People In The Box インタビュー

People In The Boxのことを「ポスト・ロック以降の歌ものギター・ロック」という風にシンプルに捉えているならば、今すぐに彼らの作品を手に取り、一枚を通して聴いてみるべきだ。その作品に収められた多彩な音楽性と、感覚的でありながら全体として物語を描き出す歌詞は、きっと単なる「ポスト・ロック以降の歌ものギター・ロック」では体験できない感覚をあなたに与えてくれるはずだから。そう、彼らはアートに対する非常に高い志を持ち、作品性を何より重視するバンドである。メジャーからの2作目『Sky Mouth』は、形式こそ3曲入りのシングルではあるが、その意味合い・濃度はアルバムと何ら変わりがない。前作の制作を経て、身軽になったPeople In The Boxの現在地を訊く。

(インタビュー・テキスト:金子厚武)

自分たちのやってることが間違いじゃないって思えると、それを外に放って行きたいなって気持ちにはなりますね。

―前作『Ghost Apple』はメジャー・デビュー作だったわけですが、非常に内向きな作品でしたよね。『Sky Mouth』はすごく外向きで、再生というか、本作が本当のメジャー・デビュー作のような印象を受けました。

波多野裕文(Vocal&Guitar):僕らの中ではメジャーとかインディーズとか関係なくて、ずっと地続きで存在しているような感じがするんです。確かに前の作品ってホント内向きで、今回は出来上がってみて確かに開いてるなって感じがしたんですけど、それもたまたまって感じなんです。だからこの次の作品がどうなるのかは、僕ら自身も全然わからない。

―3曲入りのシングルではあるんだけど、リード・トラックとカップリングという関係性ではなくて、3曲で一つの作品になってるのも特徴ですね。

波多野:それもメジャーとインディーズっていうのと同じくらい意識してなくて、3曲入りのアルバムというか、作品としての捉え方は他の作品と変わってないんです。

―実際の制作はどのようにスタートしたんですか?

波多野:2曲目の“天使の胃袋”っていう曲の原型は『Ghost Apple』以前からあって、ライブでもやってたんです。ただ『Ghost Apple』の制作を経て再び取り掛かったときに、やっぱり違和感があったので、歌とかギターを大きく変えて、その曲を前提にして他の2曲を作った感じです。ストックは結構あったんですけど、あんまりそれは使わずにやりたいなって。結構時間ギリギリだったんですけど(笑)。

People In The Box インタビュー

―ストックに頼らなかったのはなぜ?

波多野:ストックの中に“天使の胃袋”に合う曲がなかったっていうのと、イメージする中で新しく作った方が早いかっていうのもあって。

―1曲目の“生物学”の空から光が差してくるようなイントロと、「さあ 目を開けて僕を見て」っていう歌い出しが、最初に言ったような再生のイメージを想起させました。

波多野:…結構直感でやっちゃうんですよねえ。

―前作から本作の間で意識の変化があったりは?

波多野:前作を作ったことはバンドにとって大きな経験だったと思うんです。それが下地になって次のものを作ろうとしてる感じはありますね。今回の場合は3曲っていうこともあると思うんですけど、結構遊んだというか、前の作品よりも肩の力を抜いてやれた感じがします。だからその分開かれてるのかなって。

山口大吾(Drums):3曲の漠然としたイメージだけあって、それが最後まで続いてる、みたいな。前作がなかったら全然違う形になってたと思うんです。前作があったからこそ落ち着いてきたというか、漠然としたものでも作品にできるようになったというか。

―メジャーとかインディーズっていうのは意識してないという話でしたが、事実として前作でメジャー・デビューをして、バンドを取り巻く状況が広がりつつあるということが、バンドの表現に影響を与えているんでしょうか?

波多野:濃度を上げたいとか、純度を高めたいっていう意識はあるかもしれないですね。何枚か出してきて、返ってくる反応から実感することっていうのはやっぱりあって、自分たちのやってることが間違いじゃないって思えると、それを外に放って行きたいなって気持ちにはなりますね。

僕ら自身が思う作品に対する意義っていうのは、自分たちがやってるってことだけなんですよ。

―山口さんと福井さんは、そういう波多野さんの気持ちの変化を感じますか?

山口:僕は福岡にいたときから彼を知ってるからわかるんですけど、そのときとは明らかに違いますね。根本は変わってないと思うんですけど、立派になってるような…。(褒めてるみたいで)これ以上言いたくないんですけどね(笑)。

波多野:全然立派じゃないよ、実は(笑)。

山口:福岡にいたときがどんだけひどかったかっていう(笑)。でもそれは健太もそうなんです。

福井健太(Bass):僕が変化したのかもしれないですね。単純にアイデアが出やすくなりました、曲の表情とか。

―バンド内のバランスに変化があった?

