人生は必ずしも自分の意志通りに進むものではない。あるとき、ほんの少しのきっかけで誰かと出会ったり、何かにふと導かれたりすることによって、それは思わぬ変化を遂げていく。3枚目のアルバム『砂漠の流刑地』でメジャーデビューを果たすふくろうずがここまで歩んできた道のり、バンドの結成、音楽業界への進出にも、そんな人生の偶然的な面白さやドラマが随所にあった。過去にインディーズで2枚のアルバムをリリースし、ライブの集客もうなぎ上りの彼ら。本作ではおなじみの益子樹に加え、會田茂一と古里おさむの2人をプロデューサーに迎えるなど、また新たな出会いを経験したようだ。
今回、ボーカル・キーボードの内田万里にインタビューをして思ったのは、このバンドは成長の余白がまだかなりあるということ。いや、むしろこれから成長が始まると言ってもいい。インタビューを読んでもらえればわかるが、彼らはどちらかと言えば何かと受け身の姿勢が強く、さらにはバンド内の結束やコミュニケーションにも課題を残している。つまり、裏を返せばバンドとしてやれることがまだまだあるということ。ふくろうずのバンド人生はまだ始まったばかりなのだ。
音楽よりも漫画を読む方が全然好きだし、漫画家とかになりたかったんです。
―バンドの結成からこれまでの期間をどう感じていますか?
内田:その場その場では辛いこともあった気がしますが、振り返ればあっという間で。楽しかった印象の方が強いですね。あ、ライブは大嫌いで辛かったんですけど(笑)。
―そうなんですか?(笑) 曲作りをしてる方が楽しい?
内田:はい。自分で歌うのが好きじゃなくて、曲を作るのがとにかく好きなんです。いつか、楽曲の提供とかできる人になりたいです。
―じゃあそもそも、始めはバンドで有名になろうとは思っていなかったんですか?
内田万里
内田:まったく考えてなかったです。そういう世界って、ものすごく遠いものだと思っていたので。そんな中で私が適当に作った曲がたまたまレコード会社の人の耳にとまって。バンドやってる友達がいいって言ってくれて、自分たちの音源と一緒にオーディションに送ってくれたんです。そしたら、私たちの方に声がかかって。
―「適当に」というのは誤解もあるかもしれないですが、まだオリジナル曲を作り出して間もない頃だったんですよね?
内田:はい。オリジナルをやるバンドも生まれて初めてでした。そもそも本当は、音楽よりも漫画を読む方が全然好きだし、漫画家とかになりたかったんです。だから曲を作るといって、まったく音楽に憧れもなかったし、適当に落書きみたいに作ってたんです。
―じゃあ何故漫画を書くんじゃなくて、音楽を作ることになったんですか?
内田:ピアノを小さいときに習ってたので、コードもなんとなくわかるし、たぶん適当な曲なら作れるなって意識は昔からあったんです。それでまあ、性格的にも一番自分に向いてそうだから音楽サークルに入って、初めはコピーバンドをやってたんですね。それからベースの安西にオリジナルのバンドをやろうと誘われ、まず各自で曲を作ってこようという話になったときに、私しか作ってこなくて。そのままなし崩し的に私が詞曲を作るようになったんです。
2/4ページ:今まではただの曲の寄せ集めだったし、曲順も含めて今までよりこだわってしっかりした「アルバム」を作りたかったんです。
今まではただの曲の寄せ集めだったし、曲順も含めて今までよりこだわってしっかりした「アルバム」を作りたかったんです。
―そうした経緯にも関わらず、トントン拍子でメジャーデビューまで辿り着いたのは才能としか言いようがないですね(笑)。そのデビューアルバムのタイトル『砂漠の流刑地』がまたいきなり印象的ですが、どんな意味が込められているんですか?
