沖縄の太陽の光のコントラストと鮮やかな色彩に魅せられた2人が、沖縄発のテキスタイルブランド「Taion」をスタートさせたのは2013年。そのテキスタイルの原画を描いているのが、アーティスト・Lee Yasumitsuさんで、その絵をもとにプロダクツ・デザインを手がけているのがブランドマネージャーの大坪奈央さんだ。 南国の花や植物の生命力や美しさを豊かな感性で捉え、生き生きと描くLee Yasumitsuさんの絵は、それがテキスタイルになり、ワンピースやスカート、バッグとなり、人が身につけることで、この島に暮らす人々を美しく彩る力がある。絵に込められた沖縄のエネルギーそのものが、服になって動き出すような感じなのだ。 沖縄県内のみならず、全国から注目を浴び始めているこの「taion」について、2人に話を訊いた。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
沖縄のゆるさや隙間の多さが、何かつくってみたいと思わせた
ーLeeさんのアートワークをモチーフにテキスタイルブランドをつくっている「Taion」ですが、もともとキャリアのスタートはいつだったのですか。
奈央:このギャラリーをオープンしたのは2012年なのですが、実際にテキスタイルをスタートさせたのは2年前です。私たち、今年で沖縄に来て16年経つのですが、それまでは絵はまったく描いたことなかったんですよ。
ーえ、そうなんですか!?
Lee:沖縄に来て、急に絵を描きはじめたんです(笑)。
ーそれは面白いですね。少し遡って伺うと、そもそもなぜ沖縄に?
奈央:最初はこんなに長くいるつもりはなく、すぐ帰るつもりでした。ホントに2週間くらいの旅行感覚で来たのに、気づけば16年。だから、沖縄で何かやろうと目的があったわけではなかったんです。
ーとはいえ、住む以上、生活する必要がありますよね。
奈央:その生活の糧として、絵を描きはじめたんですよ。
ーすごいですね。
Lee:趣味で絵を描くことすらやってなかったですからね(笑)。ファッションには軽く興味があったけれど、絵を描くなんて考えもしなかったです。
ーお2人のご出身はどちらなのですか?
奈央:私は山口県で、Leeさんが福岡。福岡もそうですが、都市には物が溢れているので、その中で自分たちが何かつくりたいという気持ちは湧いてこなかったんです。
Lee:たぶん、あっちに住んだままだったら、何もつくってないですね。
奈央:沖縄のゆるさというか、隙間の多さが、自分たちでも何かをつくってみようという気になったんだと思うんですよ。
ー「絵を描いてみよう」というのは、実際、何かきっかけがあったのですか。
奈央:最初、沖縄に来た時、国際通りに行ったんですが、その通りで服とか雑貨とか手づくりのものを道で売っている人たちがいっぱいいたんです。「こんなのあるんだ?」ってビックリして。その時、あるオリジナルデザイングッズのお店に入ったら、そこで手描きのTシャツを見つけたんです。筆で絵の具をパッと飛ばしたような、偶然その模様が描かれたようなTシャツで。
Lee:それは沖縄の著名な画家の作品だったのですが、そのお店ではアーティスティックなTシャツを手描きでつくっていて、それに衝撃を受けたんですよ。それで絵を描いてみたいと思ったんです。
スタートは、生活をするために国際通りの道端で絵を売り始めたこと
ー絵を描くきっかけは「Tシャツ」だった、と。
Lee:そうですね。その手描きのTシャツを見て、すぐお店の人に、何の顔料で描いているかを聞きました。そしたら、すごく細かく配分とかも調べてくれて、全部教えてくれたんです。それでその教えてもらった顔料を買って描きはじめた、というのがきっかけで。
奈央:それから、沖縄で生活していくために、そうやってTシャツに描いた絵を国際通りに出して、道で売りはじめたんです。
ー面白いですね。そんな歴史があるなんて。その頃は奈央さんも描いていたんですか?
奈央:私はもともと絵を描いていたんですよ。沖縄に来る前は、彫り師に弟子入りしたばかりの頃で、そのデッサンの勉強をしていました。だから、Leeさんよりは絵が描けた。Tシャツに絵を描きだした時も、私の絵は売れていくんですよ。でもLeeさんが描いた絵は全然売れなくて、どんどん残っていって。
Lee:もちろんそれまで絵を描いたことなかったから、描けないのは当たり前なんだけど、当時はそれがあまりにもショックで。でも描きたい衝動はあったんです。ただ、何をどう描いていいのかわからなかった。
ーその頃はどんな絵を描いていたのですか?
