古い建物が次々と取り壊されては区画整理され、瞬く間のうちに近代的なビルが建ち並び、洗練された都市へと変貌を遂げている真っ只中のバンコク。 目まぐるしいまでのスピードで開発が進むいっぽう、「古き良き時代のタイ文化」の素晴らしさを再認識する動きが、若いクリエイターたちを中心にちらほらと出てきているのも、いまのバンコクの面白いところです。 そんなクリエイターたちがいま注目しているのは、王宮やワット・ポーからも近い旧市街(別名:ラタナコーシン島)エリア。 このエリアに恋した「HereNow Bangkok」のキュレーター、漫画家のタムくんことウィスット・ポンニミット(Wisut Ponnimit)さんと、妻でファッションブランド「VL BY VEE」のデザイナーでもあるVEEさんのお二人とともに、旧市街の魅力を探る1日散歩に出かけました。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
「昔ながらのタイ」が残る旧市街周辺エリア
ある日、タムくんとVEEさんの自宅アトリエからほど近い場所にあるお気に入りのビーフヌードル店で、おすすめのビーフヌードルをすすりながら、タムくんがふと口にした言葉。
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タムくんとVEEさん
タム:バンコクは本当に洗練されたって思う。中心地にはインテリアやプレゼンテーションがものすごくカッコいい、おしゃれなカフェやレストランがたくさん増えた。でも、正直なところ実際の味はあれ? って思ってしまうお店があるのもたしか。
もちろん、洗練された話題のお店も素敵だけど、ぼくたちは昔から何代にも渡っておいしい料理を提供している、街の片隅に潜む、気取らない小さな食堂も好き。
そういうお店はものすごく安い値段で、びっくりするほどおいしい料理を提供していたりして……。何気なく入ったお店でおいしい料理に出会えると、ものすごくウキウキする。
バンコクって、探せばまだまだ魅力的な場所がいっぱいあるんだよ。最先端もいいけれど、ぼくは昔ながらののんびりしたタイの風景や、本当においしいタイ料理を知ってほしいし、紹介したいんだよね。
この会話がもととなり、今回の特集がスタートしました。
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バンコクのほぼ中心を走り、渋滞とは無縁の庶民の足である運河ボートが活躍する、センセープ運河の西側の始発駅が、旧市街散歩の起点となります
舞台はバンコクの旧市街周辺エリア。のんびりしたこの街の魅力に惹かれた二人は2018年12月、若者文化の中心地・サイアムエリアで経営していた『マムアンショップ』『VL BY VEE』の2つのお店を旧市街へと移転オープンさせました。
いま、クリエイターが注目する「旧市街」とはどんなエリア?
一般的にバンコクの旧市街とは、別名「ラタナコーシン島」とも呼ばれる場所のこと。その周辺に広がるカオサン通り、民主記念塔がそびえるラチャダムヌン通りとディンソー通り、黄金の丘として知られるワット・サケット近辺のプラマハタート通り、プラーアティット通り、ラーンルアン通りまでを含めたエリアを指します。
バンコクが生まれた1782年ごろに形成された街の雰囲気が残っており、王宮、ワット・プラケオ(エメラルド寺院)、ワット・ポー(涅槃寺)、国立博物館など有名な観光スポットが多数点在する、面積およそ4.1平方キロメートルのエリアです。
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「プーカオトーン(黄金の丘)」と呼ばれ、黄金に輝く仏塔が特徴的な小高い丘の上に建つお寺、ワット・サケットから、旧市街全体の素晴らしい眺めを一望できる
『マムアンショップ』と『VL BY VEE』が移転オープンしたのは、旧市街のラーンルアン通り。
VEE:もともとこのエリアにある『EDEN’S』というカフェが好きで、通っているうちにオーナーと仲良くなり、いつの間にかお店を隣に引っ越すことに(笑)。
旧市街エリアは、昔ながらのタイの風景のなかに、こだわりを持ったオーナーの洒落たお店が突然出てきたりと、お散歩をするのが本当に楽しいエリアなんですよ。
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『マムアンショップ』『VL BY VEE』の前で
バンコクの旧市街エリアは、築100年近く経つような古いタイの町並みと、そのなかに現れるクリエイティブで洒落たこだわりのお店が点在する、ここ1〜2年の間で注目度アップ中のいまもっともアツいエリア。では、さっそく二人のお気に入りのお店を紹介していきましょう。
100年前からの味を守り続ける海南料理食堂『Sutatip』
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昔ながらのレトロな食堂がふたりのお気に入り
まず、ランチによく行くお店として教えてくれたのが、チャクラパットポン通りとダムロンラック通りが交差するナリスダムラット橋のたもとに位置する食堂『Sutatip(スターティップ)』。
昔ながらのレトロな雰囲気が漂うこちらの食堂は、なんと開業100年を超える海南料理食堂。中国最南部の海南省からタイへ渡ってきた祖父母の味を、現在3代目となる家族が大切に引き継いでいます。
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『Sutatip(スターティップ)』外観
海南省発祥の料理といえば、いまやタイ料理としてすっかり親しまれている「カオマンガイ」が有名ですが、『Sutatip』ではそれ以外にもバンコクでは探すのが難しい海南料理がズラリと並びます。
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『Sutatip(スターティップ)』店内。長年通う常連客も多い。
