ファッションジャーナリスト、スタイリストなど様々なフィールドで活躍するミーシャ・ジャネット(Misha Janette)。生粋のアメリカ人である彼女は、東京や大阪の混沌としたエネルギーに魅了され、「日本でファッションの仕事をする!」と、働く環境として日本を選んだ。
彼女のブログ「東京ファッションダイアリー」では、日々変化する日本の先鋭的なカルチャー、グルメ、ライフスタイルが発信されたり、東京の風景とコラボレーションしたファッションストーリーも掲載されている。モダンでファニー、そしてちょっとクレイジー。ミーシャの目が捉えた東京は、多くのファッションピープルの好奇心を刺激すると同時に、日本人ですら知らなかった東京の魅力を再発見させてくれる。そんなミーシャ・ジャネットに、東京の魅力や日本に感じていることを聞いた。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
「スクランブル交差点が世界の中心って感じ」
—パリ、ミラノ、ニューヨークなど、世界には数多の都市がありますが、ミーシャさんが生活の場として東京を選んだ理由はなんでしょうか?
ミーシャ:私はワシントン州のスポーケンで育ったのですが、子どもの頃からいつかファッション業界で働きたいと思っていたんです。フランス語を勉強していたからパリにも憧れたけれど、小学校の先生が日系で、折り紙を教えてくれたり、日本の女子大生をペンパル(文通相手)として紹介してくれたりしたんです。そういう経験もあって、高校3年生の時に、姉妹都市だった兵庫県の西宮に留学することになりました。
—最初は関西だったんですね。
ミーシャ:そうです。日本に来たらすごく楽しくて、梅田とかで毎日遊んでました。もちろん周りは関西弁だらけで、最初は何を言ってるのかわからない。「○×△○×□○×◇!」って、関西の人ってみんなすごい早口でしょ(笑)。でも、7ヶ月経ったら自然と関西弁が身についてて。だから、今でも仲良くなるのは関西出身の日本人が多いの。
—日本の第一印象は?
ミーシャ:いろんなものが極端で面白い、ってことだったかな。例えば、洋服の色使い。「この色にこのガラを合わせちゃうの?」ってビックリしました。
—特に大阪は個性の強い街ですよね。
ミーシャ:今でこそ柄on柄も普通だけど、当時は世界的に見てもまだ少なかったし。ハロウィンでもないのに、オレンジ色のカラータイツが普通に売っているでしょ。まるで毎日がパーティーみたい(笑)。外国人の私でもビックリしたわ。それでもっと日本を知りたいと思って、一度アメリカに戻って、今度は東京の文化服装学院に入学することになったんです。
—東京はどうでしたか?
ミーシャ:もう、エキサインティングな異世界! 関西弁は英語のリズムと似ているから、言葉として馴染みやすかった。だから、なおさら東京は別の惑星にやって来たみたいでした。関西とは全く文化が違うし。住みはじめてもう10年になるけど、あの異世界感はずっと続いていますよ。
—とは言え、ファッションを学ぶならやっぱりニューヨークやパリの方がよいのでは?
ミーシャ:そうかもしれないけど、日本でキャリアを積みたいという気持ちを大事にしたかったし、やっぱりファッション業界はコネクションありきなんですよね。私にはまったくコネがなかった。だからこそ、逆にちょっと面白い場所でキャリアをスタートしたかった。ニューヨークのイメージは、(ファッション界の)戦場といった感じで一番うるさい人が勝つけど、東京は違う。別に私は、叫び続けて仕事をしたいわけじゃなかったからね(笑)。
—在学中から日本のファッションシーンで仕事を始めたんですか?
ミーシャ:最初はジャパンタイムズ(The Japan Times)の記者のアシスタントをやったり、歌手のスタイリストをやったり、自分でコネづくりに励んでいました。東京の良さって、広いけど狭いってところ。渋谷とか歩いていると、必ず知り合いに会える。その頃の私にとっては、渋谷のスクランブル交差点が世界の中心って感じでした。強力なパワースポットで、ここからすべてが始まる、ここから全部発信されてる、みたいな。だから、「ネオンサインの裏でもいいから、ここに住みたい!」って本気で思っていましたよ(笑)。
今ミーシャがオススメする東京のスポットは?
—では、東京の良さってなんでしょう?
