韓国のインディー音楽シーンを堪能。都市型フェス『Seoul Soldout(서울인기)』

「韓国の音楽」と聞けば、K-POPを思い浮かべる人がほとんどでしょう。しかしK-POPが世界のトップチャートを賑わすいっぽう、メインストリームからは少し離れた地点でも韓国の音楽シーンが着実に成長していることをご存知でしょうか?

『SXSW 2019』でも注目された独自のエレクトロを展開するトラックメイカーや、韓国の伝統音楽にダンスミュージックを掛け合わせたスタイルなど、韓国のインディーシーンは躍進し続けています。今回紹介する『Seoul Soldout(서울인기)』は、そんな韓国インディーシーンを代表するアーティストたちが一同に介する都市型フェス。音楽フェスとしては決して大規模ではないにも関わらず、訪れる人々の心を掴んで離さないこのフェスの魅力と一体なんなのでしょうか? 2019年8月10日に行われた第3回『Seoul Soldout(서울인기)』の様子をレポートします。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

『Seoul Soldout(서울인기)』ってどんなフェス?

夏らしい日差しが降り注ぐ8月のソウル。夏休みシーズンとあって、韓国最大のロックフェス『仁川ペンタポート・ロック・フェスティバル』など大規模なイベントが続々と開催されています。

今回ご紹介する『Seoul Soldout(서울인기)』は、音楽フェスとしては決して規模は大きくなく、会場はバンド編成用のステージ、DJブース、そしてクリエイターたちによる物販ブースのみ。しかしながら、アーティストと観客の双方でつくり上げる独特なDIY感で着実に人気を集めています。

ソウル中心部から電車とバスで30分ほどの距離にある『蘭芝漢江公園』が同フェスの会場。夏でも涼しい風を感じられるリバーサイドの好ロケーションです。

大きめの家庭用プールでチルしたり、レジャーシートに横たわりながら音楽に耳を傾けたり、おもいおもいの時間を楽しむ来場者たちの姿が特徴的です。

ソウルのインディーシーンの「今」を感じられるラインナップ

『Seoul Soldout(서울인기)』の特徴は、なんといってもメインストリームのK-POPとはまた一味違った韓国のインディーシーンのアーティストが出演していること。

シンガーソングライター、映像作家、文筆家など多彩な才能を発揮し、韓国のみならず日本のインディーシーンでも活躍がめざましいLee Lang、アメリカで行われる最先端テクノロジーの祭典『SXSW 2019』でのライブなどで注目を浴びるKIRARA、そしてダンスミュージックから韓国の伝統音楽までさまざまなジャンルを織り交ぜた独自のスタイルで韓国の若者から人気を誇るGoonamgua yeo riding Stellarらが出演しました。

折坂悠太、一十三十一も圧巻のステージを披露

韓国のアーティストが多く出演するなか、2019年は日本から折坂悠太と一十三十一が参加したことも話題になりました。

折坂悠太は代表曲である『坂道』『さびしさ』などを披露。ホームグラウンドである日本とは違い、言語が通じない環境にも関わらず、その伸びやかな歌声とメロディーに現地の観客も聞き入っていました。

ライブ中盤からはサックス奏者のキム・オキが登場。25歳から独学でサックスを習得し、いまや現代の韓国ジャズシーンを代表する人物との呼び声も高い人物です。

そんなキム・オキと折坂悠太は、フェスの前日が初対面だったとは思えないほど息の合った演奏で沖縄の古謡『安里屋ユンタ』をセッション。「音楽に国境はない」というありふれた言葉の意味を、誰もが噛みしめる特別な瞬間が生まれていました。

韓国の伝統音楽「パンソリ」を現代風に再解釈

日が暮れてくると、会場の木々が少しずつライトアップし始めて、昼間とはまた違った幻想的な雰囲気に。韓国の人気パンクバンド・이날치(イナルチ)が登場する頃には、多くの人がステージに集まっていました。

이날치(イナルチ)は、ドラムが1人にベースが2人。そこに女性3人、男性2人のボーカルという珍しい編成のグループ。衣装から漂うどことなくクィアな雰囲気も魅力的です。

彼らが演奏を始めた途端、会場はまるでレイブのような解放感と多幸感に満ちた空間に。

彼らのスタイルのベースともいわれているのが、朝鮮の伝統的な民俗音楽である「パンソリ」。歌い手と演奏者がひとつの物語を表現する点では、日本の「浪曲」と似ているかもしれません。

この「パンソリ」と1980年代のニューウェーブが見事に調和。そこにボーカルの掛け合いと骨太いビートが加わり、会場は独特な高揚感に満ち溢れていきます。

夜が深まると、会場の熱気は最高潮に

夕方から翌日の朝まで開催される、『Seoul Soldout(서울인기)』では、日が暮れると夜遊び好きのオーディエンスが徐々に混ざりはじめ、一気にムードが色気を増してきます。

ライブステージには、韓国のヒップホップ・R&Bクルー8 BALL TOWNの主要メンバーであるラッパーのKirinとシンガーソングライターのSUMINが登場。

2人が去年末にリリースしたEP『Club33』からの楽曲のほか、SUMINの最新EP『OO DA DA』など、お互いのソロ曲を披露。この日限りのスペシャルなステージにファンから大歓声があがりました。

弘大ナンバーワン・パーティークルーのDJで会場がひとつに

DJブースを盛り上げるのは、ライブハウスが多く集まるソウルの弘大エリアでいま最もホットなパーティーとも呼び声の高い、シティポップ / 渋谷系 / 1980〜1990年代の歌謡曲を中心にしたパーティー『This Is The City Life』を主宰するTiger Discoと長谷川陽平。

