「いま、台南のカルチャースポットがアツい」「台北にしか行ったことがないなんてもったいない」
そんなことを、アートやカルチャー関係の知人から言われることが急増している。それもここ1年くらいの短い間に。
私は大阪でZINE・同人誌の専門店『シカク』を経営している。そんなマニアックな店をやっているくらいだから、カルチャー全般には関心があるほうだ。海外旅行も好きなので、台北には年に1~2回訪れ、ZINEのイベントに参加したり買い付けや書店巡りをしている。だから台北のカルチャーが尖っていて面白いのは知ってるけど……なんで台南?
そう聞くと誰もが口を揃えて言う。
「台南にはここ数年の間に、独自のスタイルを貫いてるお店がどんどん増えてるんです!」
どうやら、日本人にとっては台北ほど馴染みがないであろう台南という街が、いま台湾カルチャーの発信地として進化をしている真っ最中らしい。そうと聞いたら猛烈に興味が湧いてくる。
一体、台南でいまどんな変化が、なぜ起こっているのか。好奇心の鬼になった私は、それを自分の目で確かめるべく、5つの場所を訪れお話を伺ってみた。するとそこには「新しくて面白い」だけでなく、台湾の文化のありかたを捉え直そうとする人々のふかーいドラマが秘められていたのだ。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
台南カルチャーめぐりの拠点『U.I.J Hotel & Hostel 友愛街旅館』
ゆったりとした空間に、壁一面に並ぶ本やレコード。ブックカフェのような空間だが、じつはここはホテルのロビー。
2018年3月にオープンした『U.I.J Hotel & Hostel 友愛街旅館』は、台南でいま、いちばん文化人に注目されている宿泊施設だ。
施設名に『Hotel & Hostel』とある通り、個室でのんびりくつろげるホテルと、4人~20人のドミトリーからなるホステルが1つの建物に入っている。
洗練されたデザインの寝室も魅力的だが、注目されている理由は共有部分にある。
『U.I.J』は、宿泊施設には珍しくさまざまなアーティストとのコラボを定期的に行っており、館内で展示をしたり、アーティストのオリジナルグッズを販売しているのだ。
取材時には台湾在住のイラストレーター、Johnnp(ジョンピ)とのコラボを開催中だった。入り口のガラスに描かれた壁画もじつはその作品。
また、3階には宿泊客のみが利用可能なスペース「ニーハオサロン」がある。
アシスタントマネージャーのJillさん(写真右)いわく、このニーハオサロンが『U.I.J』でいちばん魅力的な場所なのだという。
というのも、一般的なホステルの共有部分はドミトリーの宿泊客しか利用できないが、ニーハオサロンはホテルの宿泊客でも自由に利用できる。
ホテル客はホステルの魅力である「他の宿泊客との交流」ができ、ドミトリー客はホテルの魅力である「清潔な設備」が使える……と、お互いにいいとこ取りができちゃうわけだ。
館内設備にこだわり抜いた『U.I.J』だが、じつは立地も素晴らしい。
施設のある「友愛街」は、台南の中心駅から徒歩20分ほど。なんだ、ちょっと遠いじゃん……とがっかりしてはいけない。
この友愛街から東側のエリアには美術館やお寺といった文化施設、西側には路地や市場、住宅地などが密集している。つまりこのホテルを拠点にすれば、台南の文化施設と地域住民のリアルな生活を効率的に見て回ることができるのだ。
Jill:観光のために整えられた部分だけでなく、古くからあるものや人々の暮らしにも触れてほしい。そんな想いからこの場所を選びました。
とJillさんは語る。台南カルチャーめぐりの拠点に、ぜひこの『U.I.J Hotel & Hostel 友愛街旅館』を利用してはいかがだろう。
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『U.I.J Hotel & Hostel 友愛街旅館』
住所: 台南市中西区友愛街115巷5号Tainan City, 台湾 700
営業時間: 24時間(チェックイン15:00、チェックアウト11:00)
定休日:なし
電話番号: +886 6 221 8188
最寄駅:台南駅からタクシーで約10分
URL:http://www.uij.com.tw/
台南唯一のZINE専門店『Error22』
さて、続いて訪れたのは、『U.I.J』と台南駅のちょうど間くらいにある『Error22』というお店。