ミーシャ:東京にはいい意味での「作法」がありますよね。見えない作法があって、それを日本人は守っているから治安もいいし、都市が活動的なんだと思います。だからこそ、東京独自の「カオス」もある。
—カオス、混沌ですか?
ミーシャ:そう。これは作法にも通じますけど、東京って、佇まいとして凛としてる。侘び寂びがあって、街並みがきれい。そして、いわゆるジャパニーズデザインはシンプルで無地。あと、みんな約束の時間をちゃんと守る(笑)。女性は自分の外見を気にしているから、パリジャンみたいにすごいオシャレではなくても、みんなセンスのいい服を着てるでしょ? でも一方で、裏原、竹下通り、秋葉原、渋谷センター街、109みたいに極端にクレイジーな人達が集まる場所もある。その2つが合わさってこその東京だと思う。
—そもそもそういう2つの表情があるのは、都市として珍しいことなんですかね?
ミーシャ:それがなくなると、世界中のどの都市も似てしまうからつまらないと思う。もちろんパリにもカオスはあるけれど、それは危険な方のカオス。夜道とか、身の安全に気をつけないといけない。でも、日本はどんなに危険と言われる場所でもそこまで怖くない。だから街が、ちょっとしたディズニーランドみたいな感じかな。もちろん油断しちゃだめだけどね。
—街全体がディズニーランド(笑)。でも、日本人の私たちからすると、作法やカオスを強く感じることはないかもしれません。それが日常でもありますから。
ミーシャ:でも海外の人から見ると、驚くことが多いですよ。「御神輿を担ぐ時になんでふんどしを着るの?」とか、「目黒川沿いに飾られた提灯には、なんでファッションブランドの名前が入っているの?」とか。そういう些細なことが、外国人にとってはちょっとわからなくて、なおかつ素敵って思う。スカム的だけど、そういうものがある風景の前で撮影したくなっちゃうし。
—ミーシャさんが海外に向けて東京をアピールするとしたら、ポイントはどこですか?
ミーシャ:和食、お寺、ポップカルチャー……ちょっとベタかな(笑)。ファッション的には、モードよりも、原宿系みたいなストリートが魅力的。あと、やっぱり東京はショッピングの街だと思います。夜遅くまで開いていて、日曜でも開いている店も多いし、ホスピタリティーがめちゃくちゃ高い。いろんなブランドが世界から集まっていて、その上、キュレーションされている。パリの有名なセレクトショップというと「コレット」だけど、東京にはコレットが100軒くらいある感じですね。
—たしかに、原宿とか表参道だけじゃなく、いろんな場所に個性的な店がたくさんありますね。
ミーシャ:もちろんそれをトゥーマッチだっていう人もいると思います。だから、東京に行きたいっていう人はアドベンチャー精神が旺盛な人が多いんじゃないかな。東京はリゾート地みたいにリラックスするんじゃなくて、強い刺激を受ける場所だから。
—では、ミーシャさんが今東京で好きなスポットはどこですか?
ミーシャ:高円寺が面白い。キタコレビルとか。最近テナントが入れ替わったけど、今のリアルな東京はあそこだと思う。
—キタコレビルはかなりエクストリームな場所ですね。現代アーティストグループのChim↑Pomの拠点「KANE-ZANMAI」もありますね。今後はギャラリースペースとしても使われるそうです。
ミーシャ:そうそう。高円寺って街自体もとてもカオス。自作のホログラム生地の大きいコートを着て颯爽と歩くデザイナーとすれ違ったかと思うと、コロッケとか売ってる昔ながらの商店街のおじいちゃんと挨拶したり。中央線沿線が東京のサブカルチャーの聖地でしょ。日本のエクストリームなカオスを感じたいなら、今は高円寺かな!
日本でサバイブする上で大切なこと
—今までの話を聞いていると、東京は刺激の多く、またホスピタリティー溢れる街。でも、海外の人が働こうと思うとハードルもあると思います。ミーシャさんなりの東京でサバイブする秘訣はありますか?
ミーシャ:まずは日本語をちゃんと身につけることですね。自分の伝えたいこと、共感してもらえる手段を身につける。外国人が日本で働こうとすると、基本的に依頼される仕事は英会話とか、外人目線で日本を紹介してとかばっかりでしょう?
