タイの次世代を担う、若手イラストレーター・TUNA Dunn(ツナ・ダン)インタビュー

ウィットに富んだイラストを次々と発信し、タイ国内外に多くのファンを持つ弱冠24歳のアーティスト・TUNA Dunn(ツナ・ダン)。Facebookのページに寄せられた8万以上(2017年10月現在)の「いいね!」の数からも、その注目の高さが伺える。作品からは性別や国籍すら感じさせない、ボーダレスなタイ人アーティスト・TUNA Dunnに話を聞いた。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

TUNA Dunn、そのインターナショナルな作風の裏側とは?

取材当日、TUNA Dunn(以下、TUNA)のオフィス近くのレストランで待ち合わせていると、きょろきょろと辺りを見渡すように、ひとりの若い女性が入って来た。年齢の割に落ち着いた雰囲気の彼女が、今回インタビューを受けてくれる張本人・TUNAだ。タイ国内をはじめ、日本や欧米からも注目を集めている、今注目の若手イラストレーター。さらりと描いた線と、センチメンタルなシチュエーション、英語の台詞が印象的な作品を次々と発表している。

タイ人である彼女がなぜ西洋的なスタイルの作品を得意とし、タイ語ではなく英語で届けるのか。そのバックグラウンドを彼女はこう話す。

TUNA:私は、バンコク生まれのバンコク育ちで、留学は一度もしたことがありません。でも、両親が教育熱心だったから、幼い頃からインターナショナル校に通っていました。おそらく私の絵を見てくれている多くの人が、私のことをタイ人じゃないと思っているんじゃないかな。タイ人の方も英語でコメントをくれたりするので。そしてイラストに載せる言葉はシンプルな方がいいと思っています。タイ語は発音も含めてとても複雑。その点、英語はシンプルだし、コミュニケーションもしやすい。だから普段から作品にはタイ語じゃなくて、英語を使っています。

TUNAは兄がひとりの2人兄妹。両親の意向により、英語とタイ語のバイリンガルとして育てられた。本格的にイラストを描きはじめたのは、タイの東大と呼ばれる、チュラロンコーン大学の芸術学部に入ってからだという。

TUNA:最初は兄が持っていた少年漫画の影響で漫画のような絵を描いていました。でも、自分の絵をもっとミニマルにしたいという要求が湧いてきて、どんどんディテールを省いていくことで、いまのようなスタイルに至りました。私自身まだ発展途中なので、今はとにかく自分が気持ちいいように絵を描いていますね。

実際に目の前で作品を描いてもらった。TUNAは、ほぼ一筆描きのように迷いなく、アウトラインを描きあげた。さらに色を仕上げてもトータルで5分もかからないくらいだ。過去にもイベントで似顔絵を描いたこともあるそうだが、お客さんが座ってから1分くらいで描き終えてしまうため、驚かれたのだとか。

タイガービールのお仕事から、アートフェアでの受賞まで

2016年はTUNAにとって飛躍の年となった。8月には、東南アジアを中心に親しまれている「タイガービール」のスポンサードにて、バンコクの男性5人組バンド「23'O」と、女性3人からなるドリームポップバンド「Jelly Rocket」とコラボし、TUNAはMVのアニメーションを担当した。

TUNA:このお話をいただいたときは、とても心配で。これまでのなかでも一番大きなプロジェクトだったし、他に参加するアーティストがとても有名でかっこいい人たちだったから。これまでも自分のアートワークのなかで、短いアニメーションを作ったことはありましたが、デジタルでアニメーションを仕上げるということはなくて。ただイラストを描き加えるんじゃなくて、アーティストの方たちと、相互作用が生まれるようなものになるよう心掛けました。

さらに、2016年10月には日本とアジアのクリエイターが集うアートフェア「UNKNOWN ASIA」の出展者に選出され、アジア各地から選ばれた160組のクリエイターのなかから、審査員賞を獲得した。

TUNA:「UNKNOWN ASIA」は、すごく楽しかったです。もう開眼するような体験で。そのうえ賞までいただけるとは思ってもみなかったのでびっくりしました。タイでは自分のことや作品をすでに知っている人が多いけど、日本では誰も私のことを知らない無名の状態。作品だけで挑戦するということが初めてだったので、最初はとても心配だったんです。

