リトルサンダー、雪下まゆなど4人とコラボ。「ニュー北九州シティ」とは?

「東アジア文化都市」という取り組みをご存知だろうか。毎年、日中韓の3か国から都市が選出され、一年を通じてさまざまな文化イベントや交流を行っていくものだ。

2020年に日本から選出されたのが北九州市。コロナ禍の影響で会期は2021年まで延長となったが、いよいよ4月末から、メディアアーティストの落合陽一らが参加するアートフェス『北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs』が予定されるなどしている。

そんななか、「コロナ禍のいまこそ、カルチャーの力で世界とつながることはできないか」という思いが込められた、アジアの注目イラストレーターたちとのコラボ企画も発表に。日本の雪下まゆ、台湾のShiho So、香港のリトルサンダー、韓国のナム13が、北九州発祥の飲み文化「角打ち」をテーマに制作したイラストグッズが発売となった。

東アジアのアーティストたちは、北九州をどのように表現したのだろうか? 参加したイラストレーターたちへのインタビューとともに紹介する。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

「コロナ禍のいまこそ、カルチャーの力で世界とつながりたい」

海を挟んで本州に一番近い九州の玄関口として、人、物を受け入れ、さまざまな文化を生み出してきた北九州市。

HereNowをはじめとするカルチャーメディアとのタイアップや、イベント開催、アーティストを誘致してのミュージックビデオ制作など、音楽やアート、ストリートカルチャーを軸としたPRを積極的に行ってきた。こうした企画は、それまであまり知られていなかった北九州のスポットや人物にも光を当て、カルチャー好きの若者やクリエイターのあいだで話題となってきた。

全編北九州市内で撮影された、AAAMYYY『愛のために』MV

そんな北九州市が、2021年3月に、カルチャーを軸としたこれまでのPR活動をアーカイブする場所として、ウェブサイト「ニュー北九州シティ」を開設。今後も「ニュー北九州シティ」の名のもとに、さまざまなプロジェクトや企画を立ち上げていくという。

その第一弾として発表されたのが、アジアで活躍する4名の人気イラストレーターとコラボレーションしたオリジナルグッズの発売だ。参加したのは、いまアジアで最も注目されているイラストレーターのひとり、リトルサンダー(香港)をはじめ、雪下まゆ(日本)、Shiho So(台湾)、ナム13(韓国)といった、若者に絶大な支持を得るアーティストたち。

リトルサンダーのInstagramアカウントは、フォロワー数80万以上

企画の背景にあるのは、「コロナ禍のいまこそ、カルチャーの力で世界とつながりたい」という思いだ。北九州市は、2020年に韓国の順天市、中国の揚州市とともに「東アジア文化都市」に選ばれ、さまざまな文化交流イベントなどを予定していたが、コロナ禍を受け会期が2021年まで延長に。

そんな背景から、「ONE ASIA, ONE ART」を合言葉に、東アジアで活躍するクリエイターとともに、北九州に根づくカルチャーをリブランディングし、新たな息吹を生み出そうと動いている。

今回の企画では、北九州発祥の飲み文化「角打ち」をテーマに、それぞれのイラストレーターが作品を制作した。東アジアのアーティストたちは、北九州をどのように表現したのだろうか? 作品の制作意図や、コロナ禍のこの時期をどのような思いで過ごしているのかなど、メールインタビューに答えてもらった。

「未来への希望を持ち、強くあり続けること」(門小雷 / リトルサンダー)

一人目のリトルサンダーこと門小雷は、アジアを代表するトップクリエイター。8歳の頃から漫画を描きはじめ、16歳で漫画家デビュー。フリーのイラストレーターとしても活躍する。

彼女の描く、しなやかで力強い女性のイラストは世界中のファンを魅了し、Instagramのフォロワーは80万人以上。これまでには、50作以上の漫画作品をはじめ、ファッションブランドの広告からウェブメディアや雑誌に至るまで、幅広いシーンで活躍している。

日本でも人気が高く、2020年に東京・大阪で開催された個展では、最新作品集『SCENT OF HONG KONG』に描き下ろした新作33点を展示し、好評を博したことも記憶に新しい。

——今回の作品の制作意図について教えてください。

リトルサンダー:桜の季節。日没後の残光が辺りを照らすマジックアワーに、涼しい風を肌に感じながら、美しい小倉城に酔いしれる——そんな幻想的なシーンをイメージしました。

——テーマは「角打ち」でしたが、普段お酒はどんなふうに飲むのが好きですか?

