自分たちで何か起こすしかないんだなと勇気を振り絞ってみたら、実は皆同じ思いだった
樺澤:演劇祭って今数多く行われているんですが、僕はそのどれも演劇祭だとは思っていないんです。個々の劇団でのパブリシティ能力には限界があって、だからこそ、その一つのショーケースとして演劇祭というものがあるはずなのに、実際にそれに劇団が関わったときに還元されるものが少ない。本当は演劇祭そのものに観客が来ることが必要なのに、ほとんど全ては、劇団の公演を観に行ったら「たまたま演劇祭の参加作品だった」っていう。
―順番が逆ですよね。そこに「たまたま参加していた劇団」に観客が出会うっていうのが理想の形というか、本来の演劇祭というか。
樺澤:そう、それはなんとか変えられないかなと思って。その一歩として、今回の『劇場へ行こう』では外への発信ももちろんあるんですけど、主軸は劇団の持っている観客に置いているんです。自分たちのお客さまに対して、「今こんなものに参加しています。僕たちの公演も観てほしいんだけど、他の一緒に参加している団体も一度観てみませんか」と。
―ゼロから演劇を観る観客を作るのではなく、特定の劇団を観に行ってる観客を、演劇を観る観客に変えて行くっていうことですね。
樺澤:そういうことですね。だけど最初、これって成立するのかなって思ったんです。だって言ってしまうと、自分たちの団体が上に上がっていけばいい話じゃないですか。だから、全ての参加団体がある程度平等じゃなきゃいけない、なるべく公平な形になるようにと思って企画を組んだんですね。それは例えば「公演期間が後の団体の方がいいんじゃないか」とか、気になっていたことは数多くあったんですけど、でも意外と、参加しようと思ってくれた団体の皆様の方が熱くて。これはびっくりしました。
平等とか利益っていうことよりも、この『劇場へ行こう!』っていう企画が盛り上がっていって、その流れの中に自分たちが関わって、参加していることが伝わればそれでいいと。どこにも演劇祭っていう言葉は付いてないんだけれども、やっぱりある種お祭りなんですよ。お祭りを自分たちで作っていく。そういうものって愛情が出て来るんですよ。きっと。
―参加劇団が積極的に、「自分たちが運営して盛り上げよう!」と。
樺澤:そういう風に思ってもらえたのは、すごくありがたいですね。宣伝っていうことより、そういう「思い」って、いい形で広がっていくんじゃないかなと思います。今までの演劇祭に変わるものがないかってずっと思っていて、自分たちで何か起こすしかないんだなと勇気を振り絞ってみたら、実は皆同じ思いだったんです。 この『劇場へ行こう!』って実はどこの劇場でもできる企画なんです。普通の演劇祭っていうのは、その地域、その劇場じゃないとできないものだと思うんですけど、この『劇場へ行こう!』は、福岡でもできるし、札幌でもできる。それはCoRich舞台芸術!があるからですね。
参加団体を一歩でも二歩でも上に上げられればいいなとは思います。僕自身も、そこは挑戦ですね。
―その、どこでもできる『劇場へ行こう!』という企画の会場に、駅前劇場を選んだのはどうしてなんですか?
樺澤:一番の理由としてあるのは、下北沢っていう街の魅力ですね。下北沢って演劇の街なわけじゃないですか。そこで何かをやってみたいなと思ったのはありますね。最近、下北沢の道路計画についてシンポジウムが行われたりもしてますけど、そのことに対して、やっぱり僕も下北沢っていう街になにかの足跡を残したいとは思いますし。
でも、この企画は本多劇場でやる必要はないものなんです。そこには「1000」っていう言葉が出てきてしまうんですけど…。1000、1000人っていうこの言葉が、東京でもどこの地域でもこんなにもしがらみになっているのは、なんでなんでしょうね。どうやったら動員が1000人、2000人超えるんだろうって誰もが思ってる。今、すごく、プロモーションの大切さって叫ばれてますけど、個の団体のプロモーションだけではなく、演劇祭っていう大きな大きなプロモーションだってプロモーションじゃないですか。それは個のプロモーションにもなり得るんです。ですから、これは難しいとこではあるんですけど、参加団体を一歩でも二歩でも上に上げられればいいなとは思います。僕自身も、そこは挑戦ですね。
―きっと樺澤さんのそうした思いに共感して、みんなが集まって来ているんですね。
樺澤:皆、きっかけがほしいんですよ。きっかけって、運とかタイミングっていう言葉でもあるんですけど、運とタイミングは作るしかない。でもきっと、その匂いを少しでも感じてくれたから皆参加してくれたんだと思います。下手すると駅前劇場って、知らない人はどこにあるかわからないんですよ。
―あのビルに上がる人は芝居を観る人ですからね。ただ、皆、間違いなく目にはしてるはず。
樺澤:一回入っちゃえば、広がる世界は絶対あるんです。ただ、演劇ってやっぱりすごく閉塞的で。劇場って芝居を観にいくつもりじゃないと入らないでしょ。例えばデパートのテナントってシャッターがないじゃないですか。食品、衣料、電化製品…と、いろんな文化が詰まっていて、何か他の文化を目的に買い物にきた人が、目の前を通る。これってすごく大きなことで、シャッターがなければ、音楽の文化を買いにきた人が、演劇っていう文化のテナントの前を通ることがあるんです。そのことで、演劇がここにあるんだなっていうことがわかる。
今、小劇場の中でロングランっていうものが提唱されているんですけど、ロングランをやってるだけでは、中に入らないとわからないんですよ。デパートで「毎回いっつもいっつも、ある一個のテナントに行列ができてたよね」っていう状態が積み重なって、あそこになにかおいしいものがあるのかな、あそこになにか売ってるのかなって思う、それが重要なんです。シャッター閉じてロングランやってるだけじゃ、誰もわからない。もっとデパートのテナントのように開いた環境を作らないと、駄目なんです。
―この『劇場へ行こう!』っていうお祭りで、あそこに演劇のテナントがあるんだってことが広まればいいですね。
樺澤:12月から3月末まで、4ヶ月間。これも一個のロングランだと思うんです。だから本当にそういう意味では劇団の公演を観に行くっていうより、この『劇場へ行こう!』っていうお祭りが4ヶ月間やってるんだから、多くの人に劇場に来てもらって、少しずつ盛り上がってくれればいいなと思います。
「演劇祭よりも演劇祭らしい演劇祭だよね」っていう風に思えてもらったら、一番いいですね。
- プロフィール
-
- 樺澤良
-
劇団制作社プロデューサー
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-