在日ファンク インタビュー

言わずと知れた“SAKEROCKのあの人”が、自分の奥底に眠る音楽に真っ向勝負を挑んだ新機軸の1stアルバムがリリースされた。日本人が黒人音楽をやるってことを逆手にとっての“在日”。音楽性はもちろん思想や立ち振舞いも含めての“ファンク”。存在そのままの名前を冠した――いやよもや、バンドそのものが名前を体現するために存在している? ってくらい、思いっきり在日で思いっきりグルーヴするファンク・バンド、在日ファンク。ジェイムス・ブラウンが「何だか知らないけどすごく楽しいことをやってる“ゲロッパの人”」なんだとしたら、我らがハマケンこと浜野謙太ひきいる在日ファンクは、それに負けず劣らず、「何だか知らないけどすごく楽しいことをやっている“ダンボールの人”」。そこには知性もユーモアも音楽的素養も人生の哲学も心の機微もあるけれど、難しさは微塵もない。あるのは誰もがノれるグルーヴと、ひとりの日本人の真摯で濃厚なソウルだけ、だ。

(インタビュー・テキスト:ヨコタマサル)

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個性だとかアイデンティティだとかいうけれど、そんなものは仲間とグルーヴして初めて発生するものだということ

―購入特典のドキュメンタリーDVDにもその秘密が隠されていると思いますが、バンドの構想、結成はどういった経緯で?

在日ファンク インタビュー

浜野謙太(以下、浜野):それまでSAKEROCKが出演できないときに、「ハマケンだけでも何かやってくれ」ということが多くて、そのピークが大阪シャングリラ企画、僕の誕生日に開催された『ハマケン ROCK FESTIVAL2007』だったんですが、そこで派手にやってやろうと考えて力の限りを尽くして結成したのが始まりです。ただファンク仕込みのミュージシャンなんて先輩の世代で出尽くしているので普段全然ファンクでない人たちを集めてみました。でもじつは僕が勝手にそれぞれ何らかの“ファンク”を感じているメンバーたちなんです。

―存在がそのままの、ほかには考えられないくらいしっくりくる人懐っこくキャッチーな、すばらしい名前ですよね。バンド名の由来を教えていただけますか。

浜野:高校からの同志である村上啓太(Ba)がある日にいきなり持ってきたんです。彼がなぜその言葉を持ってきたかわかりませんが、高校でもインテリの部類の存在だったんで真剣に受け止めました。ただ僕が曲名や歌詞を考える時にしてることなんですが、まずは、聞いてピンとくる響きを大事にすることにしてるんです。その時もそうです。そうすると、不思議なことにつくづくしっくりしていることに気づかされるばかりか、むしろ僕らやメンバーのほうが「在日ファンク」て名前に吸い寄せられていったんです。

―「浜野謙太と在日ファンク」から「在日ファンク」に改名した理由は? 何かしらの思惑や決意の表れでしょうか?

浜野:ファンクのミニマル・サウンドって日常のただただ続く生活と似ている気がするんですが、そんな日常をやっていくには何がたいせつかといったら、やはり人と人との間に発生する関係性なんじゃないかと気付いたんです。個性だとかアイデンティティだとかいうけれどそんなものは人との、つまり仲間とグルーヴして初めて発生するものだということです。だからもっとメンバーに僕の運命も委ねてみることにしたんです。その決意の表れです。

SAKEROCKの僕よりも在日ファンクのほうが本当の僕だと思っていたりもします。

―風の噂(与太話)で、在日ファンクは結成当時、SAKEROCKのほかのメンバーが多方面で活躍するなか、どこのバンドからも声がかからなかったハマケンさんの逆襲だ!(笑)……と、いうような話を耳にしましたが真偽のほどはいかに??

