タイ・バンコクで注目を集める、次世代イラストレーター5人

個人のクリエイターが高い発信力を持つようになった今、バンコクでは、TUNA Dunnを筆頭とする若い世代のイラストレーターたちにも、国内外からの注目が集まっています。今回は、インフルエンサーとしてユース層に影響力を持つイラストレーターや、ハイブランドとのコラボレーションを行うイラストレーターなどを紹介。バンコクを中心に活躍するタイの次世代シーンをどうぞ。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

1. Jeep Kongdechakul

最初に紹介するのは、広告を中心に活躍するJeep Kongdechakul。1985年に生まれ、バンコクで育った彼女は、タイ発のアパレルブランド「FLYNOWⅢ」でデザインやディスプレーを担当したのち、ストリートファッション雑誌『CHEEZE』に。バンコクのトレンドやライフスタイルをイラストで綴るコラムニストとして、イラストレーターのキャリアをスタートさせました。

彼女が描くのは主にグルメ、ショッピング、ファッション、旅行などのイラスト。自身の日常や体験を、絵日記のように克明かつ色鮮やかに描きます。

そのイラストは、デコラティブなハイファッションアイテム、極彩色の宝石や化粧品、ニューヨークやパリ旅行……まさにバンコクの女性の憧れるスタイルがぎっしり詰まっていると言えるでしょう。

そんな彼女の作品はファッション広告とも相性が良く、これまでにLouis Vuitton、Estee Lauder、FREITAGといったメガブランドや外資系コスメブランドとのコラボレーションや、高級デパートのキャンペーン広告なども手掛けてきました。

アクリルカラーを使った手描きのイラストをデジタル化するという、アナログな手法をとる彼女の作品の魅力は、スタイリッシュだけれどもクール過ぎず、そのうえ、素朴さとユーモアを感じさせるタイらしい温度感。自身のイラストレーションをあしらったセラミック食器やバッグなどのアイテムも発表しており、この冬にはバンコクに新しくオープンするミニホテル『WIW(Wanderlust in Wonderland)』の内装も手がけます。

そのほかにも、フランスやオランダなど欧州にあるショップ5軒を絵本に閉じ込めた自費出版のブック『Handpicked』は「Bangkok Art book Fair 2018」にも出品され、多くのメディアにも取り上げられるなど話題となりました。

クリエイターとして、そしてインフルエンサーとして、自身のライフスタイルも注目されるJeep Kongdechakul。バンコクのトレンドを見るうえでも、見逃せないイラストレーターのひとりです。

2. Nut Dao

次に紹介するのは、若手イラストレーターのホープ的存在である、Nut DaoことNuttapong Daovichitr。タイの美術における最高峰と言われるシラパコーン大学を卒業後、タイを代表するデザイン事務所Practical Design Studioに所属。1991年生まれながら、Peach、東京メトロ、TOYOTA、VAIOといった日本企業の広告も複数手掛けるなど、現在、海外でもっとも活躍するタイ人イラストレーターのひとりとも言えます。

ミニチュアやシムシティーのように人々を俯瞰的に描く彼の象徴的なスタイルの作品には、細部までストーリーが練られた絵本のように緻密で可愛らしい世界が広がっています。計算され尽くされたデザイン、限られた色数、ミニマルな線で構成される作品は、グラフィックデザイナーとしての肩書きも持つ彼ならではのものです。

表情が極限まで簡素化されたキャラクターたちは記号のよう。アジア感、タイらしさといったものを良い意味で感じさせず、誰もが作品の世界に入り込みやすいところが、海外向け広告にも頻繁に器用される理由のひとつと言えるでしょう。

また、個人名義で発表している作品の多くは、「人が内面に抱える感情をどうコントロールするのか」といった抽象的なテーマで描かれているもの。クールな目線で物事を客観的に捉えた作品は、幅広い年代層に支持されています。

2017年にはタイの同世代イラストレーターであるTUNA Dunnと共同で「Lig」というブランドを立ち上げ、ファブリック製品を発表するなど、イラストレーションの新たな道を模索中。10月にはソロエキシビジョンを開催するなど、個人としての活躍にも期待されている彼に、ぜひ注目してみてください。

3. Sundae Kids

次に紹介するSundae Kidsは、Kavin ThienvutichaiとPratchaya Mahapauraya(Poysian)によるイラストレーターチーム。1992年生まれの彼らは、タイを代表するチュラロンコーン大学在学中の2016年にFacebookページを立ち上げ、作品の発表を開始。そこからわずか2年半の間に、Facebookで120万人、Instagramで11万人以上のフォロワーを獲得。現地カルチャー雑誌『happening Mag』を筆頭に、多くのメディアで取り上げられ、タイの次世代シーンの中でも圧倒的な存在感を放っています。

