「学校よりもストリートミュージシャンの友達が多かった」と言うシンガーソングライターsuzumoku(スズモク)。ストリートで音楽の喜びを学んだ少年は今、一度は務めた会社を辞めて22歳で上京し、新世代フォークの旗手として大きな注目を集めるまでになった。しかし24歳になった昨年は、ジャズバンドPE'Zと結成したユニット「pe'zmoku」の全国ツアー前にコンディションを崩し、病気療養をするというツライ時期でもあった。そんな彼がこの3月に発表した復帰作となるニューアルバム『素晴らしい世界』。そこには、音楽を愛し、様々な苦難と向かい合いながら見つけ出したひとつの答えがある。弾語りスタイルでのライブでも圧倒的な存在感を見せつけるsuzumokuにご期待あれ。
(インタビュー・テキスト:細田聖子 撮影:柏井万作)
知らない人たちの前で歌ったとき、なんかすっきりして、これは新しい景色だなって思ったんです。
―中学2年のときにギターを始めたことが、歌い始めるそもそものきっかけですか?
suzumoku
suzumoku:そうですね。ある日、学校で幼馴染の友達が、音楽の授業のあとにギターを持って歌い出したんですね。そうしたら、みんながわらわら集まってきて、僕はその様子を遠目で見ながら「ギターいいなぁ。やろう!」と思って(笑)。中学2年っていうと思春期なので、自分を大きく見せたいとか、女の子にモテたいとか(笑)、そういう気持ちがあったんですよね。で、その頃、ちょうどタイミング良く、父親が昔使ってたクラシックギターを物置から引っ張ってきて弾いてたんですよ。それで「教えてくれない?」と頼んだら、『禁じられた遊び』でお馴染みの“愛のロマンス”っていう定番の曲を教え込まれて。これがいちばん最初に覚えた曲なんです(笑)。
―渋い中学生ですね(笑)。他にはどんな曲を?
suzumoku:その頃、ゆずさんとか19さんが流行っていた時期だったので、弾き語りスコアを買って四六時中ギターを弾いて歌いまくってましたね。
―ギターを持って歌うということが、自分にとっての自己表現だなと感じた?
suzumoku:そうですね。自己表現したいという気持ちが強くあったと思うんです。思春期だったから、刺激も欲しかったし、日常への反抗みたいなものもあったのかな。
―その後、地元・静岡でストリートライブを始めるんですよね。
suzumoku:静岡駅に長い地下道があって、そこでやってました。当時はストリートライブが流行ってたから歌ってる人が結構たくさんいたんですよ。中学3年生の頃、ギターを弾ける幼馴染がそこで歌っていて「あ、すげー。やってるんだ!」と思って。そこでいろいろ話を聞いてたら、自分も無性に歌いたくなったんですよね。それで、その場で1曲歌ってみたんです。別に注目されてるわけじゃないけど、むちゃくちゃ緊張して。でも、知らない人たちの前で歌ったとき、なんかすっきりして、これは新しい景色だなって思ったんです。それから、その幼馴染みとデュオを組んで、ストリートで一緒にやるようになりました。
学校よりも友達が増えたストリート時代
―自己表現できる場を見つけた、という感じですか。
suzumoku:そうですね。高校生になってもずっとストリートで歌っていくんですけど、そこでしか出会えない仲間が増えていったんですよ。学校にはちょっと馴染めてない連中とかがギターを持って集まって歌ってる。自分と同じような気持ちを持ってる奴と、音楽を介して出会えたんです。最初は「あ、お前もやってるんだ」とか「いいギター使ってるね」って話しかけて、そこからどんどん仲良くなって。で、気付いたら学校よりもストリートのほうが友達が多くなってた。学校では至って真面目にしてるんですけど、学校が終わったら、ストリートに行って歌って、仲間に会うっていう日々でしたね。
