夜になると、どこからともなくやってきて、福岡の街にポツポツと明かりを灯す屋台。夜の風物詩とされ、屋台は古くから福岡で親しまれてきた。その出没エリアは天神、中洲、長浜という大きく分けて3つ。つまり、市内の中心地を歩いていると、いろいろなところで目にすることができる。 しかし、一言で屋台といっても提供している料理は実に多種多彩だ。居酒屋風の屋台から、洋風屋台、屋台BAR、ジビエ屋台といったように、看板に据えるメニューはバラエティに富む。そんな中、とりわけ異彩を放っている屋台がある。それが、2017年8月にオープンした『屋台 Telas&mico(テラスとミコー)』だ。その実態に迫る。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
福岡の目抜き通り・渡辺通りに現れた、水色の屋台
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目を閉じて、頭の中で思い浮かべてみてほしい。あなたの中にある福岡の「屋台」はどんな姿をしているだろうか。屋根があり、ちょっと味わいが出た昭和を感じるレトロな佇まい。そして店頭には提灯が下げられ、店によっては暖簾がかかっているかもしれない。おそらくそんなイメージだと思う。
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ところが、『屋台 Telas&mico』はそんなイメージを覆す姿で、福岡きっての目抜き通り渡辺通り沿いに佇んでいる。店のテーマカラーである空色が屋台全体にペイントされていて、控えめに言っても、目立っている。おおよその屋台が、木材を、特に色を塗ることなく使っているため、その青い威容はとりわけ際立つのだ。そして「Telas&mico」という屋号を知らせるための看板の類いもなければ、暖簾もない。その眼に映る佇まいの全てによって、店の存在を伝えている。通行人たちの視線を独り占めし、行き交う人々の「!」と「?」を生み出し続ける『屋台 Telas&mico』。2017年8月の開業以来、この通りの景色は、屋台の固定観念ごと、ダイナミックに変わった。
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福岡は、屋台に足を運ぶこと自体が観光になる街
屋台の店主・久保田鎌介さんは福岡出身。20代の頃、福岡市・舞鶴で行列ができることで知られたカフェを営み、人気絶頂の折に店を閉めた。その後、ロンドン、パリといった海外で料理のスキルを高める。海外では、有名なサッカー選手や俳優といったいわゆるVIPが訪れるレストランで腕を振るっていたという。ここでの経験が、久保田さんのバックグラウンドだ。
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「ロンドンで習得した料理の数々を、食材の質、量ともに豊富な地元・福岡で再現したかった」という想いのもと、久保田さんは2011年に福岡市・春吉で『Telas&mico』を開業した。現在は、この『Telas&mico』が本店的な位置付けとなり、『屋台 Telas&mico』はその姉妹店という関係性で営業している。
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『Telas&mico』は多国籍料理の店ではあるが、ここで提供されているメニューは多国籍という言葉の解釈を最大限に膨らませたかのようなラインナップだ。
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ジュレやソースを巧みに盛り込んだ寿司(※現在は屋台営業開始に伴い提供休止中)もあれば、イギリスにあるカレーストリートの最果てで体得したというバングラディッシュカレー、パクチーをふんだんに盛り込んだエスニックテイストのパクチーラーメン。そして、本場・ロンドン仕込みのフィッシュアンドチップス、ラム肉をハンバーグ状にしてカレー風スパイスソースによって調味したラムコフタ、一時期はスイスなどで親しまれるチーズ料理のラクレットを出していたこともある。
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『屋台 Telas&mico』でも、本店の世界観を十二分に感じることができる。冒頭で紹介したように、まずもってその姿、形が特異であるが、その中身も当然ながら振り切れている。
向かって左側は角打的なスタンディングコーナーになっていて、バー感覚で軽く一杯引っ掛けられるほか、飲んだ後の締めにハンドドリップによる本格のコーヒーを味わうことだってできてしまう。
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「今回、福岡市から屋台の公募があり、今までにない屋台を出したいという思いで出願しました。屋台は福岡観光のアイコンだと思っています。屋台に足を運ぶことが観光になる。だからこそ、屋台をとことん楽しんでほしいと考えたんです」
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屋台=飲むイメージがあるが、それは当然ながらお酒。現在、福岡ではコーヒースタンドが次々と増えている現状があるが、その動きともリンクする、柔軟な解釈は、屋台文化に一石を投じる形となった。コーヒー豆は創業以来の付き合いであり、福岡のカフェシーンに一石を投じた「manucoffee(マヌコーヒー)」のスペシャルティコーヒーを使用。ちょっとコーヒーを出す、といった中途半端さは微塵もない。
提供する料理もまた、一般的な屋台のそれとは大きく異なる。福岡屋台の定番である焼鳥も、この屋台では創作性溢れる欧風仕立てに。軽くつまむ一品だって、バゲットに肉、魚、野菜、そしてディップをあしらったものが出てくる。メインディッシュにその時々のグリル料理を用意するというように、驚きの連続だ。
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ビール、日本酒、焼酎という屋台でおなじみのアルコールのほか、厳選したワイン、さらには季節の果物で作った自家製のコーディアルを使用したカクテルまで、そのバリエーションも独特かつ多彩だ。料理は久保田さん自らが調理。英語もペラペラなので、その評判を聞きつけた海外からのゲストもちらほらとやって来るのだという。
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福岡の目抜き通り・渡辺通りに佇む、水色の屋台
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この屋台には、久保田さんが親しくするクリエイターたちが随所で携わっている点も、ほかにない個性を与えることに一役買っている。屋台内にさりげなく描かれた屋号のチョークアートは福岡在住の画家・沖賢一さんによるもの。そして料理を引き立てる木の器は、福岡在住の木工アーティスト・nishimokko(ニシモッコ)さんが手掛けた作品。
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屋台そのものも、福岡市西区を拠点に店舗・住宅のデザイン、木家具の製作を請け負うラントマンがフルオーダーによって設計・デザイン・製作した。
「せっかく屋台を作らせてもらえることになったので、もう二度とこういう機会はないだろうと、自分の理想のイメージをとことん追求しました。その思いを感じてくれたのか、ラントマンの職人さんたちも『これを生涯最高の仕事にするんだ』というように火がつきまして。完成予定日は大幅にずれ込み、費用も一般的な屋台を作るのに比べて倍くらいしましたが (笑)、持てる職人技の全てを注ぎ込んでいただきました」
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屋台のつくりは細部にもこだわりがある。女性でも動かせるような滑らかなタイヤの運びであったり、スムーズなテーブルの出し入れであったり、カウンターのイスに座った際に膝が快適に入るスペースの確保であったりと、枚挙にいとまがない。
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「良いと思ったものを表現する。発想はとてもシンプルですよ。料理だったら、各地の文化が混在するロンドンの食を、福岡の食材で表現したい。屋台もこれまでになかったものを、この福岡にマッチするスタイルで形にしたい。ゆくゆくは観光マップなどを用意して、この屋台から始まる福岡観光も提案したいと思っています。福岡には素敵な場所がたくさんありますから、それらにつながる橋渡し役になれれば良いですね」
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屋台 Telas&mico(テラスとミコー)
住所: 福岡市中央区天神4 天神ロフト前
電話番号: 092-731-4917(本店、出られない場合あり)
営業時間: 19:00〜24:00頃
定休日: 日・月
URL:http://telas-mico.com
https://www.instagram.com/telasmico
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