福井:そうですね。バランスが上手く取れるようになってきた感じはします。

―遊べるようになったのも、バランスが取れるようになったから?

山口:それはありますね。気持ち的なところで遊ぶ余裕がないとダメだもんね。

福井:前作を作ったことでバンドとして寄り添えたので、今回はその延長線上で上に行ったって感じですね。

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―波多野さんは表現に対してすごくストイックな部分もあると思うんですけど、そういう部分と、バンドの許容量のバランスが取れてきてるってことなのかもしれないですね。

波多野:それはありますね。最近は僕は楽しちゃってる感じがあって(笑)。元々僕みたいなシンガー・ソングライター・タイプの人って、何かやろうとすると一人で手っ取り早くできちゃうんですね。でもそれってすごくつまんなくて。当然ですけど、他の二人から出てくるアイデアっていうのは自分の想像のつかないところから出てくるからすごく刺激的で、そこに乗っかるのが非常に楽しいですね(笑)。

―“生物学”からはクラシック的な要素を感じました。実際に波多野さんは現代音楽が好きだったりするので、クラシック的な要素ってピープルにとって非常に重要かと思うのですが、ご自身たちとしてはどう捉えていますか?

波多野:もう筋肉の一部みたいなものなので、あえてそこを出そうと思ったりはしないし、それと同じくらい他の音楽も好きなので、自然に出てくる感じなんですよね。エレクトロニック・ミュージックからの影響も同じくらいあると思うし。

―あくまで色々な音楽性の中の一つだと。

波多野:ホントにそういうのは意識してないんです。僕らのルールっていうのは、自分たちの持ってる楽器だけでやるっていうところなんで。ただ、会話の中で「ここはティンパニー的な感じで」とか「ここは電子音のビーって感じで」とか、実際にできない音色で会話をしたりはするんですけど。

―そのルールはなぜ設けてるんですか?

波多野:取り留めがなくなるからですね(笑)。何でもありになっちゃうじゃないですか? 100人の聖歌隊を呼んだりとか、50人のギタリストでノイズ出したいとか。そこはあえて逆手にとって、限られた道具の中で自由にやるっていうのが楽しいところでもあるし。でもすごく我慢してるんですけどね(笑)。よく「鍵盤入れたいな」とか「ストリングス入れたいな」って思ったりするんですけど、そこはあえて我慢みたいな(笑)。

―“生物学”の歌詞の中にはニーチェやフロイトが出てきますが、哲学や精神分析に対する興味ってありますか?

波多野:もちろん、ある種のリスペクトはありますけど、言葉遊びに近い感じがしちゃってあんまり好きじゃないんですよ、実は。リスペクトしつつも言葉遊びじゃんって思ったりする、そういうコンプレックスに近い感情があったり、でも俺が普段考えてることって哲学なんじゃないかって矛盾もあって(笑)。でもフロイトとかニーチェって存在は僕にとってポップなんです。アイコン的なポップさというか。

―ああ、その感じはすごくよくわかります。では3曲目の“冷血と作法”ですが、1曲の中で曲調が大きく変わって、歌詞にしても違う人格に変わるような内容になっていますが、これは最初からコンセプチュアルに作られた曲なんですか?

波多野:これこそ成り行きの産物で(笑)。健ちゃんが弾いたベースのフレーズに乗っかってるみたいな。一番自分がやってて楽しいことをやってるとかそういうレベル。結構、本能的なんですよね。

―さっきの遊び心って話とも関係してくると思うんですけど、こういう曲も自然とできるようになった?

山口:この曲に関しては、歌録りまでどんな歌メロが乗ってくるか全然わかんなかったですね。いつも見えてるものが、この曲では見えてないまま作ったんです。でも見えなかったんですけど、こういう作り方もありだなって今は思います。新しい作り方を発掘したみたいな。

―今回の3曲の持つ意味合いってご自身たちとしてはどのように捉えていますか?