浜野:じつはSAKEROCKをやるずっと前、ブルース・ブラザーズに衝撃を受けて高校時代からブルース、ソウルを村上啓太とずっとやっていたんです。それがどんどん洗練されるうちにファンクだと行き着いたのがつまりは「在日ファンク」なんです。SAKEROCKの僕よりも在日ファンクのほうが本当の僕だと思っていたりもします。それを逆襲のつもりもあって活動し始めたというのは確かに当たっている部分もあるかもしれません。伊藤(大地/Dr)くんのやっているグッドラックヘイワ、田中(馨/Ba)くんのやっているショピン、星野(源/Gt)くんの弾き語り、そして、僕以外のその3人がゲスト参加したことのある細野晴臣さんのバンド。「そんなオシャレですてきな音楽、おれにはできねェんだよー!! ちくしょー!」という怒りがあります。リスペクトと怒りが入り交じった不思議な感情ですね。

―突拍子もない質問なんですが、メンバーそれぞれにあだ名をつけるとしたら?  またその理由をそれぞれ教えてください。

浜野:あだ名を定着させたいのでそれを書きます。

仰木亮彦(Gr)「オオギナ」JBのよく言う「エニ・ファンキ・ナ」の仰木版です。
村上基(Tp)「モトボイ」ジャニーズにいそうなくらい可愛い顔をしているので可愛い感じで。ロボット的ニュアンスもあります。
久保田森(Tb)「ジェントル久保田」一番ジェントルでなく人でなしだからです。
永田真毅(Ds)「ながやん」毒舌でゲスい彼の本当の性格のイメージを匂わせることでかっこいいドラミングを相殺したいです。
福島"ピート"幹夫(Sax)「P」彼の愛称の”ピート”からとってるわけですが曲中に切り札として彼のことを呼ぶと同時に“P”というボタンを押すという心地よさの現れでもあります。
村上啓太(Ba)「ムラカミナ」オオギナと同じ要領でやろうとして失敗してる状態です。

「ゲロッパ」は言葉の意味以前に「ゲロッパ」なんです。

―釈迦に説法、在日ファンクにファンクで恐縮です(笑)。ファンクは「すばらしい」「土臭さ」「悪臭のする」などさまざまな意味を持つ言葉ですが、ハマケンさんの思う「ファンク」とは何でしょうか?

浜野:「ゲロッパ」です。ファンクはアフリカン・アメリカンたちのレベル・ミュージックと言われています。でもそんなことを知らずにジェイムス・ブラウンの“セックス・マシーン”を聴いた日本人(の認識)は「ゲロッパの人」になるわけです。何だか知らないけどすごく楽しいことをやっている“ゲロッパの人”。すごいことだと思います。ジェイムス・ブラウンが「立ち上がろうぜ」という言葉を出す以前に体内にウズウズ渦巻いてるなんだかわからない魂のリズムと、何も事情を知らない日本人の妄想がじつは繋がっているんです。「ゲロッパ」は言葉の意味以前に「ゲロッパ」なんす。そんな奇跡が産まれるものだと思います。

在日ファンク インタビュー

―では、音楽的にも「ファンク」で思い浮かぶのは? やはりJBですか?

浜野:です。

―日本のファンクで、好きなバンドやミュージシャンはいますか?

浜野:僕はオーサカ=モノレールもザ・たこさんも面影ラッキーホールも好きです。あと、東京ホームランセンターというかっこいいバンドもいます。ただ彼らと同じことはしないように心がけています。

―たとえば在日ファンクといっしょに買うなら、何かオススメのファンク・バンドはありますか?

浜野:ZAZEN BOYS です。偉そうなこと言って本当にごめんなさい。僕はファンクだと思ってます。

―SAKEROCKでは、過激?逸脱して?見える(見せてる)パフォーマンスも、在日ファンクではとても自然に映ります。両方の活動で意識的に分けている部分などありましたら教えてください。また在日ファンクでは、フロントマンとして、気をつけている点はありますか?

浜野:ありがとうございます。意識的に分けている部分はとくにありません。気をつけてるのは気負わないことでしょうか。どうしても自意識過剰になってしまうんですが、お客さんは僕だけ見ているわけじゃないし、メンバーがいつだって助けてくれるはずなんです。それはまだまだ自覚が足りないので悩んでいます。

―楽曲の着想はどんなところから? またユーモアにあふれながら人生の厳しさを歌った詞の発想はどんなところから生まれますか?

浜野:まずは何度でも言いたい、ナイスワードがピンと浮かぶわけです。でもピンとくることというのは、掘り下げれば自分も気づいていなかったような自分のことがわかってくるんです。僕は基本的に嫉妬やねたみが激しいほうなので、それをカウンセリングというか、いちばんいいかたちの治療法としてやっています。

逆に何故、矛盾のない風刺でない無難な音楽があるのか不思議です。

―さて話は変わりますが、少々ユーモアに欠けてとらえれば、在日ファンクは、今の(とくに日本の)いわゆるR&B、ソウル、ブラック・ミュージックや、ともすれば社会全体に対してのカウンターや風刺にも見えますが、そのあたりは意識されてますか?

