豚骨ラーメンの聖地・福岡では、日々、白濁スープと細麺が特徴の一杯が食されています。24時間営業の店で朝ラー(メン)、昼にラーメン定食、夜に締めのラーメンというように、さまざまなシーンで親しまれ、ぼくを含め、福岡県民の豚骨ラーメン愛はとっても深いものがあります。そんな中、この福岡において、白濁した豚骨スープ「ではない」ラーメンのお店が急増中。醤油、塩、味噌というように、これまで福岡では少数派だったラーメンたちが、存在感を増しているのです。そこで、今回は福岡におけるラーメン事情を踏まえた豚骨ラーメン以外の注目店を紹介。お届けするのは、うどん編に続き、私、ヌードルライター山田です。レッツ、ラーメン!
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
落語のリズムがハマる関東流の一杯『中華そば 寿限無』
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まず食べてみてほしい一杯。それが、『中華そば 寿限無(じゅげむ)』です。地下鉄渡辺通駅から徒歩7分の路地裏にあります。
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店に入ると、まず「おっ」と思うのがBGM。ここでは店主が愛してやまない落語がBGMになっています。「空いているお席にどうぞ」という店主の口調もどこか落語調。それがなんとも心地よいリズムになっているのです。
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店内はカウンターのみ。しかも6席というミニマムな造りです。これもまた、店主の所作をしっかりと堪能できる特等席のようで、ぼくはとても気に入っています。木のテーブルと椅子は、以前、焼き鳥店だった頃のものだそうで、それもまた良い味を出しています。
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ここは完全なる醤油らーめんの専門店。メニューには豚骨はおろか、塩、味噌といった展開もなし。そのほかのメニューにおいても、餃子、焼飯といったサイドメニューはほぼ置かず、大小のご飯、豚丼、そしてビールや焼酎などのアルコールに厳選。
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醤油ラーメンは醤油3種をブレンドして作った元ダレの、やわらかなその風味が魅力。豚骨を沸騰させることなく、じっくりと炊き出した出汁が主体となって、そこに鶏ガラや魚介を合わせることで、豊かな旨味を出しています。
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麺は中太ストレートで、麺量自体も160gほどと、なかなかボリューミー。関東出身という店主が、幼い頃から親しんだ味を独自に再現したという一杯は、思わず膝を打つ味わいです。
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食べ終えて、ふうっと一息付くと、耳に心地よく響く落語の音。福岡ならではのアプローチがありながらも、その方向性は完全なる関東系という見事な落ちがついた珠玉の一杯です。
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中華そば 寿限無
住所:福岡県福岡市中央区高砂1-18-1 高砂イングビル 1F
電話番号:092-791-9685
営業時間:11:30~15:00 夜18:00~21:00、日曜のみ11:30~16:00
定休日:月曜、第2日曜
アジアンヌードル酒場の極上麺『ロータス ヌードル アンド ボウルズ』
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次に紹介するのが、JR香椎駅から徒歩すぐの『ロータス ヌードル アンド ボウルズ(LOTUS Noodle & Bowls)』。開業は2017年2月。近年、JR香椎駅前が再開発でところどころ新しくなっている中、「香椎コンテナ村」という名所が誕生しました。ここは、立ち飲み屋をはじめ、焼き鳥屋、焼肉店、BARといったお店が集まり、夜な夜な賑わっているディープなエリア。そんな一角に『ロータス ヌードル アンド ボウルズ』はあります。
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一言で表現するとアジア! そうなんです、この店ではタイやベトナム、台湾といったアジアの味をまとめて堪能できます。昼から営業し、閉店は深夜。丸一日、いろんなシチュエーションで立ち寄れるのも嬉しい限りです。
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ランチタイムのメニューを一部、挙げてみると、「カツオ山椒ヌードル」「トマトココナッツラクサヌードル」「ベトナム辛ヌードル」「らうすこんぶヌードル」「トムヤムクンヌードル」といったように、アジアンなヌードルに加え、日本的な麺まで揃っていて、本当に驚異のバリエーション。そして、驚くことにこれらの麺料理、全て500円前後! もちろん、スープと麺という基本スタイルのため、シンプルな一杯にはなりますが、そんなことは一向に気にならない完成度の高さ。
