フランクな立ち飲み屋をはじめ、古民家をリノベーションする飲食店や、アパートの一室でひっそりと営業するお店が、店舗形態の一つのスタンダードとなりつつある昨今。でもそれが、アパート全室がすべてお店だとしたら、なかなか物珍しい存在かもしれない。そんなアパートが福岡の警固エリアにあり、酒場、小料理屋、スイーツ、アートといった幅広いジャンルのお店が各部屋で営業中している。ローカルはもちろん、日本中からもお客さんが絶えないという、今福岡で最も注目すべき「隠れ家アパート」の全貌を紹介。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
通りからは見えないニッチな場所にある、普通のアパート
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福岡の繁華街・天神からタクシーやバスで10分ほどの距離の警固エリアは、マンションや小さな飲食店、アパレルショップが密集し、迷路のように細い抜け道が複雑に延びるエリア。
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今回クローズアップする「隠れ家アパート」も近所の住人しか通らないような路地裏にあるのだが、ここが一般住居からテナント展開しだしてから、人の流れが変わり始めたという。
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隠れ家アパートの象徴とも言える警固のとあるアパートでは、2016年12月に『酒場 みんなの黄ちゃん』が1階にオープンしたのを皮切りに、焼き菓子店、和食店、バー、アトリエ兼ショップが入り、今では8部屋すべて、お店とギャラリーで埋まっている。このように、住居用のワンルームアパートに小さなお店が集まり複合ビル化するケースは、中洲川端エリアの昭和レトロビル『リノベーションミュージアム冷泉荘』や、福岡のツウが集まる『つどい』『とどろき酒店 薬院スタンド』が入った薬院エリアの『新川コテージ』もあるが、中でもこの警固の「隠れ家アパート」はニュースポットとして注目され、全国からの客足も絶えない状況だ。
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写真の上にある、エントランスの突き当たりに階段が見えるが、それが例の「隠れ家アパート」。ごくごく普通の二階建ての木造アパートで、しかも控えめな佇まいなだけに、「え、本当にお店やってるの……?」と一瞬疑ってしまうが、勇気を出して中へ踏み込んでみるとしよう。
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アート好きから猫好きまで。魅惑の店が立ち並ぶ2階の「各部屋」
来店の際は、Instagramを要チェック! 『Palm House(203号室)』
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まずは、昼間に開いている店が多い2階から。何の変哲もないアパートの扉だが、開けた瞬間「どこでもドア」のように異空間が広がる。中でも注目したいのは、イラストレーター・Toyameg(トーヤメグ)さんのアトリエ兼ショップだ。
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9月に新登場したばかりの203号室『Palm House』は、普段はイラストレーターのToyamegがアトリエとして使っている部屋だが、月に4~5回ほど一般開放し、彼女の作品と国内外のZINE(ジン)を販売するショップになる。
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彼女は福岡生まれの福岡育ち。これまで数多くのイベントフライヤーやアーティストグッズのイラストを手掛け、最近では「THE BAWDIES」「BASI(from韻シスト)」のツアーグッズ、そしてスペースシャワーTVのイラストも担当。ポップな色使いとちょっぴり毒っけのあるユニークなイラストが可愛らしく、男女問わず人気のイラストレーターの1人だ。
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そんな彼女が東京から福岡に戻り、このアトリエ兼ショップをオープンした。ここで販売するのは、テーマもスタイルもすべて自由の自主制作出版物のZINE。彼女自身もこれまで10のZINEを発表してきたが(すべてほぼ完売)、その傍らでNYとLAで見つけたZINEや、東京・大阪の友人らが手掛けたZINEを長年収集してきたそう。それらは個性的なカラーリングだったり、インパクトのあるイラストや写真だったり、サイズも綴じ方もさまざま。そしてこれらのZINEに加え、彼女の手描きのイラストパネルやオリジナルステッカー、シルクスクリーンTシャツも展示・販売する。
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Palm House
住所: 福岡県福岡市警固1-3-6 警固フラット203
営業時間: ※不定期オープンのため、Instagramの公式アカウント(@palmhouse__)を要確認
URL:http://toyameg3.thebase.in
金曜・土曜のみ営業。 『イタリア伝統菓子・郷土料理 Campo d'Oro(201号室)』
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『Palm House』の二つ隣の201号室にあるのは、フードコーディネーターの金髙愛さんと、パティシエの畑中沙織さんの二人による工房兼ショップ『イタリア伝統菓子・郷土料理 Campo d'Oro(カンポドーロ)』。平日はケータリングの準備やメニュー開発のためクローズしているが、金曜と土曜はオープンし、イタリアの伝統菓子や自家製パスタソースを販売している。焼き菓子は、九州産の卵・粉・バター、イタリア産のチョコとナッツを使って本場の味をそのまま再現。中には初めて見る焼き菓子もあり好奇心をくすぐられるラインナップとなっている。予約制のイタリアン弁当はピクニックなどのイベント時に喜ばれ、パーティー用にオードブルの注文も可能。最近は蚤の市や百貨店のイタリアフェアにも出店し、徐々に知名度が広がっているのでグルメな人は特にチェックを!
