スペースシャワーTVのプレミアムライブ特番『LIVE with YOU』。「あなたの側で、生きてる音楽」をコンセプトに、日本のトップアーティストが毎回さまざまな趣向を凝らしたステージを披露するこの番組の第4回に、日本を代表するギタリスト・布袋寅泰が登場する。昨年から活動の拠点をロンドンに移し、ますますワールドワイドな活躍を続ける布袋と、新進気鋭の映像クリエイターたちとの一夜限りのコラボレーションにより、見たこともないような驚きの空間で、白熱のライブが展開された。
そして、今回の映像演出を担当し、SHIBUYA-AXのステージに巨大な箱型のスクリーンを登場させた仕掛け人が、「RGBcreation」のプロデューサー・四尾龍郎。パーティーのデコレーションから、巨大フェスの作成、さらには都市計画までを幅広く手がける四尾は、常に「誰とやるか」「どこでやるか」といった要素を「引きで見る」ことによって、その条件下でのポテンシャルを最大限に引き出すことに長けた人物である。
表現する者・布袋寅泰と、演出する者・四尾龍郎の邂逅から生まれた素晴らしい一夜は、アーティスト、クリエイター、番組制作、オーディエンスをつなぎ、新たな価値を創造するための「場を作る」という『LIVE with YOU』の本質を、見事に具現化していたとも言えるだろう。名前のつけられない自らのクリエイティブと、今回の挑戦について語ってもらった四尾のインタビューに加え、ライブ後に行った布袋のメールインタビューも合わせてお届けする。
金沢から東京までハイエース1台で行くので、物理的に車に入るサイズにしなきゃならなかった。
―パーティーやフェスなどの空間演出の仕事はいつ頃から始められたのですか?
四尾:僕は出身が石川県の金沢市で、大学のときに建築を学びながら、東京にきてパーティーのデコレーションをずっとやってました。
―じゃあ、大学を卒業してすぐに今のような仕事に就いたんですか?
四尾:いや、大学を卒業してからは、照明メーカーで働いてたんです。というのも、空間演出のために大量のLEDが欲しかったんですけど、ある程度の数を揃えるためには結構なお金も必要だったので、「じゃあ、社割で買える会社で働こう」と思って(笑)。そういうわけで、1年間だけ照明メーカーで働いてました。
―最初からLED目当てで会社に入ったわけですね(笑)。そもそもどうして、建築や空間演出に興味を持ったんですか?
四尾:もともと大きいものが好きだったんです。「大きい」って、それだけでヤバいと感じます。だからそもそもは、そういう「ヤバいもの」を作ることに面白味を感じていました。それも、時間もお金もかけずに作るのがすごい面白かったんです。
―AXのステージにも一夜限りのライブのために、ヤバいものができてましたもんね(笑)。
四尾:そうですね。大学時代は金沢から東京までハイエース1台で行くので、大きなものを作るのに、物理的に車に入るサイズにしなきゃならないっていう。もちろん材料費とかもそんなにもらえないし、時間もないことが多いから、コストを抑えつつ、なるべく大きいものを作るっていうのを、昔からずっとやってますね(笑)。だから、組み立て式のセットを組むことも多かったりします。
―そもそもLEDを使った演出を手がけるようになったのはいつからだったんですか?
