いまや完全に市民権を得たインストバンドのなかでも、独特という言葉では表しきれない個性で確固たる地位を築いたSAKEROCKが、前作『ホニャララ』以来2年ぶりとなるオリジナルアルバム『MUDA』をリリースした。別バンドやソロ活動、俳優業など、メンバー各自の様々な経験を通したうえで制作された今作は、タイトルに反して、その経験をひとつもムダにすることなく産み落とされた快心作! 無限に想像力を掻き立てるムダスパイラルとは何なのか? SAKEROCKを論じるうえで欠くことのできない素晴らしきムダについて、星野、伊藤、浜野の3名(都合により田中は欠席)に語ってもらった。
(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 撮影:柏井万作)
今回は4人だけで、あんまりお化粧をせずに、ストレートにやろうと。
―SAKEROCKとしては2年ぶりのオリジナルアルバムになりますが、その間のそれぞれの活動を振り返っていただけますか?
伊藤:俺はグッドラックヘイワ(SAKEROCKの元メンバーでもある野村卓史とのユニット)のほうでアルバムを出したのと、細野晴臣さんのバンドに入れてもらったのがドラマーとしては大きな転機でしたね。細野さんは色んな音楽を教えてくれるんですけど、いろんなリズムを知るきっかけになったり、すごく勉強になってますね。
―浜野さんは?
浜野:自分がリーダーのバンドをいっぺんに2つ(在日ファンク、Newday)も始めちゃって。いままでは自分で「これでいいんだ!」ってGOサインを出すことをやってこなかったんですけど、そういう経験をしたことで、SAKEROCKでのトロンボーンニストの在り方みたいなものも、自然と気張らないでできるようになったというか。とりあえず自分でハンコを押せるようになったのが大きくて。
SAKEROCK
―星野さんはソロ活動をされたりもしましたけど。
星野:SAKEROCKの前作『ホニャララ』の後は、2枚のDVDのプロデュース作業と、自分のエッセイ集『そして生活はつづく』も初めて出させてもらって。あと今年は『ゲゲゲの女房』に出演したのと、ソロのアルバム『ばかのうた』を出したのがすごく大きいです。それが今回のアルバムにつながってると思う。
―つながってるというのは?
星野:SAKEROCKって……ヒネくれてるじゃないですか(笑)。あまのじゃくというか。ソロを作るにあたって、同じアプローチを歌でやっちゃうとカッコ悪い、というか誠実でなくなっちゃうと思って。だから素直になろうって決めたんですよ。そしたらいままで意地悪なことしか言ってくれなかった人も、「よかった!」ってすごく素直に反応してくれて。こういうのっていいな、この感じをSAKEROCKでも次はやりたいなと思ったんです。だから今回は4人だけで、あんまりお化粧をせずに、ストレートにやろうと。
―「4人で素直に」っていうのがアルバムのコンセプトに?
星野:「4人でやりたい」っていうことは伝えました。あと、CDでアレンジに凝りすぎちゃって、ライブで再現できないことが多かったので、それは気になってたんですよね。ライブと音源は別物だとは思っていたんですけど、さすがに分かれすぎかなと思って。ライブでもそのまま持っていけるような、シンプルだけど強いものにしたいっていうのは、みんなにも最初のほうに伝えたと思います。
伊藤:今年はけっこう4人でライブやってるから、いまや4人が普通なんですけど、去年の春くらいに久しぶりに4人でやったら、まわりのスタッフから「4人のSAKEROCKもいいじゃん」なんて言われるくらい4人じゃなかったんですよ。4人だと前作の『ホニャララ』とか、前々作の『songs of instrumental』の曲はほとんどやれなくて。
星野:原点的なものがなかったというか。『ホニャララ』は自分たちの代表作的なものを作ろうと思って作ったんですけど、それでもお化粧をいっぱいしてる状態だったので、ほんと4人だけの地に足の着いたやつを作りたいなと。結成初期にメンバーが抜けたりっていうのもあって、ずっと楽器が足りないんじゃないかと思ってたんですよね。だけどいまは4人がデフォルトというか、そう思いたいなと考えて作りました。
だんだん「ムダってなんぞや?」みたいなことを考えるようになって。
―アルバムタイトルの『MUDA』ですけど、「最高傑作『MUDA』」っていう響きに笑っちゃって(笑)。
星野:ああ、それ角張さんが書いた宣伝文句だ。「ムダ」と言われても全然最高っぽくないですよね(笑)。アルファベットで『MUDA』ってかっこいいなと思って、なんとなくつけたタイトルなんですけど、だんだん「ムダってなんぞや?」みたいなことを考えるようになって。よく考えると、音楽業界のなかでインストバンドってムダな存在なんじゃないのかなと思ったりとか。もっと考えると、音楽とか表現ってもの自体が、生活するうえでは、そこまで必要じゃない人も多いだろうし。そもそも人間自体も地球規模で見たらすごいムダな存在だよなって思ったり、でもそもそも宇宙って無駄じゃない!?…とか(笑)。
星野源
―極論ですね(笑)。
星野:そうやって全部ムダかもしれないって思ったときに、逆にどんなムダだと思うことも、全部ムダじゃないのかなと。「ムダスパイラル」ですよ。思いつきで言ってますけど(笑)。でも今回の最終的な決着としては、ムダスパイラルのなかで考えると、「ムダってなんか楽しいよね」っていう所に着地したかったんです。いままでと違うのはそこかもしれない。いい加減なんです。
―この曲にはムダが足りないから足そうとか、そういうムダではない?
