2016年、東京のアンダーグラウンドシーンで最も目撃するべきバンドのひとつが、浅見北斗率いるHave a Nice Day!(以下、ハバナイ)である。浅見と、彼より10歳以上年上の内藤という二人のフロントマンが、決してBPMが速いわけではないシンセポップに乗せて踊り歌えば、フロアでは熱狂的なモッシュとダイブが巻き起こる。おそらくは、世界的に見てもこんな風景を見ることは稀だろう。今年はドキュメンタリー映画「モッシュピット」の公開や、過去最大規模のワンマンを成功させるなど、新たなステージへと向かいつつある現在のハバナイ。浅見はなぜ東京という街で今も踊り続けるのか? その背景にある想いを聞いた。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
「東京っぽい」って、地方の人からすげえ嫌われてるんですよ(笑)。
―昨年販売されたアルバム『Dystopia Romance』で、日本のインディーズバンド・マリリンモンローズの“東京都”をカバーしていました。〈東京都では 若者たちは 夢を諦めたりしない〉という歌い出しや、〈僕らの生まれた街では夢のような話〉というサビが非常に印象的な歌ですよね。なぜこの曲をカバーしたんですか?
浅見:マリリンモンローズの常木くんって男は天才だと思ってて、“東京都”ってホントにいい曲だと思うんですけど、あの曲をほとんどの人が知らないっていうのがもったいないなって。あとあの曲は自分たちの気持ちを代弁してくれてるんですよね。常木くんは静岡の出身で、“東京都”は荒川や多摩川の外から東京を眺めてるような曲なんですけど、僕も神奈川の茅ヶ崎出身で、もともとは東京の人間じゃないんで、だからこそ東京っぽい歌だなって思う。東京って漂流してる人たちの集合体みたいなイメージで、あの曲はそういう空気感にすげえ合うなって思ったから、カバーしたんです。
―東京に憧れがあったというわけではない?
浅見:憧れはそんなになかったかなあ。むしろ、住んでみて、いろんな人がいておもしれえなって思いましたけど、でも結局その「いろんな人」って地方出身の人ばっかりで、東京出身の人とはほとんど遊んでないですね。東京出身者のコミュニティみたいなのが強固にあって、それはバンドシーンの中にもあるし、あとは大学のつながりですよね。別に敵対視してるわけじゃないけど、単純に「違う世界」なのかなっていうか、同じような音楽を同じような場所でやってても、「違う人たち」って感覚はありますね。
―そうやっていろんな人が混ざり合って、混沌としてるのが東京とも言えますよね。
浅見:地方だと絶対数が少ないから、そこまで混沌としないけど、東京は単純に人が多いし、地方の人も集まってるから、混沌としやすいし、いろんな価値観が生まれる可能性がありますよね。逆に言うと、「この場所を盛り上げよう」っていう、ローカリティみたいなものはハバナイにはないから、「東京っぽい」って、地方の人からすげえ嫌われてるんですよ(笑)。
―そんな混沌とした状況の中で、浅見さんにとっての「ダサい・ダサくない」の価値基準はどこにあるのでしょうか?
浅見:そうですね……感覚でしかないんですけど、新しさとかオリジナリティですかね。最近だとカニエ・ウェストの“Famous”のミュージックビデオとかはめちゃめちゃ新しいなって思いました。今の価値観にケンカ売ってんのかなっていう、ああいうのは面白いですよね。これだけ情報が多くて、いろんなものがよいとされてる中で、価値基準の線引きをするのは非常に難しいことで、だからこそ、自分の感覚が一番大事かなって。
今はロックバンドだって言い切れるようになりました。
―普段は東京でどんな遊びをしてるんですか?
浅見:最近よくやる遊びは、シアタールームのある渋谷のネットカフェに行って、何人かでYouTubeでミュージックビデオをひたすら見るっていう(笑)。一番新しい音楽は常にネットに落ちてるわけじゃないですか? SoundCloudやBandcampも使いますけど、一番強い曲が上がってるのはYouTubeだし、映像と音楽のコラボレーションなんで、新しいものを探すならやっぱりYouTubeですね。でも、日本のは見なくて、圧倒的に海外が多いかな。“Famous”もそうだし、The Shoesの“TIME TO DANCE”とかもすげえなって。
―“Blood on the Mosh Pit”のミュージックビデオはバンドの内幕を描いたドキュメンタリー風のビデオでしたね。
浅見:普通にミュージックビデオを出しても意味がないと思って、ハバナイの実態が見れるような内容にした方が面白いと思ったので、ドキュメンタリー風にしました。ああいうことをやってる人が他にはいなかったし、やってみたら面白いかなって。
―あれって他のメンバーはどう受け止めてるんですか?
浅見:みんなあんまり何も考えてない(笑)。ハバナイのメンバーはライブメンバーで、制作にはほとんど関わってないので、メンバーによっては信じられないくらい音楽に興味ないんですよ(笑)。スタジオで一緒に苦労して作るんじゃなくて、あくまで僕が一人で悩んで作ったやつをみんなに教えるんで、ライブのとき以外に衝突することもないです。
―だとすると、今のハバナイの肩書きってどうなるんですか?