ここは台南で唯一のZINE・インディーアートブック専門店で、カフェとギャラリーも併設している。2018年4月にオープンして以来、台湾中のアーティストから熱い視線を受けており、今回も複数の友人から「ここには絶対行ってほしい!」と猛プッシュされた。
路地に突然現れる怪しい一角。カーテンをくぐり階段を上がると、見たことのないZINEや雑貨がずらりと並んだ店内が現れる。
半数が台湾のものだが、香港や日本、ヨーロッパのものもあるという。イラストや漫画、写真などグラフィック系の本が中心で、かなり尖ったセレクトだ。
さらに店の奥に進むとカフェスペース。そして3階に上がるとギャラリーがある。
ここではほぼ月替わりで現代アートの展示が行われているそうだ。取材時には台湾のアーティスト、ziennの個展が開催されていた。
こちらがお店の主、Zitiさんと大桓さん。芸術大学で出会った二人は、そこで学んだ現代美術や建築の知識を活かし、お店のコンセプトから内装まですべて自分たちでつくり上げた。店全体が二人の作品というわけだ。
大桓:「何があってもおかしくない空間」にしたいんです。○○っぽい、と言われる風にしたくない。例えば店内のBGMも、ポップスから日本の演歌までバラバラ。カフェのテレビで流している番組も、トレンディードラマやアニメ、古い映像などなんでもあり。特定のジャンルや価値観にとらわれず、いろいろなものが共存し、新しい価値観に出会える場所にしたい。
取材中も絶え間なく若いお客さんが出入りしており、このお店の人気ぶりがうかがえる。しかしじつは台南には、現代美術のアーティストは多いのに、いままで気軽に集まれる場所がなかったのだという。
大桓:これまで私たちはアーティストとして共感できる場所を探していましたが、結局どこにも見つかりませんでした。それならと自分がお店をつくったところ、バラバラだったアーティストたちがたくさん訪れてくれ、お客さん同士も私たちもつながりやすくなりました。正直、売上がすごくあるとは言えませんが、こういう場所があることが大切だと思っています。
かつて共感できる場所を探し求めていた二人がDIYで作った『Error22』には、いまや台中や台北、そして海外からも訪れる人々が後を絶たないという。
それはきっと「居場所がなければつくればいいじゃない」という、既存の枠組みにとらわれない若いアーティストの力強いメッセージが、地域を越えて若者たちに届いているからだろう。
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『Error22』
住所:台南市中西區開山路11號2F
営業時間:14:00〜23:00(金・土曜は24:00まで営業)
定休日:―
電話:―
最寄駅:台南駅からタクシーで約6分
URL: https://www.facebook.com/error22mole/
築100年超の古建築で楽しむ自家焙煎コーヒー『鬼珈琲』
続いて向かったのは、『Error22』から歩いて5分ほどのカフェ『鬼珈琲』。
距離にして500mほどしか離れていないのに、突然雰囲気がガラリと変わって驚く。どうやらこのあたりは古民家や古ビルが多く残っているエリアらしい。湿気の多い台湾では伝統的である、石造りの建物が細い路地に並ぶ。
異国情緒がありすぎる路地のひときわ入り組んだところにもぐりこむと、突然階段が現れる。階段の手前と左奥にある建物は昼間なのに真っ暗で、廃墟にしか見えない。
本当にここ? 勝手に入って怒られない? ……と不安になりつつ、スマホのマップを信じて階段を登った先に『鬼珈琲』はあった。
人を拒むような鉄格子に怯えつつおそるおそるなかに入ると、意外に店内は落ち着いた雰囲気。
1階はテーブル、2階は座敷で、どちらも10人も入ればいっぱいになるであろう、こぢんまりとした空間。奥まった立地ゆえにとても静かで、ゆったりとした雰囲気だ。2階席の眺めが特に素晴らしい。
取材日は30度を越える暑さだったため、アイスコーヒーを注文。豆の種類と焙煎度を指定することがでたので、「本日のおすすめ」の豆を深く焙煎してもらった。
一口飲むと……うん、おいしい! コクがあるのに苦味が残らず、さっぱりとした後味がアイスコーヒーにぴったりだ。
こちらは店主の黒鬼さん。
若いときからコーヒーが好きで、台湾の有名喫茶店で修行をしながら、いろいろなお店を飲み歩き研究を重ねてきた。
数年前に仕事を辞め、自宅で焙煎したコーヒーの提供を始めたところ、あまりに人が来すぎて台湾の国税庁から怒られてしまったため、きちんとした店舗を探してこの『鬼珈琲』をオープンしたのだという。
それにしてもどうしてこんな廃墟のような場所で?