浜野:じつはまったく意識してません。ただ、そういってもらえることもよくあるので、思ったんですが、誠実にやっていれば風刺でない音楽なんて無いはずなんです。生きていれば不条理や矛盾は避けられないわけで、「日本人がファンクやってます」なんて正確にいえば矛盾だと思うんです。でもここに在ってしまう矛盾。できれば僕はその矛盾こそ楽しみたい。逆に何故、矛盾のない風刺でない無難な音楽があるのか不思議です。

在日ファンク インタビュー

―でももちろん、そこに極上の遊び心が加わるところがハマケンさん流というか、最大のポイントなんだろうとも思いました。

浜野:そう思ってもらえたら幸いです。

―つまり、知性もユーモアも音楽的素養も人生の哲学も心の機微も感じるけれど、難しさは微塵もない。あるのは、誰もがノれるグルーヴとソウルと、笑い(おもしろさ)。これこそが、在日ファンクの大きな魅力ではないかと思いました。

浜野:嬉しいです。

―さらに言うと、とくに“のこってしまった”“最北端”などには歌謡的、叙情的な日本独自の歌の世界観も込められていて、より入りやすくなっている気がします。そのあたりにもルーツがあったりしますか?

浜野:「日本」というのはとくに意識していません。ただ、僕が日本の歴史が好きだったり、お刺身や、おそばが好きだったりするのが影響しているかもしれません。あと、みんな南の島とか好きだけど、僕は寂しい北国、北の海が好きです。北国が若者に流行らないのは、北に対する負のイメージが邪魔してるんじゃないかとも思います。北の海は「なんくるないさ〜」って言ってくれないですからね。でも、演歌なんかは北の歌が多いわけで、それが在日ファンクの歌があえて叙情的と言われる所以かもしれません。若い人たちももっと北を楽しんでもいいのにな、と思います。

―“きず”のPVすばらしかったです。真夜中の上野のオドロオドロしい空気のなか踊る女子高生! “会社員と今の私”の井手茂太さん(イデビアン・クルー)をも彷彿させる、すばらしいダンスでした。さらに最後の最後まで見逃せないハマケンさんのあのダンスも! すごい出来でした。制作で苦労した点、見せたかったイメージなどはありますか?



浜野:ありがとうございます。PVに関しての構想は僕はほとんど考えてません。言ってしまえば、PVに関しての僕の功績は在日ファンクみたいな野良犬みたいなバンドを、氣志團や矢井田瞳、フジファブリッックなどを手がけるスミス監督(PVの監督)に依頼できたところまでです。ああいうかたちでスミス監督に撮ってもらえなければ大勢の人のお目にかかることもできなかったのだと思います。

―それでは最後になりますが、在日ファンクを今後どんなふうに発展させていきたいと考えていますか? 意気込みなどありましたら教えてください。

浜野:あまりないんですが、ちゃんと僕のダンスが見えるぐらいの高いステージがあるような大きめのライヴハウスでできるくらいの人気が欲しいです。ファンクはデカいところでデカい音でやりたいです。

リリース情報
在日ファンク
『在日ファンク』

2010年1月6日発売
価格:1,980円(税込)
P-VINE PCD-4399

1 .Intro Funk
2 .最北端
3 .きず
4 .のこってしまった
5 .神頼みFunk
6 .罪悪感
7 .ダンボール肉まん
8 .京都(Live Version)
9 .最北端(Live Version)

プロフィール
在日ファンク

新しい時代のディープ・ファンク・バンド、在日ファンク。 高祖ジェイムズ・ブラウンから流れを汲むファンクを日本に在りながら(在日)再認識しようと、音、思想、外観あらゆる面から試みるその様は目を覆うものがある。 しかし、それこそがまさにファンクだということに彼らはまだ気付いていない。 メンバー:浜野謙太(Vo &リーダー)、村上啓太(Ba)、仰木亮彦(Gr)、永田真毅(Ds)、福島" ピート" 幹夫(Sax)、久保田森(Tb)、村上基(Tp)



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