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イタリア伝統菓子と郷土料理 Campo d’Oro
住所: 福岡県福岡市警固1-3-6 警固フラット201
営業時間: 13:00~18:00
定休日: 日~木曜
電話番号: 092-724-4828
URL: https://www.facebook.com/i.cucina.campodoro/
1人でしっぽり飲み直すなら! 『ちょい飲み チョクチョク(202号室)』
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こざっぱりとした気さくな店主・堤直美さんが迎えてくれる202号室は、女性一人でも入りやすい雰囲気のバー『ちょい飲みチョクチョク』。ザ・ローリング・ストーンズやザ・ビートルズなど名盤のレコードが流れ、しっぽりとホロ酔いするには打ってつけの店だ。「大勢の仲間で来店するより、仕事帰りにリセットしに寄ったり、飲み会後に飲み直したり、ひとりの時間を過ごしたいというお客さんが多いですね」と話すのは堤さん。その言葉の通り、L字型のカウンターにはおひとり様の姿が多く、こぢんまりとした心地良い空間も相まって初見の客同士が盛り上がることもしばしば。アルコールは日本酒からワイン、ウイスキーまで揃え、上質なカシスリキュールを使ったカクテルやホットラムレモンも人気となっている。
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ちょい飲み チョクチョク
住所: 福岡県福岡市警固1-3-6 警固フラット202
営業時間: 20:00~25:00(L.O 24:30)
定休日: 不定休
電話番号: 080-5276-3984
猫好き必見! 『焼き菓子屋 サンプリスィテ(205号室)』
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205号室は、ネコ好きによる、ネコ好きのための焼き菓子店『焼き菓子屋 サンプリスィテ』。以前、上呉服町でお菓子とコーヒーの店を営んでいた店主・難波早智さんが、ウェブショップで展開していたネコモチーフの焼き菓子を専門に切り替え、移転リニューアル。「ネコーン(スコーン)」「フィニャンシェ(フィナンシェ)」「肉球パウンド」とネーミングが可愛く、手作りの素朴で優しい味わいも魅力。そして、ネコと暮らしている人なら共感するであろう絶妙なシルエットが象られているので、眺めるだけで心がほっこり和んだり、ネコ好きにプレゼントしたい衝動にかられてしまうアイテムも多数。ネコのイラストが描かれた一筆線や置き物など雑貨も揃い、誕生日やブライダルのギフトに添えても良さそう。
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焼き菓子屋 Simplicite
住所: 福岡県福岡市警固1-3-6 警固フラット205
営業時間: 12:00~19:00(土・日祝日12:00~18:00)
定休日: 火曜、不定
電話番号: 092-406-7750
「隠れ家アパート」の真髄は、1階にアリ!?
