今、福岡を拠点に活躍する二人のアーティストが話題を集めている。一人はイラストレーターのNONCHELEEE(ノンチェリー)、もう一人はグラフィティアーティストのKYNE(キネ)。それぞれ独自の作風でイラストを描き、一度目にするとしばらく脳裏から離れないほど、印象的かつ魅力に溢れた作品を生み出している。そんな二人がアトリエ兼ショップ『ON AIR』をオープンしたと聞いたのは、ここ数週間前の話。早速その『ON AIR』へ向かい、二人に話を伺った。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
NONCHELEEEとKYNEによる、ウワサの共有アトリエ&ショップ
福岡から全国に、エモーショナルかつファッション性に溢れたイラストを発信する、イラストレーターNONCHELEEE(ノンチェリー)と、グラフィティアーティストのKYNE(キネ)。まずは、このお二人の紹介から。
NONCHELEEEは、ユーモラスで個性的なイラストを描くアーティスト。クセの強い人物画が印象的で、ほんのりとセクシーさやシュールさを織り交ぜながら、クスッと口元を緩ませるような作品を発表している。イラスト以外にも、学生時代から長年続けている音楽活動を並行し、また自身が選曲したカセットテープを配布するなど、高感度なサンプラーとしても活動する福岡の人気者。
対するKYNEは、美少女をモノクロで描くグラフィティアーティスト。女性独特の意味深な表情、艶かしさ、清らかさ、そして儚げな表情を巧妙に捉え、それらはまるで物心ついた少年が女性に抱く理想像のよう。福岡の路上やビル壁に、“KYNE-girl”のステッカーがアチコチで貼られているのを見た人も多いはず。基本的に本人は、メディアに露出しないスタイルなので、今回も顔出しはNGということであしからず。
作風はもちろん、アーティストとしてのキャラクター性もアプローチも全く異なる二人。そんな彼らが一緒になって、共有アトリエ兼ショップを作ることになった経緯とは?
NONCHELEEE:ことの始まりは、2016年の夏。東京で活動するアーティストのZMURF(ズマーフ)くんと、KYNEくんとの飲みの席。そこでそれぞれが選曲した音楽をかけながら「この感じのノリを、そのままラジオにしたいよね」って盛り上がったんです。それで、ZMURFくんらが東京で展開してるラジオ局の福岡版として、新番組を持たせてもらうことになって。ここでまず、KYNEくんと俺のラジオ番組のユニットが結成されたんですよ。
KYNE:あの頃、ノンチェくんがアトリエを探していて、麺酒場『つどい』で飲んでいたら、店主のギュウさんから『オモロそうな物件があるよ』って空き部屋情報を教えてもらい、早速見に行ったんです。それがこの場所。ある程度広かったから『二人でアトリエとして借りても良いかもね』って話して、翌日には不動産に契約しに行きました(笑)。
こうして、共有アトリエ兼ラジオ収録スタジオとして、この『ON AIR』が動き出したのだ。
アーティストが自ら立つ、直売所『ON AIR』ができるまで
共有アトリエ兼ラジオ収録スタジオとして、このスペースを借り始めた二人。準備段階では、オリジナルグッズを並べる物販コーナーはほんの一角程度の想定で、人がたくさん出入りする場所というより、作品の制作中に一日1~2人来てくれれば良い、というスタンスだったそう。
KYNE:小さな物販コーナーを売店っぽくしたくて、「そうだ、タバコの売店っぽいのはどう?」と二人で話していたときに、ちょうどヤフオクでこのカウンターを見つけました(笑)。このショーケースにだけグッズを並べる予定だったんですが……。
NONCHELEEE:内装工事を始めながら、この件を知人に報告していたら、だんだんオオゴトになってきて(笑)。『オープンいつ?』『何売るの?』『どんな空間にするの?』と周りの期待値が上がっているのを実感して、やばい、アトリエよりショップ機能を充実させないと! っていう意識に移っていったんですよ。
こうして、空間の大半が物販スペースの通称「直売所」と呼ばれる空間にシフトし、1月20日に無事オープンを果たした。店内には、二人の作品やオリジナルグッズ、そしてZINEも閲覧用に置かれている。壁に敷き詰めて飾っているカセットテープは、NONCHELEEEがアジア各国を旅して集めた現地の歌謡曲のコレクションだとか。
オープンして1~2週間後には、オリジナルのキーホルダーやTシャツ、過去に作ったグッズのサンプル品などが、想像を上回る早さで完売。開店記念に作ったオリジナルのカセットテープも品切れになったものの、現在、新たにトートバッグを制作したり、今後は地元の文具メーカー「HIGHTIDE(ハイタイド)」とのコラボ商品も登場予定だ。
取材当日『ON AIR』に偶然居合わせた20代の方は、「お二人の絵を街やSNSで見かけてカッコイイな~と思っていて、ずっと気になる存在でした。グッズが欲しくても個展や何かのイベントでしか買えなかったので、この空間は最高に嬉しいです!」と満足げな表情。また横浜在住の40代の男性は、「横浜のファッションビルの懸垂幕でKYNEさんの作品を見て、ヤバイって話題になって。会社の子にも、『ON AIR』で買ってきてと頼まれたものがあり、今回来ました」とも。
天神駅から今泉や薬院のアパレルショップを回り、南下しながらそのまま『ON AIR』へ。そして、徒歩5分程度の場所にある『NO COFFEE』へ立ち寄る……、なんて定番ルートが出来上がりつつあるようです。それにしても何かとこだわりが強いお二人。ゆえに共有のアトリエを作るときに、意見が衝突するなどの難しさはなかったのだろうか?
