近年、図書館や大型書店が相次ぎオープンしたことで、今、改めて「本」に注目が集まるバンコク。なかでも独立系の書店は、国内外の出版社との直接取引や自費出版本の取り扱いを行うことで、大型書店とは異なるそれぞれ独自の視点で本のセレクションを展開。そして、その個性に惹かれたクリエイターも自らの作品や雑貨を持ち込むなど、本屋に関わるひとを巻き込む形で書店が育っています。 本好きはもちろん、アート&カルチャーファンも刺激されること間違いなしのバンコクの独立系書店を3つ紹介します。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
バンコクの独立系書店のパイオニア。カオサンエリアで「旅」をテーマとする書店『Passport Bookshop』
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まず最初に紹介するのは、世界中から旅人が集まるカオサンエリアにある「旅」をテーマにした書店『Passport Bookshop』。バンコクでは本のセレクションで個性を打ち出す書店がめずらしかった2001年にPhra Athit Rd.(プラアティット通り)でスタートし、現在はカオサン通りから歩いて10分ほどのPhra Sumen Rd.(プラスメーン通り)に店を構えます。
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小さな2階建のショップハウスを改装した店内には、床から天井までぎっしり本が詰め込まれており、ガイドブックや旅エッセイ、旅情を誘う海外ドキュメンタリーや小説、写真集といった旅関連の本以外にも、政治学・経済・哲学・料理本・ライフスタイル・DIYなどの書籍が並びます。
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「旅から帰って来たら、訪れた先の歴史・文化・思想をより深く知りたくなったり、かわいい雑貨や美味しかった料理を自分で作ってみたくなりますよね? また、旅をしているうちに働き方を変えたくなったり、人生について考えてみたり。そうやって、全てがぐるっと『旅』に繋がっていると思うので、そういうときに必要な本を揃えています」と話すのは、トラベルライターでもあるオーナーのNoomさん。
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多くの読書家と旅人を引きつけるこのお店には「ひとりで訪れて心細く感じないように」と、会話のきっかけになるような工夫がたくさん。至る所に飾られたポストカードは、お客さんが世界中の旅先からお店宛に送ったもので誰でも読めるように。ドリンクの販売もあり、のんびりと手紙を綴ったり、お気に入りの本のレビューを書いたり、また、旅好きの店主と小話しながら、初めて訪れたひとでも昔から馴染みのあるような感覚でゆったりとした時間を過ごすことができます。
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英語書籍やアート本、タイ小説の日本語書籍も揃い、本にちなんだ雑貨も充実。タイ語が分からない方でも、きっとお気に入りの何かが見つかりますよ。
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おすすめ本
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Very Thai (英語)(ドイツ語)、 Philip Cornwel Smith (著)、John C. Goss (撮影)
お寺のお守りやタトゥー、たくさんある性別、ハイソなどの特別階級、虫のスナックなど、ドイツ人著者から見た「タイらしい」トピックについて綴った、タイの現代社会・文化を知るための入門書。タイ各地で撮影された写真も豊富に使われています。
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Noom:外国人目線で見たタイの文化や風習について書かれた本。タイ舞踏のような伝統芸能なんかじゃなく、タイ人なら特別気に留めないような日常の些細なことにフォーカスしています。リアルなタイ独自の文化について、外国人がどう思うのか、また私たちはそれをどうすべきか。そんなことを考えさせてくれる興味深い一冊です。
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Passport Bookshop
住所: 523 Prasumen Road, Bowornnivej, Pranakorn, Bangkok
営業時間:
火曜日~木曜日、日曜日10:30~19:00
金曜日~土曜日10:30~20:00
定休日: 月曜日
電話番号: 02-629-0694
最寄り駅: Hua Lamphong MRT駅
Webサイト: https://www.facebook.com/yo.noompassportbookshop
バンコクアート&カルチャーセンター内にある、サブカル系雑誌が作ったショップ『Happening Shop』
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次に紹介するのが、サイアム駅から徒歩数分、ナショナルスタジアム駅に直結したところにあるタイ現代アートの中心地『BACC (Bangkok Art and Culture Center)』の一角に入居する『Happening Shop(ハプニング・ショップ)』。本、雑誌、CD、雑貨で溢れるように埋め尽くされたこの書店は、常に学生やアート好きの旅行者で賑わいを見せ、2017年には話題のアートスポット『Chang Chui』に2号店をオープンさせました。
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2008年創刊のサブカルチャー系雑誌「happening」のオーナーであり、HereNowバンコクのキュレーターを務める編集者のVipさんが始めたこのお店は、雑誌の内容と同じく、バンコクのサブカルシーンをぎゅっと凝縮したようなセレクトの本やアイテムが揃うのが特徴。
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本棚に並ぶのは「happening」のバックナンバーや同編集部発行の音楽、映画関連の書籍、日本や台湾旅行のガイドブックやフォトエッセイ、タイの若者に支持されるイラストレーターSundae KidsやTuna Dunnのコミック、レコード店ガイドといった厳選されたもの。書籍数は多くありませんが、今、まさにバンコクのサブカル界隈で何が起こっているのかが垣間見れるセレクトです。
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店頭の半分を埋めるのは、バンコクとチェンマイを中心にした、若いタイ人クリエイターによるブランド・レーベルの雑貨たち。Vipさんのパートナーで自身も日本の地方のガイドブックや写真集も手がけるライター・編集者のワンワナットさんが厳選したもので、ひとつひとつ手にとって吟味したくなる、ウィットに富んだデザインのものばかり。また、タイの音楽に興味はあるけれど、どこから聴き始めていいか分からないという方にぴったりの、良質なインディーズバンドのCDも揃います。
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「書店」を超えた、バンコクのサブカルチャーを発信する『Happening Shop』。たまに雑誌と連携したイベントやミニコンサートが開催されることもあるので、お出かけ前にはそちらもチェックしてみてください。