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1階の紹介に入る前に少し説明を。1階には、夕方からオープンする酒場と小料理屋が3軒連なる。どの店も店主がキャラ立ちしていて、お客は店主に会いに訪れる感覚で、夜な夜な暗い路地裏を抜け、この隠れ家に集まる。お気に入りの店でまったりするも良し、それぞれをハシゴしてこのアパートを余すところなく満喫するのも良し。早速1軒目は、「この店主に会わずして福岡を去れない」と他県のお客が口を揃えて語る、名物店主が立つ酒場から覗いてみよう。
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名物店主が待つ! 『酒場 みんなの黄ちゃん(101号室)』
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扉を開けると「いらっしゃい」と迎えてくれるのは、女性店主の黄小晃(こう・しょうこう)さん。みんなから「黄(こう)ちゃん」の愛称で親しまれている彼女は、福岡のみならず、東京や大阪、さらには海外にまでファンを持つ天性の愛されキャラだ。そんな彼女の魅力は、人懐っこさと酒への探究心、そして「最高の一杯」と唸らせる商品のセレクト力にある。
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神奈川県出身の黄さんは、東京の『DEAN&DELUCA』を退職後、福岡を人気酒屋『とどろき酒店』で働くために福岡に移住。大好きなお酒の世界へ突き進み、2016年12月に独立し、この「隠れ家アパート」の記念すべきトップバッターとなる店舗を立ち上げた。
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黄さんが提供するのは、国内外のヴァンナチュールと日本酒、そして絞りたての柑橘サワーなど選りすぐりのお酒。老舗の酒蔵やこだわりの生産者が丹念に作ったお酒は、一口飲めばはっきり違いがわかるほど個性豊かで美味しい。その時々の出会いや旬でラインナップが変わるので、いつ来ても新しい一本を楽しむことができる。
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また、おつまみもここならではのメニュー展開で、地元での評判店、『クロマニヨン』や『ヨルゴ』、『コキンヌ』などから特別に作ってもらい、提供している。これらの人気店のおつまみを一堂で味わえるのは、おそらく『みんなの黄ちゃん』だけ。酒はもちろん、肴まで完璧なのだ。
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そして、開店以来増え続けている壁の直筆イラストも見所の一つ。筆を起こしたのは、イラストレーターのエドツワキ氏や神山隆二氏、グラフィティアーティストのMOGNO6.、KYNEやNONCHELEEなど話題の面々。ほかにも「黄ちゃんのオススメを飲みたくて」と、東京からミュージシャンや有名人がお忍びで訪れ、狭いカウンターでお客と一緒に肩を並べて呑むことも。ちなみに、この日はサンフランシスコから東京を経由して、わざわざアメリカ人の男性がひとりで来店。このお店の並外れた吸引力を感じた瞬間だった。
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酒場 みんなの黄ちゃん
住所: 福岡県福岡市警固1-3-6 警固フラット101
営業時間: 平日、土18:30〜24時位、日祝のみ14:30〜夜
定休日: 水曜、不定
電話番号: 非公開
URL: https://www.instagram.com/minnano_kochang/
ホッと安らぐ家庭料理を食べるなら。 『一汁一菜 みその葉(105号室)』
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15年ほど前から食育指導士として活動する店主・北川みどりさんの和食料理店が『一汁一菜 みその葉』。北川さんは「味噌ソムリエ」の顔も持ち、手作りの味噌と丁寧にとった出汁、こだわりの厳選調味料、そして地元の食材を使い、体に優しくホッとする味わいの家庭料理を提供する。日替わりのおつまみ3種とアルコールが付く「ただいまセット一酒三菜」は、ほうれん草の白和えや出汁巻き玉子など滋味深い美味しさに溢れ、まるで実家に帰ってきたような気分に浸れる。料理に使われる肉味噌と〆の味噌汁も、深い味わいで常連客から大絶賛。アパートの2部屋分を使った店内では、味噌作りのワークショップや料理教室を開講している。
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一汁一菜 みその葉
住所: 福岡県福岡市警固1-3-6 警固フラット105
営業時間: 18:00~23:00
定休日: 火曜、不定
電話番号: 092-725-6383
URL: https://misonoha.jimdo.com/
Facebook: https://www.facebook.com/misonoha/
『小料理 出鱈目(102号)』
最後に紹介するのが、8席ほどのコバコ(小さな空間)で、季節の食材を使った和食をもてなす本格派の小料理屋『小料理 出鱈目(でたらめ)』。刺身や魚のフライ、魚介の和え物など、福岡の海の幸を味わえるのは、この「隠れ家アパート」ではここだけ。飲食店経験が豊富な料理人の店主・久富信太朗さんがカウンターに立ち、料理の組み合せや好みにマッチしたお酒をオススメしてくれるので、ゆっくりと噛みしめながら味わってほしい。
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小料理 出鱈目
住所: 福岡県福岡市警固1-3-6 警固フラット102
営業時間: 18:00~24:00(来店前に要確認)
定休日: 不定
電話番号: 090-9483-0141
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