台湾の人気イラストレーター「油頭二世」インタビュー。皮肉なイラストが支持されるワケ

近年、台湾では、SNS上で自らのイラスト作品を投稿し、多数のフォロワーを抱えるインフルエンサーが増えています。その代表格が、Facebook280,000、Instagram180,000を越えるフォロワー(2018年5月現在)を持つイラストレーター「油頭二世(オイルヘッドジュニア)」。若者のファッションコーディネートを風刺したようなイラストで、今台湾の20代~30代から人気を集めています。彼はなぜ多くの若者の心を掴むことができたのか? 台湾のインフルエンサー事情とともに、彼が題材とする台湾の若者のファッションについて話を聞いてみました。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

暇つぶしで始めたSNSで、1年も絶たずに1万いいね!がつく

—「油頭二世」というペンネームから、もっとギラギラした方だと思ってました。実際にお会いすると印象と違いますね。とっても爽やかな方でびっくりしました。

油頭二世:ははは、そうですか。「油頭二世」という名前でイラストを書き始めた頃は、実際にオールバックをしていいたんです。文字通りポマードをたっぷり塗って。(※油頭は中国語でオールバックの意味)それで「二世」は、ただ単純にその響きがかっこいいなって思って付けましたが、今はもうオールバックはやめちゃいました。髪のセットに毎回30分かかるのはまずいなと思って(笑)。

—オールバック時代に始めたFacebookですが、もともと絵を描くのは好きだったんですか?

油頭二世:小さい頃から、暇があったら何か描いているような子供で。昔は日本のドラゴンボールなど、アニメキャラクターの絵もよく描いてましたよ。大学生の夏休みに、ああなんか暇だな、やることもないし暇な時に描いていたイラストをSNSに投稿してみようと思ったんです。当時、僕の周りでもFacebookページを作るのが流行っていましたから。その頃は、自分は絵がうまいとも思わなかったし、これで食べていくなんて全く思っていなくて。ただ、暇つぶし的な軽い気持ちで。

—始めたら、すごい反響だった。

油頭二世:最初は誰も自分のイラストを見てくれないだろうなと思っていたんです。でも、思ったよりもすごく反応が良くて。どんどんイラストを描いてそして投稿するというサイクルにハマっていきました。最初は白い紙で黒いペンでイラストを描き写真をとって加工して投稿していたのですが、フォロワーが1000人を超えた頃から、デジタル化しました。今はもうiPadがあれば、すぐにこうやってイラストを描けますよ。

—油頭二世さんは男子のコーディネートを題材にしたイラストを、始めた頃から一貫して描いていますね。

油頭二世:よくファッションの専攻だったのかとよく聞かれるんですけど、全然違くて、大学では工業製品のデザイン(インダストリアルデザイン)の勉強していました。ファッションやコーディネートのイラストが多いのは単に好きだからなんです。その転機になったのが「潮男と型男」のイラストでした。

—「潮男と型男」とは?

油頭二世:ます中国語のスラングのようなものなんですが、「潮男」は流行の最先端を常に追っているような人。「型男」はイケメンなんだけど、自分流のライフスタイルを確立していて美学がある人のこと。この似ているようで違う2つのファッションタイプを、自分なりのこうだよねというイメージをイラストにして発表したところ、1万人以上から「いいね」をもらって、コメントも300件以上ついて。

—バズったんですね。

油頭二世:こんなに反応をもらったのは初めてで、ずっとスマホやパソコンの通知が鳴ってて怖いくらいでした(笑)。でも、嬉しくて何日もかけてコメントに返事をしていったことを覚えています。

—油頭二世さん自身は、どっちのタイプだと思いますか。潮男それとも型男?