星野:ムダっていうのをこっちから提示してもダメなんじゃないかなっていうのもあって。いままではこっちからムダを作って、ハマケン(浜野)をムダ担当に仕立て上げて見せたりしていたけど、ただ他のインストバンドとの差異をつけたかっただけなんですよね。本当はムダがないと思ってくれる人がいてもいいし、ムダだなぁと思ってもらってもいいし。前までが考えすぎてたというか、余白がいっぱいある作品を作りたかったんです。
伊藤:ムダと言っても、こうやって取材してもらって、こういうタイトルをつけてるからこそ、お題になる部分だと思うんですよね。でも、改めて考えると、自分はそういうムダを輩出するような人間じゃなかったなって。SAKEROCKはムダを大事にして、いろんな楽しいムダ感を出してきたと思うんですけど、自分個人に至っては自然とムダは出てなくて、むしろムダなものは生まないように生きてきたというか。
星野:でも突然「次のアルバムタイトル『電車』にしようよ」とか言うんですよ、大地くんは(笑)。理由は電車が好きだからっていう。「なんでそんなムダな発言を?」って思ったけど、なんか面白いから結局ライブでやってた“ラディカル・ホリデー”って曲が“電車”っていうタイトルになっちゃったんですよ。
伊藤大地
伊藤:なっちゃったね(笑)。
星野:だから、大地くんも力強いムダの力を持ってるんですよね。
伊藤:それは源くんがそういうふうに感じ取ってくれたからこそ、ムダになったっていうか。
星野:あー、そうか。
伊藤:そう。ムダ審査委員会の人がムダなものを評価してくれて。
星野:そうだね、僕ムダ委員会の会長ですから(笑)。
伊藤:ムダっていうのは主観じゃわからないんですね、っていうムダな結論が出ました(笑)。
―よくわかんなくなってきましたけど(笑)、結局SAKEROCKにとってムダは必要だと。SAKEROCKはメンバー全員がいろんなことをやって、そこで得た経験を最終的にSAKEROCKに持ってきてっていうのはありますよね。
星野:だから実際は、ムダを念頭に置いて作るっていうことは、まったくしてないんですよね(笑)。本当にムダに向けてやるんだったら、もっといろんなことをやらなきゃいけないんですけど、そこらへんが今回いい加減なんですよ。いままでと違うのはそこかもしれない。いい加減なんです。それがおもしろいじゃんみたいなことでいいんじゃないかと。
浜野:あんだけ真剣に作っといて、アルバムタイトルが『MUDA』っていうのはちょっと痛快な感じがしますね(笑)。
星野:ムダなことに対して真剣に取り組むっていうのは、SAKEROCKは最初からやってるんですけど、それを改めて示すっていうのはいいなと。
インストバンドなのに、こういうふうに聴いてほしいって思うこと自体ヒドいよね(笑)。
―インストバンドって、タイトルと曲そのものでしか、曲を説明できるものがないと思うんですけど、リスナーにはどう受け止めてほしいとか、そういうのってありますか?
星野:僕、ものすごくあるほうなんですけど、今回はそういうのはやめようと思って。タイトルを全部アルファベットで表記したのも、言ってしまえばノリだし。例えば“DANCHI”って曲は、最初はマリンバが主役の曲がほしいなと思って作っていたら、だんだん爽やかな日の団地みたいなイメージが出てきて。
―僕は“DANCHI”っていう言葉が頭に入ってきただけで、ちょっと切なさを感じたりしたんですよね。
星野:切なさはありますよね、団地には。だから好き勝手イメージしてもらえたら嬉しい。団地じゃないと思ってもらってもいいし。
―そもそもアルファベットで書いたら、団地かどうかわからないですしね。ドイツ語っぽいし(笑)。
伊藤:インストバンドなのに、こういうふうに聴いてほしいって思うこと自体ヒドいよね(笑)。
星野:そうそう(笑)。でも、前は「他のインストバンドと違うんだ」ってアピールしたかったから、インストバンドらしくない解釈をいっぱいしてもらいたかったんですよ。だから、いろんな付随した要素をつけたり、ハマケンにスキャットしてもらったり。でも、もうそんなことをしなくてもSAKEROCKなんじゃないかっていう感じがしてきたので。
伊藤:「団地って切ないぜ」っていう詞を書いて歌えばいいんだもんね(笑)。
―そのほうが手っ取り早いですよね。
星野:それはやっぱり、ソロをやったのが大きいんです。詞があって、歌って、伝わるってなんて素晴らしいんだろうって。じゃあ、逆にSAKEROCKでは肉体的になにか感じてもらえれば、それでいいじゃんって。違う良さを感じることができたんです。だから、アレンジに関しても、いままではこの音がここで鳴ってて、こんなリズムだったら変でおもしろいなと考えていたのを、パッと聴いただけでなんかいいな、楽しいなとか、感覚的に思ってもらえるようなものになった感じがして。
―頭で聴くんじゃなくて、体で聴くみたいな?
