時間に追われない生き方から suzumokuインタビュー

「ウチナータイム」、もしくは「沖縄時間」という言葉をご存知だろうか? Wikipediaを引用させてもらうと、「時間にルーズであることを自嘲的に揶揄した言葉」とのことだが、つまり、沖縄にはそのルーズさを許容できるゆったりとした時間が流れているということであり、普段東京で時間に追われている人たちが沖縄に憧れるのは当然と言える。そんな沖縄を訪れたsuzumokuは、トレードマークのアコギではなく、エレキの弾き語りで、1日の始まりから終わりまでを描いたアルバム『Ni』を完成させた。12曲を通じてじっくりと描かれた「1日」からは、はっきりと沖縄時間が感じられ、アートワークやミュージックビデオも含め、suzumokuの過ごした沖縄での日々を追体験できるだけでなく、日常が続いていくことの尊さを、改めて再認識させられるような意味も持った、味わい深い作品である。

楽器屋に行っても、アコギのコーナーじゃなくて、エレキのコーナーに行くようになって(笑)。

―『Ni』は沖縄レコーディングによるエレキの弾き語り作品という、これまでとはちょっと趣の異なる作品となったわけですが、なぜこのような作品が生まれたのでしょうか?

suzumoku:昨年の末に初めて沖縄に行って、ストリートライブをやったんです。そのときに今回レコーディングしたスタジオも見ることができて、「ここで泊まりながらレコーディングできたらいいね」なんて話をしてたんです。それで、今年に入って5月あたりにできそうだって話になって。

―トレードマークのアコギではなくてエレキを使ったのはなぜなんですか?

suzumoku:当初はアコースティックギターでのんびり弾き語りっていうイメージだったんですけど、エレキギターというものに徐々に興味が沸いてきてたんですよね。元々専門学校でギター製作の勉強をしていて、エレキはたくさん作ってたし、友達のライブを見に行ったりして、いつもはアコギを持ってる人がエレキに持ち替えて弾いてるのを見たりすると、「やっぱりエレキもいいもんだな」って。だんだん楽器屋に行っても、アコギのコーナーじゃなくて、エレキのコーナーに行くようになって(笑)。

時間に追われない生き方から suzumokuインタビュー
suzumoku

―suzumokuさんって、本当にギターが好きですよね(笑)。

suzumoku:ギターを作るくらいですからね(笑)。それで沖縄でレコーディングをしようと思った時に、これまでもアコギの弾き語りはちょこちょこ作品にもしていたので、もっと違うことをやりたいと思って、じゃあエレキでやろうと。アコギに比べてエレキの方が力まずに弾けるし、沖縄のタイム感の中、さらにまったりとした良さが出せるんじゃないかっていうのもあったりして。

―エレキギターは持ってたんですか?

suzumoku:いや、持ってなかったので、スタジオにあるエレキギターを借りて、5本ぐらいズラッと並べて。でも、今までエレキはそんなに弾いてこなかったので、どのギターがどういう音かよくわからないわけですよ。だから、ホント見た目とニュアンスで、「この曲はストラト、これは…グレッチかな?」みたいな、楽器と曲のイメージをなんとなくつなげていったんです。

―じゃあ、アンプもそのスタジオにあったやつを使って?

suzumoku:はい、エフェクターも繋げずに、素直なギターの音でやりました。今までアコギの音に慣れてたから、エレキの弾き語りだとチープになっちゃうかなって思ったりもしたんですけど、意外にもチープさはまったく感じなくて。やっぱりアコギの弾き方で弾いてるので、6つの弦が全部鳴ってるんですよね。そういったことも含めて、すごい面白いものができたと思いますね。

―ちなみに、その後にエレキは買ったんですか?

suzumoku:買いました! 沖縄から帰ってきて、自分に合うエレキギターを探し始めたらどんどん楽しくなっていって、引越しの物件選びと似てるんですよね(笑)。いろんな楽器店に行って弾き比べまくった結果、つい最近ようやく見つかりまして。

―何を買ったの?