内田:これは思い付きであまり意味はないんです。アルバムのタイトルどうしようって考えながら、渋谷駅のホームで山手線を待ってたときに浮かんで「これだーっ!」って(笑)。
―(笑)。アルバムのキャッチには「そうだ! 人生は砂漠だ」とありますね。
内田:たまたま手塚治虫の『ブッダ』を読んでて、生まれてくることに意味なんてないんだなって思ったんです。それで付けました。
―内田さんの歌詞には「生きる」という言葉がよく出てきますよね。
内田:バンドをやってるせいかどうかわからないんですけど、けっこう周りに暗い人が多いので、前向きに生きようという意識はすごくあります。ちょっと中2的な人を見ると嫌だなと思うし、そういう歌詞だけは書かないようにしたいと思ってて。
―今回のアルバムは特に前向きな印象がありますね。これまでに比べても、全体のトーンが明るくなって、オープニングの“もんしろ”にしても、サウンドによりバンド感が出た気がします。
内田:意識的に明るくポップにしたいというのはありました。達成感も前作よりは全然ありますね。今まではただの曲の寄せ集めだったけど、今作は曲順も含めて今までよりこだわってしっかりとした「アルバム」を作りたかったんです。
―特に“キャラウェイ”にはこれまでにない明るさや祝祭感がありますね。
内田:この曲をプロデュースしてくれた古里(おさむ)さんと、エンジニアの柏井(日向)さんには本当に頼んでよかったです。音の選び方にはあまり自覚がなかったんですけど、古里さんの音のこだわりに触れて、私はすごく回顧主義というか、ビートルズみたいなあったかい音が好きなんだということを再認識させてもらいました。柏井さんのミックスも益子(樹)さんとは異なる面白さがあって、違うタイプの人にやっていただくとこんなに曲の聞こえ方が変わるんだなって。
欲張りなんですけど、大げさに言えばビートルズくらい何でもできる、曲の幅があるバンドになりたい。
―すべての作詞・作曲を担当しているところからも、内田さん自身にもプロデュース能力がある気もしますけど。
内田:いや、やっぱり力が足りないですね。キーボードじゃなくてギターがメインのバンドが好きなのに、私はギターが弾けないからどうしてもわからないところが多いんです。その点、今回のプロデューサーの方々はみんなギターが弾ける方ですから。
―曲を作るときは最初の時点で完成形が描けていることもあるんですよね?
内田:ある曲もありますね。それこそベースやドラム、ギターのフレーズを伝えちゃうこともあります。そういうものは早くできる。“トワイライト人間”は私がギターのリフとかも考えました。
―“トワイライト人間”、めちゃくちゃ好きなんですよね。すごくクセになる曲で。
内田:ありがとうございます。1曲目の“もんしろ”は慣れないことをやったから、けっこう紆余曲折がありましたね。曲調的にも狙ってキャッチーな曲を作ろうとしたし。欲張りなんですけど、大げさに言えばビートルズくらい何でもできる、曲の幅があるバンドになりたい。だから結果はどうあれ、もっといろいろな曲を作ることに挑戦していきたいです。
―曲のモチーフはどういうところから生まれてくるんですか? すごく楽曲のバリエーションも豊かですよね。
内田:これと言ってないんです。わりと多面的な人間なので、アルバムを作るときにはそういう多面性を素直に出した方がいいんだろうなとは思っているんですけど。曲作りや歌詞においてはそれを自覚して作業してます。
―そういう多面性が、楽曲の展開やアレンジを面白くしていますよね。「こう来て欲しい!」っていう予定調和と、「ええ!」っていう裏切り、その両方の気持ちよさがあって、王道のポップミュージックとしてすごく優れているなぁと思わされました。
内田:おぉ、うれしいです。何か一つのことに特化してるバンドより、長く聴いてもらえる作品を作れるバンドを目指していきたいですね。
やっちゃったからにはとことんやってやろうかなっていう気持ちになってる。
―ちなみに、ふくろうずにリーダーはいるんですか?
内田:作詞・作曲をしてるというところで、イニシアチブを取るのは私ですね。他のメンバーはあまりしゃべらないんですよ。
―でも、曲を形にしていく上でコミュニケーションは取らないといけないですよね?
内田:それが、取らないんです……(苦笑)。だから、曲もちゃんとできてなかった感覚があって。今回はある程度無理矢理コミュニケーションを取ったおかげで、今までよりもバンド感が出たんじゃないですかね。
―今まではうまくいってないところがあった?
内田:「これ、バンドか?」っていう……(笑)。年齢が全員バラバラで、感覚もけっこう違う。音楽に関してはそんなにないんですけど、物の考え方に違いがあるんです。性格が温和だから他力的というか、ガツガツしてない。自発的に何かやってやろうみたいな主体性が薄い気がする。
―内田さんがリードしていかなきゃいけないんですね。
内田:今まではそれがストレスで、最近は少しずつはなんとか……。でも、さすがにもうみんな大人だし、変わってくると思うんですけどね。
―内田さんって、自分の価値観や世界観がブレなくて、芯が強いですね(笑)。
内田:今は優等生みたいな人が多いですよね。憧れるんですけど、自分はなれなそうだからしょうがないなって。
―アーティストってある種頑固なことが大切だと思うので、内田さんには是非そのままでいて欲しいと思いました! 今後、アーティストとして自分がしたいことはありますか?