Lee:僕はその時期、岡本太郎さんにかなりの影響を受けていて、描く絵も抽象画ばかりで、ずっと心の内面を描こうとしていたんです。そうやってひたすら描き続けていたんですが、ある時、岡本太郎さんの作品集や書物を読んでいたら、そこに横尾忠則さんの名前があって、今度は横尾さんの本を読み出したんです。そしたら本の中に、絵というのは内面を描くのではなくて、外面を描くものなんだ、というような内容のことが書いてあった。その言葉が自分の中にビシッと入ってきたんです。そこからですね。飛躍的に描けるようになっていったんですよ。
奈央:ちょうどその時期に、Leeさんの絵が売れるようになったんです。
Lee:それまで僕は、内面にこだわって、ずっとそれにトライしていた。だけど、横尾さんは、心の内面は見えないし、見えないものは描けないでしょ、と言っていた。それから手当たり次第描きはじめました。抽象画はやめて、動物とかボブマーレーとかボブディランとかを。
ー現在の「Taion」のラインナップにある動物シリーズやSTARシリーズ(ロックスターやジャズミュージシャンや文豪の顔が並ぶテキスタイル)に繋がるようなものですね。
Lee:でも今みたいには整ってなくて、へたくそだったけど、この時にどんどん絵を描く喜びを吸収していった気がします。だから、生活の糧としてTシャツを売りながら、Tシャツに絵を描くことで絵が上達していったんです。
ー実際、お客さんの反応が明らかに変わったわけですよね。国際通りで売っていた期間はどのくらいあったのですか。
奈央:4、5年やってたかな。3年くらいまではまったく売れなかったですけど、3年越してから、売れるようになっていきました。
Lee:当時はそうやって道売りしている人たちがたくさんいたんですよね。面白い人たちもいっぱいいて、路上でファイヤーダンスする人とか、自転車の後ろに水餃子とか持って来て売ってる人とか、それくらいユルユルで、雑多な感じがあって、雰囲気もすごくよかったんです。
沖縄の色彩やコントラストから、たくさんのインスピレーションを受けた
ーそこから「Taion」の立ち上げへは、どのような経緯があったのですか?
奈央:その頃、Leeさんが絵画を描きはじめたんです。その絵を見て、これが生地になったらいいね、というような話をしていました。その時にテキスタイルの構想が見えてきたんです。2015年3月に『カフェユニゾン』で展示会をしたのですが、それが「Taion」としての最初です。
ー絵画になってから、いまの「花」の作品になっていったのですか。
Lee:その頃はまだ動物の絵が多かったですね。花を描きたいというのはずっとあったのですが、なんとなく、自分は男だから、花の絵を描くのはどうなのかなという気持ちがあって、花を描きたい気持ちをずっと秘めていたんです。そのうち、ちょこちょこっと描きはじめて。
ー「Taion」という名前はいつ生まれたのですか?
