夢は自家用ジェット機! 少年ナイフ インタビュー

何せこれだけの長いキャリアを持つバンドなのだ。きっとそれに伴う苦難の時期もあったはずだし、その辺りも含めて、改めてここまでの30年を振り返ってもらおうと今回のインタビューに臨んだのだけど、筆者のそんな狙いは見事なまでに大外れしてしまった。というのも、少年ナイフの3人が口にするのは、どれもこれもこのバンドで活動することの喜びに満ちたものだらけで、それでも食い下がろうとすると「楽しかったことしか覚えてないからなぁ」と困った顔をされてしまうのだから、これにはもう脱帽するしかなかった。同時に少年ナイフというバンドがこの日本で生まれた奇跡を再確認させられるばかりだった。

そして今また彼女たちから届いた新しいアルバム『Pop Tune』を聴くたびに思うのだ。このタイトルそのままの弾けるような歌と演奏に胸が高ぶる感覚は、もはや恋した時とさほど変わらないなと。彼女達の歌うどこまでもシンプルで核心を突いたポップソングに、僕はまたしてもときめいてしまったのだった。

結成30年のバンドが等身大なんて言うのもなんかおかしいですけど(笑)。3人の気持ちがぴったり一致しているというか(りつこ)

―『Pop Tune』は、現在の3人になって初めてのオリジナルアルバムということになりますね。

なおこ
なおこ

なおこ(Vo,Gt):いまのメンバーはまさに最強だと思ってて。えみちゃん(Dr,Vo)が入ってからのこの3年間で、みんなの演奏するフレーズや感覚、すべてが私を含めた少年ナイフのイメージとぴったり合うようになったんです。演奏はもちろん、3人ともボーカルができるから、それぞれの声を重ねてハーモニーも広げられるし、本当にいい状態ですね。そんな中で作ったのが今回のアルバムなんです。


―その、なおこさんの考える理想の少年ナイフ像とは、バンドを結成した頃から変わらないものなんでしょうか。

なおこ:いや、なにも考えてなかったです(笑)。ただ、その時々でやりたいことや思いついたことを音楽にしていったらそうなったというだけのことで。私は目先のことを考えたり、計画を立てて行動することができないし、過去を振り返って反省することもなかったから(笑)。

―そうしたらいつの間にか30年が経っていたと。

なおこ:あっという間でしたねぇ(笑)。自分ではそんなに時間が経ったという感覚もまったくなくて。

―とはいえ、これほど長いキャリアを持つバンドに途中から加入するとなった時は、それなりの覚悟も必要だったのではないでしょうか。

りつこ(Ba,Vo):私はもともとファンから始まっているから、少年ナイフっていう存在がものすごく大きくて。だから、私が加わったことで少年ナイフが変わったと思われたらいやだなっていう気持ちはもちろんありました。少年ナイフでの自分はこうあるべきだよなって、構えていた時期も多少はあったかもしれません。それがここにきてものすごく自然体になれたというか。これが等身大の少年ナイフなんじゃないかなと思ってます。結成30年のバンドが等身大なんて言うのもなんかおかしいですけど(笑)。3人の気持ちがぴったり一致しているというか。

えみ:私もやっぱりファンだったので、少年ナイフっていう大きな看板を背負うことへのプレッシャーはもちろんありました。でも、それ以上にこのバンドに加われたことが嬉しかったし、入ったからには少年ナイフをもっといい状態にしたいという気持ちが最初からあって。

左から:えみ、なおこ、りつこ
左から:えみ、なおこ、りつこ

―バンドがピリピリしたムードになることもなかったんですか。

りつこ:ないですね。ただ、少年ナイフの音楽に対して純粋でありたいとだけ思っていました。自分が入ってバンドが汚れていくのはいやですから(笑)。

なおこ:たとえば売れることを目的としたバンドだったら、大衆に受け入れられるための研究をしたりしなきゃいけないだろうし、見かけを気にして整形手術が必要になることもあると思うんですけど(笑)。少年ナイフの場合は好きな音楽を楽しくやりたいだけだし、それをお客さんにも楽しんでほしいというのが基本だから。