内田:自分が本当に満足できるアルバムを作りたい一心ですね。
―「適当に作っていた」というバンド結成当初からすると、それって大きな変化ですよね。
内田:そうですね。すごく面白い人生だなぁって。バンドに誘ってもらったり、曲を作る機会をもらったのもそうだし、レコード会社の人が自分たちを気にかけてくれたこともそう。自分でひとつも選んできてないんですよ。でも、今はやっちゃったからにはとことんやってやろうかなっていう気持ちになってる。
―感謝の気持ちが強いんですか?
内田:それもあるけど、自分のどうでもいい発想が、人を動かす力になるっていうのが面白いんですよね。
―と、言うと?
内田:今回のアートワークにしても、今までは人に任せた方が絶対いいものができるって考え方だったんですけど、今回はジャケットやPVにかなり口を出してみたんです。そしたら、今までよりもいいものができて、意外に自分が口出しする方が強いものができるんだなって。やる気が出てきた感じです。
曲とかといっしょに人間として成長いけたらいいですね。そういう生々しいバンドでいたいです。
―こうやって内田さんやふくろうずがトライ&エラーを繰り返して少しずつステップアップしていく姿はきっと、色んな人にとって励みになりそうですね。
内田:確かに。私たちはインディーズのDIYなすごいバンドでもないし、真っ当に大手のレコード会社の人に関わってもらってる。そこである程度好きなことをやらせてもらってるのはちょっと珍しいかもしれないですね。
―音楽がいいのは当然として、主体性のあるアーティストじゃないと長く続かないと思いますし、そこも含めて多くの人がふくろうずに期待してるんでしょうね。ふくろうずはまだまだ成長していく気がします。
内田:うん、もうちょっといろんなことができるんじゃないかなと思っているんです。もちろん、次につながるものができたとは思っているけど、今回のアルバムですべてを出し切ってしまったという感じはないです。
―今の時点で、自分が乗り越えたい目の前の壁ってありますか?
内田:歌ですね。最近になって、もうこのバンドでは私が歌うしかないんだっていう意識が生まれてきたので、次のレコーディングからはもうちょっと前向きに歌えるんじゃないかなと。
―それはテクニカルな部分で自信がないということですか?
内田:そもそも、自分の声が好きじゃないんですよね。音痴っていうのもあるし、リズム感もあまりなくて。ただ最近ニール・ヤングを聴き直して、がんばろうって思いました。私もちょっと鼻声気味だし、こっち方向しかないって(笑)。
―いや、歌は最高に素敵だと思いますけどね(笑)。
内田:はい、気にしないで自然にがんばります。持ち味にしてしまおうというか、そういう割り切りが今までは足りなかったですね。だんだん自分と向き合えるようになれてるんじゃないかな。
―歌がもっと好きになれたら、よりよい作品ができそうですね。
内田:そうですね。ライブもかなり変わるかもしれない。今までは身体がこわばっちゃってほとんど歌えなかったんですよ。人前に出るのも嫌だったし、声も出ないし、とにかく手ごたえを感じるどころじゃなくって。でも、今年は大丈夫だと思います! 曲とかといっしょに人間として成長いけたらいいですね。そういう生々しいバンドでいたいです。
―話を聞いていると、本当に今も成長しているのがわかりやすく伝わってきますよ。
内田:あははは。聴き手も「内田が成長してる」って思ってくれたら面白いかもしれないですね。
- リリース情報
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- ふくろうず
『砂漠の流刑地』 -
2011年6月22日発売
価格:2,500円(税込)
Epic / ESCL-36731. もんしろ
2. 砂漠の流刑地
3. 心震わせて
4. トワイライト人間
5. ユニコーン
6. 灰になる
7. スフィンクス
8. 通り雨
9. みぎききワイキキ
10. キャラウェイ
11. 優しい人
※初回盤のみデジパック仕様
- ふくろうず
- イベント情報
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- ふくろうず
『そうだ!人生はワンマンだ』 -
2011年7月17日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
出演:ふくろうず
料金:前売3,000円
- ふくろうず
- プロフィール
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- ふくろうず
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2007年に東京で結成された、内田万里(Vo,Key)、石井竜太(Gt)、安西卓丸(Ba,Cho)、高城琢郎(Dr)からなるJ-POPバンド。2009年、デビューアルバム『ループする』、その翌年には2ndアルバム『ごめんね』をリリースし、ほとんどノンプロモーションながら現在もロングセールスを続ける。11月末には代官山UNITにてワンマンライブ『ごめんねワンマン』を開催、SOLD OUTを記録。
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