星野:そんな感じです、今回は。肉体的だと思います。
これまではがんばりすぎちゃったんですよ。でも、今回は「どうぞ!」みたいな感じで。
―まずはタイトルを知らないまま聴いて、その後にタイトルを見てもう一回聴けば、2倍楽しめるんじゃないかと。
星野:ありがたい楽しみ方ですね(笑)。普通はイメージ通りのタイトルをつけますもんね。
浜野謙太
浜野:なんか前に、超カッコいいなと思ったトロンボーンの人のCDを聴いて、後でタイトルを見たら“Snap Your Finger”で、俺ガックシきちゃったんですよ。
星野:なんで?
浜野:いや、そのまんまで。ほんとに指パッチンしてて。
―もうちょっと深いタイトルが欲しかったんですね。
浜野:そう。“Waltz for Debby”みたいな(笑)。
星野:そのまんまのタイトルも嫌だし、俺だけわかってるみたいな造語のタイトルも嫌だったんです。夏っぽい曲で“Summer”って言われても、「そうですね」としかならないし、爽やかな曲で“DANCHI”でもいいじゃないかと。
―この人の団地像はこんなに爽やかなんだなって。
星野:自分なりの団地を思い浮かべてもらってもいいし。いままではそれを説明しすぎてた気がするんです。「こういう団地です!」みたいな。人としてかっこ悪いことをしてました(笑)。
―それはそれで好きですけどね。
星野:これまではがんばりすぎちゃったんですよ。でも、今回は「どうぞ!」みたいな感じで。
―でも、“HIROSHIMA NO YANKEE”を「すげーかっこいい!」と思って聴いてた人が、タイトルを知った瞬間にがっかりするとか、そういう感じがおもしろいなと思って。
伊藤:そういうのいいですね。
星野:このタイトルだから面白いと思う人もいるだろうし。
―歌詞がないからこそ、勝手な想像ができておもしろいなって。
星野:そうですね。インストならではというか。自由に考えてもらえたら幸せですね。
- イベント情報
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- 『4thアルバム「MUDA」リリース記念ツアー』
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2011年2月19日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:宮城県 仙台darwin
料金:前売3,500円 (ドリンク別)2011年2月20日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:岩手県 盛岡ClubChangeWAVE
料金:前売3,500円 (ドリンク別)2011年2月25日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:京都府 京都磔磔
料金:前売3,500円 (ドリンク別)2011年2月26日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋BOTTOM LINE
料金:前売3,500円 (ドリンク別)2011年2月27日(日)OPEN 18:30 / 19:00
会場:石川県 金沢AZ
料金:前売3,500円 (ドリンク別)2011年3月4日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:福岡県 福岡BEAT STATION
料金:前売3,500円 (ドリンク別)2011年3月5日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO
料金:前売3,500円 (ドリンク別)2011年3月6日(日)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:大阪府 心斎橋BIG CAT
料金:前売3,500円 (ドリンク別)2011年3月12日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:北海道 札幌PENNY LANE 24
料金:前売3,500円 (ドリンク別)2011年3月21日(月・祝)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 渋谷AX
料金:前売3,500円 (ドリンク別)
- リリース情報
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- SAKEROCK
『MUDA』 -
2010年12月8日発売
価格:2,800円(税込)
カクバリズム / DDCK-10231. MUDA
2. Goodbye My son
3. URAWA-City
4. Hello Po
5. DANCHI
6. FUNK
7. HIROSHIMA NO YANKEE
8. KAGAYAKI
9. WONDER MOON
10. Oyabun
11. Green Mockus
12. 8.16
13. GUNPEI
- SAKEROCK
- プロフィール
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- SAKEROCK
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2000年結成。メンバーは星野源(ギター、マリンバ、etc)、田中馨(ベースetc)、伊藤大地(ドラムス)、浜野謙太(トロンボーン)の四人。様々な音楽的要素と無駄な感覚を多分に含んだストレンジ・インストゥルメンタル・グループ。これまで3枚のオリジナルアルバムを発売。どれも大絶賛&ロングセールスを記録している。2010年12月8日に待望の4thアルバム『MUDA』をリリースした素敵な4人組である。
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