2人のDJプレイのなかでも特に印象的だったのが、韓国人グループ・コリアーナによる1988年『ソウルオリンピック』の公式テーマソング『ハンド・イン・ハンド』のリミックス。

韓国語で「手に手とり触れ合えば二人を邪魔する壁などない」という意味の歌詞が流れると、自然と会場のいる人々が手をつなぎ始めます。

日韓DJの2人が織りなす音楽に、会場にいる誰もが感動を抑えきれないワンシーンでした。

もうひとつの目玉! クリエイターたちから作品が購入できるブース

『Seoul Soldout(서울인기)』にはクリエイターたちの物販ブースがあり、韓国の若手アーティストの作品を購入することができます。ここでしか購入できない、限定のグッズも多いため、入場してすぐにブースをチェックしに行く人も少なくありません。

ブースのなかでも一際賑わいを見せていたのは、韓国在住のモビールアーティストのオ・シオン(오시영)、画家のヘウ(해우)のブース。

鮮やかな色使いで韓国の若者を中心に人気を集めている2人。普段は同じアトリエをシェアしながら、インターネットでの作品発表や販売を行なっていますが、イベント限定で「Yoso × seeyo」名義の合同作品を販売。オリジナルのモビール、ピアス、ブレスレットのほか、紙で王冠がつくれるワークショップや、来場者へのボディーペインティングを行っていました。

ここで購入したアイテムを身につけて、フロアで音楽を楽しむミュージシャンや来場客の姿も多く見られました。

運営も次世代モードにアップデート

開放的な屋外空間で楽しむ音楽フェスと切っても切り離せないのが、マナー問題。これまでは「フェスだから仕方ない」と放置されていた問題に対しても、運営陣は真剣に取り組んでいます。

例えば、屋外フェスの楽しみのひとつでもあるドリンクとフード。昨年は各所にゴミ箱を設置していたものの、飲食に使用した容器などが分別されず乱雑に捨てられていました。

このことを受けて、今年はフードとドリンク用のプラスチック容器を販売する「TRASH BUSTERS」という取り組みに挑戦。

利用方法は簡単。まず「TRASH BUSTERS」のブースで、コップのみなら5,000ウォン(約500円)、皿とフォークとコップのセットなら10,000ウォン(約1,000円)の保証金を支払い、専用のプラスチック容器をゲット。そのあとは好きな屋台に行ってフードやドリンクを容器に入れてもらうだけ。

イベント中にまたお腹が空いたら、特設のブースで容器を水洗いし、食べ残しを専用のゴミ箱に捨ててから、次の屋台へ。

会場を出る際には、プラスチック容器を返却して保証金を返してもらうか、そのまま記念に持ち帰ることも可能です。

もともとカフェで紙ストローやステンレスストローが使われるなど、環境に対するリテラシーの高い韓国ですが、フェスにおいてもその意識の高さが垣間見えました。

会場のいたるところで見かける電話番号の意味は?

もうひとつ同フェスが今回取り組んだのは、音楽フェス特有の密着度の高さゆえに発生しがちなセクハラ問題。

「親密とセクハラを区別しよう」「相手が嫌がったらその行動をすぐに中断すること」「性的なイシューを笑いのネタにしない」などイベント開催前から8つの注意喚起を提示。SNSを通して痴漢を許さない態度を表明していました。

当日来場すると配られるパンフレットや、会場のあちこちにスタッフの連絡先を掲載。来場客に少しでも不快なできごとがあれば、すぐスタッフに連絡できるように対策をとりました。

来場者みんなが心から楽しめるように、年々パワーアップする『Seoul Soldout(서울인기)』。さまざまな社会問題と呼応しながら、屋外フェスのあり方をアップデートしています。

次の開催までに知っておきたいこと

すでに次回の開催を待ち望まれる、『Seoul Soldout(서울인기)』。「海外フェスは事前情報がなかなか入手しづらく不安」という読者のために、次回開催までに知っておきたいお役立ち情報をご紹介します。

『Seoul Soldout(서울인기)』のチケット情報は例年公式Twitter及び、Instagramで発表されます。チケットサイトは韓国からしかアクセスができないので、韓国国外から申し込む際は、公式のメールアドレスに事前に問い合わせましょう。

メール本文に、英語あるいは韓国語で、名前、チケット枚数、連絡先、チケットの受け取り方法について明記して連絡を。当日会場でチケットを受け取るには、本人確認のためパスポートが必要なので、お忘れなく。

会場の『蘭芝漢江公園』は地下鉄6号線ワールドカップ競技場駅が最寄りですが、そこからタクシーで8分ほどかかるので、歩くと少し距離があります。

そこでオススメなのが、チケット代に3,000ウォン(約300円)を追加して最寄り駅「ワールドカップ競技場駅」から会場へ向かうシャトルバスを利用すること。事前予約が必須ですが、タクシーで向かうより料金もお得。バスの車中からフェスの熱気を感じてみて。

小規模だからこそ、開催者と出演者の音楽への愛情をより密接に感じることができる『Seoul Soldout(서울인기)』。大規模なフェスティバルとはまた違った韓国の「今」を体感できること間違いありません。K-POPにとどまらず、韓国のアンダーグラウンドシーンが熱いいま、すでに次の開催が待ち望まれています。

『Seoul Soldout(서울인기)』

2017年にスタートした、ソウルの『蘭芝漢江公園』で行われる野外フェス。K-POPのメインストリームとは一味違う韓国アンダーグラウンドのアーティストが多数出演。また音楽に限らず、現地のクリエイターが手がけるアート作品の販売など、多彩なプログラムが開催される。


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