「三翼機」を意味するTRIPLANEの10年にわたるフライトは、決して常に順風満帆というわけではなかった。むしろ、度重なる悪天候の中を、何とか飛び続けてきたと言ってもいいのかもしれない。その悪天候とは、「自分の表現欲求と周りからの要求との溝」であったり、「地元・北海道との遠距離恋愛のような関係性」であったり。TRIPLANEのフロントマンで、作詞・作曲を担当する江畑兵衛は、この10年間の中で「自分のポリシーに反することもいろいろやってきた」と正直に告白し、今も戦いが続いているということを生々しく語ってくれた。そこには表現をすることの喜びと苦しみが同居しているだけでなく、ときに強烈な意地のようなものすら感じられる。初のシングルA面集『SINGLES 04-12』に収録されているのは、そんなフライトの中で産み落とされた、普遍的な美しさを放つ珠玉の15曲。ここから更なる高みを目指して飛び立とうしているTRIPLANEに、10周年の祝福と、心からのエールを送りたい。Cheers To TRIPLANE!
意固地になって「やりたくない」とも言えたけど、実際にやってみて、自分のものにしてきて、引き出しは確実に増えたと思うんです。
―『SINGLES 04-12』の15曲を通して聴いて、頭にまず浮かんだのは「普遍性」というキーワードでした。サウンドや歌詞の変遷はもちろんあったと思うんですけど、核にあるのはいい曲・いいメロディーで、それをずっと作り続けてきたんだなって。
江畑:シングルのA面はホントにそうですね。そこがぶれないようにやってきたし、ぶれそうになったときは、自分で一回冷却期間を作ったりもしたし……。でも、他のメンバーからそこについて言われたのが一番大きくて。やっぱり、曲を作ってるときは一人で戦ってるような意識もあるし、こっちが一生懸命朝まで作業して作った曲をメンバーに聴かせて、「これは違う」って言いづらいと思うんですよ。でも、それを言ってくれたときに、TRIPLANEとしてぶれちゃいけない部分に改めて気づかされたんです。
―具体的には、いつそういう話をしたんですか?
江畑:結構最近の話で、去年の“ドリームメイカー”っていう曲ができる前ですね。2011年に“イチバンボシ”っていう曲でサッポロビールの北海道エリアのCMソングをやらせてもらって、その次の年用の曲を書いてたんですけど、「去年と同じじゃダメだ」って、頭でっかちになってた部分があって。そもそも、「2年連続」で同じCMソングを担当するっていうのはありえないらしいんですけど、コンペがあるのに曲を出さないであきらめるのは嫌だったんですね。なので、「2年連続」っていう異例の事態を引き起こすためには、ただの延長線上にあるものではない何かが必要だと思って、キャッチーというよりはかっこいい、バンドらしいものにしようと思って。
―前年のCM曲だった“イチバンボシ”はストレートな曲で、わりとパッとできた曲だったんですよね。
江畑:そうなんです。なので、もうちょっとアダルトな雰囲気の曲を作って、「よし、これでいこう」って自分の中では納得してメンバーに聴かせたんですけど、そのときに突っぱねられました(笑)。「(江畑の)言ってることもわかるけど、まずこれはサッポロビールのCM曲っぽくない。TRIPLANEの曲としてはかっこいいけど、CMソングらしい爽快感やキャッチーさがない」っていう、根底の部分を言われたんですよね。「CMが決まってからどうこうよりも、まず俺らはCMソングを勝ち取ることが大事なんじゃない?」って言われて、そこでハッとしたんです。
―その後にできたのが、“ドリームメイカー”だったと。
江畑:ぶれちゃいけない軸の部分っていうのは、俺だけが戦って守ってきたものじゃなくて、みんなで守ってきたんだなって、すごく気付かされました。
江畑兵衛
―今回のアルバムに収録されている曲には、ほとんどタイアップが付いていますが、「こういう曲を作りたい」っていう表現欲求と、そのタイアップにマッチしたものを作る職業作家的な部分と、そのバランスを取ることはすごく難しいですよね。
江畑:もう、デビューしてからの8年はその戦いだったと思います。歌詞やサウンド面に関しては、常にディレクターやプロデューサーとの打ち合わせがあって、正直に言えば、自分のポリシーに反することもいろいろやってきたし、でも、その中で見えてきた部分もあったんです。
―それは、例えばどんな部分ですか?