四尾:両国国技館で『Connect』っていうイベントがあって、土俵の周りに提灯を大量にぶら下げて、その中にLEDライトを入れて、制御して、文字を出したりしたのがきっかけですね。
『Connect』の現場映像
四尾:そこから、LEDを使った演出をいろいろ手がけていくんですけど、そうするとまず照明さんとぶつかるんです。「お前のLEDが眩しくて俺の照明が死んじゃうよ」っていう。だから、「一緒にいい空間作ろう」って協力することが大事になるんです。そうやって照明さんとの問題が解決したら、次は映像さん、ステージ施工さん、会場全体の制作さん、運営さんっていう風に、どんどん全体に関わってくるようになっていったんです。だから、きっかけはLEDだったんですけど、引きで引きで見て行くうちに、今では会場全体を見るっていう仕事になりつつありますね。
―最初は「自分がこれをやりたい」っていうのがきっかけだったけど、それをよりよいものにするためには、引きで見る作業が必要だったと。
四尾:アート作品とかは1人の世界観が大事かもしれないけど、僕がやってることは1人ではできないし、大きいものを作るためにはなおさらそうなんですよね。
―そうやって人を味方にするだけではなく、四尾さんは「サイトスペシフィック(=特定の場所や時間を対象にした作品制作)」という言葉、つまり「場所」も大切にしていますよね。
四尾:やっぱりその場所にはその場所にふさわしいものがあると思うんです。例えば、絵の展示方法って、美術館によって変わると思うんですけど、「こういう形の美術館だから、ここに絵が来ていて、じゃあ次の絵はどこに来る」って決まってくると思うんです。場所に合わせないと、ただ置いただけになっちゃう。だから、「こういう会場で、こういう人たちが来て、こういうアーティストさんがやる」っていう情報が多ければ多いほど、全体を見れば見るほど、精度が上がってくると思います。
なんか布袋さんがグラフィックデザインに見えるんです(笑)。
―では、『LIVE with YOU』について聞かせてください。一夜限りのステージで、しかもテレビカメラが入って後日放送されるという企画に携わること自体あまりないことだと思いますが。
四尾:『LIVE with YOU』にはvol.2の槇原(敬之)さんのときから関わらせていただいてるんですけど、まとめてるスペシャのチームもめちゃめちゃ面白いし、この番組を通じていろんな人と知り合うこともできました。スペシャって「テレビ番組を作ってる大きな会社」っていうイメージだったんですけど、意外と人間臭くて、チャレンジしてて、面白いメディアだと思います。あと、僕は初めて買ったCDが布袋さんのCDだったんで、今回は「チャンスをいただけてありがとう」っていう気持ちもありました。
―何と言っても、あの箱型の巨大スクリーンが非常にインパクト大でした。
四尾:会場の候補地がいろいろあったんですけど、小規模なライブハウスでやるんだったら、大きな箱を作ったらどうかって。いつも通り引きで見て、まずは布袋さんがどう思うか、もっと引けば、映像さんが今何を作りたいのか、スペシャの番組としてどういう画を撮りたいのか、全体を見た上で、ステージを決めていったんです。
―やはり、「番組として放送される」ことへの意識は大きかったわけですよね?
四尾:カメラのクレーンが入ったことで、撮影される画が大きく横に動くじゃないですか? 正面から前に行くか引くかだけだと、画があんまり変わらないんですけど、横の動きが入ると、初めて面白い立体感が出るんです。
―なるほど。そうすると収録されている画では、あの立体的なスクリーンがより効果的に見えるんですね。
四尾:クレーンがない収録であれば、大きい視点の変化が少ない分、もうちょっと小さいものを配置して、情報量を増やすような演出の可能性もあったと思いますけどね。
―曲ごとにさまざまな映像作家さんが参加されていますが、どういったやり取りをされたのですか?
四尾:ある程度はお任せしたんですけど、世界観は合わせなきゃいけないし、ネタが被ってもダメだから、そこだけ注意しました。でも、なるべく作りたいものを作っていただく形にはしましたね。ゆかりのある人たちにやってもらったので、信用もしてましたし。
―100LDKとHEART BOMBによる“MATERIALS”のキネクトを使った演出は印象的でした。
四尾:基本的に、100LDKがキネクトをやって、HEART BOMBがスイッチングをして、そこにグラフィックを乗っけるのもHEART BOMBがやってます。HEART BOMBと100LDKは『フジロック』の「オールナイトフジ」をずっと一緒にやってるんで、腐れ縁みたいな感じです(笑)。
―UKYO Inabaさんと石澤秀次郎さんの手がけた“MERRY-GO-ROUND”のトランプがめくれていく映像は、スクリーンの形状を上手く利用していて、シンプルだけど効果的だったと思います。
四尾:形の意味を捉えてくれるのは嬉しいです。僕は映像の細かなコンテまで描くわけではないので、コンセプトを伝えて、形状を伝えて、それをちゃんと理解してくれるような人たちとは、ずっと一緒にやっていきたいですね。
―生のライブカメラで映し出される布袋さんの姿も、シンメトリーに、なおかつスクリーンごとに違った角度から映し出されていて面白かったです。
四尾:作り込んだ映像もいいんですけど、生の演者さんを見せるのがライブだと思っているので、そういう映像が半分くらいは欲しいなって、最初の段階から思ってました。
―布袋さん、ステージングがめちゃめちゃ絵になる人ですもんね。
四尾:めちゃめちゃ絵になりますよね。なんか布袋さんがグラフィックデザインに見えるんです(笑)。
僕の想像できる大きなものは箱だったんですけど、(布袋さんには)それを超える大きいものが必要だなって。
―わかります(笑)。ライブ後に布袋さんにメールインタビューをさせていただいたんですけど、布袋さんから四尾さんへの質問として、「ライブを共に体験したことで、どんなアイデアを手に入れたか」を知りたいとおっしゃっていたのですが、いかがですか?
