「生活に密着した音楽」。単なるキャッチコピーではなく、それを言葉そのままの意味として鳴らしているのが、Curly Giraffeというミュージシャンだ。
ギターやオルガンやドラムなど全ての楽器を演奏し、歌も含めた録音をすべて自宅スタジオで行う彼。ジャケットデザインも含め作詞以外のほぼ全てを1人で手掛けるDIYな制作スタイルから作り上げられた楽曲は、肩の力の抜けたナチュラルな心地よさに満ちている。ときに穏やかで、ときにソウルフルなそのサウンドは、聴き手の日常にぴったりとフィットする響きを持っている。
5枚目のアルバム『FLEHMEN』を、オリジナル作としては初のメジャーレーベルからリリースする彼。派手な宣伝にもわかりやすい共感にも頼らず徐々に支持の輪を広げてきたその音楽性は、どのようにして生み出されたものなのか? 独自の音楽哲学とライフスタイルについて、語ってもらった。
あえて色を全部塗りきらない。他人から見たら書きかけに見えるかもしれないけど、そこの気持ちよさは大事にしてますね。
―今回のアルバムはメジャーからのリリースとなるわけですけど、その経緯は?
Curly Giraffe(以下:C):単純にお話をいただいて、この機会にメジャーで出したいとシンプルに思って決めたというだけです。自分が難しいことをやってるとは決して思ってないし、むしろポピュラリティのあるものだと信じているので。僕としても、聴いてもらう間口を広げたいですからね。
―基本的にCurly Giraffeでは自分のために音楽を作っているということを、以前に聞いたことがあります。
C:そうです。
―ということは、売れるために作品性を変えるという発想はなかったわけですよね。
C:というより、もし自分にそういうものが作れるんだったらとっくに作ってると思うんですよね(笑)。僕はそういうタイプのアーティストではないから。自分が好きなものしか発信できない。今回も今までと作り方を変えてもいないし、自分が鳴らしたい音を作ってるというのは、インディーの時と全く同じです。
―アルバムは自宅スタジオで作られているんですよね。
C:全て自宅で作ってます。そういう制作方法も全く変わってないですよ。
―とすると、日々の暮らしの中で、曲作りと演奏とレコーディングは、どう位置づけられているんでしょうか? たとえばきちんとしたレコーディングスタジオで録音するのとは状況も、距離感も全く違うと思うんですが。
C:「さぁ、今から移動してレコーディングだ」みたいな、そういう意味での切り替えはないですね。制作自体が、もっと生活に密着しているというか。基本的に、あんまり時間はかけたくないタチなんです。昼に曲にとりかかったら、夕方にはオケができ上がっているくらいでいたい。今回の曲も、1日に1曲オケは作り終えるくらいの感覚で作ってました。
―それは手っ取り早いですね。
Curly Giraffe
C:1人でやってますからね。ちゃんとしたスタジオに入っていろんな人と関わって作る方法もあると思うけれど、Curly Giraffeの場合は、頭の中に鳴ってるものと実際に鳴らすものの誤差を少なくしたいんですよ。自宅でやるという理由のひとつも、それなんです。外のスタジオに行くと、曲を思いついた時の気分が切り替わっちゃう。そうじゃなくて、思いついた時の純度100%のまま、音を録りたい。自宅と別の場所にスタジオを作る人もいるんですけど、僕の場合はそうしてしまうと、曲を思いついた時の気持ちが持続しない。記憶が無くなる前に音にしたいから、夕方くらいには全体が録れてるんですよ。
―そこから手直しをしたり、音を足したりはします?
C:あんまりしないですね。違う日に聞きなおしてやり直しても、最初のアイディアに勝てない。自分であざとく感じてしまう。そうすると、自分が聴きたい曲じゃなくなっていくんですよね。そこも含めて、あえて色を全部塗りきらない。他人から見たら書きかけに見えるかもしれないけど、そこの気持ちよさは大事にしてますね。
2/3ページ:見ようによってはウサギに見えるかもしれないけど、見ようによってはゴミに見えるかも知れない。その曖昧さが、僕の音楽にとっては意外と重要というか。
見ようによってはウサギに見えるかもしれないけど、見ようによってはゴミに見えるかも知れない。その曖昧さが、僕の音楽にとっては意外と重要というか。
―Curly Giraffeの音楽は、居心地の悪い音が一切鳴っていないのが魅力だと思うんです。それは、手直しをしたり、音を整えなくてもいいという発想のせいかもしれないですね。
C:洋服に喩えるなら、僕の音楽には、ほつれがあるんですよ。そういうほつれも僕の音だから、そこをきちんと聴いて欲しいというか。質感や手触りも大事なことだから。
―その質感や手触りって、音や洋服だけじゃなくて、いろんなものに喩えられそうですよね。
C:布で言うなら、皺とか汚れもあるような感じかな。決して綺麗に整えられたものではない。形も、見ようによってはウサギに見えるかもしれないけど、見ようによってはゴミに見えるかも知れない。その曖昧さが、僕の音楽にとっては意外と重要というか。
―たとえば写真とかデザインで言うとどうでしょう?