―ニューアルバム『素晴らしい世界』のなかにも“ストリートミュージシャン”という曲がありますが、suzumokuさんの原点がこの曲に詰まってるのかなと感じました。そして、歌詞の<“僕ら”の歌声>の「僕ら」は、その仲間を指しているのかと。
suzumoku:そうですね。実際、歌ってるのは自分ひとりなんですけど、ストリートには仲間がいたから「ひとりで歌ってる」という感じではないんですよね。そういう仲間との繋がりを作るきっかけが「音楽」だったんだと思う。音楽は仲間と繋がる手段で、音楽を通して仲間を求めに行ってた。そこから徐々に自分の言葉でオリジナル曲を書くようになっていくと、自分から求めに行くだけじゃなくて、自分を見に来てくれる人も増えてきて。そうやって、自分から発信することによってどんどん新しい繋がりも増えていったんです。
会社を辞めて上京したsuzumokuの決意
―高校を卒業してからは楽器製作の専門学校に入学されたんですよね。
suzumoku:本当は歌が学べる音楽の専門学校に行きたかったんですよ。でも親がずっと反対してて。ストリートのこともずっと怒られてたから、こそこそやってたんですけど…(笑)。で、いざ、進路のことを相談したら、将来を心配されて「大学じゃなくとも職に就ける学校に行きなさい」と言われまして…。その頃はギターそのものにもすごく興味があったし、昔から図工とか工作が好きだったから、楽器製作の専門学校に行こう、と。親には「ここを卒業したら、ギターの工場に就職出来るんだ」ってゴリ押ししました(笑)。それで名古屋のほうのギター製作の専門学校へ通うんですが、すごくのめり込みまして、学校でギター製作本数の新記録を出すくらい作りまくって(笑)。
―すごい(笑)。その頃、音楽活動はやってたんですか?
suzumoku:弾き語りはやってましたね。やっぱり弾き語りで自分を表現したいっていう気持ちは、根底にあったので。その後、専門学校を卒業してからはギターメーカーに就職したんです。そのときは、国内屈指のギターメーカーに就けたのが誇りにも思えたし、ギター製作一本でやっていこうかなって本気で思ったんですよ。
―それからミュージシャンになろうと決意したきっかけは?
suzumoku:就職してしばらくしてから、お世話になっていた名古屋のライブハウスに誘われて、ライブをやったんですね。ライブでギターを弾いて歌って、そしたら知らない人が注目してくれる。suzumokuっていう存在を認めて、拍手をくれる。しかも、お客さんはお金を払ってまで来てくれる。ライブのあとに「歌を聴いて元気をもらいました」って言ってもらえたりして、「やっぱりいいなぁ」って思ったんですよね。それから何回かライブをやるうちに、やっぱり自分は弾き語りが好きだなって思ったんです。それで両親のこととか将来のこととかを抜きにして、自分が今、いちばんやりたいことはなんだろう? って真剣に考えたら、やっぱりギターを弾いて歌うことが好きだ! と。そこで決心して、会社を辞めて上京しました。
バンド「pe'zmoku」での活動で強まった「伝えよう」という気持ち
―強い決意だったんですね。東京に出てきてから、2007年に1stアルバム『コンセント』、2008年に2ndアルバム『プロペラ』という作品をリリースされていますが、いま振り返ってみてどんな作品だったと思いますか?
suzumoku:そのときの正直さは出てると思います。当時の自分が正直に言葉を紡いだ曲だから懐かしく思えるわけでもないし、今でも堂々と歌えてる。ただライブの様子とかは今とは全然違うかな? 声の出し方も全然違うし。
―どのように変化したと思いますか?