まずハズせないのは「カノムジーンハイラム」という麺料理。うどんのような、太めの柔らかなもちもち食感の米麺で、「ナーム(汁あり)」と「ヘーン(汁なし)」が選べます。イチオシは「ヘーン」。
「ヘーン」は、まるでよく煮込まれたビーフシチューのような奥深い味合いのトロトロのソースが麺に絡みます。
ピーナッツや、パクドンという高菜漬けのようなタイ風漬物をトッピングし、さらに海老を発酵させた調味料「ガピ」をベースにしたタレをかけていただくのがお約束なのだとか。
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「ヘーン(汁なし)」のカノムジーンハイラム(60バーツ)
VEE:いつも汁ありをオーダーしていて、今回汁なしをはじめて食べましたがこれがまたおいしい! よく煮込まれた牛肉もすごく柔らかいです。旧市街エリアには海南料理のお店が数軒あるんですが、私たちは『Sutatip』が一番おいしいと思います。ほかによくオーダーするのは「パットウンセンハイラム」ですね。
二人がおすすめする「パットウンセンハイラム」は、湯葉、スルメなどを一緒に炒めた、海南風春雨炒め。海南省ではお正月や誕生日など、お祝いの際に食べることが多い料理なのだそうです。醤油ベースの優しい味わいで日本人の口にもよく合う一品です。
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パットウンセンハイラム(S 120/ M 200/ L 250バーツ)
もうひとつ珍しい料理としてお店の方がおすすめしてくれたのが、「ムーオップトゥアランタオ」。「東洋のハワイ」といわれる中国・海南島で生まれた、西洋料理と中華料理を融合させたポークロインをケチャップ風味のソースでじっくりと煮込んだもので、中華風洋食ともいえるメニューです。ぜひ、100年前から続く味をお試しあれ。
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ムーオップトゥアランタオ(S 120/ M 200/ L 300バーツ)
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『Sutatip』
住所:338-342 Damrongrak Rd.(Soi Damrongrak Naris Damrat Bridge)
電話番号:02-282-4313
営業時間:8:00〜15:00
定休日:木曜
オーナーのこだわりが随所に溢れるヴィンテージカフェ『EDEN’S』
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オーナーのこだわりが詰まったパリの路地裏のようなカフェ。店番の休憩時間には大体こちらでのんびり過ごすとのこと。
ゆっくりお茶を楽しみたいならココ! と、お二人に案内されたカフェ『EDEN’S』。先に紹介したとおり、タムくん夫妻が旧市街に興味を持って、引っ越しするきっかけをつくったお店です。
ラーンルアン通りに突然現れる、まるでパリの路地裏に迷い込んでしまったかのような、シックでヴィンテージ感あふれるヨーロピアンスタイルのカフェ。
築60年以上ものショップハウスをリノベーションしたという店内を眺めると、アンティークのテーブルや椅子、フランスのトワルドジュイ柄の壁紙、テーブルの上に飾られた季節の花……と、随所にインテリアへのこだわりを感じます。
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『EDEN’S』外観
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『EDEN’S』店内。カウンターの上には、店内で毎日焼き上げているこだわりのケーキが並びます。
オーナーはもともとスタイリスト兼ライターとして活動し、以前はタイのライフスタイルマガジン『LIPS LOVE(休刊中)』でグルメライターとしても活躍していた男性、デンさんことNiram Wattanasitさん。
「old east town」という、旧市街の魅力を発信するプロジェクトを主宰しており、いわばバンコク旧市街を盛り上げる中心的存在なのです。
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デンさん
デン:ヴィンテージ、デッドストック、アンティークなど、古いものが好きで、これまでにニューヨークやパリなど欧米各地を周ってきました。
特に刺激を受けたのは古い文化と新しい文化が入り交じり、人種のるつぼでもあるパリや、ニューヨークのソーホー。
小さくても、いろんな文化や人々が混ざり合う、とびきり居心地のいい場所をつくりたくてこのカフェを開いたんです。フレンチスタイルのケーキは毎日店内で焼いていますよ。
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デンさんと会話を楽しむ、タムくん夫妻
VEE:『マムアンショップ』と『VL BY VEE』のお隣なので、店番のときの休憩は、いつも『EDEN‘S』でお茶をしています(笑)。基本的に甘いものは苦手で、スイーツは普段あまり食べないんだけど、ココのケーキは別。甘さ控えめで重くないし、すごくおいしいですよ。
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「普段、甘い物はあまり得意ではないけれど、ココのケーキは特別! ぺろりと食べられてしまいます」
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大きないちごをたっぷり使用した「ストロベリークリームチーズパイ」(左/150バーツ)と、桜の塩漬けをアクセントにした限定メニュー「オリーブオイルケーキ・ウイズ・グレープフルーツ・ラベンダー&サクラソルト」(右/150バーツ)。
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『EDEN’S』
住所:7/1 Lan Luang Rd.
