今、京都の若者の間で銭湯がブームになりつつあると聞くが、京都では新しいコミュニティが、銭湯を中心に形成され始めている。その火付け役となっているイベントが、『サウナの梅湯』とショップ『VOU』を拠点に展開されるイベント『Get湯!(ゲッチュー)』だ。2016年の夏と秋の2回にわたって行われたこのイベントには、気鋭のクリエイターたちが関わり、多くの話題を巻き起こした。そして今回、6月9日〜20日にはさらに規模を拡大し、第3弾『Get湯!KYOTO SENTO CITY』が行われる。イベントの主宰者である『VOU』の川良謙太、『サウナの梅湯』の湊三次郎、そして、『論LONESOME寒』横須賀馨介の3人に、その全貌を伺った。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
銭湯イベント『Get湯!』が生まれるまで
『Get湯!』について語る前に、まずはその舞台の中心である『サウナの梅湯(以下、梅湯)』のストーリーを簡単に紹介したい。
『梅湯』は、明治時代に創業した老舗の銭湯だ。長い間地元の人たちに愛されてきたのだが、設備の老朽化や集客の難しさにより、2015年、経営者が撤退することを決定した。この廃業の話を聞きつけたのが湊さん。学生時代この銭湯でアルバイトをしていたことから 、「じゃあ、僕がやります」と梅湯の経営を引き継ぐことを決意した。
それまで勤めていたアパレル業界を辞めて経営者となった時、湊さんは24歳。今では銭湯ブームの一端を担う立役者の一人と言っても過言ではない湊さんだが、設備の修復、風呂を炊く薪の確保、客同士のトラブルなど様々な困難に直面した。それでも、SNSの活用や、梅湯新聞の発行など地道な努力を重ね、なんとか経営を立て直した。
『Get湯!』は、そんな湊さんの地道な活動に、ショップ・ギャラリーの運営等を通して全国の若手アーティスト達を発掘してきた川良さんの幅広いネットワークと、銭湯をキーワードに関東・関西間を行き来しながら活動する横須賀さんの熱意が加わって実現したイベントだ。
銭湯好きの若者でムーブメントを起こしてみたかった
3人の出会いは2015年の春。京都の銭湯を舞台とした『京都銭湯芸術祭』にアーティストとして参加していた横須賀さんが、『梅湯』の運営を開始したばかりの湊さんと出会い、湊さんの知人で同時期に『VOU』をオープンした川良さんも交えて「商店街など町を巻き込んだ銭湯イベントをやりたいね」と話すようになったのが始まりだという。
横須賀:あのころはまだ銭湯がそんなに若者の間で流行っていなかったけど、銭湯に通っている若い世代が多くて、僕もその一人でした。気づけば休日は、喫茶店か銭湯に足を運んでいて。マニアというわけではなく、日常使う分に好きという程度なんですけど。そうした「銭湯好き」の若者が集まって、何かムーブメントが起こせないかと考えていたんですよね。
著名人も訪れた、思わぬ反応に手応えを感じる
出会いから1年後の初夏に開催した、1回目の『Get湯』のテーマは「銭湯ニュースタイル文化で極楽キメろ!」。「物欲編」として、『VOU』に「銭湯グッズ専門店」を出現させ、アーティスト達が制作した「銭湯に持って 行きたくなるグッズ」を販売し、『梅湯』では「入浴編」として、極楽入浴体験を軸に、銭湯で働くアイドル・祝茉莉による梅湯の出張番頭を行ったり、銭湯好きDJによる湯ミックスプレイや銭湯掃除体験などのイベントを開催した。
そして秋に行った2回目は「ストリート銭湯カルチャー沸騰中!」をテーマに、梅湯を貸し切ってライブや番台DJ&パフォーマンスを行う「yu!yu!極楽銭湯PARTY」や、映画内で登場する銭湯シーンを集めたアーカイブ展覧会など、企画もより多彩に。
川良:第1回を開催した時にDJやスケーターの人たちが「実は銭湯好きなんだよね」と声をかけてくれたりして、またつながりが広がって。京都に住んでいる人って、自分の住んでいる「区」の中からあまり出る機会がなかったりするんですよ。だけど、期間中はいろんな区から人が集まって、お客さんが通常の4〜5倍になったんです。
メインビジュアルをお願いしているNONCHELEEEさんのステッカーや、キャップブランド「NEMES」とコラボレーションした「湯キャップ」が、わずか1週間で50個売り切れて完売して。そして、京都の人だけでなく他府県からGet湯!を旅の目的にして来てくれたり、普段テレビや雑誌で見るような著名人、芸人、アイドルの手に湯キャップやタオルが渡ったという話を聞いたりと、思わぬ反応に僕たち自身もビックリしましたね。