波多野:それはもう作品そのものだと思うんです。僕ら自身が思う作品に対する意義っていうのは、自分たちがやってるってことだけなんですよ。そこから先は作品が勝手にやってくれる、「行って来い!」みたいな感じなんで、どう捉えてほしいとかもないんですね。

せっかくやるならもっと言い訳のきかないようなところを目指したい。

―僕が3曲を通じて感じたのは「エスケーピズム」(逃避)の感覚なんですね。“天使の胃袋”の「もうすぐトンネルを抜けるよ 光り溢れ」とか、“冷血と作法”の「もう ここには既に 体はない」って歌詞とかはその象徴かなって。

波多野:意図したところではないんですけど、歌詞は全部つながって考えているので、そういうところはあると思います。“天使の胃袋”も“冷血と作法”も、すごくつながってるんですよね。あとは実際に僕が逃避型の人間なんで(笑)。そこはすごくあると思います。でも、みんな逃避したいじゃないですか? それが全然悪いことだとも思わないし。

―確かに、「エスケーピズム」は音楽っていう芸術の持つスペシャルな部分ですからね。

波多野:そうですよね。

―ピープルの曲って初期はもっとマニアックな印象があったんですけど、ポップであることの重要性についてはどのように考えていますか?

波多野:やりたいことがやれるようになってきたっていうことだと思うんですよね。技術的なところだったり、環境的なところだったり。っていうのも、イメージ的にはどんどんポップになってる感じが自分でもするんですけど、昔のやつとかたまに聴くと、実は今よりポップなんですよ。新しいものを出す度にいつも二つ意見があって、アヴァンギャルドになったっていう人もいるし、ポップになったっていう人もいる。それってホントに不思議なんですよね。

―本人としてはポップにしようとか難しくしようっていう意識はないわけですよね?

波多野:最近はなくなりましたね。でも昔からあまりマニアックなものは好きじゃなかった…好きは好きなんですけど、自分がやろうとすると、案外マニアックなものはできちゃうというか。せっかくやるならもっと言い訳のきかないようなところを目指したいと思ってて、誤解を招く言い方ですけど、全然J-POPだと思ってやってきたので。

―うん、僕もピープルみたいなバンドこそスタンダードであってほしいという気持ちがあります。今スタンダードと呼ばれてるものが本当にスタンダードだとは限らないですからね。

波多野:そうなんですよね。結構僕らがやってることってオーソドックスというか、やってること自体は王道なんですよ、3ピースのギター・ロックっていう。

―波多野さんが「共感で成り立ってる音楽に興味はない」って言ってたのを何かで読んだんですけど、そういう意識のバンドが「共感」がスタンダードになっているメジャーという場でやることはやっぱり意義があると思うんですよね。

波多野:ありがとうございます(笑)。共感を促すだけの音楽っていうのはやりたくないと思ってるんですけど、自分たちをスタンダードだと思ってやってることを前提にすると、共感自体はあってもいいと思うんですね。そのときに僕が言った共感っていうのは、浅い、上っ面の共感であって、そういうレベルじゃなくて共感できるものっていうのがあると思うんですよ。mixiのブログとかそういうところじゃなくて。もっと深い部分で共感できると思ってるから。

―Twitterにしてもメディアとして面白いし、いろんな可能性を持ってると思うけど、コミュニケーションがライトな方向に向かってるっていう側面があるのは事実ですもんね。

波多野:ライトはライトでいいこともあると思ってるんですけど、それとは真逆の方向っていうのもあると思うんです。そっちは目に付きづらいところですけど、誰もが持ってる部分だと思うんで、そこにフォーカスが当たってほしいと思います。

リリース情報
People In The Box
『Sky Mouth』

2010年2月17日発売
価格:1,200円(税込)
CRCP-10243

1. 生物学
2. 天使の胃袋
3. 冷血と作法

イベント情報
『Sky Mouth』Release One-man Tour

2010年3月5日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:札幌COLONY

2010年3月7日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:仙台PARK SQUARE

2010年3月9日(火)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:福岡DRUM SON

2010年3月11日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:岡山CLAZY MAMA 2nd Room

2010年3月13日(土)OPEN 17:15 / START 18:00
会場:大阪umeda AKASO

2010年3月14日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:名古屋CLUB UP SET

2010年3月20日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京SHIBUYA-AX

プロフィール
People In The Box

波多野裕文(vo/g),福井健太(ba),山口大吾(dr)によるスリーピースバンド。しなやかなドラム、力強いペース、青白い和音を奏でるギターのスリーピース編成を生かしたスマートなサウンド、複合的なリズムにポップな歌のメロディー。イノセントな声が、不思議な世界観をともなって耳に飛び込んでくる。クチコミを中心にファンの数を増やし続け、ライヴ動員も日々増加、2009年2月に行われた渋谷クアトロでのワンマンライブではチケット完売となった。同年、10月3rd mini album『Ghost Apple』をリリース。



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