電話番号:081-696-0326
営業時間:9:00〜17:00
定休日:月曜
URL:https://www.facebook.com/lanluang/
古き良き時代の香りを感じるミシュラン店『Methavalai Sorndaeng』
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「子どものころから慣れ親しんだレストランです」と、話すふたり。
次に向かったのは、『ミシュランガイド バンコク 2019』で2つ星を獲得したタイ料理レストラン『Methavalai Sorndaeng(メタワライ・ソンデーン)』。二人とも子どものころから知っているという、1957年創業の老舗レストランです。
タム:このお店は、ディナーで来ることが多いです。店が終わった後に二人だけで来ることもあるし、両親と一緒に来たり、日本から遊びに来た友人を連れてきたり。古き良き時代のタイを感じられるクラシカルな雰囲気がいいんだ。
VEE:私もここは子どものころから何度も来ているレストラン。
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Methavalai Sorndaeng(メタワライ・ソンデーン)』外観
パリっとした白いテーブルクロスが掛けられたテーブルに花柄の椅子、重厚感あふれる絨毯を敷き詰めたフロア……と、かつてのタイの上流階級の面影が溢れて出ているかのようなクラシックな佇まいがなんともエレガント。
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『Methavalai Sorndaeng(メタワライ・ソンデーン)』店内
タム:トムヤムクン、プーパッポンカリー、グリーンカレー、マッサマンカレーなどの日本人におなじみの料理はもちろん、いろんな前菜やサラダ、シーフードや炒めもの、スープなど、メニューが豊富なのがいい。ミシュラン店なのに値段もリーズナブルなのもうれしいよね。
VEE:私たちはいつも民主記念塔が見える窓際の席に座ります。
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爽やかなポメロのサラダ「ヤムソムオー」(手前/180バーツ)、スパイシーなレモングラスのサラダ「ヤムタクライ」(右/180バーツ・270バーツ)、野菜を海老入りのココナッツディップに付けていただく「クンロン」(奥/220バーツ)。
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カニ肉とアカシアの新芽入りのマイルドなレッドカレー「ゲーンクワチャオムヌアプー」(左/380バーツ・570バーツ)。たっぷりの油でふわふわに揚げ焼きするタイ風オムレツ「カイジャオ」(右/100バーツ)は、タムくんのお気に入り。
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レモングラスのサラダ「ヤムタクライ」は、カイラン菜に包んでいただくと美味。
ディナータイムには、ジャズやシャンソンからの影響を受けたオールドスタイルのタイ音楽が演奏され、これまたレトロな雰囲気に拍車がかかります。気軽に足を運べるミシュラン店で古き良き時代のタイに想いを馳せながらディナーを楽しんでみてはいかがでしょうか。
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毎晩ディナータイムには生バンドの演奏が入り、レトロなムード満点。
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『Methavalai Sorndaeng』
住所:78/2 Ratchadamnoen Klang Road,Khet Phra Nakhon
電話番号:02-22403088
営業時間:10:00〜24:00
定休日:なし
URL:https://www.facebook.com/methavalaisorndaeng/
廃墟のなかに突如出現する内装も必見のカクテルバー『Ku bar』
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仕事終わりのリラックスタイムによく訪れるとのこと。
すべての仕事を終え、身も心も解放されるリラックスタイムにタムくん夫妻がよく訪れるお気に入りのバー『Ku bar(ク・バー)』。
バーがあるのは、知らなければ100%通り過ぎてしまうであろう、古ぼけた廃墟のようなビルの3階。表通りに看板も掲げておらず、まさに知る人ぞ知る隠れ家…….もとい秘密基地のような怪しげな佇まいです。
カオサン方面に向かいラチャダムヌンクラン通りを左折し、プラスメン通りを進むこと約5分、右手側に現れる老舗の有名ジャズバー『Brown Sugar(ブラウンシュガー)』手前の小道を右折して奥へ進むと出現する雑居ビルの3階。雑居ビルへの入り口のドアには、よく見ると小さく店名の書かれた表札が出ているので、それを確認したら思い切ってなかへ入っていきましょう。