イラスト作品だけでなく、カルチャー発信地として
KYNE:確かに意見が割れることがなくはないですけど、僕は『ON AIR』では自分の色を出し過ぎたくないと思っていて。ここはニュートラルな場所で良いと思っているんです。だからこだわりはあるし、やりたいことは最低限やらせてもらいながらも、いろいろ話し合って互いの意見も尊重して、最終的にこの空間が完成しました。
NONCHELEEE:それぞれに好きなモノ、好きなタイプがあるから、二人の意見が交わる部分ってやっぱり一部なんですよね。だから、その交わる部分が「答え」になるというシンプルな考え方。白い壁はKYNEくん、体育館みたいなテカテカした床は俺、みたいに互いのリクエストを柔軟に合わせていって。あ、入口のバスケットゴールですか? あれは、俺が作品の資料として持ってたやつです(笑)。
ここは、直売所やアトリエだけでなく、カルチャー発信地としての役割も持っている。その主要な試みが、二人が展開するラジオ番組「RADIO COCONUT(レディオ ココナッツ)」だ。共通の友人が展開するインターネットラジオチャンネル「51.3 G-WAVE」の福岡版として、昨年10月より配信をスタート。
KYNE:自分一人だとやっぱり絵だけの活動になるけど、『ON AIR』ではノンチェくんもいる。二人でいるからこそ、イラストとは違う動きができるのが強みです。初回の「RADIO COCONUT」は、まだここが完成する前でしたね。その時は、くだらない雑談や近況報告、そして自分たちが好きな音楽をかけるという30分くらいの内容でした。ノンチェくんはレゲエを、僕は笠井紀美子さんとか昭和のジャズ歌手の楽曲をセレクトしたり……。
NONCHELEEE:今後はここでラジオ収録をして、ネットで配信する予定です。あと、クラブでもカフェでもない、ニッチなポジショニングの“遊び場”として何か仕掛けていきたいっすね。二人が良いと思うアーティストを招いてトークライブしたり、さらに+αの面白みを持たせるのが目標です。
それぞれアーティストとして自身の作風を確立し、ソロで活躍の場を広げながら、『ON AIR』という共有スペースで化学反応を楽しむ二人。このアーティストが、福岡を拠点に今後どんな面白い仕掛けを行うか、福岡をはじめ、全国のファンが熱い視線を注いでいる。完成したての新作、多彩なオリジナルグッズ、ラジオ番組の収録風景。もしかしたら、奥のアトリエで貴重な制作シーンが見られるかも……!? とにかくここ『ON AIR』から、今後ますます目が離せない。
- プロフィール
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- KYNE (きね)
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2006年頃から福岡を拠点に、グラフィティアーティストとして活動を開始。80年代のアイドルをモチーフにした美少女をモノクロで描き、街でのグラフィティ活動のほか、作品展やデザインなども行う。アパレルブランドとのコラボ作品や、CDジャケットのイラストなども手がける。
- NONCHELEEE (のんちぇりー)
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音楽活動と並行し、2014年にイラスト活動を本格スタート。飲食店や器ブランドなどの看板&商品イラストを多数担当する。タレントの渡辺直美さんがプロデュースするブランド『PUNYUS』のウエアにイラストが採用され話題に。4月に画集を発行し、台湾のブックフェアで発表予定。
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