米国アカデミー賞公認アジア最大級の国際短編映画祭『SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA』(以下、SSFF & ASIA)で、来年度(2010年6月開催予定)からスタートする「ミュージックShort クリエイティブ部門」。現在、一般クリエーターからのショートフィルムを絶賛募集中のこのコンペティションだが、先日の竹内電気に続いて、SSFF & ASIAを盛り上げるために土屋アンナがCINRA初登場!歯に衣着せなさすぎな大胆発言の連発に、取材現場は爆笑と冷や汗の嵐。アンナさん、かっこいいっす。
(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 撮影:井手聡太)
こんなきれいな人間だけど、本当はこんなバカなんだよとか、そういうことを隠さず表現できるのが音楽じゃなかったのかなって。
─アンナさんは今年度のSSFF & ASIAで、ショートフィルムの監督に初挑戦した作品『フィッシュボーン』で話題賞を受賞されましたね。
土屋:話題賞なんて大それた賞をもらったけど…。
─ショートフィルムの普及に貢献した著名人に贈られる賞ですよね…。ちなみに2008年度は「温暖化コンペティション」部門で審査員も務められました。
土屋:あれは難しかった。だって、短いもん。短いなかにいろんなことを凝縮させるから、解りやすいのもあれば、超解りにくいのもあるし。私は解りやすい派なんだけど、一緒に審査をした中田英寿さんと押井守監督が「これいいね!」っていう作品は、なかなか理解できないものもあったんだよね(笑)。
─そうだったんですね。
土屋:社会問題的なことを語っている作品もあったんだけど、社会とか小学校のとき超苦手だったし、もう2人の意見に合わせるしかないと思って、「おぉ、これいいです」みたいな(笑)。一方で、私が「これいいですよね」って言う作品は、「それはやっぱり解りやす過ぎて」ということもあって。ショートフィルムって深いんだな、っていうことを知りました。
─今回は「ミュージックShort クリエイティブ部門に楽曲を提供しているわけですが、個人的に好きなPVはありますか?
土屋:やっぱり音楽の映像って、インパクトだと思うんですよ。どれだけ人の脳裏にその映像を焼き付けるか。私の好きなPVを思い返すと、どういう内容だったかというよりも、画が出てくるんだよね。そうするとやっぱマリリン・マンソンかな。マンソンは画は究極にきれいなのに、究極にグロい。だけどかっこいい。すべてが少しずつ入ってできてる。あとは、マイケル・ジャクソンの“スクリーム”。ジャネット(・ジャクソン)と共演した曲で、白黒のPVで、お金もかかってる感じなんだけど、やっぱり彼らは動きのかっこよさがすごくて。PVっていうと、その2組は一番に出てきますね。マンソンはもう、うらやましい。
─それはどういう部分が?
土屋:そこまでできてしまう環境と、(普通のミュージシャンがやったら批判されるようなことを)できるように世間に見せたイメージと。すごい遊びができる人だなと思ってて。自分がPVやジャケットを作るときも大事にしてるんですけど、「人がしないこと」をやりたい。きれいな映像ももちろんいいと思うけど、いま、世の中が美化されていて、看板にしても、CMにしても、「人間はきれいですよ」「こういうきれいな人間が存在してますよ」っていう画しか出てないんですよ。それはつまらないなと思って。
こんなきれいな人間かもしれないけど、こんな毒々しい姿もあるよとか、こんなきれいな人間だけど、本当はこんなバカなんだよとか、そういうことを隠さず表現できるのが音楽じゃなかったのかなって。だから、いまは自分がそこを求めちゃう。最近は音楽自体も美化されてきてるなと思うけど。
─曲がきれいだと、PVの画も必然的にきれいになっちゃいますからね。
土屋:それはあるよね。けどさー、あなたが歌ってるのはわかってるよ、みたいなPVもあるじゃん。そういうの見てても、別に映像はいらないな、CDいらないな、ダウンロードでいいや、になっちゃうのよ。でも、シンディ・ローパーとか、デビッド・ボウイとか、やっぱジャケットとか映像がおもしろいじゃないですか。だから買ってでも持ちたいと思うんだよね。
2/3ページ:今回こうやって私の曲でショートフィルムを作ってもらうわけだけど、本当に私が怒るギリギリまでやってほしいなって思う。
今回こうやって私の曲でショートフィルムを作ってもらうわけだけど、本当に私が怒るギリギリまでやってほしいなって思う。
─アンナさんがミュージックShortの作品を作るとしたら、どんな作品が理想的だと思いますか?