江畑:僕ホントはストレートな歌詞ってあんまり好きじゃなくて、例えば、「頑張ろう」っていう気持ちを、「頑張ろう」っていう言葉を使わずに伝えたいと思うんです。でも、実際に「頑張ろう」って言ったときのパワーも、やってみて実感して。意固地になって、「やりたくない」って言うこともできたけど、でもそれを受け入れて、実際にやってみて、かみ砕いて自分のものにしてきて、引き出しは確実に増えたと思うんです。僕はそういうことを、アーティストのわりには受け入れてきたと思うんですけど(笑)、これからはもっと主張していいところは主張したいし、そのバランスがこの8年間でわかってきたなって。
歌詞って、もちろん内容も大事だと思うんですけど、僕はリズムやメロディーを殺さない歌詞の乗せ方っていうのがすごく気になるんです。
―僕は江畑さんと同じ1979年生まれなんですけど、僕らの若い頃ってまさにミリオンヒット時代で、バブルだったとも言えるかもしれないけど、実際いい曲がすごくたくさんあった時代だったと思うんですね。今はアーティストのキャラクターが重視されたり、「CDは売れないから、ライブの方が大事」とも言われたりしますけど、「やっぱり音源が大事」っていう意識が僕らの世代は強くて、それがTRIPLANEの楽曲が持つ普遍性の基盤になってるんじゃないかなって思ったんです。
江畑:僕らのときはネットもなかったですから、FMラジオで1コーラス流れたのを録音して、それをリピートして聴いて、CDの発売日に買いに行くっていう、ああいうのはやっぱり大事だと思いますね。そういう風に自分の音楽が待ち焦がれられて、聴かれる状態っていうのは、ホントに作りたいと思います。ただ、時代に順応することも大事だと思うので、古き良き時代に戻るってことじゃダメだとは思うんですけど。
TRIPLANE
―江畑さんのミュージシャンとしての原点も、その時代のアーティストだと言えますか?
江畑:僕は小6でサザンを聴いたのが大きかったんです。小6のときの担任が給食の時間に “真夏の果実”をかけたきに、イントロだけで「え?」って、給食どころじゃなくなっちゃった(笑)。すぐ先生のところに行って誰の音楽なのか聞いたら「サザンだ」って言われて、「俺も絶対これをやろう」と思ったんです(笑)。
―桑田さんから影響を受けたのは、特にどんな部分が大きいですか?
江畑:歌詞って、もちろん内容も大事だと思うんですけど、僕はリズムやメロディーを殺さない歌詞の乗せ方っていうのがすごく気になるんです。譜割りに対しての文節の区切り方とか、そういうのが合ってないと違和感があって、それは知らず知らずに桑田さんから学んだ部分だと思います。やっぱり英語にはどうしても敵わない部分があるんですけど、それをなんとか日本語で、メロディーやグルーヴを殺さないように言葉を乗せるっていうことを、桑田さんはすごく大事にしてきたと思うんですね。
―もともとは、すごく洋楽的なバンドですもんね。
江畑:今って、そういうのを大事にしてる人が少ないと思うんです。もちろん僕にも「メロディーやリズムが死んじゃうけど、この言葉をどうしても入れたい」ってときはありますけど、なるべくそういうことを少なくしたいっていうのは、間違いなく桑田さんの影響だと思いますね。
偶然10周年をみんなで乾杯して祝うような曲になって、そういうのは素敵だなって思いますね。
―アルバムにはダニエル・パウターに提供した“Cheers To Us”のセルフカバーも収録されていますが、リズムやメロディーの良さを消さない言葉の乗せ方という意味では、洋楽から受けた影響も大きいですか?
江畑:僕、洋楽はほとんど聴かないで来たんですよ。デビューしてから、「これ知らないの?」って言われる恥ずかしい現場がたくさんあったんですけど(笑)、自分から聴きたくて洋楽を聴くようになったのは、ホントにこの3、4年です。
―それってすごく珍しいですよね。洋楽を聴いてなかったっていうこと自体もそうかもしれないけど、メロディーに対する言葉の乗せ方を気にする人って、洋楽畑の出身がほとんどだと思うんです。
江畑:僕は完全に桑田さんなんでしょうね。それこそ昔は意味のない歌詞も多かったし、ライブでやるのにも歌詞がなくて、サビの1フレーズぐらい決まってれば、あとは何でもいいと思ってたんで。一度歌詞がないままテレビに出たこともありますよ(笑)。
―それ、すごいですね(笑)。でも、今は歌詞の意味性もかなり意識するようになってるわけですよね?