黒鬼:自分にとって、コーヒーは静かに楽しむもの。ここは奥まった場所にあるため、都会の喧騒から離れた別世界のよう。それが自分のコーヒー観に合っているので、この場所を選びました。
ちなみにこの建物の歴史を訪ねてみると「日本の植民地時代より前からあったことはたしからしいが、詳しいことはわからない」のだそう。つまり築100年は超えているようだ。
黒鬼:昔はこういう建物がたくさんあったそうですが、建て壊しでどんどん姿を消していきました。ただこの建物は1階が市場、隣にはお寺が入っており、手を出しにくかったので建て壊しを免れたようです。
建物だけでなく『鬼珈琲』のあらゆる部分は「店主のコーヒー観に合っているか、否か」を基準に決められている。
店内のBGMはクラシックやジャズなど、古い音楽のみ。机や照明器具は友人のデザイナーにオーダーメイド。お店の雰囲気を損なわないため、メニュー表の最初のページには「騒がないこと」「写真撮影は他の人に配慮を」「WiFiはありません」などのルールが記載されている。
しかし、黒鬼さんはあくまで自分のコーヒー観に忠実なだけで、決して怖い人ではない。
黒鬼:身内や常連向けのお店にはしたくないので、いろいろな人に来てほしいです。ここは入り組んだ場所にありますが、いまはSNSがあるおかげで若い人や観光客も来てくれています。日本からのお客さんも多いですよ。
台南の歴史の生き証人のような古建築で、こだわり抜かれたコーヒーを飲む。日常の忙しなさから解き放たれる、とても贅沢なひとときだった。
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『鬼珈琲』
住所: 台南市中西區中山路79巷22-68號
営業時間: 14:10~0:00
定休日: 水曜(※11月1日〜11月29日は都合により休み)
電話: ―
最寄駅: 台南駅からタクシーで約6分
URL: https://www.facebook.com/blacklegend211/
伝統の帆布バッグを新しいやりかたで生み出す『廣富號』
約150年前、台南が貿易港として開かれて以来、台南の名産品として人気なのが帆布バッグ。そのメーカーのひとつ『廣富號』は、自社ブランドを立ち上げて10年と比較的浅い歴史でありながら、急成長ぶりで台湾国外からも注目されている。
廣富號の直営店は台南市内に3店舗。シンプルなトートバッグから凝った造りのリュックまで、性別や世代を問わず欲しくなるバッグやポーチが並ぶ。
数ある帆布メーカーの中で、なぜいま廣富號が注目を集めているのか? 広報のJayさんにお話を伺った。
Jay:それは私たちに技術力があり、他のメーカーにはつくれない製品を生み出せるからです。
帆布製品の要は、ミシンを使っての縫製作業。廣富號ではこれをすべて、熟練の職人たちが手作業で行っているという。
その作業現場を特別に見せていただいて驚いた。ミシンを踏んでいるのは、「職人」という言葉からほど遠いイメージのマダムたち。エプロンやTシャツ姿で和気あいあいと作業している。
Jay:20年ほど前まで、台南の帆布製造はアメリカやヨーロッパからの依頼がほとんどでした。それを支えていたのは女性たちによる内職。彼女たちは高い技術を持っていながら、長年不安定な仕事量や条件で働かされていました。
しかし時代が変わり、大量生産品の製造国は中国や東南アジアが主流になっていった。台湾のメーカーは、依頼されたものをつくるだけの工場から、自分たちが中心となって生み出すモノづくりへと転換を余儀なくされた。
そこで廣富號は、かつて各家庭で内職をしていた女性たちを集め、機械による大量生産ではなく、手作業による技術重視の帆布製品づくりへと切り替えたのだ。
その結果、廣富號は他のメーカーには真似できない、個性的なかたちや複雑なつくりの製品を生み出せるトップメーカーに成長した。「ここにしか頼めない」という企業からの依頼も後を絶たないという。