リトルサンダー:アルコール度数の低いお酒を選んで、女友達と静かな場所で飲むのが好き。そうすれば、すぐに酔うことなく、リラックスしておしゃべりができるので。

——「コロナ禍のいま、アジアで連帯しよう」という「ニュー北九州シティ」のコンセプトについて、どのように思いましたか。

リトルサンダー:COVID-19は、悲しみと怒りと失望を世界中に広めました。香港のシティカルチャーも深刻な影響を受けています。

最悪なのは人々の間で過剰な恐怖が広がっていること。そんななか、私にできることは、未来への希望を持ち、強くあり続けることだと思います。一緒に進みましょう。

——日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

リトルサンダー:2020年に日本で開催した個展では、パンデミックの影響で来日できず、悔しい思いをしました。そんな状況下で、観に来てくださった日本のファンの皆さん、本当にありがとうございました。次回、もっとたくさんの作品を皆さんと共有できるように、これからも頑張ります。

「コロナが終息したら、ぜひ角打ちへ!」(雪下まゆ)

二人目は、自身が撮影した写真をもとに、都会で生きる若者たちのリアルを個性的なタッチで描くイラストレーター、雪下まゆ。多摩美術大学在学時から、TwitterやInstagramといったSNS上にアップしたイラストが10代や20代を中心に人気を集めてきた。

「バッドテイストな映画に影響を受けている」と語るダークな世界観のイラストは、音楽業界やファッション業界の注目度も高く、ブランドの広告やCDジャケットなど、タイアップ作品も多い。最近では本の装丁や題字も手掛け、自身のファッションブランドを立ち上げるなど、多彩に活躍する。

今回のプロジェクトでは、彼女のイラストが持つアンダーグラウンドな雰囲気が、北九州のディープな飲み文化「角打ち」の空気感に見事にマッチした。

——今回の作品の制作意図について教えてください。

雪下:絵の参考にするために初めて角打ちに行きましたが、たくさんの日本酒のラベルに囲まれながら、普段出会えないお酒を飲むのは、とても楽しかったです。自分たちの世代のお酒が好きな方にも興味を持っていただけたら良いなと思いながら描きました。

——テーマは「角打ち」でしたが、普段お酒はどんなふうに飲むのが好きですか?

雪下:一人でもたまに飲みますが、基本的に人と飲むのが好きです。

——「コロナ禍のいま、アジアで連帯しよう」という「ニュー北九州シティ」のコンセプトについて、どのように思いましたか。

雪下:音楽やゲーム、映画などを見れば、クリエイターたちが作品を通じてお互いの文化を尊重し、影響を与え合っていることがわかると思います。今回その一端となるプロジェクトに参加することができて嬉しかったし、私自身、アジアの文化をもっと知りたい、交流したいという気持ちになりました。

——日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

雪下:コロナが終息したら、ぜひ角打ちにも遊びに行って欲しいです。

「日本のコンビニで買えるサワーが大好き」(Shiho So)

三人目のShiho Soは、横浜生まれの台湾人イラストレーター。日本の1980年代漫画的な表現を得意としている。

台湾国立高雄大学の伝統工芸・クリエイティブデザイン科を卒業し、2016年から活動をスタート、Instagramに作品を発表しはじめる。2017年にはイラストを学ぶために東京へ。現在は、日本のデザイン会社でイラストレーターとして働きながら、レコードジャケットをはじめ、本の装丁やアパレルなど多方面で活躍中だ。

フューチャーファンクの人気アーティストNight Tempo(ナイトテンポ)のキャラクターデザインや、気鋭のシンガーtonunのMV『今夜のキスで』のイラストを担当するなど、さまざまなアーティストとのコラボレーションでも注目を集めている。

tonun『今夜のキスで』

——今回の作品の制作意図について教えてください。

Shiho:北九州の工場夜景を背景に、スケートボードパークで運動をしたあとおいしそうにお酒を飲むスケボー女子を描きました。台湾の要素も入れたいなと思い、中国語で「飲み続ける」という意味の「一杯又一杯」という文字を入れています。

——テーマは「角打ち」でしたが、普段お酒はどんなふうに飲むのが好きですか?