浅見:根底としては、ロックバンドだと思ってます。昔は「ジャンクディスコ」って言ってたりもしたんですけど、アティテュードとしてはロック、ハードコア、パンクなので、最近はやっぱりロックバンドだなって。ヒップホップみたいなメイクマネー感でもなく、ハウスやテクノみたいな快楽の追求だけでもなくて、どうしても人間の内面が音楽の中に入っちゃうし、結局お客さんも歌詞だったり、そういう部分でついてきてくれてるのかなって。形態としては、シンセベースだし、ドラムも打ち込みが多くて、サンプラーを使ってるので、「ロックバンドだ」って言い切れない部分があったんですけど、今はロックバンドだって言い切れるようになりました。
渋谷は、どんどん変化してる方が不自然じゃない気がする。
―ハバナイを語る上では、浅見さんのステージ上でのダンスも外せないと思います。
浅見:あれ一応最初のルーツはジェームス・ブラウンとマイケル・ジャクソンなんです。相方の内藤さんもジェームス・ブラウンが大好きで、それこそYouTubeとかを見て、「この動きヤバい!」みたいな。それにシカゴのフットワークの足さばきとか、トゥワークっていうお尻を振るゲットーミュージックとかを見て、ライブでやったら面白いかなって。あとはidea of a jokeっていうハードコアバンドに森川さんってボーカルがいて、あの人もジェームス・ブラウン大好きで、ハードコアな曲でムーンウォークとかするんですよ。そういう人たちに憧れつつ、そこから勘違いの勘違いで、今は「どこにその影響があるの?」って感じですけどね(笑)。
―音楽性にしても、ダンスにしても、東京でやってなかったらこうはなってないと思います?
浅見:そうかもしれないですね。僕、一か月前まで好きだった音楽が、ある日突然「もう好きじゃないな」って思うようなことが往々にしてあるんです。それはいろんな新しい音楽を教えてくれるやつが周りにいるからで、東京はそういう人と出会う可能性が高いですよね。やっぱり、地方に比べて価値観が雑多だと思う。だから、好きな音楽も変わるし、意見も変わっていく。それに応じてなのか、お客さんも定期的に入れ替わるんですよ。ライブハウスが好きな人、ダンスミュージックが好きな人、アイドルが好きな人とか、お客さんも結構サイクルしてますね。僕の価値観が変わる度に、お客さんも変わっていくというか。
―東京の移り変わりのスピード感みたいなものとリンクしてるのかもしれないですね。
浅見:そうですね。僕らからしたら「ネットで音楽を聴く」って新しいことで、かっこいいことだったわけじゃないですか? でも、下の世代の中には、すでに「CDやレコードで聴く方がかっこいい」って思ってる人たちがいて、そうやってどんどん変わっていってるんですよね。そういう新しい価値観に触れると、自分の今までの価値観も少しずつ変わって、それは時代の動きに影響を受けてるっていうことなのかもしれない。
―東京の中でその「どんどん変わっていってる」印象を受ける場所っていうと、どこになりますか?
浅見:やっぱり、渋谷はサイクルしてるっていうか、変わり続けてますよね。新宿に残ってる古い部分って、ビンテージな感じというか、古き良きものとして残ってるけど、渋谷の中にある古いところって、ちょっと不気味というか、「何かよからぬことがあったんじゃないか?」って思わせるくらい違和感がある。円山町とかね。やっぱり渋谷は新しく、どんどん変化してる方が不自然じゃない気がするんですよね。
―では最後に改めてお伺いすると、東京のどんな部分が好きですか?
浅見:専門学校の頃からなんで、もう12~13年住んでますけど、やっぱり「よそ者」が多くて、みんな漂流してるから、そういう人たちのコミュニティはしっかりしてないというか、横も縦も意外と緩やかなんですよね。そこが東京の良さっていうか、新しい人と出会えたり、いろんな可能性がある。逆に言うと、すごく表面的で、深まらないというか、地方みたいに独自のコミュニティを守ろうとかはしてないんで、商業的なタグとしてのコミュニティの認識はあっても、それは表向きでしかない。
―浅見さんはそんな東京でこれからも踊り続ける?
浅見:ある日突然「やっぱり飽きた」って、バンドをやめるかもしれないですよ(笑)。まあ、今いきなりやめることはまずないと思うけど、感覚的にはそれもアリっていうか、その可能性も十分あるというか。コミュニティに縛られることはないし、自分の感覚が一番大事だから、無責任にできるというか、それは東京的な考え方なのかも。地方だと「ここを守っていくしかない」ってなるのかもしれないけど、東京はいくらでも替えが効くし、他のところからも絶えず何かが入ってくる。だから、新しい価値観をどんどん提示していけるチャンスはすげえある街だと思いますね。
- プロフィール
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- Have a Nice Day! (はぶ あ ないす でー)
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東京のディスコ~ロックバンド。2011年頃からリーダーである浅見北斗を中心にメンバーチェンジを繰り返しながら活動。80年代アメリカンハードコア/パンクのDIYな精神、ハウスミュージックの享楽性を再現するべくオルタナパーティー”SCUM PARK”を主宰。2012年「BLACK EMMANUELLE EP」、2013年「Welcome 2 SCUM PARK」をオモチレコードからリリース。2015年にはおやすみホログラムとのシングル「エメラルド」、Limited Express( has gone? )とのスプリット「Heaven Discharge Hells Delight」をリリース。同年11月18日に恵比寿LIQUID ROOMで行った、クラウドファウンディングを使って販売した3rdアルバム「Dystopia Romance」のリリースパーティーが大きな話題を呼ぶ。2016年、world’s end girlfriendが主宰するVirginBabylonRecordsよりベスト盤「Anthem for Living Dead Floor」、「Dystopia Romance 2.0」、フリー DL音源「Anthem for Living Dead Floor 2」をリリースし、5月25日には渋谷O-WESTのワンマンライブを成功させた。
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