江畑:今はそうなんですけど、最初は「意味が分からない」とか「ストーリーがぼやけてる」とか歌詞についていろいろ言われても、素直に受け止められなかったりもして。
―でもさきほどおっしゃっていたように、意地にならずにやってみた?
江畑:そうですね。とにかく「やらなきゃ」と思ってやっていくうちに、言葉とメロディーがはまったときの感覚が納得できるようになってきたんですよね。リズムやメロディーを凌駕してしまうほどの言葉の強さっていうのも絶対にあって、それは経験として、徐々にわかってきたって感じです。
―今回のセルフカバーは、ダニエルが英語で歌っていたものを、日本語で歌っているわけですが、やはり難しい作業でしたか?
江畑:大変でした。やっぱり、先に英語の歌詞が乗っちゃうとね。日本語でちゃんと内容をつけようとすると、どうしてもジャパニーズミュージックの譜割りになっちゃったり、そういう悲しさを押し殺しながらやった部分もあるんで、すごく難しかったですね。
―でも、“Cheers To Us”は本当にいい曲だと思います。この曲にはスキマスイッチの常田真太郎さんも参加されていて、スキマスイッチもまさに今の日本の音楽シーンの中で普遍的な楽曲の魅力を大切に活動している方たちだと思いますが、どんなやり取りがありましたか?
江畑:常田さんはTRIPLANEのことをすごく評価してくれてて、もともと一緒にやりたいって言ってくれてたんです。いい意味で、「俺らをどんどん利用してほしい」って言ってくれて。
―それってすごく強い言葉ですね。ミュージシャンにとって他と比べられるっていうのは決して嬉しいことではないと思いますが、それを自分から言ってしまえるっていうのは、逆に自分たちに自信がないと言えないことでしょうから。
江畑:だと思います。一線でやるだけの気概と根性が備わってる人だと思うし、勉強になることがホントにいっぱいありますね。しかも、できあがった曲を聴いてホントに喜んでくれて、聴いてすぐに、真夜中にメールをくれて(笑)。熱さが伝わってきたんで、嬉しかったですね。
―しかも、“Cheers To Us”は結果的にTRIPLANEの10周年を祝うような歌になってるっていうのがいいですよね。
江畑:もともとはメロディーしか作ってないから、もちろんそういうつもりはなかったんです。ただ、誰かがダニエルにTRIPLANEを紹介するときに、「サッポロビールの曲を歌ってる」っていう話をして、「じゃあ、乾杯の歌にしよう」って、この歌詞を書いてくれて。おっしゃる通り、偶然10周年をみんなで乾杯して祝うような曲になって、そういうのは素敵だなって思いますね。
結構な紆余曲折があって、一辺倒な地元への愛だけで来たわけじゃないっていうか。今はようやく素直に、北海道を愛せるようになりましたね。
―出身の北海道に対する想いも聞かせてください。2010年あたりから、北海道を改めて見つめ直した活動をしていらっしゃいますが、そこにはどんな経緯があったのですか?
江畑:もともとは何の思い入れもなかったんですけど(笑)、全国ツアーとかで初めて地元を離れたことで、「自分たちは北海道の人間なんだ」ってアイデンティティーを再確認したし、北海道に対する自我が芽生えて。ところがそうやって想いが膨らみかけたときに、東京に出ることになっちゃって。だから、引き裂かれた恋みたいな(笑)。
―せっかく恋が芽生えたのに(笑)。
江畑:そう、遠距離恋愛のような不思議な関係になっちゃって(笑)。それが思ったよりも重傷で、スタッフの人と話す中で「北海道」っていうワードがタブーになっていき、まとまった休みができたときは本当は北海道に帰りたかったんですけど、それも許されないから、こっそりチケットを取って、それがバレて怒られたり(笑)。でもそこからスタッフが変わったりして、初めて北海道との関係が普通になったというか、社会人になって、東京でお勤めしてて、盆と正月に北海道帰りますっていう、そういう人たちと同じくらいの気持ちにやっとなって。その頃に作った“雪のアスタリスク”っていう曲をスタッフが聴いて、「この地元への想いをちゃんと形にしよう」って言ってくれて。
―なるほど、間にはいろんなことがあったんですね。
江畑:そう、結構な紆余曲折があって、一辺倒な地元への愛だけで来たわけじゃないっていうか。変に曲がってたときもあったし、想いが強過ぎちゃったときもあって、地元でライブやると毎回こけるみたいなときもあったんですよ(笑)。今はようやく素直に、北海道を愛せるようになりましたね。
―今ってネットもあるし、それぞれの場所で活動もできるので、ローカルの重要性ってすごく強まってきてますよね。
江畑:ただTRIPLANEとしては、田舎の大名ではなくて、全国制覇したいから、そのバランスはもっと意識しないとって思ってるんです。
―そういう意味では、やはり今後も東京を拠点に活動することが大事?