suzumoku:ほとんど一目惚れに近かったんですけど、ギブソンのES-320っていう、71年から74年ぐらいまでしか作られてない、市場に全然出てこないやつらしいんですけど、ルックスも面白かったし、弾いてみても違和感なくて、ずっと忘れられなくなっちゃって。

―一目惚れだったけど、そのときすぐには買わないで、「でもやっぱり…」みたいな感じ?

suzumoku:そうなんですよ。色々他のギターとも比べたんですけど、「やっぱあれかな」って。一番最初の「何だこれ?」っていう衝動に勝てなかった感じです。やっぱり出会いは大事ですよね(笑)。

2/3ページ:悲しいわけでもないんですけど、めちゃめちゃ嬉しいかっていうとそうでもなくて、非常にフラットな感覚で過ごせた。

悲しいわけでもないんですけど、めちゃめちゃ嬉しいかっていうとそうでもなくて、非常にフラットな感覚で過ごせた。

―沖縄には色々と魅力があると思いますが、どんな部分が特に印象的でしたか?

suzumoku:景色がまるで違いますよね。空とか風の流れも全然違うし、雲の形も全く見たことがないような、いろんな形のものが見えたりして。あと、人もすごく面白いんですよね。楽しいし、フレンドリーですし、こんな空気の中でレコーディングしたら、絶対楽しいだろうなって思ったんですよね。

―日常の中に音楽が溶け込んでる場所ですもんね。

suzumoku:そうですよね。沖縄の人にしかないグルーヴ感というか、島唄とか、三線とか、ああいう音楽から遺伝子レベルで染み付いている独特なリズム感があって、だからああいう人となりができてるのかなって思ったりしますね。

―HYとかも出てるし、ストリートミュージシャンのシーンも活発そうですよね。

suzumoku:鍵盤を弾いてると思ったら、急に三線で島の音楽をやったりとか、東京でも地元の静岡でも見たことない光景だったし、新鮮でしたね。自分が育った街にああいう民族の楽器があるってすごくいいなって思いました。

―実際行ったのっていつだったんですか?

時間に追われない生き方から

suzumoku:5月5日から1週間ぐらい行ってたんですけど…梅雨に入っちゃって(笑)。自分が妄想の中で抱いていた沖縄のイメージとは全然違って、曇り空だし…あと雨がスコールみたいなんですよね。ものすごい湿度で、曇り空で雨が降ってるんだけど29度っていう…さらに台風1号まで歓迎してくれて、逆に新鮮でしたね(笑)。


―それはそれは(笑)。ちなみに、その間に晴れ間はあったんですか?

suzumoku:晴れ間は…なかったですね(笑)。でも、元々写真とかミュージックビデオも沖縄で撮ろうって話はしてて、ちょっと明るい曇り空の日を狙って撮ったんですけど、仕上がったものを見てみると、そのちょっと明るい曇り空の感じが、このアルバムの雰囲気と合ってるんですよね。逆にものすごい青空だったら、またちょっと違う雰囲気のアルバムになってたのかなって。

―ああ、確かにちょっとメランコリックな感じもするアルバムですもんね。

suzumoku:振り切れてハッピーな感じではないっていうか、悲しいわけでもないんですけど、めちゃめちゃ嬉しいかっていうとそうでもなくて、非常にフラットな感覚で過ごせたなっていうのがあるんですよね。その分だけ、録音自体が楽しかったっていうのを感じやすかったのかもしれないです。

その曲を歌うときに自分がイメージしてた景色に、沖縄の景色がプラスされて、すごく歌ってて気持ちいいんです。これは沖縄マジックだと思いましたね(笑)。

―アルバムは新曲と過去曲が約半々で収録されていますが、はじめからそのつもりだったんですか?

suzumoku:いや、それも特に考えずに行ったんですよ。何曲か入れたい曲はあったんですけど、全部は決まってなくて、向こうで考えました。ただバラバラに入れてもなあとは思ってて、そんな中「朝・昼・夕方・夜」ってシーンに分けたら面白いんじゃないかと思って。一通り聴くと、1日の流れが表現できてるような。それで、今まで発表した曲の中から、それぞれの時間に合うものを何曲か出して、まだ発表してない曲も、まだ途中の歌詞カードとかも見ながら、「どれがいいかな?」って選んでいったんです。