Lee:名前は僕がつけました。意味とか考えずにパッと閃いたんです。口に出して気持ちのいい言葉だな、ぐらいの感じで。
奈央:「Taion、Taion、Taion」って口に出していたら、いろんな意味が出てきたんですよ。「体温」の意味はもちろんですが、「太恩」「大恩」と書いても「Taion」にもなる。「Taion」のモチーフって沖縄の花とか植物がメインなのですが、車で道を走っていて、花とか目に入ったら、車を停めて写真を撮りにいくんですよ。「ちょっと撮ってくるね」って言って。私たちは、沖縄の色彩、コントラストからたくさんのインスピレーションをもらっているから、それをもらった沖縄に還元したいなというので「太くて大きな恩=太恩」という意味も見えてきて。
Lee:だから意味は後づけで、どこからか降って湧いてきたんだなって思うんです。
色が溢れる沖縄の日常が、創作のもとになる
ー「Taion」は沖縄の植物をモチーフとしているものが特徴的ですが、沖縄の植物は本土では見ることができない珍しいものも多いですよね。
Lee:花を描きたいと思ってから、それはより意識しはじめましたね。
奈央:色彩はもちろん、光のコントラストで、同じ花でも、向こうで見るのとこっちで見るのでは全然違って見えるんですよね。
Lee:沖縄の花は、どこかエロティックな感じがするんですよ。その花を「沖縄で見る」という行為が、僕らの創造力を引き出しているというか。だから、その時受けた感触をひたすら描いている感じなんです。
ー沖縄の自然が絵に影響しているということですね。
Lee:中でもやっぱり「色彩」の影響が大きいと思います。自然のものもそうだし、沖縄ってビルや建物の色も派手なんですよね。看板の文字や絵が直接壁に描かれたりして、それらが強い太陽の光にあぶり出されている。いまは当たり前の風景になっていますけど、沖縄に来たての頃、いろんな壁の色が無差別に乱立している感じがすごく新鮮で、そういう沖縄の色彩から感じるものを日々吸収しているんだと思うんです。
奈央:だから私たちが沖縄で感じる「色彩」と「コントラスト」で描くことで、「沖縄っぽい」と受け止めてもらえるんだと思います。
ー最新作のテキスタイルはどれになるのですか。
Lee:アラマンダという黄色の花です。沖縄ではよく見かける花ですが、うちの庭にもアラマンダが咲いてて、日常的によく見ていたんです。
絵を描き続けることで、色彩がより豊かになっていく
ー「Taion」は、沖縄県内だけでなく、県外での展示販売も行っていますが、先日福岡で行われたポップアップショップの反応はいかがでしたか?
奈央:先日の福岡が初めての県外での展開だったので、どうだろうと思っていたんですが、とても評判がよくて。沖縄では、本土からの観光客に受け入れられているけれど、これをあちらに持って行った時に、どうなのかなという不安はあったんですが、好意的に受け止めてもらったと自信になりました。
ーこれから、どんどん「沖縄発のテキスタイルブランド」として、注目を浴びそうですね。
奈央:アパレルの中でも「Taion」の強みはテキスタイルなので、この先、「沖縄のテキスタイルアーツ」として認知してもらえるのが目標ですね。テキスタイルの王道は織物なんですよ。もともと沖縄には染め織りの文化が根づいています。国で指定されている伝統工芸品のうち、琉球びんがたや琉球絣、喜如嘉の芭蕉布、八重山ミンサーなど、13品目の沖縄の染めと織りが認定されているんです。
ー確かに伝統としていまも若い人たちに受け継がれている沖縄は、染め織りの文化が豊かな場所だと感じます。
奈央:それほど沖縄は、昔からテキスタイルに馴染みがある場所なんですよね。その沖縄でテキスタイルアーツとして認めてもらったら、沖縄から世界を目指すことができる。世界が近くなると思うんです。
ーまさか16年前には描いたこともなかった絵が、こうして世界に飛び出そうとしているなんて、面白い人生ですね。
Lee:ホント、こんなふうになるなんて思ってもなかったよね(笑)。でも、描き続けてよかったと思っています。いまは、絵を描くことが自分の中でとても大事なものになっていっていますから。新しい花の作品も少しずつ描いているのですが、どんどん色彩が豊かになっているんです。
ーLeeさんが、自身のアーティストとしての力をどんどん発見して、表現している感じが伺えます。
奈央:「Taion」としては、テキスタイルにするまでの絵のクオリティは、Leeさんがずっと追求してきたので、いま、本当にいいものをつくれていると自信を持っているので、プロダクツとしてさらにいいものに仕上げること、より意識を高めてやっていきたいと思っています。自分たちのテキスタイルアーツを通して、世界を見てみたいですね。
- プロフィール
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- Taion
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アーティスト・Lee Yasumitsuによって描かれた絵を生地に載せ、オリジナルのテキスタイルをつくり、そこから様々なファッションアイテムやプロダクツを生み出すブランド。taionのギャラリー兼ショップ他、那覇市の「ザ・ナハテラス」でも商品を取り扱っている。また、7/25〜7/31「そごう横浜店」、8/30〜9/5「阪急うめだ本店」にて開催される「APARTMENT OKINAWA」の展示販売会に参加。
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Taion
住所 : 沖縄県宜野湾市宜野湾3-1-3
営業時間 : 12:00〜18:00(木・金・土・日)
定休日 : 月〜水
電話番号 : 098-893-0194
駐車場 : あり
Webサイト : http://taion9.com
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