―大衆からの反応を意識したことはこれまで一度もなかったのですか。

なおこ:もちろん売れたらすごく嬉しいですけど、私にはそこまで考えられないというか(笑)。

りつこ:それよりも、たとえば私は自分が加わる前の曲を忠実に表現したいと思うし、なおこさんがここまで作り上げてきた少年ナイフのイメージを大切にしたいんです。それと同時にもっと新しいナイフを見せていきたいとも思っているし。

なおこ:先日、大阪の難波ベアーズで少年ナイフの結成30周年記念ライブを2部構成でやったんです。1部はこれまで出した各アルバムから1曲ずつ、現在から過去に遡っていくような構成で演奏して。最後の方なんか、もう演奏するのが20年以上ぶりの曲もあったんですけど、それをこの3人で演奏したら、ものすごくいいグルーヴが出たんですよ。お客さんからのエネルギーもすごかった。それに、私は過去のことをどんどん忘れていくから、だんだん自分が当事者なのかどうかもわからなくなってきて(笑)。

りつこ:私の方がなおこさんより曲を覚えていたり(笑)。「なおこさん、昔のライブではこういう風にやってましたよ」って(笑)。当時はフロアからなおこさんの姿を見ていましたから。

えみ:でも、ライブで演奏している時はとにかく必死だから、思い出に浸るような感じもなかったですね。

なおこ:で、2部は初期少年ナイフを知る3人の方をゲストに呼んでトークショーをやったんですけど、その準備で昔のビデオや写真、音源なんかをたくさん引っ張り出したんです。そしたらなんか、すごく新しい発見をしたみたいな気持ちになって(笑)。初期は初期で、すごい狂気を感じるものがあったなと。

音楽にはいろんなものがあるけど、やっぱり主役はポップだと思ってて(なおこ)

―今回のタイトルを『Pop Tune』にしたのは、もしかするとそのように一旦キャリアを総括したことも影響しているのでしょうか。

なおこ:どうだろ。前作はRamonesのカバーアルバムだったし、その前の『Free Time』はパンクっぽい曲が多かったので、今回は自分たちの中心にあるポップを表現したかったんです。音楽にはいろんなものがあるけど、やっぱり主役はポップだと思ってて。その主役になれるポップなアルバムを作りたいなと思ったから、今回はこのタイトルにしました。

―そういえば、なおこさんはいつもレコーディングが決まってから曲作りを始めると聞いたんですけど。

りつこ:もちろん今回もそうでしたよ(笑)。

なおこ: 1ヶ月に1曲ずつでも作っていけばいいのにってよく言われるし、自分でもそう思っているんですけど、私はなかなかの怠け者で(笑)。レコーディングするためにスタジオの予約を取って、それでようやくお尻に火がつくんです(笑)。

りつこ:(笑)。それでも今回はまだ余裕があった方だよね。

なおこ:だから、私にはストックもなにもないので、作った曲はぜんぶ出すしかないんです(笑)。

―つまり少年ナイフに未発表曲はないと。

なおこ:そうなりますね。もちろん半分しか形にできなかったようなものはいくらでもあるんですけど、100%仕上がった曲に関しては、すべて世に出ていることになります(笑)。

えみ

えみ:わたしはこんなに短い期間で曲のアレンジを考えるのが初めてだったから、正直「うわぁー!」ってなりました(笑)。でも、よく考えたらなおこさんは歌詞も書かなきゃいけないし、もっと大変なんだから、こんなことでくじけちゃいけないって。だから今回のレコーディングですごく強くなれた気がしてます(笑)。

なおこ:すごくいいドラムを考えてくれたもんね。みんなの考えてくれたアレンジがばっちり曲にハマってくれたなぁ。ふたりともすごいなと思いました。

―アレンジはすべてメンバーに委ねているんですか。

なおこ:はい。もう好きなようにやってほしかったし、3人がちょうどいい感じにまとまってきた時期に録音できたから、ホントによかった。

悲しいことを題材にして歌ったら、またそれを思い出して悲しくなるでしょ? そういうのは忘れたいから。(なおこ)

―では、この『Pop Tune』というタイトルにちなんで、みなさんにとってのポップとはどういう音楽のことなのかを改めて言葉にしてもらうことはできますか。

なおこ:そうだなぁ。カラフルで楽しくて…やっぱり楽しいってことが大切かな。あとは、かわいいとか(笑)。

りつこ

りつこ:私の中ではThe Beatlesのポール・マッカートニーとなおこさんが、2大ポップアイコンなんです。世界中にポップソングを書く人はたくさんいるし、そのポップにもいろんな捉え方はあるんだと思うんだけど、今なおこさんが言ってたような、カラフルでかわいくてっていう定義が当てはまるメロディを書いているのがまさにその2人で。