土屋:やっぱり自分がその曲を作ったっていうことは、自分のなかで思い浮かんでいる映像がいろいろあるわけじゃないですか。それっていうのは、言葉にはできているかもしれないけど、心の中身までは、言葉だけじゃ伝わらないかもしれない。例えば「あなたのこと嫌い」っていうフレーズがあるとしますよね。でも、本当に嫌いなのか、本当は好きなんだけど嫌いと言ってるのか、そこは映像でわかる部分かもしれない。そういう隠れた自分の想いを、映像だったり、色だったりで表現したいなと思いますね。
─曲の持ってるメッセージをよりわかりやすくするためのもの?
土屋:だと思う。逆にわかりにくくなる場合もあるとは思うけど。答えが見えてきちゃうと、それだけが答えだと思っちゃうからね。私は本当はこの企画に“GUILTY”(自身の曲で、映画『バイオハザード ディジェネレーション』エンディング曲になったハードロック・チューン)を使ってみたい。皆だったらどういうふうに撮るかなっていう興味もある。激しい音楽ほどきれいというか、自分だったら、これは物悲しく、だけど音は重いっていう感じになると思うんだけど、やっぱ人それぞれ違うだろうから。(今回エントリーした)“Brave vibration”の場合は、さわやかチックな歌だから、どこまで崩してバカにしてくれるのかなっていう楽しみもあるね。
─CM(資生堂アネッサ)のイメージが大きいですしね。
土屋:そうそう。実際にPVを作るときに、「私は焼かない」と言いながらサンオイル塗るのどうですか? って言ったんだけど。
─間違いなくスポンサーから怒られますね(笑)。
土屋:そういうのもありだと思うんですよ。今回こうやって私の曲でショートフィルムを作ってもらうわけだけど、本当に私が怒るギリギリまでやってほしいなって思う。もちろんきれいな映像もいいんだけど、ショートフィルムは短いから、短く笑えるものが見たいですね。
やっぱりアートっていうのは自由で、ピカソが本当はうまいのに変な絵を描いたように、人にどう思われようが、自分が描きたいものを表現するのがアートだと思うから。
─アンナさんが立場上できないようなことまでやってほしい?
土屋:そこまで汲み取らなくてもいいんだけど、私でも本当はこういうふうにやってみたいという気持ちはあるから、それを越えて、「見ろよ、avex!」みたいな(笑)。そんな作品を作ってもらいたい。そういう意味では(もうひとつのエントリー曲)“Sweet Rishi boy”なんて特に遊べる、自由度が高い曲だから。私はカレー食べてるインド人の顔しか浮かばないんですよ。ヨガしながらカレー食べてるとか。できないかな、私たちには。だから逆にやってほしいね。美化されている世の中を、すべて崩してほしいなって思う。
─ドラマ仕立てのPVも最近多いんですけど、そういう作品に関してはどう思われます?
土屋:全然好きですよ。ただ、そのドラマも、すごいわかりやすいか、何を言ってるのかわからないか、どっちかが好きだね。なんだかんだストーリーって、いろいろ本を読んでたりとか、映画を見てたりとかで、展開の予測がついちゃうじゃないですか。だから、こうなるだろうなっていう予想を崩してくれるような映像だったら食いつきますね。中島哲也監督(『下妻物語』『嫌われ松子の一生』など)とかもそうなんだけど、悲しい瞬間に笑いがくるじゃないですか。「うわっ、超感動…えっ!? ここで笑い? まさか!」みたいな。そういう想像できないものはいいですよね。
─そういう部分でもインパクトの大きなものが大事ということですね。
土屋:インパクトもうそうだけど、感情をコントロールできなくさせられるみたいな。そういう映像はもう一回見たいと思うし。「ミュージックShort クリエイティブ部門」では、世間の反応とか、いろんなものを考えず、音を聴いてこうしたい、これを思いついたからやろうよ、みたいな。子供心で作ってもらいたいと思う。
─僕個人的には、“Brave vibration”はエネルギーが満ちてくるような曲なので、スタミナドリンクみたいなのを飲んで、筋肉がムキムキになって巨大化する作品を創造しています。
土屋:そういうのいいね! 私もやりたいネタがあって、それはピンク・レディーの“UFO”をカバーして、「UFO」の部分を「ランボー」にするの。「UFOドゥルルルッチャッチャ」って最高の音だと思うの、ランボーには(笑)。ランボーのあの体で歌いたいって提案したこともあったんだけど、何だかんだ理由があって却下されました。それくらいがいいのにさー。
─そういう部分で制限をかけないものを作りたいですよね。
土屋:そうだね。制限って、自分のなかに既にあるんですよ。ここまではしていいけど、ここまではしちゃいけないだろうな、っていうのが。だけど、世の中に出ている商品の制限はもっと厳しくて、もっと安全なのよ。やっぱりアートっていうのは自由で、ピカソが本当はうまいのに変な絵を描いたように、人にどう思われようが、自分が描きたいものを表現するのがアートだと思うから。それを求めなくなっている世の中のほうがおかしいと思うんだよね。
3/3ページ:最近はマンガもエロくないじゃん。『ドラゴンボール』で亀仙人が「うっひゃ〜」とか言ってるの、いま見ると超おもしろいよ(笑)。
最近はマンガもエロくないじゃん。『ドラゴンボール』で亀仙人が「うっひゃ〜」とか言ってるの、いま見ると超おもしろいよ(笑)。
─アンナさんのなかで、やっていいことと、やっちゃいけないことの境界線は?