C:写真でいえば、ちょっとくすんでいる感じでしょうね。でも、たとえばパステルカラーとか、淡い、優しいものを作ろうという意識は全然なくて。自分にとって興奮するものを作りたい。他人の音楽を聴くときもそうなんですけど、色気があるのが好きなんです。それがあんまり感じられないものは魅力を感じなくて。しかも、わかりやすい色気じゃなくて、どこかにそういう匂いがするもの。自分の中でそういう基準が無意識のところにありますね。
―アルバムのタイトルの『FLEHMEN』も、馬とかライオンのオスが興奮した時に行う仕草なんですよね。
C:そうそう。馬が笑ってるみたいに歯を見せる表情って、フレーメン現象というらしいんですね。僕自身、音楽に対してそういうものを求めているというか。10代の頃は頭で聴いたりもしていたけれど、最終的にずっと聴き続ける曲というのは、本能に響いたもの。一過性ではなくて、気に入ったら一生聴いてもらいたい気持ちで作ってるし、そういうものを目指したい。本能に響く音楽でありたいという希望も含めて『FLEHMEN』というタイトルにしたんです。
―なるほど。そういう意味でのポップさなんですね。
C:決して、難しいことをやろうと思ってやってないから。自分にとってシンプルに気持ちいいことをやりたいと思ってやってるだけなんですよね。伝えたいものは無意識のものなんで。あと、僕の場合は録音する順序も大事かもしれない。
―順序というと?
C:基本的にレコーディングって、リズムから先に録っていく場合がほとんどなんですね。ドラムとベースを入れて、その上に他の楽器を重ねて、最後に歌を入れるという。でも僕の場合は、最初に歌とコードを入れて、そうしたら不得意な楽器から先に録って入れていくんですよ。僕、専門がベースなので、ベースはだいたい最後に入れるんです。ベースを最初に入れると、それである程度成立してしまうので、他に入れたい音のアイディアが浮かばなくなっちゃう。
―組み立て方が違うんですね。
C:そうそう。逆に、不得意な楽器からやると、ここにもうちょっとこういう音があればいいなというアイディアが浮かんでくる。他の楽器と比べると、ベースはどうしたって上手なので(笑)弾きすぎちゃうのを避ける意味で最後にいれるというのもあるかな。最後にダルマの目を入れるようにベースを入れる、という。
1人でもCurly Giraffeとして音を届けられたほうがいいな、と。
―去年は弾き語りのツアーもされていましたよね。それはどういうことが発端になったんでしょうか。
C:それまでライブはバンドじゃないとやりたくなかったんです。だけど、去年の震災があってから、考え方が変わりました。1人でもCurly Giraffeとして音を届けられたほうがいいな、と。あと、弾き語りだから、身軽に地方にも行けるしね。それに、キーボードの堀江(博久)くんが参加してる場所もあったし、1人でやる時もあって。いろんな方法でライブをやれるということを証明できた。それをやったことは、自分が変わるきっかけにもなりましたね。
―どう変わったんでしょう?