江畑:そうですね。いずれは帰りたいっていうのもあるんですけど、それって本当に自分の中で成功を収めたって感じたときか、負けを認めたときか(笑)。それまでは、東京で戦っていこうと思ってます。
―10周年ツアーのファイナルが2月に東京でありますが、そこが一区切りという感じでしょうか?
江畑:この『SINGLES 04-12』が出ることで一区切りっていう感じはあって、ここから次にどんなTRIPLANEを見せて行こうかっていうのが頭の中にあるんですけど、ライブは区切りっていう感じがあんまりしないんですよね。次のレコーディングに入ったときに、「新たな時代の幕開け」みたいに感じるんじゃないかと思いますね。
- リリース情報
-
- TRIPLANE
『SINGLES 04-12』初回受注限定生産盤(CD+DVD) -
2013年1月23日発売
価格:4,725円(税込)
NFCD-27344/B1. ドリームメイカー
2. Cheers To Us feat. ダニエル・パウター & 常田真太郎(スキマスイッチ)
3. モノローグ
4. スピードスター
5. アイコトバ
6. Dear friends
7. 君ドロップス
8. 白い花
9. あの雲を探して
10. イチバンボシ
11. 友よ
12. 夏が終われば
13. Reset
14. 雪のアスタリスク
15. いつものように
[DVD収録内容]
1. スピードスター
2. あの雲を探して
3. Reset
4. Dear friends
5. いつものように
6. 僕らの街
7. モノローグ
8. 夏が終われば
9. 白い花
10. アイコトバ
11. 君ドロップス
12. 友よ
13. 雪のアスタリスク
14. Greendays
15. イチバンボシ
16. パノラマセカイ
- TRIPLANE
-
- TRIPLANE
『SINGLES 04-12』通常盤(CD) -
2013年1月23日発売
価格:3,150円(税込)
NFCD-273451. ドリームメイカー
2. Cheers To Us feat. ダニエル・パウター & 常田真太郎(スキマスイッチ)
3. モノローグ
4. スピードスター
5. アイコトバ
6. Dear friends
7. 君ドロップス
8. 白い花
9. あの雲を探して
10. イチバンボシ
11. 友よ
12. 夏が終われば
13. Reset
14. 雪のアスタリスク
15. いつものように
- TRIPLANE
- イベント情報
-
- 『TRIPLANE 10th Anniversary Tour』
-
2013年1月26日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:大阪府 心斎橋 BIG CAT
料金:前売3,500円 当日4,500円(共にドリンク別)2013年2月2日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:愛知県 名古屋 CLUB DIAMOND HALL
料金:前売3,500円 当日4,500円(共にドリンク別)2013年2月10日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:東京都 渋谷 SHIBUYA-AX
料金:1F後方立ち見3,000円(ドリンク別)
※指定席は完売
- プロフィール
-
- TRIPLANE
-
北海道札幌出身の4ピースバンド。小学校の同級生である江畑兵衛(Vo&Gt)、武田和也(Ba)、広田周(Dr)によって結成され、後に川村健司(Gt)が加わり現在のメンバーとなる。音楽業界という大空を大きく羽ばたきたいとの想いから、「三翼機‐TRIPLANE‐」(3枚の翼がある飛行機)と名付ける。これまでに5枚のアルバムをリリースしており、完成度の高いメロディワークと、ヴォーカル江畑による日常を切り取ったリアリティのある歌詞が特長。2013年1月23日に自身初となるシングルA面集「SINGLES 04-12」をリリース。このアルバムにはダニエル・パウター、常田真太郎(スキマスイッチ)とコラボレーションした新曲「Cheers To Us」も収録される。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-