「UNKNOWN ASIA」では、布やセラミックを使った作品や、ZINEも展示した。そのときにTUNAが好きなものをテーマにした作品を制作し、毎展示会時には必ず新作を入れるようにしているという。

TUNA:そのときは、タイ人アーティストでHereNowバンコクのキュレーターであるPahparn(パーパン)さんからお声掛けいただいたんです。そのときに展示した『ただいま』という作品は、以前日本に滞在したときにインスパイアされたものから作られたものです。日本人は礼儀正しく保守的に感じますが、私の目にはどこか奇妙に映りました。そのときの気持ちを作品に込めたんです。

タイ人の若い女性から絶大な支持を得る、そのワケとは?

彼女の作品は、タイ国内だけでなく、国外でも確実に評価されはじめている。多くの人の心に響く、シニカルで情緒的な作品のインスピレーションはいったいどこからやってくるのだろうか。

TUNA:普段の生活のなかで思いついたことを、ノートにスケッチしたり、パソコンに直接描いたり。そして映画を観たり、コンサートに行ったり、あとは友人とのコミュニケーションを通じてイメージが湧いてきますね。今は、タイのインディーズ音楽のストリーミングサービスを提供する、「Fungjai(ファンジャイ)」でビジュアルデザイナーとして働いているのですが、仕事中にもコンサートに行けたりするので、それも嬉しいです。

TUNAは、現在フリーランスイラストレーターやコミックアーティストとして活動する以外にも、クライアントワークとして、企業やサービスのアートディレクションやグラフィック、イラストレーションなども手掛けている。

彼女の作品は特にタイ人の若い女性に人気だ。その理由を聞いた。

TUNA:リアリティーのあるラブストーリーの描写が共感を呼んでいるのだと思います。ちょっと病気っぽい関係というか(笑)。タイ人カップルの付き合いはじめの頃ってみんなすごくラブラブで、極端に束縛したりするんです。以前Facebookに載せた、彼氏の腕に彼女が手錠を掛けてしまうという作品は、反響も凄かったし、タイ人の女の子が彼氏に対してシェアしたりしていました。特に失恋や元カレ、元カノを題材にした作品は多くのタイ人女性が反応してくれますね。

近い将来はニューヨークで自分の力を試したい

現在、タイのアートシーンでは、ギャラリーも増え、展覧会やイベントが毎週のように行われている。TUNAに今後の展望を聞くと、彼女はタイ国内に留まらず、さらに先を見据えてこう話す。

TUNA:いつかはニューヨークかヨーロッパのどこかに行こうと考えています。欧米の文化が好きというのももちろんですが、アートやアーティストに対して、タイよりも寛容なイメージがあります。それから、タイのコミュニティは小さいので、だいたいがもう知り合いか繋がっているんです。ニューヨークに引っ越したら、さらに良い方向へ向かうか、それとも埋もれてしまうのか。タイで活動するよりはリスキーだと思うけど、それも面白いと思いますね。

現実を見据えながらも、彼女の意思は固いようだ。過去には、彼女自身の作品として「SALMON BOOKS(サーモン・ブックス)」からアーティストブックを4冊刊行している。今後はショートアニメをはじめ、自身のイラストを使ったプロダクトの制作も考えていると言う。

TUNAは常に現状には満足しない。その証拠に現在のタイ国内での人気を尋ねると、「Facebookを利用した仕事の話も舞い込んでくるのですが、そう言うのに興味はありません。Facebookは、ただ自分のポートフォリオとして使っています」と話す。

将来はニューヨークでの挑戦も控えているTUNA。タイのイラストレーション界に彗星のごとく現れた彼女が、世界を股にかけて活躍する日もそう遠くないのかもしれない。

プロフィール
TUNA Dunn
TUNA Dunn (ツナ・ダン)

1993年、バンコク生まれ。タイをベースに活動する、フリーランスイラストレーター、コミックアーティスト、ビジュアルデザイナー。2016年に大阪で開催されたアジアのアートフェア「UNKNOWN ASIA」にて審査員賞を受賞し、今後の活躍が期待されている旬のアーティスト。「SALMON BOOKS」で、アートブックも発売中。



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