C:せっかく1人なんで、小回りがきくようにしておきたいんですよね。それに、弾き語りをやることによって、自分の曲の緩急がよくわかる。淡々とした曲のイメージだったんだけど、ダイナミクスをつけるとさらに面白くなるんですよ。
―これまでバンドと一緒にやっていたグルーヴがなくなったからこそ、見えてきたものがあった、と。
C:そうなんです。いわば骨組みしか見せることができないわけですよね。だから骨の形をもっときちんと作る意識ができた。今までバンドという鎧があったからどうにでもなるって思ってたんだけど、でも、芯がしっかりしてないとどうにもならない。それをまざまざと感じることができたという。アルバムを作るときも、前のアルバム『idiots』の時にあったバンドサウンドの発想を一度取っ払おうと思って。楽器編成は関係なく、思いついたことを音にしていこうということは思ってました。
みんなが思っている「わかりやすさ」はしっくりこない。
―歌詞はご自分で書かれているわけではないんですよね。
C:はい。
―実は歌詞を読みながら聴くと、印象が変わるアルバムだと思うんです。たとえば1曲目の “VEDEM”というタイトルは、ナチスの強制収容所で作られていた雑誌の名前からとったそうですが。
C:そうなんですよ。少年少女たちがナチスに隠れて作っていた本の話なんです。
―この曲や他の曲の歌詞には、おとぎ話のようなファンタジックなストーリーが語られていますけど、「強制収容所で虐げられた子が書いたものだ」という前提をもとに全曲を聴くと、全ての意味がひっくり返るというか。
C:捉え方によってはヘビーに思われるかもしれないけれど、それを普通に歌う。それがCurly Giraffeっぽいなとも思っていて。歌詞も同じ方向を向いてるのかもしれません。苦しいことを苦しい感じでは歌いたくないんですよね。人の気持ちって、そんな単純じゃないな気がする。その部分をちゃんと音や言葉や、歌にこめたいというか。人って、もともと曖昧なものな気がするんです。今の世の中にあるヒットチャートの曲のほうが、不自然に感じてしまう。人の気持ちからかけ離れているというか。
―調味料がひとつの種類しか使われてない感じというような?
C:そうそう。もちろんCurly Giraffeみたいな音楽ばっかりになっても気持ち悪いんだけど(笑)、こういう音楽を作ってる人がいるというのも知ってもらいたいというか。
―Curly Giraffeの音楽って、こういう言い方をすると誤解を招きがちかもしれないけど、言葉の正しい意味で「オーガニック」な音楽だと思うんです。優しいとか、アコースティックとか、単なる心地よいグッドミュージックとか、そういうことじゃなくて、素材がそのままあるという。
C:ああ、そうだね。いわゆる、わかりやすい色に塗るという発想はないから。みんなが思っている「わかりやすさ」はしっくりこない。もっと曖昧に過ごしているんですよね。そこを自分の作品にちゃんと投影したいというか。自分もそういう人間だし。その辺は素直に表現していて。あと、僕にとっては音楽はあくまで楽しいもので。そこも大事なことではありますね。
どこにでもある食材で、美味しい料理を作れる人が格好いいなって思いますね。
―『FLEHMEN』のアートワークもご自分でデザインされたんですよね。ちなみに、他でもデザインのお仕事をされているんですか?
C:たまに、友達に頼まれてジャケットを作ったりはしてます。
―もともとデザイナーとミュージシャンと並行して活動されていたんですよね。
C:いや、最初はグラフィックデザインが本職だったんですよ。音楽が趣味だった。それがある時に逆転して、音楽が仕事になって、デザインが趣味になったんです。
Curly Giraffe『FLEHMEN』ジャケット
―そのふたつが繋がってる感覚はあります?
C:繋がってますね。基本的に、僕はモノを作るのが大好きだから。料理を作るのも大好きなんですけど。
―ちなみに、得意料理なんてお伺いしてもいいでしょうか?
C:僕の目指しているのは、冷蔵庫の残り物でパパっと何でも作れる人なんですよ。手の込んだ料理が作りたいわけじゃなくて。冷蔵庫を見て、これとこれとこれがあるから、これを作ろうって。
―フォアグラみたいな高級食材なんて使わないし、「男の料理」みたいに凝ったりするつもりもない、と。
C:そうそう。そういうのには、まったく興味ないです(笑)。
―なるほど。その話って、実はCurly Giraffeの音楽の説明になってる感じがします。
C:そうかもね。僕にとって、憧れの料理人はそういう人なんです。どこにでもある食材で、美味しい料理を作れる人が格好いいなって思いますね。
- リリース情報
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- Curly Giraffe
『FLEHMEN』 -
2012年3月7日発売
価格:3,045円(税込)
VICL-638521. VEDEM
2. Rose between two thorns
3. go now
4. Rootless wanderer
5. Enchanted road
6. Midnight explorers
7. Baron Nishi and Uranus
8. Necessary evil
9. Just barely
10. a week
11. seize and howl
- Curly Giraffe
- プロフィール
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- Curly Giraffe
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2005年10月にEP「Curly Giraffe e.p.」をリリース。翌2006年4月に1stアルバム「CURLY GIRAFFE」を発表し、ほぼノンプロモーションにもかかわらずロングヒットを記録。その後もコンスタントに作品をリリースし、高い評価を得る。作曲、演奏、録音、アートワークなどを一人で行うなど、その才能は多岐にわたる。2012年3月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「FLEHMEN」を発表。
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