Shiho:家で飲むのが好きですね。お酒は得意ではありませんが、月に1回、無性に飲みたくなります。なかでも、コンビニで買えるサワーが好きで、季節の限定味などいろいろ試しています。甘くてアルコール少なめでとても飲みやすいです。

——「コロナ禍のいま、アジアで連帯しよう」という「ニュー北九州シティ」のコンセプトについて、どのように思いましたか。

Shiho:異なる視点や文化を持つアジアのイラストレーターたちが発信する、新たな北九州カルチャーが、日本の若い人たちにどんな影響を与えるのか楽しみです。お話をいただいた当初、角打ち文化すら知らなかったので、北九州に関しての知識が増えて嬉しいです。

——日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

Shiho:「ニュー北九州シティ」を通じて、日本の若い人たちが新たな角度であらためて北九州を知ることができますように。コロナ禍が終息したら、私も北九州の工場夜景を見に行きます。

「コロナ下でも、楽しいという感情は忘れないで」(ナム13 / nam 13)

最後に紹介するのは、懐かしくも新しく、エキゾチックな作風で人気を集めるナム13。Night Tempoのジャケットイラストを手掛けていることで知る人も多いのではないだろうか。

彼が活動しはじめたのは大学時代。卒業後にイラストで食べていくか就職するのか迷っていたときに、偶然テレビで目にした日本のアニメ『キルラキル』に感銘を受け、プロの道へ進むことを決意。イラストレーターの永井博、鈴木英人といった1980年代を代表する日本のクリエイターをリスペクトし、当時のカルチャーを再解釈したオリジナルのタッチが魅力だ。

——今回の作品の制作意図について教えてください。

ナム13:テーマは「初夏の夜、路上でビール1杯」。人物の服装や色合いは、1980年代をフィーチャーしています。お酒がすすむシーズンでもある「夏の夜」の雰囲気を、作品に込めました。

——テーマは「角打ち」でしたが、普段お酒はどんなふうに飲むのが好きですか?

ナム13:お酒であればなんでも好きですが、オンザロックだけは度数が高くまだ飲めません。その代わりにハイボールをよく飲みます。韓国で購入するのは難しいですが日本のストロング系チューハイも大好きです。

ソウルは現在、夜10時以降、すべてのお店が営業を中止しています。韓国の飲み文化は本来、10時以降が本番。深夜2、3時まで飲むことが普通なので、以前は韓国焼酎や、焼酎とビールをミックスした「ソメック」を長時間かけて飲む文化が主流でした。一方現在は、1杯から楽しめるワインバーや日本酒を気軽に楽しめる日本式の居酒屋が若者に流行しています。

私としては、深夜まで友達と話しながら飲むことができなくなりすごく悲しい気持ちです。一日も早くいまの状態が終息し、楽しい飲み文化が復活してほしいです。

——「コロナ禍のいま、アジアで連帯しよう」という「ニュー北九州シティ」のコンセプトについて、どのように思いましたか。

ナム13:もともと他の国の人とコミュニケーションを取るのが大好きなので、今回のプロジェクトに参加することができてとても嬉しく思っています。いまはどの国も厳しい状態だからこそ、国や文化に関係なく力を合わせて、この状況を終息させることが一番ではないでしょうか。私たちの作品がめぐりめぐって、連帯のきっかけになれば嬉しいです。

国際的な連帯には、特に若者の役割が重要です。文化を通じて国境を超え、お互いを愛して持続的に交流していくことが、アフターコロナの時代の目標ではないかと思います。

——日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

ナム13:日常が壊れているこの感じは、私だけでなく皆さんも同じだと思います。でもだからこそ大切なのはポジティブに生活することではないでしょうか。「楽しい」という感情まで忘れちゃうとそれはとても悲しいことだと思います。

特にイラストレーターにとっては皆さんの「楽しい」がとても大切です。皆さんが笑って、楽しい気持ちで生活できることを海の向こうから願っています。お酒でも一杯飲んで、少しでも楽しい日常にするよう頑張りましょう!

グッズはここで手に入れよう。北九州ストリートカルチャーの案内所『kabui』

JR西小倉駅そばにある『kabui』は、地元では「ダボさん」の愛称で親しまれるオーナー、都合希視寛(とごうきみひろ)さんが「自分の好きなものだけを集めた空間をつくりたい」と2015年にオープンしたショップ。国内外から注目される北九州在住のアーティスト・BABUに関連するアイテムをはじめ、ひとクセあるストリートカルチャーをジャンルレスに紹介している。

今回開発されたグッズはこちらの店頭で販売予定。ラインナップは、家飲みにぴったりのグラスや、Tシャツにイラストをあしらったもの。個数限定販売となるグッズを、ぜひ手に入れてほしい。

kabui
住所 : 福岡県北九州市小倉北区大門2-1-9岩岡ビル
営業時間 : 12:00~18:00
定休日 : 木曜日
電話番号 : 093-967-6858
最寄り駅 : 西小倉駅
Webサイト : https://www.facebook.com/kabui.store/


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