台湾第二の都市である高雄。ここで2017年12月23日から1月7日まで『2017 高雄設計節 / 2017 Kaohsiung Design Festival』というデザインフェスティバルが開催される。2008年からスタートし、今年で8回目を迎える『高雄設計節』。実は台湾の都市で、定期的に開催されているデザイン関連のフェスティバルはこの『高雄設計節』だけなのだとか。なぜ台北ではなく、高雄でデザインフェスティバルが続けられているのか。その理由を、高雄市文化局の局長を務める尹立(インリー)氏、イベントのチーフキュレーターを務めるエリック氏、そして今回のイベント内での注目を集める展示の1つである「大王展」のディレクター・クリオ氏に、お話を伺った。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
工業都市だった高雄が文化を取り入れるワケ
ー『高雄設計節』の紹介の前に、まずは尹立さんが考える「高雄」という街について聞かせてください。
尹立:海沿いに位置する高雄は、日本の統治時代、貿易拠点・工業地帯として開発されました。戦争が終わり中国から国民党がやってきた後も、高雄の港は整備され続けました。今回の『高雄設計節』の会場である『駁二芸術特区(The Pier-2 Art Center)』の建造物もこの工業化が進んだ時代に港の倉庫、そして砂糖工場として建設されたものなんです。このように、高雄の大きな特徴は「工業と港」です。
ー近年高雄は、工業都市というイメージからの脱却を図っているように感じます。『高雄設計師節』以外にも映画祭や、コンサート、アートイベントが増えています。今、高雄で文化的な取り組みが増えているのはなぜでしょうか?
尹立:今回の『高雄設計師節』の会場である『駁二芸術特区』は、はじめ2つの倉庫を改装しただけ小さなスペースしかありませんでした。毎日お客さんが10人もいない時期もあった。当時、わたしは大学の教員をしていたのですが、そんな現状を見て、もっと官民が一緒になって芸術やデザインを盛り上げていかなくてはダメだと思ったんです。そこから高雄が変わるべき変化の仕組みをエリックたちと作り、今では私が高雄市の内側に入り、文化局で働くまでになりました。
ーなぜ官民が一緒になって文化を盛り上げなくてはいけないと、思われたのでしょうか?
エリック:私たちは2008年に『NPO台湾設計師協会』という、デザインの価値を高める活動をする非営利団体を立ち上げたんですが、このとき高雄市はまだデザインの大切さを理解していなかった。高雄は資源が台北や海外の都市と比べると圧倒的に少ない。だから世界の都市と肩を並べるためにも、政府とともに文化を創り上げていくことを選ばないといけない。そのために、高雄というブランドを育て、発展していくためにはデザインという要素を取り入れていく必要があると思ったんです。
もともと台湾には、国民が政府を信用しないというムードがあります。だから民間から新しいムーヴメントが起きることが多い。そんな中でも幸運なことにこの高雄は変化に対してとても開放的なマインドを持っていて、政府も民間の私たちの言葉に真摯に耳を傾けて、一緒に取り組んでくれたんです。
今は世界的に評価される高雄も、元々は文化砂漠と呼ばれるくらい、カルチャーがない街だった
ー高雄の人には、元々オープンなマインドが根付いているのでしょうか?
尹立:高雄は港町ということもあり、昔から新しいものを取り入れることに抵抗がない風土がある。実は都市型レンタルバイクのシステムを一番先に取り入れたのは、台北ではなく高雄ですし、アジアで初めてVR設備を使用した映画祭を始めたのも高雄。新しい概念や文化が育ちやすい土壌がここにはあります。実験的で先が読めないことでもまずはやってみよう、という。これが「高雄マインド」と言えるでしょう。
ーそういった活動の結果の1つだと思いますが、高雄は、旅行ガイド『ロンリープラネット』の「2018年世界の旅行すべき都市」で第5位に選ばれました。
尹立:今回、世界の数ある都市の中で高雄が選出されたことをとても誇りに思っています。ここまで来るのに本当に色んな事がありました(笑)。もともと、高雄は「文化砂漠」と呼ばれていたんです。工業以外に魅力がない街だとみんな思っていました。さっきお話しした、1日10人だった『駁二芸術特区』の来場者数も、2016年は年間で430万人になった。しかし、私は高雄にはまだまだ伸びしろがあると思っているんです。今後ますます開かれた都市になることでしょう。
高雄には、政府が運営するライブハウスもある!?
ーアーティストと直に接する機会が多いクリオさんは、高雄の文化面での盛り上がりをどう考えていますか?