―つまり、りつこさんにとってのポップとは、そのまま少年ナイフの音楽であると。

りつこ:そういうことなのかもしれませんね(笑)。

なおこ:すごいなぁ(笑)。いや、でもポールはまさにそうですよねぇ。もちろん、マドンナやレディ・ガガ、マイケル・ジャクソンこそがポップだと思う人もいるだろうけど、私たちの考えるポップっていうのは、そのポール・マッカートニーとか、The Beatlesみたいな感じになりますね。

―同時に、これまで少年ナイフは社会批判的なメッセージを含む楽曲も発表してきましたよね。

なおこ:一応今回も“Pop Tune”という曲で「政治家はいらない」とは歌っていますけど。今の日本の政府は情けないですからねぇ。でも、意識的にそういうメッセージを込めたいという感覚はなくて。今回だったら、楽しいポップな曲を作ろうとしている流れでこういう言葉が出てきたっていうだけなんです。

―では、怒りや悲しみが曲作りのモチベーションにつながることは過去にありましたか。

なおこ:悲しみはないですね。だって、悲しいことを題材にして歌ったら、またそれを思い出して悲しくなるでしょ? そういうのは忘れたいから。でも、怒りはたまにありますね。たとえば90年代に“ブッダズ・フェイス(仏の顔も3度まで)”っていう曲を書いた時なんかは、ちょっと怒ってたことがあって、「3度までだぞー!」って気持ちだったんです(笑)。でもそれも、素直に怒りを表したというよりは、ギャグにして表現したところもあって。そういう歌も笑ってもらえたら嬉しいんです(笑)。

ロンドン、東京、ニューヨークはけっこう近い雰囲気かも。逆にテキサス辺りはちょっと大阪っぽかったり(りつこ)

―では、今の若い世代に、少年ナイフと共振するようなポップ感を持ったバンドはいると思いますか。

なおこ:なかなかナイフっぽいバンドってあんまり見たことないよね。

りつこ:特に日本だとあまりいないような気がしますね。

なおこ:私はもともと海外の音楽ばっかり聴いて、日本の音楽をほぼ知らず、ある意味純粋培養された状態でここまでやってきたところがあるんです。恐らく今の若い人は日本の音楽もたくさん聴いているだろうから、そういう感覚というか、フィルターの通り方が違うんだろうなぁとは思って。日本にも好きなバンドはたくさんいるんですけど、それはポップというより、もっと独特の面白い音楽をやっている人の方が多いかもしれません。あと、私はロックの言葉って英語だと思っているんですけど、いまは日本語で歌っている人がたくさんいるから。自分が英語でやっているのは、ずっとイギリスやアメリカの音楽が好きだったというのと、英語だと短いメロディにたくさんの意味を詰め込めるからで。日本語で同じ情報量を伝えようとすると、もっとたくさんのメロディが必要になる気がするんです。もちろん日本語で歌うのが楽しい時もあるから、一概には言えないんですけどね。それに、日本以外の国では英語がユニバーサル言語だから。アメリカやヨーロッパにも私たちの歌詞を聴いてくれる人がたくさんいるしね。

左から:えみ、なおこ

―それこそ少年ナイフは世界各地をライブでまわっていますから、オーディエンスの受け止め方もきっと様々ですよね。

なおこ:それはひとつの国の中でもばらばらですよね。日本でも、大阪だとやたら賑やかになるけど、東京はちょっと上品だったり。海外でライブを始めたのは1989年からなんですけど。

りつこ:ロンドン、東京、ニューヨークはけっこう近い雰囲気かも。逆にテキサス辺りはちょっと大阪っぽかったり(笑)。いまの3人になってから2回アメリカを周ってるんですけど、同じ街でも訪れるたびに盛り上がりが大きくなっているのは感じます。あそこは前回より盛り下がったなぁと感じたことはなかったですね。