suzumoku:単純に、歌うとき口が開くようになりました。歌い方が劇的に変ったのは、やっぱりpe'zmokuでの活動が大きいですね。バンドのなかでボーカルの声が立つようにハキハキと歌うようになったし、激しい曲が一気に増えたので声量も上がったと思う。より「伝えよう」という気持ちが増したと思います。
―今回のニューアルバムはpe'zmokuでの経験を経てのリリースとなるので、1stと2ndと違う点は、pe'zmokuで得たものが大きく反映されている部分だと思うんです。
suzumoku:そうですね。例えば『コンセント』と『プロペラ』ってどちらかというと静かめな曲が多くて、ギターの演奏においてはフィンガーピッキングが多かった。pe'zmokuではストロークでガンガン弾く曲が多かったんですよ。音楽を始めた当初もそういう感じだったんですよね。細かいことが出来ないから簡単なコードをガンガン鳴らすっていう。だから、その頃の衝動が徐々に蘇ってきた。今回のアルバムでシンプルなストロークが出てくる曲も多くなりましたね。
―pe'zmokuの活動が初心を思い出すきっかけにもなった?
suzumoku:はい。それにバンド活動をしたことで、メンバーはもちろんのこと、携わる人が一気に増えたので。人間関係だったり、人との接し方とかも考えることが出来る活動だったと思いますね。それでもっともっと自分に正直になろうという気持ちにもなれた。
―初心を思い出すという意味でも“ストリートミュージシャン”が今作に入ってきたんですね。
suzumoku:そうですね。今回のアルバムは、今までにないくらいにもっと開けて、もっと人に伝えようという気持ちを強く出したかったんです。今までの2枚のアルバムはすごく正直に歌ってるんですが、自分の世界のなかで「僕はこう思います」ということを歌ってきた。このアルバムではそう思っていることを、自分のなかだけじゃなくて、もっと外に向けて歌っていきたいと思ったんです。そういう意味で、言葉とかも変化してきて。例えば、今まで歌詞で「僕」だったものが「僕ら」になったりとか、“ソアラ”という曲も自分の世界観+頑張ってる人を応援しようと思って書いた曲で。
いちばん良い曲だと思う曲に付け続けてきた“素晴らしい世界”の完成
―確かにアルバム全体的に「僕」という言葉だけじゃなくて「君」という言葉が多く出てきますよね。今作を聴いて、suzumokuさんは外へ向かって清々しい表情で歌っているような印象もありました。「素晴らしい世界」というアルバムタイトルも明快で、前向きな印象もありますし。
suzumoku:実は「素晴らしい世界」というタイトルはずっとあったんですよ。それこそ高校でストリートでやってる頃から「素晴らしい世界」というタイトルの曲はあって、歌詞の内容がどんどん変っていって。いつも、そのときにいちばん良い曲だなって思ったものに、このタイトルを付けてたんです。
―かなり変化していったんですか?
suzumoku:今の形になる1個前の状態の曲は、すごく皮肉った内容だったんです。「素晴らしい世界」っていう言葉自体を皮肉っているような恐ろしい歌詞で…(笑)。今の歌詞になったのは、あるきっかけがあったからなんですけど、ライブの帰りに、レインボーブリッジ付近を車で通ったんですね。夜景がすごく綺麗で、そのとき一緒にいたサポートの方と「夜景、綺麗ですね」なんて話をしてたら、冗談っぽく「夜景は残業の景色って言ってな…」って言われたんですよ。なんで夜景があるかって言ったら、こんなに遅くまで頑張って残業してる人がたくさんいるからで、これだけの明かりの数が多くて綺麗なのは、それだけそういう人がたくさんいるからだっていう話をして。
―曲の冒頭の描写ですね。
suzumoku:その話を聞いてハッとして「素晴らしい世界」というタイトルは関係なく歌詞がばーっと思いついて書いたんです。で、最終的に歌詞が出来上がったとき、最後に<素晴らしい世界なんだ>って言葉が出てきて。そのとき、それまで歌ってた皮肉な歌詞が恥ずかしく思えちゃったんですよね。“素晴らしい世界”という曲が紆余曲折を経て、ようやくしっくりきた感じですね。
―歌詞が心にすっと入ってくる印象もありました。例えば<迷うことくらい 何度もあるさ 涙が浮かんだら そのまま流せばいいよ>という歌詞がありますが、落ち込んでるときに「頑張れ」とか言われるよりも、こういう言葉をかけてもらったほうが嬉しいなって思うし。
suzumoku:例えば「頑張れ」っていう言葉だけだと、なんだか無責任だなって思っちゃうんですよね。自分が誰かに「頑張れ」とだけ言っても、何もサポート出来ないんじゃないかなって思うんです。自分がヘコんでるときにそう言われても、どう頑張ったらいいかわからないし…。そう言うよりかは、自分がその人の心情に近付いて「泣いちゃえよ」とか「我慢することないよ。泣きたいときは泣きなよ」って言ったほうがいいのかなって思うんです。自分に近付いてくれるような言葉のほうがあたたかいなって思うし。だから「頑張って欲しいな」っていう気持ちは心にはあるんだけど、言葉として表現するときにどう伝えたらいいんだろうって考える。歌詞ではその人に接するように伝えていきたいなって思うんです。
―この曲だけではなく、suzumokuさん自身の正直な言葉がこのアルバムには詰まっていると思います。では、アルバムが完成しての今の心境は?