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これらをベースにし、具材を豪華にしたヌードルも多種多彩。「四川豆腐辛麺」「担々ヌードル」「鶏天的パーコーヌードル」「海老ワンタンヌードル」など、どれも食欲をそそるものばかり。これらの豪華バージョンは基本的にはランチの繁忙時には提供が難しいこともあるようなので、オーダーの際にはご注意ください。
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おすすめがこの「カリーマー油ヌードル」。アジアン全開なスパイシーなスープに、熊本ラーメンでおなじみなニンニクの焦がし油「マー油」を合わせた技ありな一杯です。
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麺を食べたら、残ったスープにジャスミンライスを投入すると、一度で二度美味しいですよ。
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ロータス ヌードル&ボールズ
住所:福岡県福岡市東区香椎駅前1-14-32
電話番号:非公開
営業時間:12:00~14:30(L.O)、18:00~3:00
定休日:日曜
3種類の醤油ラーメンで勝負する、行列のできる『麺や 佐渡友』
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3軒目は、西鉄貝塚線三苫駅から徒歩5分ほどで辿り着く『麺や 佐渡友(めんや さどとも)』。2016年末の開業ですが、今ではランチタイムには平日でも行列ができることも珍しくない人気店になっています。
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こちらも『寿限無』同様、完全な醤油ラーメンの専門店。店主の佐渡友さんは、豚骨ラーメンの老舗、魚介豚骨の名店でラーメンづくりを学び、あえて豚骨を封印し、現在のラーメンを完成させました。
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そのスープは魚介、鶏ガラ、香味野菜から出汁をとったもので、これに醤油ダレを合わせています。このスープを軸とし、メニューには、基本の「醤油らー麺」、背脂と香味油を足した「こってり」、魚介出汁の存在感を増し、さらに鰹油によってコクを出した「魚介ガツン」の3メニューを展開。基本の「醤油らー麺」では、醤油のまろやかな甘みが出汁に溶け込むように合わさっていて、しみじみ美味いなあと唸らされます。
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この店にはかしわめしも置いていて、それとの相性の良さが抜群。福岡のうどんのような、日常で親しまれる味わいの面影が、この一杯には重なります。そして「こってり」は見た目通りスープに力強さが。この背脂と香味油によるパンチは、ただし、こってりと言いながらも、単純に脂っこいわけではなく、一杯の完成度は損なわず、それでいてコクを際立たせている印象。「魚介ガツン」においても、やはり基本の味を大切にしてする店主の思想が伝わってきて、魚好きのために気持ちよく舵を切っている一杯でした。まさに三者三様です。
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もう一つ特筆すべきは、自家製麺のクオリティの高さ。開業時、スープから麺まで、ラーメンにまつわる全てを納得のいくものにしたいという考えがあったそうで、自家製麺にはそんな佐渡友さんの情熱が込められています。替玉はないので、麺を心ゆくまで味わいたい人は、大盛りをオーダーしてくださいね。
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麺や 佐渡友
住所:福岡県福岡市東区三苫6-13-38
電話番号:092-410-3542
営業時間:11:00~15:00、17:00~19:30(売り切れ次第閉店) ※店休日の前日はL.O 15:00
定休日:不定休(基本的には月曜)
容姿端麗なラーメン&つけ麺が魅せる『地鶏ラーメン はや川』
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4軒目は、2017年のオープンから、一躍、福岡を代表する人気・行列店になった『地鶏ラーメン はや川』。西鉄高宮駅から徒歩2分と天神地区からのアクセスも便利なエリアに店があります。客席はわずか10で、カウンター4席、テーブル6席。店主が夫婦二人三脚で営み、目の行き届く空間になっています。
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メニューは、醤油ラーメンとつけめんが、この店の二枚看板。どちらも地鶏の丸鶏や鶏ガラ、少量の豚骨からとった滋味溢れる動物系の出汁、そこに真昆布やホタテの貝柱などから抽出した魚介系の出汁を合わせたスープがベースになっています。