クリオ:高雄市の文化局はとてもカルチャーに対して真剣に取り組んでいると思います。文化を体験できる場を作り、そして観衆を育てている。元々、文化がなかった頃の高雄は、アーティストは高雄を離れて活動をするしか選択肢がありませんでした。だけど近年は、高雄の変貌を見て、高雄に戻る人も増えているんです。
ーアーティストたちも活躍できる土壌が出てきたと。
クリオ:そうです。海外の友だちに話すとびっくりされるのですが、高雄市はライブハウス『Live Ware House』を政府で運営しているんです。そしてこのライブハウスの中でお酒を売っているのも、公務員なんですよ(笑)。このように政府の職員のみなさんも、自ら高雄の文化を盛り上げていこうとしているんです。
ー確かに、私が高雄市の施設を見学したとき、政府側との垣根を感じないというか、そういう印象を持ちました。
エリック:クリオが言ったように高雄市は率先して私たちデザイナーの力を取り入れてくれる。これは他の都市では本当に見ることができない姿です。今回のデザインフェスティバルでも政府と一体となって準備を進めています。社会局、都市開発局など、様々な部署の方々と内容やコンセプトについて話し合って、一緒に出展するデザイナーを探しているくらいです。
『2017 高雄設計節』の見どころとは!?
ーでは、『高雄設計節』についてお話を聞かせてください。
エリック:今回のデザインフェスティバルでは「高雄らしさ」ということに主軸を置いています。他の都市で、すでに行われていることを参考にしても意味がない。だから私たちは何者なのか? この問いから全てをスタートしました。だから「自分たちと高雄」を知るために、今回のフェスティバル内では様々な実験的な取り組みをする予定です。
そもそも『高雄設計節』は展覧会ではないんですね。デザインというのはそのプロセスが重要。何が起こっているのかを正しく判断して、そこにソリューションを与えることが私たちの仕事。だから今回のデザインフェスティバルではその解決に至るまでの過程も全て見せたいと思っています。
ー先ほどお話しした高雄が文化都市に変貌を遂げた、デザインや設計のプロセスも見ることができるんですね。
尹立:そうですね。もともと高雄では、デザインはプロジェクトの末端の一部分でしかなかった。でも今は、デザインから様々なプロジェクトがスタートしている。
エリック:もう一つの見どころは、古い産業とスタートアップ企業とのコラボレーションですね。今回のデザインフェスティバルは高雄の芸術家、デザイナー、企業、政府が創り出す一つの作品とも言えるでしょう。
高雄はまだまだ「刷新と創造」を求めている
ー今回の展示で、クリオさんは「高雄らしさ」をどのように表現する予定でしょうか?
クリオ:これまで外部の人間にとって高雄という場所は、特徴が分かりにくい場所でした。しかし今、高雄全体で自分は一体誰で、どこから来たのかというアイデンティティを求める取り組みが活発になっています。今回、私がキュレーションする「大王展」のルーツは高雄の歴史にあります。高雄は日本統治時代には台湾の農産品を輸出する港町として栄え、その後、重工業、軽工業と変化し、その過程で高雄でしか見られない産品が多く生まれました。そんな歴史から、高雄の人には一種の自信のようなものがあると思います。台湾では飲食店をメインに「◯◯大王」というお店がたくさんあるんですね。牛乳大王、肉まん大王、書店大王、などなど。その多くが実は、高雄出身のお店なんです。だから今回の『高雄設計師節』では「◯◯大王」にまつわる展示をしようと思っています。
ー面白そうなコンセプトですね。最後に、今後の高雄がどうなっていくのかについてお話を伺えますでしょうか?
エリック:私たち台湾人は、決められた枠の外には何があるんだろうという発想を持っています。他の国と比べると台湾は資源が少ないので、枠の中だけでは自分たちの求めるものは作れないからです。そんな台湾の中でも高雄は特に行動力が高い。理想と行動こそが、1つの都市をセクシーで立体的な魅力がある都市に変えていくと思います。
ー尹立さんは、いかがでしょう?
尹立:自分の話になってしまいますが、私は台湾の歴史上、初めてデザイナーから文化局長に就任した人間なんです。これまで文化局長という立場の人は、文学や伝統芸術の方面から選出されてきました。だから歴代の文化局長と比べると、私は年齢も非常に若いんですね。
では、どうして私がこの大役を任されたんだろうと考えると、高雄はまだまだ「刷新と創造」を求めているんだと思うんです。こうした官民が一緒にデザインの力を使って街づくりをしていくことは前例がないし、そもそも模範解答がありません。だから自分たちの手で、ともにやってみる。そこに高雄の未来があると思っています。
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