―発表してなかった曲の中には、古い曲とかもあるんですか?

suzumoku:“夕焼け特急”はすごい昔で、専門学校にいる頃に作った曲なんですよ。そういったものも、沖縄で弾いてやってみると、「いいな」って思えたりとか、東京の自分の部屋で黙々とやっててもピンとこなかったものが、「あ、いいかもしれない」って思えたりして。

―逆に、沖縄で作ったりは?

suzumoku:作ってはいないんですけど、“ラムネノーツ”っていう曲が、多分一番新しい曲なんですね。それは静岡の海に遊びに行ったときにイメージができて作った曲なんですけど、そのイメージがすごく沖縄とも合ったんですよね。

―まさに、“ラムネノーツ”は沖縄の空気にインスパイアされてできた曲なのかな? って思ってました。

suzumoku:そうではないんですけど、その曲を歌うときに自分がイメージしてた景色に、沖縄の景色がプラスされて、すごく歌ってて気持ちいいんです。これは沖縄マジックだと思いましたね(笑)。

―“ラムネノーツ”の歌詞はすごくいいですよね。元々suzumokuさんって、曲の中でのストーリーテリングが上手いけど、この曲は説明的にならずに心情の変化をはっきり伝えていて、ラムネっていうアイテムの使い方も効果的だし、すごく完成度が高いなって。

suzumoku:ありがとうございます。歌詞とか要約したら「この人仕事やってんのかな?」みたいな主人公ですけどね(笑)。

2/3ページ:「どういう人がこの歌を作ったんだろう?」って伝えるために、例えば(自分の)手書きの歌詞とか、イラストとか、写真とかって必要だと思うんです。

「どういう人がこの歌を作ったんだろう?」って伝えるために、例えば(自分の)手書きの歌詞とか、イラストとか、写真とかって必要だと思うんです。

―ジャケットやアー写に使われてる地図はどういう経緯で作られたんですか?

suzumoku:そもそもは思いつきです(笑)。レコーディングをする中で、記録として、「ここでインストアライブしました」とか、「ここ観光に行きました」とかってわかるものにしようって話をしてたら、予想以上にでかいものができてしまって(笑)。一緒に来てくれてたデザイナーさんがクレヨンでバーって書いてくれたんですけど、ただの地図じゃなくて、すごくいい作品になってたので、「これ何か使えるんじゃない?」って。

時間に追われない生き方から suzumokuインタビュー

―さらに、イラストも加わってますね。

suzumoku:これは僕が書いたんですけど、なんとなく絵を描きたくなって、一枚作ったらもっと書きたくなっちゃって、最終的には沖縄から帰ってきてからも多少書いてるんですけど(笑)。あと、このアー写も面白くて、池間島にミュージックビデオを撮りに行ったときに、看板があったであろうフレームだけポツンとあったんですね。最初はそんなに気に留めなかったんですけど、これ(地図)ができてから、「あ、あれだ!」と思って、持っていって、ガッと掲げて。

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―へえ、このフレームは元々ここにあったものなんですね。

suzumoku:そうなんです(笑)。そしてまた偶然にも看板が飾ってあったであろうボルトが一本だけ残ってて、そこに慎重に引っ掛けて(笑)。で、このパッケージも25×25のアナログ盤みたいになってて、ブックレットもでっかい旅のしおりみたいな感じになってます。

―suzumokuさんの作品は毎回パッケージに対するこだわりもすごいですよね。

suzumoku:自分で作った曲をアルバムにしようっていうときに、プラケースにポンって入れて、「出しました!」だと、なんかそっけないんですよね。だから、何かしら作品にしたいんです。歌自体はライブにも聴きに来てほしいですけど、CDとして出すときは、その歌たちをより引き立たせる作品というか、アートワークにしたいなって。

―これを買った人はみんな部屋に飾るでしょうね。

suzumoku: CDラックには入らないですしね(笑)。写真とか絵もそうなんですけど、臆せずやりたいことを自分でやって、いろんな一面を見せられたらいいなって。「どういう人がこの歌を作ったんだろう?」っていうのが伝わるためのひとつとして、例えば手書きの歌詞であるとか、イラストとか、写真とか、そういうのって必要だと思うんです。