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「地鶏醤油らーめん」を注文すると、見た目の美しさに惚れ惚れ。鶏肉と豚肉を用いた2種類のチャーシュー、三つ葉やネギ、穂先メンマといった吟味されたトッピングが、麺の姿がはっきりとわかる澄んだ琥珀色のスープの上に整然と置かれています。極限まで絞り込んだボクサーの肉体のように、美しくもありますが、静かに伝わってくる気迫のようなものが伝わってきます。味を決める醤油については福岡・糸島産をはじめとする3種類をブレンドし、味を整えているとのことです。
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もちろん、麺も妥協なし。店主の修業先で、ミシュラン東京でビブグルマンにも選ばれている『らぁ麺 やまぐち』が、京都の製麺所『麺屋棣鄂」と共同開発した、特注の麺を取り寄せています。口当たりが滑らかで、噛みしめるとほどよくプリッと弾むような食感があり、咀嚼は快感の連続です。
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そして「鶏と豚のつけめん」は、麺を真昆布による昆布水に浸して提供。麺そのものが真昆布の旨味を携え、それをつけ汁に浸すことで、つけ汁に真昆布の旨味がどんどん入っていくという感激のアイデアが光ります。レアチャーシューの味わいを満喫できる豚丼とのセットもオススメです。
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地鶏らーめん はや川
住所:福岡県福岡市南区玉川町11-11
電話番号:092-554-7474
営業時間:11:00~15:00、18:00~21:00 ※スープ売り切れ次第閉店
定休日:水曜
URL:https://twitter.com/HAYAKA_WA
真っ白いビジュアルに潜む驚き。週に一度営業の『鶏白湯そば まつ尾』
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ラストはちょっと変わったお店を。JR博多駅から徒歩12分ほどの場所にある『鶏白湯そば まつ尾(まつび)』です。この店のラーメンはいつでも食べられるわけではありません。実は、週に一度、火曜日しか営業していないのです。その理由は、醤油や塩、担々麺などのラーメンを提供する『中華そば かなで』の定休日を利用した営業だからです。
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『中華そば かなで』といえば、濃厚な豚骨スープをウリにした『濃厚とんこつ かなで食堂』のセカンドブランド。その濃厚さを封印し、対極である、繊細な醤油、塩のラーメンを『まつ尾』では提供しています。わざわざ休日返上してまで、店主が世に問いたかったラーメンがあるという事実に心が震えます。
提供するのは、「鶏白湯そば」のみ。そうなんです、火曜日は、このラーメン以外は、食べることができません。
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そのラーメンは、表面を白い泡が覆うため、一見するとそれがラーメンなのかもはっきりわからない個性的なビジュアル。この泡は、仕上げの直前に、ブレンダーによってスープをきめ細かく泡立ることで生まれるのだそう。口に含んでみると、まずふわっと軽やかな食感が官能的。そして、そんな食感と真逆のような、豊かで力強い鶏スープの旨みが鮮烈に伝わってきます。レンゲですくううちに、徐々に白い泡の層の下に潜む、ほのかに褐色を帯びた鶏白湯が顔を覗かせ、白い泡と混ざっていきます。
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麺は自家製で、この「鶏白湯そば」には中細ストレートを採用。パワフルなスープの中でも食感において存在感を発揮するこの麺は、全粒粉が練り込んであり、風味にも優れています。噛みしめると、じわっと広がる小麦の味わいがたまりません。
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低温調理で仕上げてあるレアチャーシュー、味変になるアオサといったトッピングもそれぞれに良い仕事の連続。ラーメンマニアたちを唸らせる一杯は、“一食の価値あり"です。
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鶏白湯そば まつ尾
住所:福岡県福岡市博多区東比恵2-8-23
電話番号:092-441-1886
営業時間:11:00~16:00※スープがなくなり次第閉店
定休日:火曜のみ営業
URL:https://ameblo.jp/kanadeshokudousuguten/
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