

今回イベントに参加した国外のアジア勢のDJはベトナムのJASE NGUYEN、台湾のDark Lo、上海のMAX SHEN、フィリピンのRED-Iに、ミュージシャンは韓国のSwallowtail Butterfly、VJは韓国のNiNE Istといった布陣。そこに加え、福岡のDJ・ミュージシャンが共演する。

宮野さんはアジアのDJ・ミュージシャンを選んだ基準については、各都市のユースカルチャー、クラブカルチャーに本当に影響力を持っている人たちだと話す。会える人たちは現地に行って会い、会えない人は推薦を受けて、YouTubeやMixcloudなどでチェックした上で選考していった。

「僕がアジアで出逢った凄腕DJ達を、まずは福岡の感度の高い人達に見てもらって、驚いてもらいたい。アジアに限定したクラブイベントは、まず他ではない企画だと思うし、そんなイベントを最初に仕掛けるのは、僕ら福岡の人間であることを胸高々に伝えたい。まずは、新しいアジアの夜明けを楽しみましょう」と、パーティへいざなった。

アジアを繋げる歴史的な夜のはじまり

『MILLS』は4階と5階の2フロアに別れていて、5階にはアジア勢4人のDJが出演、4階では韓国のSwallowtail Butterflyがライブを行い、同じく韓国のNiNE IstがVJを務める。そのゲスト達に加え、福岡のDJ・ミュージシャンたちのプログラムが交互に組まれる構成になっていた。

5階フロアのトップバッターのDJ HAMA(福岡)は歴史的な夜のはじまりを予感させる「プロローグ」という曲でパーティをスタート。はじめは緊張した面持ちだったが、徐々にリラックスしてビートもアガってくる。フロアが温まってきたところで、アジア1人目のDJ、ベトナムのJASE NGUYENにバトンタッチ。JASEはホーチミンを中心に活動するDJで、エレクトリックな中に超重低音や制限のないメロディテンポというDJスタイルで観衆を魅了する。活動もアジアだけに留まらず最近ではパリで30万人の群衆の中でテクノパレードを行った実力派。この日も重低音+うねるようなエレクトリックミュージックを響かせる。

JASEは今回のイベントについて、「素晴らしいイベントだった。アジア各国のミュージシャンと日本のアーティストと連携するための良い機会となったよ」とコメントをくれた。

続いて、DJ BRISA(福岡)の後に、アジア勢の2番手として、台北のDark Loが登場。

Dark Loは台湾でもっとも早くDJキャリアをスタートさせた人物。1万枚にのぼるレコードのコレクションを持ち、ダンスミュージックという軸の中で時代やシーンに合わせジャンルの幅を広げキャリアを積んできた台湾クラブシーンの伝説と言われる。Dark Loは今回のイベントについて、「最高のイベントだった。福岡の人々が音楽を楽しむのを見ることができ、自分自身も楽しい時間を過ごす事ができたよ」と話す。

Dark Loのプレイが終わり、韓国のSwallowtail Butterflyのライブへ突入。

彼らは韓国・釜山に拠点を置くJazz Hiphop Bandで、バンド名の「Swallowtail Butterfly」は岩井俊二監督の映画「スワロウテイル」からきている。ライブは彼らのバンド名でもある「Swallowtail Butterfly」でスタート。軽快なJazzのメロディにボーカルCRITCのラップが重ねられていく。

ボーカルのCRITICは「このイベントの素晴らしいのは、ローカルの人達が企画をして、ローカルのアーティストが参加していること。今後、このようなイベントが増えるとアジアの中での交流が増えて、アジア全体の音楽シーンの発展に繋がると思う」と絶賛した。その後、上海のMAX SHENのプレイが5階でスタート。

MAX SHENは上海アンダーグラウンドシーンを代表する最大級/最重要クラブ『ARKHAM』のマネージャーを兼任するレジデントDJ。2008年には中国オリンピック女子サッカーで音楽を担当し、2010年の上海万博で中国を代表してプレイした経験を持つ。近年はMinimal、Tech House、House、Technoの主軸としたプレイスタイルで中国ダンスミュージックの最前線に立つMAX SHEN。この日もTech Houseを中心にプレイを展開した。終演後に「とても良いパーティだった。福岡のクラブシーンを知る事もできたし、アジアの他の国のDJたちともお互いに文化的な交流ができて幸せだった」とコメント寄せてくれた。

フロアも最高潮の盛り上がりをみせところに、福岡のDJ CUNTAがプレイ。シン・ゴジラの咆哮を効果的に使いながら、低音の効いたベースミュージックでデオーオディエンスをパニックと興奮の境地へと誘う。

今のアジアのクラブシーンは日本の80年代みたいな盛り上がり

フィリピン・マニラでもプレイ経験のあるCUNTAは、アジアのクラブシーンをこう話す。

「マニラはイメージ的に日本の80年代ですね。アジア全般ではありますが、今、急速に発展しているんですよ。今まで情報がなかった人たちに情報が入るようになって、新しい音楽にものすごい喰らいついているんですね。それに音楽が好きで、元々熱い人たちが多い国だから、そこにそんなエッセンスが入って、もう、いきなり進化しちゃって。日本の80年代に感じた熱が、今のアジアにはあります」

DJ CUNTAのプレイが終わると、いよいよアジアDJのトリを飾るフィリピンのRED-Iがスピン。

Red-Iはフィリピンを代表するDJ・プロデューサーであり、『Black Market』、『B-SIDE』というマニラのアンダーグラウンド音楽シーンを牽引するクラブのオーナーもつとめる人物。彼が創り出す音楽はDub、Roots、Beatsの要素を取り入れたヘビーウェイトなサウンドでありながら、ときおりどこか懐かしさを感じさせる。

Red-Iは出演後「ASIAN NIGHT SUMMIT」について、「アジア音楽シーンを繋げるための本当に良いアイデアだと思うよ。みんながアジアの音楽シーンのために良い動きをしていると思うんだ」と語った。

そして、5階の大トリを務めたのは『MILLS』の歴史を長く知るDJ NAKAZAWA。

NAKAZAWAは『MILLS』との別れを惜しみながら、1曲、1曲、丁寧に音を繋いでいく。そのNAKAZAWAが最後に選んだ曲がUAの“HORIZON”。夕陽は水平線に沈み、朝陽は水平線から顔を出す。まさに今日の「ASIAN NIGHT SUMMIT」のラストにふさわしい選曲。UAの甘くハスキーな声がフロアに染みわたり歴史的な夜は幕を閉じた。そして、新たな時代のはじまりを感じる一夜となった。

ユースカルチャーを通じて、アジア各国と福岡の交流が深まる事により、それが日本全体に新たな影響を与えていくことになると強く感じた「ASIAN NIGHT SUMMIT」。これからアジアに進出して行くであろう、福岡勢の活躍と共に、今後の更なる動向を追って行きたい。

ASIAN NIGHT SUMMIT
時間 : 21:00~
住所 : 福岡市中央区今泉2丁目4−28
会場 : MILLS
入場料 : 前売2,500円 当日3,000円(共にドリンク別)
お問い合わせ : 092-716-2658


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