今、タイで注目すべき新進気鋭の若手写真家5人(前編) 

いつの時代も写真家を惹きつけるフォトジェニックな国・タイを舞台にした写真作品は無数にありますが、やっぱりタイ人が撮った作品はいつだって格別に面白い! 今回は「タイってどんな写真家がいるの?」という人のために、様々なジャンルの中から、今、注目したい若手写真家を5人紹介。 作品を通して、旅するだけでは見えてこない、タイの多様性を発見してみてください。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

俯瞰的目線でバンコクの社会を皮肉るモダンアート Miti Ruangkritya

タイ人の若手写真家の中で「アートフォト」として最も評価されているMiti Ruangkritya(ミティ・ルアンクリタヤー)は、 タイのアートシーンを語る上でも見逃すことのできない注目の写真家。

タイの政治を様々な角度から考察する「Thai Politics」や、常夏のバンコクでクリスマスツリーを撮り歩いた「Christmas Tree」、タイの幸運を呼ぶ(お金持ちになれる)お守りにまつわるストーリーを追った「Amulet World」など、タイ特有の社会現象をシニカルに捉えたシリーズを数多く発表しています。

Miti の作品に見られる極度のイメージ画像収集癖を窺わせるスタイルとユーモアセンスは、イギリスを代表する写真家・Martin Parr(マーティン・パー)に通じるものがあります。インターネットなどから採取した画像はもちろん、一見変哲のない静かな風景写真の中にも垣間見えるブラックユーモアに、思わずニヤリとさせられるはず。

2006年から続く「Thai Politics」は彼の代表作のひとつ。政治スローガンがプリントされたTシャツ、政治家の広告のコラージュ、ネットに氾濫するパロディー画像、反政府デモに楽しく参加する人々のセルフィーなど、シリーズごとにテーマに沿ってイメージを採取。タイの政治にまつわる様々な現象を、傍観者的かつユーモアたっぷりに見せます。

最新作の「Dream Property」は、近年バンコクに乱立するコンドミニアムの部屋を撮影したシリーズ。街に溢れる不動産広告を撮り集めたシリーズ作と連携しており、均一で箱庭的な「夢の不動産」のイメージを淡々と見せ、広告に翻弄される現代人やライフスタイルを皮肉った作品です。

元々イギリス生活が長く、Mitiは自身のことを「完全なタイ人でも、イギリス人でもないように感じる」と話します。その独特の視点で捉えた作品は、いつも私たちに新たなタイの姿を見せてくれるのです。

プロフィール
Miti Ruangkritya

1981年、バンコク生まれ。10代の頃からロンドンに住み 、Westminster大学の大学院でDavid Campany氏に写真を学んだ後、タイに帰国。現在はバンコクを拠点に作品を制作。欧米での作品展や、アルル国際写真祭といった写真フェスティバルに参加するなど、国内外で活躍。2016年にはBangkok Art & Culture CenterにてChristina Kubischとコラボレーションした作品展の他、大規模な個展を複数開催し注目を集める。

自由を求める若者のユートピアを写した、タブーに挑む Tada Hengsapkul

イサーン(タイの東北地方)出身のTada Hengsapkul(タダー・ ヘンサッグー)は 、ジェンダーや宗教、政治など、直接は語ることのできないタイのタブーを暗示した、挑発的な作品を数多く発表している写真家。

彼の作品の多くは、地元であるイサーンのジャングルを舞台にしており、タトゥーがぎっしり入った若者のヌード、従兄弟同士のカップル、厳しくも美しい自然などをモデルに、時に暴力的なほどに鋭利に、また 美しく、様々なストーリーが繰り広げられます。

昔からタイでジャングルという場所は、政治的な問題を含む、訳ありの人が逃げ込む場所として使われてきました。そんなジャングルをユートピアに見立てた作品群は、単にヌード写真でジェンダーの問題を提議しているだけでなく、明言することのできないタイの社会問題への挑戦となっています。

森に回帰していくアニミズム的な部分や、フィクションと現実が混じり合うTadaの世界は、完璧に作り込む訳ではなく、最低限のセッティング以外は、成り行きで撮られていて、カンヌ映画祭でおなじみのタイの映画監督・Apichatpong Weerasethakul(アピチャートポン・ウィーラセータクン)の作品に多く共通点が見られます。

また、ユースカルチャー、ヌード、リベラリズム、オーガニックといった、さまざまな要素を混在させるスタイルの彼の写真は、まだタイではあまり多くない、Ryan Mcginley(ライアン・マッギンレー)などをはじめとした、今の世界的な写真の潮流ともリンク。

Tada Hengsapkul は、2016年に経済誌フォーブスのアジアを代表する30歳未満の若者(「30 Under 30」)にも選出された、今、タイで最も注目のされる写真家の1人です 。

プロフィール
Tada Hengsapkul

1987年、ナコーンラーチャシーマー県生まれ。バンコクのPoh-Chang Academy of Arts in Bangkokで写真を学ぶ。20代中頃から、故郷のイサーンを舞台にした作品を多く発表。ヨーロッパなど、国内外で評価が高い。Nova contemporaryにて、2016年11月末まで Chai Sirisとの二人展を開催中。

自己の境界線を変形させる、写真の彫刻 Kamolpan Chotvichai

近年、アジアのアーティスト発掘に熱心なロンドンの『Saatchi Gallery』が2015年末にタイアーティストの作品を集めて開催した「THAILAND EYE」というエキシビジョンで、メインビジュアルとして採用したのが、Kamolpan Chotvichai(ガモンパン・チョーヴィチャイ)の作品。

顔を排除するように撮った自身のモノクロのヌード写真をキャンバス生地に印刷し、それを手作業で丁寧に切り込み、立体作品に仕上げるのが彼女のスタイル。写真にミックスされるしなやかなドレープの曲線は繊細で美しくありながらも、体の輪郭を規則的に崩壊させており、見るものに違和感を与えます。

「自身の写真を切断する作業は、手に意識を集中し、まるで瞑想のようだ」とKamolpanは話します。

一般的には写真でなく、現代美術のカテゴリーに分類されることの多い彼女の作品ですが、自己の肉体を写し、内面性を出す作風は、典型的な女性原理に基づいた写真だとも言えます。

意識、無意識に関わらず、日常の男女の役割などの文化や習慣がほとんどタイ仏教に基づいているタイにおいて、「自己の体の形を変形させ、アイデンティティーとジェンダーという点を通し、空虚さの表現を追求する」というコンセプトに基づいて作られている彼女の作品は、とてもタイらしい問題提議とも言えます。

Kamolpan Chotvichaiの作品は、タイ国内以外のアートフェアなどでも出展しているので、機会があれば、ぜひ生で鑑賞してください。

プロフィール
Kamolpan Chotvichai

1986年、バンコク生まれ。2011年、シラパコーン大学でVisual Artsの修士課程を終える。アメリカやヨーロッパ各地で個展を開催し、2015年にはヴェネツィア・ビエンナーレにも参加。タイを代表する若手アーティストとして注目されている。



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