―その中でも、やはり大阪という場所にはホームとして特別な思いがあるのではないでしょうか。

なおこ:まあ、今の3人に関して言うと、えみちゃんは京都出身なので(笑)。私にとってのホームグラウンドは大阪になるとは思いますけど、初期の少年ナイフは京都でも頻繁に活動していたし、初めて出したアルバムは京都のレーベルだったから、その辺のエリアが私たちのホームということになるのかな。ただ、別に引っ越さなきゃいけなくなったらどこにでも行くし、住んでみたいところはたくさんあって。たとえば機会があればロンドンにも住んでみたいし。

―きっとなおこさんはどんな環境や状況でも、楽しもうという気持ちで向かえるんですね。

なおこ:自分でそういう風に思ったことはないですけどね(笑)。気がすごく弱いんですよ。たとえばみんなでテニスをやっても、気持ちですぐ負けちゃう。ポジティブな人って、何事も「勝つぞ!」っていう前向きな気持ちで臨める人だと思うんですけど、私はそういう風にはできないんです。

自家用ジェットを買えたらいいなとかは思います。それもポケモンの飛行機じゃないけど、少年ナイフのキャラが書いてあるようなやつがいいな。

―では、音楽以外でなにかこの3人の接点になっているものがあれば教えてください。

りつこ:私たちはいつも食べ物の話ばっかりしてるよね(笑)。

なおこ:ツアーに行くとそればっかりだよね。どこの国のなにが美味しかったとか、それで何キロ太ったとか、そういうことしか覚えてない(笑)。常に今が面白いから、昔のことは思い出せなくなっちゃうんですよね。バンドをやっていると、見に来てくれるお客さんにちやほやしてもらえるし、やっぱり楽しいです(笑)。私達はいつも、少年ナイフが好きで見に来てくれる人とばかり接触しているし、ましてそのなかにすごくかっこいい人とかがいたら嬉しいですよね(笑)。

―でも、こんなに少年ナイフが愛されている状況って、それこそバンドが長いキャリアを積み重ねてきた中で時間をかけて築いたものですよね。

なおこ:そうですね。70年代後半のパンクやニューウェイヴがあったり、The Raincoatsみたいな女の人のバンドがいたことで、自分たちもそういう風になりたいと思って演奏を始めたんですけど、雑誌とかでよくヘタウマバンドみたいに書かれているのを見て「私たちこんなんでいいのかなぁ」と思うときはありました。確かに対バンの人たちってみんな私たちより上手いし、それは今も変わってなくて。そのくせに家で練習なんてまったくしてないし、歌はいくらやってもうまくならない。たぶん扁桃腺が大きいからだと思うんですけど(笑)。ギターを弾くにも私は指が短いし。

―いつ頃から手応えを感じるようになったんですか。

なおこ:いまでもこんなんで喜んでもらっていいんだろうかとは思いますよ(笑)。最近はTwitterとかで少年ナイフをネタにした会話を見て「なるほど、こんな風に思われてるのか」と思うこともあって。幸い、そんなに悪く言われていたことはあまりなかったのでよかったです。まあ、ブサイクだと書かれてる時はあったけど、整形なんて痛そうなことはできないし(笑)。いつも目先のことしか考えてこなかったからなぁ。あ、でもこれからドッカーンって売れて、IRON MAIDENみたいに自家用ジェットを買えたらいいなとかは思います(笑)。それもポケモンの飛行機じゃないけど、少年ナイフのキャラが書いてあるようなやつがいいな。

りつこ:(笑)。確かにあの長いフライトは大変ですからね。

なおこ:昔はまだ日本の経済状況がよかったのもあって、アメリカへの直行便があったけど、いまは移動費も時間もすごくかかっちゃうんですよね。だから、夢は自家用ジェットですね(笑)。

左から:えみ、なおこ、りつこ

リリース情報
少年ナイフ
『Pop Tune』

2012年6月6日発売
価格:2,625円(税込)
PCD-25144

1. Welcome To The Rock Club
2. Pop Tune
3. Osaka Rock City
4. All You Can Eat
5. Paper Clip
6. Psychedelic Life
7. Mr.J
8. Ghost Train
9. Sunshine
10. Move On

プロフィール
少年ナイフ

なおこ(Vo/G)を中心に1981年、大阪で結成される。90年代にはニルバーナのカート・コバーンをはじめ、ソニックユース、レッドクロスなどのアーティストから絶大な支持を受け、ワールドワイドな活動を展開。結成以来、ツアーやレコーディングをコンスタントに行いロックシーンに独自のポジションを築く。



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