油頭二世:自分はまだまだ。どっちでもないです(笑)。

軍隊に入った時には、必死になってイラストを描いていた

—個人でSNSを始めて、1年で「いいね」数が1万を超えるって、すごいスピードですね。

油頭二世:はい、そこからはファンになってくれた人が、僕が新作のイラストを投稿するたびにシェアして拡散してくれて、順調にフォロワー数は増えていきました。でも、軍隊に入隊しなくちゃいけなくて(※台湾では18歳以上の男性は1年間の徴兵義務がある)。そこからは、フォロワーの期待に応えたいという気持ちで週末になったらずっとイラストを描いて、予約投稿し、月曜日にまた軍隊に戻る生活をしていました。あの頃が一番つらかったかな。

—油頭二世さん、今では様々な企業とコラボをしたり、「金馬映画祭(台湾で一番有名な映画祭)」にゲストとして呼ばれたりと、インフルエンサーとしての地位も確立していますよね。

油頭二世:最近では、僕のイラストのファッションアイテムを作りたいと、声をかけてもらうことが多くなりました。僕はずっとファッションが好きで、道行く人のコーデを眺めてはイラストにしてきたんで、そのイラストがまたファッションアイテムになっていくのが感慨深いです。また映画祭に招待されたときは、俳優さんのコーデをひたすら描いて欲しいという依頼もあって。まさに夢のような時間でしたね。

台湾の若者の服装から「なりたい自分」が見えてくる

—油頭二世さんがここまで、台湾の若者に支持される理由って何でしょう?

油頭二世:ラッキーだったいうのは大きいかも。たまたま僕と同じようなファッションコーディネートのイラストを投稿し続けている人も当時はいなかったから。でもやはり、3年間続けてきたということは大きいと思っている。フォロワーが増えなかったり、思った反応が得られなかったり、忙しくなると辞める人も多いから。自分の好きなことを描き続ける、そしてそれを発表し続けたから、今があるんじゃないかな。

—続けるためのアイデアの源って、どんなところから得ているんですか?

油頭二世:昔から大切にしているのは、ファッション雑誌を読むこと。最近ではInstagramで流行をつかむことも増えてきました。でも、一番のアイデアの源はストリートにいる人たち。インターネット上よりもリアルな場で、台湾人がどんな服を着て、どこにいて、どんな話をしているのかを観察する。そしてそんな街で行き交う人見ていると、台湾の若者が自分の着る服に込めた「なりたい自分」が見えてくるような気がして。

—「なりたい自分」とは?

油頭二世:まだ台湾のファッションシーンは、海外の影響がすごく強いんですよね。台湾ではこの絵を見ても分かるように、ファッションスタイルがストリート系やスポーツ系などカルチャーではなく、国名で区分けすることができるんです。自国ではない誰かになりたい、海外の文化に憧れている傾向がまだまだ強いのかもしれない。

—台湾人のファッションは、まだ独自のスタイルがない状態だと?

油頭二世:昔に比べると、かっこいいドメスティックブランドも増えてきたし、自国のファッションシーンを盛り上げようという機運は出てきたと思います。でもまだ手探りで、はっきりと自分たちはこうなんだっていうのはない。まだまだ発展途中ですね。

—では、そんな台湾の若者のイラストを書く上で、台湾のファッションシーンを盛り上げたいという気持ちはあったりするんですか?

油頭二世:自分が直接盛り上げるぞ! というよりは、自分のイラストを通して、ファッションそのものに興味を持ってもらいたいですね。SNSを通して、自分が書いたイラストにたくさんの人が共感やツッコミをいれながら、盛り上がっているのを見るのが好きだから。そのためにまた街に出て、台湾人のリアルなコーディネートをイラストに落とし込んでいきたいんです。

—なるほど。では今後、どんなことに挑戦していきたいですか?

油頭二世:まずは今まで通りコーディネ―トイラストを発信し続けていきたい。そして、最近では様々な企業や団体から、イラストの依頼を受けることも増えてきました。ずっと長く1人でやってきたんですが、今は誰かと共に作り上げていくことも面白いなと感じています。自分のイラストと発想が誰かの役に立って、さらにファンにも喜んでもらえる。そんな存在になれたらいいなと思います。

プロフィール
油頭二世
油頭二世

シンプルなイラストにブラックユーモアたっぷりのコメントで、台湾の若者層の心をがっちりと掴む、人気のイラストレーター。優れたアイデアと抜群な企画力で、台湾国内にとどまらず、世界中のハイブランドともコラボレーションを行う。今後ますます目が離せない、台湾のインフルエンサーの1人。



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