suzumoku:原点に戻って、いい意味で再スタートが切れたなって思うんです。pe'zmokuの活動を経て、その流れで辛いこともありつつ、いろいろ悩んだ時期も経て、今の自分の素直さが出せた作品になったと思います。再スタートを切れた作品が出来上がったので、今後、もっと面白いものを作りたいなっていう気持ちも出てきたし。いろんな風景の曲だったり、いろんな想いの曲、いろんなカラーの出せる曲がもっと出来るなって。そういう意味で、自分にさらなる可能性を出してくれる作品になったと思います。
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- CINRA主催の入場無料イベント『exPoP!!!!!』に出演決定!
- viBirth × CINRA presents
「exPoP!!!!! 3周年記念祭」 -
2010年4月20日(火)、4月21日(水)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:渋谷O-EAST20日出演:
Far France、太平洋不知火楽団、and more!!
21日出演:
suzumoku、Creepy pop、箱庭の室内楽、and more!!料金:無料 (2ドリンク別)
チケットのご予約は以下のページで承っています。
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『素晴らしい世界』 -
2010年3月10日発売
価格:2,100円
apart RECORDS APPR-20041. 素晴らしい世界
2. ソアラ
3. ガタゴト
4. 街灯
5. ストリートミュージシャン
6. ライトゲージ
7. 夜明けの雨
8. 春の到着
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- 『素晴らしい世界』発売記念東名阪ツアー 第2弾
『aim into the sun 'formation flight'』 -
東京公演
2010年5月21日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:duo MUSIC EXCHANGE名古屋公演
2010年5月27日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:TOKUZO大阪公演
2010年5月28日(金)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:umeda AKASO料金:前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)
- 『素晴らしい世界』発売記念東名阪ツアー 第2弾
- プロフィール
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- suzumoku
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中学2年でギターを持ち、同時に作詞・作曲も始め、地元静岡のストリートで歌い始める。様々なジャンルの音楽を聞き漁り、音楽性を模索する日々。高校卒業後、楽器製作の専門学校に入学し、ギターやベースの製作に明け暮れる。音楽は完全に趣味にしようと決め、岐阜にある国産手工ギター工場に就職。音楽活動を一旦休止するも再開。ギター職人の道とミュージシャンの道、どちらが本当に進むべき道なのか真剣に考え、06年夏、プロミュージシャンになることを決意。07年1月に上京し、10月にアルバム『コンセント』でデビュー。都内を中心にライブ活動を続ける中、08年からインスト・ジャズ・バンド"PE'Z"との合体ユニットpe'zmokuを結成。ギター&ヴォーカル担当として大抜擢。多くの経験を積み重ね、2010年ソロ活動を本格的に始動し、3月にはNEWアルバム『素晴らしい世界』を発表した。
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