—一般的にはそうかもしれませんね。スキル的にもキャラクター的にも過度に外国人らしさを求められる。
ミーシャ:でも海外では、あなた自身の個性でクリエーションしてほしいというのが普通。でも、日本には日本人が多いから、外国人の存在がいまだにエキゾチックなんですよね。それでも私は自分のスタイルを打ち出してきたけれど。
—ブログで発信し始めたことも、大きいですよね。
ミーシャ:それに、ジャパンタイムズの記者として私の名前が出るようになったのも大きいかな。文化服装学院を卒業したクラスメイトには雑誌の『装苑』で働いている人もいたから、私のことを誌面で紹介してくれて、その時に舘鼻則孝さんの靴を履いてみて話題になったり。そういうつながりが大切。
—舘鼻さんの靴はレディー・ガガが履いたことで有名ですね。言語を習得することもそうですが、自分の美意識を発信するための手段とネットワークを広げいくことが大事なんですね。
ミーシャ:そうですね。日本って英語が通じる場所がまだまだ少ないでしょ。それで損していることは多いよね。簡単な英語の質問にも「わかりません」「ありません」って日本語で返されても外国人にはわからない。中には顔の前でバッテンしたり、手の平をひらひら振ったりする人もいるけど、あれもけっこう失礼に見えちゃう。バッテンって、ものすごい危険から自分の身をガードしてるってことだし。外国人はゴジラじゃないんだから!
—たしかに(笑)。
ミーシャ:だからコンビニの店員さんこそ、言語のスペシャリストだったらいいですよね。3カ国語喋れますよ、みたいな。私も、日本人とコミュニケーションとりたい一心で、日本語学校に通って辞書を丸暗記するくらい勉強したし、メル友作ったり、ルビ付きの少女マンガを読んだり、繰り返して映画を見たりした。だから努力は大切!
—やっぱり日本でサバイブするための最大の武器は……。
ミーシャ:言葉ですね。あとは、日本の作法をちゃんと身につけて……あきらめないこと。それは日本人に対しても同じようなことを言ってる。コツなんてないですよ。もちろん時代の展開が早いから、きっかけはたくさんあると思う。SNSでブレイクする人もいれば、YouTubeでブレイクする人だっている。もちろんこつこつキャリアを積み上げてブレイクする人もいる。でも共通するのは、あきらめないこと。
「すぐには手に入らないほど大きなファンタジーをつくりたい」
—では最後の質問です。ミーシャさんの今後の野望は?
ミーシャ:まだまだブレイクしたい! 「私のことを知らない人多すぎる!」 みたいな。ここからは戦略が必要かもしれないですね(笑)。真剣なことを言うと、もっとファッションにファンタジーや憧れを取り戻したいです。
—ファンタジーというと?
ミーシャ:今は、すぐに手に入れたい、すぐにこうしたい、って「すぐ」を求める気持ちが強いでしょ。でも「すぐ」には手に入らないほどの大きなファンタジーを作りたいかな。10代の頃、ファッション業界のアイコンたちを見て、私のスターは、イザベラ・ブロウにアレキサンダー・マックイーン。でも絶対に手が届くとも思えないじゃない。だからこそ彼女たちを目指すパワーが生まれる。
—手の届かないものを設定するんですね。
ミーシャ:そう。パッと写真を撮って、すぐにSNSにアップするのもすごく刺激的だけど、最近の私のテーマは「スローSNS」。だから、自分のインスタグラムもすごくキュレートしている。セレブとツーショットを撮ったからって、すぐアップするわけじゃない。そこに面白いストーリーを加えて、はじめてアップする。
—SNSの普及で情報スピードが急加速してきましたけど、その次に来るのは、しっかりと個人の美意識、ビジョンを伝えることなんでしょうか。
ミーシャ:そう。まだまだ日本では自己主張し続けるのは大変。でも、外から見たら、東京ほどエクストリームな都市はない。私が作りたい次のシーンは、内側も外側もありのままの東京を表現できる場所かもしれませんね。
- プロフィール
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- ミーシャ・ジャネット
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米国生まれ、04年来日。「style.com」、英字新聞「The Japan Times」をはじめ、国内外の様々な媒体へ記事を寄稿。スタイリストとして米国No.1アーティストのニッキーミナージュや倖田來未などのファッションディレクションを行う。グローバルスタンダードのファッションブログ『東京ファッションダイアリー』をバイリンガルで独特的におしゃれな日本の宣伝道を発信、世界のTOPブロガーとして輝く。2014年、英国発のビジネスオブファッション媒体( BoF)の「世界のファッション業界を動かしている500人」に入選。
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