Sundae Kidsのイラストはストーリーを織り交ぜた漫画のようなスタイル。その多くは「誰もが理解できるテーマ」として「恋愛(LOVE)」について描かれています。プライベートでもパートナーであるふたりが、実体験や友達の話、映画などから得たアイデアを出し合って作品のシチュエーションを決めたあと、スケッチから仕上げまで、二人の間で何往復もするという、まさに共同作業で作り込みます。

甘酸っぱいストーリーとポップなイラストに熱狂しているのは、学生たちや20代前半の若い層。バンコクの人気アパレルブランドGREYHOUND系列とのコラボレーションアイテムの制作や、ショッピングセンターSiam Discovery、サーティーワンアイスクリームなどの広告に次々と起用されていることからも、その人気ぶりが窺えます。

2017年末からふたりのサイトで毎月無料公開されている、ニューヨークとロンドンを舞台にしたグラフィックノベル『CLOSE TO YOU』は、彼らの代表作のひとつ。日本の漫画、シンプソンズなど英米のTVシリーズや映画、様々な国のものを見て育った世代のふたりは、「生まれ育ったタイ・バンコクの影響はそれほど受けておらず、オンラインの世界とオフラインの世界があるだけ」と言います。誰でも感情移入しやすいその作品たちは全て英語で描かれており、タイ以外のアジアの国々からも注目を集め始めています。

4. Gongkan

次に紹介するのは、GongkanことKantapon Metheekul。2018年、Siam Discoveryと、倉庫をリノベーションしたショップとギャラリーが立ち並ぶWarehouse30の2ヶ所でソロエキシビジョンを開催し、「黒い円」を主題とした作品で、瞬く間に人気イラストレーターのひとりとなりました。そのポップで不思議な世界観を目にすべく、連日のように押しかけた有名人やインフルエンサーがSNSで発信したことから人気に火がついたと言われます。

1989年生まれのGongkanはバンコクの芸大を卒業後、広告代理店BBDOのアートディレクターとして勤務。世界最大広告賞のひとつと言われる「Cannes Lions」などでの受賞経験もあり、2016年にはニューヨークに拠点を移し、自身のイラストレーション作品の製作を開始しました。

新天地での生活の中、人が多いはずの都会で孤独を体感し、自分や人との関わりを見つめ直すことから生まれたのが、注目のきっかけとなった「teleport」プロジェクト。どこへでも通じている「黒い円」を通り抜けて人や物が自由に移動するというサイエンスフィクションのようなアイデアの作品群です。「黒い円」は作品によって自由、平等、セクシャリティーなど自在にその意味を変え、4次元ポケットのように、見る人の想像力を掻き立てます。

『GQ Magazine』をはじめ、多くの雑誌でフィーチャーされたほか、Benz、Louis Vuitton、カシコン銀行(KASIKORN BANK)、Panpuriなど、国内外の企業とのコラボレーションも多数。現在は、バンコクとニューヨークを拠点としていますが、今後はほかの国でも活動を広げる予定ということで目が離せません。

5.Chubbynida

最後に紹介するのは、バンコクの人々にとってもフレッシュなイラストレーターChubbynidaことChanida Areewatnasombat。1992年生まれの彼女は、イギリスのキングストン大学大学院でイラストレーションを本格的に学び、バンコクに戻った2017年末から、フリーランスのイラストレーターとして活動を始めました。

彼女が得意とするのは、女の子のポートレートやファッションのイラスト。登場人物がどれも丸くデフォルメされているのが特徴で、どこか儚げでカラフルな世界観がタイの女の子たちの心を掴んでいます。今、Instagramを中心にじわじわとファンを増やす、注目のイラストレーターです。

どこかのんびりとしたタイらしいおおらかさが垣間見えるところが、彼女の作品の魅力のひとつ。不透明の水彩絵具であるガッシュで色付けしたあとに、カラーペンシルで細部を仕上げる手法で、柔らかく温かみのある質感を仕上げていると言います。

ロンドン留学時代に、彼女自身を主人公にし、その人生を投影させたアニメーション作品を制作。それ以来、Instagramのアカウント名やホームページの名前を「Chubbynida」としているように、自身をモチーフにしたぽっちゃりした女の子の作品も度々発表しています。そんな作品たちは、彼女の日常生活の中での人間関係や、音楽、映画など、身近なものからインスパイアされているそうで、作品に感じる温かさや親近感にも納得です。

現在、バンコクでワークショップを開催したり、ZINEやグッズの制作を始めたばかりの彼女。これからは積極的にアニメーションに力を入れていく予定だそう。活動期間はまだ短いですが、今後に期待したいイラストレーターです。



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