「こんなときだから」って自重してしまうと、もはや何もできなくなってしまう。

―suzumokuさんは、3月11日に仙台への移動中に被災されたそうですが、その経験と、本作の沖縄レコーディングっていうのは、直接は関連してないわけですよね?

suzumoku:うーん、若干吹っ切れた感もあって、「行こう」ってなったっていうのはありますね。あの震災を今後どう捉えるかっていうのは、すごく悩んでたんです。言葉の表現も、震災をきっかけにすごく変わるっていうか、もう変わってると思うし。だから、それをどう消化すべきかっていうのはずっと考えてました。

―あれから3ヶ月経ちましたが(取材は6月14日)、気持ちに整理はつきましたか?

suzumoku:悲しい出来事だったってずっと思い続けるのも違う気がするんですよね。偶然にも無事でいることができたんだから、その経験を未来へつなげていかなきゃいけないと思うんです。バンドでのツアー中だったから、あの経験を通じてメンバーと人間的にすごく近づくことができたと思っていて、そういう経験をもたらしてくれたもののひとつとして捉えた方が、今後どうしていくかにもつながると思うんです。「こんなときだから」って自重してしまうと、もはや何もできなくなってしまうっていうのもあったし、やりたいことがあるのであればやればいい、「じゃあ沖縄行きましょう!」って。

時間に追われない生き方から suzumokuインタビュー

―もちろん、悲しい出来事だったけど、前向きに捉えて、物事を推進する力に変えようと。そういう意味で、間接的に沖縄行きにもつながったわけですね。

suzumoku:今回のアルバムは震災を意識して作ったわけでは全くないんですけど、歌もすごく日常的なものが多いですから、結果的にそれが誰かの励みになったりとかにつながればいいんじゃないかなって。

―朝から夜まで、普通に日常が続いていくことの尊さっていうのが、結果的に表されてるアルバムだっていう言い方もできるかもしれませんね。

suzumoku:そうですね。沖縄って都心に比べて高層ビルが圧倒的に少ないので、解放感がすごくあるんですよね。ちょっと晴れ間があったらずっと空を見てたりとか…飽きないんですよ、夕焼けとか、何度見ても。震災があって、悩んでいて、精神的に疲れてた部分があったんですけど、そこから解放してもらったかもしれませんね。

リリース情報
suzumoku
『Ni』

2011年7月6日発売
価格:2,500円(税込)
APPR-2504/5

1. ガタゴト
2. ホープ
3. ユーカリ
4. ライトゲージ
5. セスナの空
6. ラムネノーツ
7. 夕焼け特急
8. 幻灯機
9. 衣替え
10. 適当に透明な世界
11. ジオラマ
12. 如月
[DVD収録内容]
・ラムネノーツ
・幻灯機
・ジオラマ
※25cm×25cmレコジャケ風仕様

イベント情報
弾語りワンマンライブツアー『aim into the sun ~nickel wound~』

2011年8月2日(火)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:宮城県 仙台 SENDAI KOFFE CO.

2011年8月3日(水)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:宮城県 仙台 SENDAI KOFFE CO.

2011年8月9日(火)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:愛知県 名古屋 TOKUZO

2011年8月10日(水)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:大阪府 大阪 digmeout ART&DINER

2011年8月11日(木)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:福岡県 博多 Gate's 7

2011年8月17日(水)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京都 代々木上原 MUSICASA

2011年8月18日(木)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京都 代々木上原 MUSICASA

料金:全公演 前売3,500円 当日4,000円(共にドリンク別)

プロフィール
suzumoku

高校卒業後、専門学校に入学し、国産手工ギタ―工場に就職。06年夏、プロミュ―ジシャンになることを決意。07年1月に上京し、10月にアルバム『コンセント』でデビュー。2010年は、アルバム『素晴らしい世界』とシングル3作品を発表。今年1月にリリ ―スしたアルバム『ベランダの煙草』はブル―ス色やフォーク色を強め、“陰”と“陽“のベクトルの異なる2つの要素が表現され自身の完成系と支持を得ている。



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