今回は、京都の町全体を巻き込むイベントに
「銭湯カルチャーのフォロワーを、町全体に広めたい」と話すのは横須賀さん。3回目の開催である今回は、「KYOTO SENTO CITY」という副題をつけて、今まで『梅湯』と『VOU』のみだった拠点を拡大し、喫茶店やバー、理髪店など 15~20 店と提携したスタンプラリーMAP「Get湯!KYOTO SENTO CITY MAP」を制作する。
湊:提携する店は全部、僕たちがいつも利用していて、オススメできるところ。期間中は『Get湯!』のための特別サービスを用意してもらったりします。例えば、僕の行きつけの理髪店『ヘアカットミヤ』では、僕または梅湯スタッフ(中村)の髪型が1200円でオーダーできるという「Get湯!カット」というメニューを作ってもらったり(笑)。また、『Tropic Thunder』という飲み屋では、期間中バスクリンカラーのカクテルを提供するなど、銭湯にちなんで楽しんでいただける企画を色々と考えています。
さらに今回は、期間中のイベントとして「Get湯!PARTY」を、京都の老舗ライブハウス、クラブメトロで行うのだとか。
川良:「Get湯!PARTY」は、銭湯をモチーフとしたステージを制作し、番台も出現するナイトイベント。有名なクラブでこういったイベントが行えるのは、銭湯ムーブメントが確立した一つの証拠だと思います。クラブ体験としても今までにない新しいものにしたいと思ってます。
さらに、今回は湊さんと弟でお笑い芸人の湊研雄と、銭湯アイドル・祝茉莉による「銭湯で働く若者」をテーマにしたトークも開催する予定だ。
横須賀:このイベントを通じて、ただ銭湯ファンを増やすだけではなく、湊くんのような業界で働く人の話を伝え、若い人にも運営に興味を持ってもらう必要があると考えています。嬉しいことに、『Get湯!』をはじめとする銭湯ムーブメントの影響で、今銭湯で働く若い人が増えているんですよ。
『Get湯!KYOTO SENTO CITY』の見所は!?
最後に、『Get湯!』の楽しみ方を3人それぞれに聞いてみた。
川良:メトロの「Get湯!PARTY」は、『Get湯!』の盛り上がりが最高潮に達する時。ぜひ一緒にその熱気を体感してほしいです。
横須賀:『Get 湯!』をきっかけに、遠方または近隣からどれだけの人が京都の町に足を運んでくれるかが、 僕の挑戦でもあります。今まで関わりのなかった人に参加してほしいですね。
湊:スタンプラリーで身近にあるお店を楽しんでほしい。観光とはまた違う、暮らす人目線の京都の町、そして京都の人々の生活の一部としての銭湯が見えてくると思いますよ。
- プロフィール
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- 川良謙太 (かわら けんた)
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京都精華大学のサテライトスペース『kara-S』の店長を経て、2015年に京都四条烏丸の路地裏にショップ&ギャラリー『VOU/棒』をオープン。全国各地のアーティスト達が制作した作品や商品を中心にセレクトし、VOUレーベルのオリジナルグッズも展開している。
- 湊三次郎 (みなと さんじろう)
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『サウナの梅湯』店主。梅湯でアルバイトをしたのち一般企業に就職するが、梅湯が廃業すると聞いて24歳の時に経営を引き継ぎ、2015年に再オープン。様々な困難を乗り越えて、現在まで経営を立て直してきた銭湯会の若き経営者。
- 横須賀馨介 (よこすか けいすけ)
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熱海にあるカルチャーショップ兼広告制作事務所『論LONESOME寒』店主/プロデューサー。銭湯活動に関しては、銭湯に来た人とコミュニケーションを取ることで、銭湯に存在するありとあらゆる価値を 可視化していく活動「ナイス湯」を不定期的に実施。これまでに『YOUNG SENTO MOVEMENT』『GO!GO!SENTO』など、 あらゆる銭湯活動を主催。活動拠点は関東圏(現在は熱海)だが、『Get 湯!』の 立ち上げ時は半年間京都に滞在し、PR/広報活動やサイト制作などマネジメント作業に徹した。
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