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雑居ビルの入り口
ちょっぴり不気味な階段を登り、大きな壁のような木製の扉を開けるとそこに広がっていたのは、コンクリートの壁、大理石の大きなカウンター、棚に置かれた数本のボトルのみという、そっけないほどにミニマルな空間。
かなり明るさを落とした薄暗いライティングとアンビエントな音楽が相まって、妖しげながらも不思議な落ち着きある唯一無二の空間を演出しています。
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『Ku bar(ク・バー)』店内
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『Ku bar(ク・バー)』店内。カウンター席の他、ソファ席もあります。
イギリスの「ウィリアム・リード・ビジネス・メディア」社による2018年度の「アジアのベストバー50」の49位にランクインしている『Ku bar』のオーナー兼バーテンダー、アヌパス・プレマヌワット(Anupas“Kong”Premanuwat)さんがつくるカクテルは、タイのフルーツや野菜、ハーブ、スパイスなど、地元の素材をふんだんに取り入れた、クリエイティブなアイデアが炸裂しているものばかり。10種類ほどのカクテルは毎月変わるので、いつ出かけてもユニークなカクテルに出会えます。
タム:ふらっと来てもいつも誰かしら知り合いがいる。本当に居心地のいいバーです。2階はワインバーになっていて、こちらもおすすめ。
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火を使って、カクテルを仕上げる驚きのパフォーマンス
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ライム、グアバジュース、テキーラなどをミックスしたさわなかな味わいのカクテル「preservede lime」(手前)と、ほうじ茶のほろ苦い風味が大人なジンベースのカクテル「hojicha」(奥)。
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『Ku bar』
住所:3rd Floor,469 Prasumen Rd.
電話番号:02-067-6731
営業時間:19:00〜24:00
定休日:月曜、火曜
URL:https://www.facebook.com/ku.bangkok/
タムくんとVEEちゃんのNEWショップ『マムアンショップ』&『VL BY VEE』
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ショップの入り口前にて
最後にご紹介するのはもちろん、マムアンちゃんグッズがぎっしりの『マムアンショップ』と、VEEちゃんが手がけるキュートなテキスタイルが毎回大好評の洋服ブランド『VL BY VEE』のショップ。
先に紹介したカフェ『EDEN’S』の隣に2018年12月に移転オープンしました。向かって左側のスペースが『マムアンショップ』、右側のスペースが『VL BY VEE』のスペースとなっています。
VEE:ここは築60年を超える古い建物で、昔は質屋だったそうです。10年以上も空き家になっていたところを私たちが借りました。質屋の大きな金庫を運び出すことが不可能で、試着室のなかに鎮座しているのでそれも注目ですよ(笑)。
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『マムアンショップ』店内。「マムアンショップ」にはマムアングッズが大集合。
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『VL BY VEE』店内。「VL BY VEE」のキュートなお洋服がずらりと並びます。
『マムアンショップ』には、マムアンちゃんのトートバッグ、クリアファイル、単行本、ハンカチ、コップのフチ子さんとのコラボガチャガチャ、そして『VL BY VEE』にはセンスあふれる洋服と、夫妻が手がけるアイテムがフルで揃う、ファンには夢のようなショップ。
自分自身へのご褒美はもちろん、友人知人へのお土産探しは、ぜひココで! 3種類の味があるマムアンちゃんアイスを食べるのもお忘れなく!
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マムアンちゃんアイスは3種類で、100バーツ。
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『マムアンショップ』&『VL BY VEE』
住所:1 Lanluang Rd.
電話番号:なし
営業時間:11:00-19:00
定休日:月〜火曜
FaceBook:https://www.facebook.com/wisutgoods/
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