おすすめ本
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Happening 108「Love and Piece 」号(2017年春)
雑誌「happening」は1冊丸ごと特集ページで構成される季刊誌。映画音楽、レコード、写真などと毎号異なる特集内容に合わせ、本のサイズもデザインもがらりと変わります。108号はタイの若者に人気の兄妹によるデュオPlastic Plastic、SNSで注目を集める水着ブランドApril Pool Day、自分のスケッチを作品にしてくれる焼き物スタジオSlow Hands Studioなど、異なるジャンルの若手クリエイターにフォーカスした「物作り」特集号となっています。
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Vip:自分が注目するクリエイターをピックアップし、彼らのライフスタイルやブランドを始めた動機、そして活動を通じて起こった問題とその解決方法、成功の秘訣など、ものづくりの裏側について掘り下げてみた号です。是非、手にとって読んでみてください。
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Happening Shop
住所: 3rd Floor, Bangkok Art and Cultural Centre (BACC), 939 Rama 1 Rd, Wangmai, Pathum Wan, Bangkok
営業時間: 11:00 - 20:00
定休日: 月曜日(*BACCの営業日時に準じる。正月・タイ正月は閉館)
URL:https://www.facebook.com/happeningshopbangkok
タイ文学ならここ。アート複合施設『Jam Factory』内にある『Candide Books』
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トンブリー地区のローカル感溢れるクロンサーン市場の側にあるチャオプラヤ川沿いの人気カルチャースポット『Jam Factory』。その建物の一角にある書店が『Candide Books(キャンディード・ブックス)』です。 かつて倉庫だった建物を改装して作られた店内は天井が高く、隣のカフェ「li-bra-ry」と壁を隔てずにそのまま繋がっており、広々とした空間が広がります。
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こちらの書店はTanao Rd.(タナオ通り)でスタートし、2014年の『The Jam Factory』オープンに合わせてこの場所に移転。取り扱う本はタイ文学、ドキュメンタリー、海外小説、歴史小説、児童書など約1000タイトル。編集者でもあるオーナーのPaddさんが特にフォーカスをあてるのは、タイ文学と小説、そして小さな出版社の作品たち。店内には村上春樹やカフカといった定番の海外文学のタイ語訳本や著名人の出版物と一緒に、まだあまり世に知られていない若手作家の小説や、自費出版本なども同じように平置きされています。その審査眼には読書愛好家からも一定の支持があり、積極的に展開しているオンラインショップはタイ全土からの注文が絶えないとのこと。
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なかでも一番の売れ筋は、タイ人の若手作家による小説。恋愛や身の回りのささいな日常をフレッシュな書体で描き出す新しい世代のタイ文学は若い読者を魅了しており、スタッフのNam さんは「小さなマーケットながら、確実に成長していると感じます」と話します。
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タイ語の出版物のマーケットは規模が小さいために電子化が進んでおらず、図書館での本の貸し出しもないに等しい現状。雑誌やフリーペーパーと異なり、タイ語の小説やドキュメンタリーといった書籍を読む読書家たちには、「本との出会いの場を提供する書店はまだまだ必要とされています」と言います。
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目の前には、心地よい芝生が広がり、週末には購入した本を片手にカフェや屋外に設置された席に座ってリラックスする人で溢れる、人気の書店です。
おすすめ本
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「迷路の盲目のミミズ(サイドゥアン・ター・ボッド・ナイ・カオウォンゴット)」ウィーラポーン・ニティプラパー(Veeraporn Nitiprapha)(著)*「ไส้เดือนตาบอดในเขาวงกต」(英題:Blind Earthworms in a Labyrinth)วีรพร นิติประภา(著)(現在のところタイ語版のみ)
長編小説であるこちらの本は、姉妹と幼馴染の男性の若者3人による三角関係のラブストーリーでありながら、神話(=固定概念)に囚われた人間関係、家庭像と現実の葛藤など、現代社会が抱える問題を浮き彫りした作品。2015年にはタイの芥川賞のような位置付けである、ASEAN各国の優れた文学作品に贈られるシーライト賞(東南アジア文学賞)を受賞しました。
Ploy(スタッフ):ストーリーは恋愛劇のようですが、2010年に起ったラチャプラソン通りのデモといったタイの政治について描写しているなど、現代社会の風刺もうまく絡められています。書評が書かれた数が圧倒的に多く、近年で最も話題になった作品のひとつです。
*シーライト賞(The S.E.A. Write Award)
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Candide Books
住所: 41/4 The Jam Factory, Charoennakorn Rd, Klongsan, Bangkok
電話番号: 02-861-0967
営業時間: 10:00 - 20:00
定休日: 年中無休
URL:http://www.candidebooks.com/
Facebook:https://www.facebook.com/CandideBooks
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Passport Bookshop
住所 : 523 Prasumen Road, Bowornnivej, Pranakorn, Bangkok
営業時間 : 火曜日~木曜日、日曜日11:00~19:00
金曜日~土曜日11:00~20:00
定休日 : 月曜日
電話番号 : 02-629-0694
最寄り駅 : Hua Lamphong MRT駅
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The Jam Factory
住所 : 41/1-5 The Jam Factory, Charoennakorn Road,Klongsan, Bangkok
最寄駅 : BTS Krung Thon Buri
営業時間 : 店舗による
定休日 : 年中無休
電話番号 : 02-861-0950
Facebook : https://www.facebook.com/TheJamFactoryBangkok/
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