土屋:やっぱり人が傷つくことはしちゃいけないと思う。でも、人が笑えるくらいはいいかなって。当たり前だけど、差別とか、そういうのはよくないし。でも、エロはいいと思うの。そのまんまAVとかはダメだよ(笑)。昔のアニメに出てくるようなコミカルなエロ。『ドラゴンボール』とかそうだったでしょ?
─あー、言われてみるとそうですね。
土屋:でしょ? 『シティーハンター』とか、『ルパン三世』とか、『まじかるタルるートくん』とか。最近はマンガもエロくないじゃん。『ドラゴンボール』で亀仙人が「うっひゃ〜」とか言ってるの、いま見ると超おもしろいよ(笑)。私、DVD買って見てるからね。
─でも亀仙人のキャラクターとかは、いまのご時世を考えると問題になるかもしれませんね。
土屋:だからおかしいのよ。ああいうのを見て、ああいうオヤジがいるんだなとか、勉強になると思うんだよね。ルパンみたいなエロいやつがいるんだなとか。でも、女の子だってちょっと憧れるのよ。(『ドラゴンボール』の)ブルマとかけっこうかわいいなと思うの。ブルマを見てミニスカートをはきたくなったり。
それと、グロい映像も、ものすごい邪悪だったりってのは、見てていい気持ちがしないからナシだと思う。人を殺してるようなものとか。でも人間には感情のグロさがあって、ダークな心を持っているのは当たり前だと思うから、それを色で表現したり、別の方法で出していくことができたら、と思う。ロックとか激しい音楽って、ハードなイメージがあるけど、それはある意味きれいな感情とは正反対な「美」でもあると思うの。
─当たり前ですけど、人に迷惑をかけなければ、ってことですね。
土屋:そうそう。人によっては、(何をやっても)嫌だっていう人もいると思うから難しいんだけどね。
─悪意があってやるわけじゃないですからね。では最後に、ショートフィルムを作るクリエイター向けにお訊きしたいんですけど、ものを作るときって、絶対に行き詰まる瞬間がありますよね。そういうときはアンナさんはどうするんですか?
土屋:行き詰まる。普通に行き詰まって、止まって、一回オフにして、人の力を借りる、自然の力を借りる。アンナが歌詞を書くときって、まずは画をイメージするんだけど、自分の曲を聴きすぎてわからなくなるときがあるの。でも、その範囲で想像できなくても、いまこの世の中に何万とある曲のなかから、イメージの近いものがあると思うんですよ。だから人の曲をかける。そこの一個のフレーズでもいい、一個の音でもいいから、きっと自分の助けになってくれるものがある。無になって人の音楽を聴いて、リラックスしてると、「あ、この音気持ちいい」ってなったりして、また復活する。ただ、都会に出たりとか、テレビを見たりとか、情報が多いものには助けを求めないかもしれない。アートに求める。
─感覚を刺激してくれるもの?
土屋:そうそう。お酒とかもね(笑)。それは冗談だけど、普通に一杯とかもいいんですよ。なんでかっていうと、ちょっと酔うといい意味で適当になるの。そのときに出る言葉がよかったりして。だから難しいことばっかり考えて答えがでないときでも、「えー、めんどくさいな、こうしよっかな…意外といいかも!?」みたいなのが出るんですよ。だから行き詰まったときは、気持ちを一度解放してみることがいいのかもしれない。
- リリース情報
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- 土屋アンナ
『Brave vibration』 -
2009年7月1日発売
価格:1,050円(税込)
cutting edge CTCR-402921. Brave vibration(資生堂アネッサ'09 CMソング)
2. Sweet Rishi Boy / Anna Tsuchiya mush up ☆Taku Takahashi
3. Loser!
- 土屋アンナ
- プロフィール
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- 土屋アンナ
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1998年モデルとしてデビュー。数々のファッション誌でトップモデルとして活躍しつつもその人気と抜群の タレント性から様々なTV-CMにも起用され続けている。歌手としては2005年夏『Taste My Beat』で本格的に開始。これまでに、10枚のシングル、3枚のオリジナル アルバム(ミニアルバム含む)、2枚のリミックスアルバムをリリース。その他数々の企画にも参加し、海外からも熱い注目を浴び、その活動幅は日本の枠に留まらないグローバルなものとなっている。7月にリリースしたシングル『Brave vibration』はCMソングとして今年一番の夏うたとして話題に。 今後さらにモデル、アーティストとしてさらなる飛躍が期待される。
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