Jay:かつて彼女たちは「労働者」と呼ばれていましたが、私たちは「職人」と呼んでいます。よりいい環境で働いてもらい、技術を高め、よりいい作品を生み出してほしいと思っています。
台南のモノづくり現場を陰で支えてきた女性たちが、いまや主役となりつくり上げた帆布バッグたち。手作業によるぬくもりと品質の高さを感じる廣富號のバッグを、台南みやげにぜひ持ち帰ってほしい。
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『廣富號』忠義店
住所: 台南市中西區忠義路二段125號
営業時間: 10:30〜21:30
定休日: なし
電話: +886-6-221-6123
最寄駅: 台南駅からタクシーで約5分
ここでしか買えない台湾古着のショップ『新裝裏百貨行』
最後に訪れたのは『新裝裏百貨行』。ここはメイドイン台湾の古着を中心に扱う、なんと台湾で唯一のお店なのだという。えっ、古着屋って、台湾にも普通にありません?
シェンウェイ(軒瑋):じつは台湾の古着屋にあるのは、日本製やアメリカ製の古着ばかり。台湾製が中心のショップはうちだけなんです。
そう語るのは、お茶目な店主のシェンウェイ(軒瑋)さん。長年台湾でクラフトマーケットの主催などを行っていたが、台湾の古着を売りたいという想いから、3年前にこのお店をオープンしたという。
シェンウェイ:大量生産でなく、手作業でつくっていた時代の台湾の服を後世に残していきたいと、古着屋をはじめました。買取はもちろん、国外にメイドイン台湾の服を探しに行ったり、傷んだ服のリメイクも行っています。
ズバリ台湾古着の魅力は? と尋ねると、意外な答えが。
シェンウェイ:うちで主に取り扱っている1970~90年代の台湾古着は、日本やアメリカからの影響が大きいんです。ツモリチサトや三宅一生のデザインを真似していたり、ブランドのロゴマークに似せたマークをつけたり。そういう「◯◯っぽいけど違う」というのが見ていて面白いです。
どうも、私たちが海外でニセモノのピカチュウやドラえもんを見て面白いと思うような心理が、ファッション好きのなかでは働くらしい。いくつか例を見せてもらった。
よく見るとポケットのところにポロっぽいマークが入ったシャツ。
シェンウェイ:このポロっぽいマーク、これまでに20種類くらい見ました(笑)。
しかしここまでわかりやすいものはレアで、大半はレトロでセンスのいい柄や形の、ただただオシャレな服だ。お値段も日本円で2,000円代からと、ヴィンテージ古着にしてはかなりお求めやすい。
役目を終えるのを待つばかりだった服をリメイクし、新しい命を吹き込み続けるシェンウェイさん。彼が世界中から集めた台湾古着はこのお店でしか買えない。ぜひ旅行の合間のショッピングに訪れ、台湾のヴィンテージの魅力を肌で感じてほしい。
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『新裝裏百貨行』
住所: 台南市中西區衛民街112號
営業時間: 14:00〜21:00
定休日: ―
電話: ―
最寄駅: 台南駅からタクシーで約4分
URL:https://www.facebook.com/xinzhuanglibuyhopehon/
いかがでしたか? 今回取材をしてみて驚いたのが、5軒ともがジャンルは違えど、これまでの台湾文化の流れから意識的に飛び出して新しい試みをしていたこと。台南ではこういった動きが同時多発的に広がり、新しいカルチャースポットが次々と生まれているらしい。
今回紹介した以外にも面白いお店やスペースはまだまだあるし、これからも増え続けるだろう。新陳代謝の真っ只中にいる台南をこれからも注視していきたい。
台北・台南の若者文化を紹介するプロモーションムービー。台湾商研院/文策院(台湾の文化振興を推進する機関)による制作
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