四尾:まず、箱にとどまる人じゃないなって思いました(笑)。この人に枠を作るべきではないなって。境界線がいらないというか。僕の想像できる大きなものは箱だったんですけど、それを超える大きいものが必要だなって。
―確かに、布袋さんの活動自体が、ジャンルも国境も軽々と超えていますもんね。
四尾:そうですね。もし次の機会があれば、とりあえず枠を取り払って何かをするっていうのをコンセプトに、映像演出だけじゃなくて、「どう布袋さんが見えるか」っていうところから一緒に考えてみたいですね。
―ちなみに、布袋さんからもうひとつ「HOTEI BEATの乗り心地はどうだった?」という質問もあったのですが?
四尾:もちろん、最高でした(笑)。
―最後になりますが、『LIVE with YOU』って、もちろん番組の企画なんですけど、アーティスト、クリエイター、オーディエンスをつないで、「場を作る」っていう意義もあるように思うんですね。
四尾:まさに、そうですね。
―そう考えたときに、これからスペシャのようなメディアはどんな番組を作っていくべきか、ご意見があれば聞かせていただきたいのですが。
四尾:普通番組って、プロデューサーがいて、ディレクターがいて、番組の趣旨を社内で決めて、社内から打ち出す感じじゃないですか? でも、場を作るんだったら、一方的な打ち出し方の番組っていうのは、もう違うのかなって思っていて。「ユーザーと一緒に作る」って言ったら嘘になっちゃうし、やっぱりディレクターは必要ですけど、企画の大元の段階を視聴者と作り上げるっていうのは、ありな気がしますね。
布袋寅泰メールインタビュー
『LIVE with YOU』のライブ収録後に、布袋寅泰本人に行ったメールインタビューの全文を以下に掲載する。ライブの感想から、コラボレーションやステージに込める想いまでを語っていただいた。
―普段の会場よりも小さい規模のライブハウスで、なおかつ映像作家とのコラボレーションと、今回のライブは新鮮な体験になったかと思います。まずは率直に、ライブの感想を教えてください。
布袋:とてもエキサイティングだったよ! 新しいことにチャレンジするのは大好きだし、ドキドキする。観客との距離が近い会場でのライブも大好きだ。特に今回はオーディエンスが斬新なアプローチを楽しんでくれているのがダイレクトに伝わってきて、とても興奮したよ。
―Twitterで「これはスゴイわ!今まで観たこともないステージ」とつぶやかれていましたが、実際にあのステージに立って演奏するのは、どんな気分でしたか?
布袋:僕の音楽はジェットコースターだ。映像とのコラボレーションとの相性がいいと思う。ロックンロールという最高にスリリングな乗り物にのって、ぶっ飛ばしているような気分だったよ。いつでもロックは挑発的で実験的であるべきだ。演奏する僕らも映像と共にスリルを味わえたよ。
―素朴な疑問なのですが、演奏中に映像が気になったりすることはあるのでしょうか?
布袋:常に背中で映像を感じていたけど、演奏への集中力は欠かさなかったよ。いい演奏があってこその演出だと思っているし、一生懸命頑張ってくれたクリエイター達の努力に報いるためにも、最高のパフォーマンスをすることが僕の使命だった。
―布袋さんがこれまでご覧になったライブの中で、映像演出が強く印象に残っているライブがあれば教えてください。
布袋:やはりPINK FLOYDのショウは刺激的だった。手前味噌ながら僕の1995年の横浜アリーナで行われた『TOKYO Inter-Live '95 サイバーシティーは眠らない』は、日本のロック史に残る映像とのコラボレーションギグだったと思うよ。
―後日ステージ演出のディレクターに取材を行うのですが、布袋さんから訊いてみたいことはありますか?
布袋:ライブを共に体験し、また様々なアイデアを手に入れたと思う。そんな感想も聞きたいし、なにより「HOTEI BEAT」の乗り心地はどうだったか訊きたいね。
―コラボレーションをすることの一番の魅力は何だとお考えですか?
布袋:創造力をシェアし、お互いを高め合うことだ。クリエイター同士がそれを感じられないものを安易に「コラボレーション」と呼んではいけないよ。勝負であると同時に、抱擁でもあるんだ。
―「教科書はいつもレコードとステージだった」「自分の帰ってくる場所、故郷はやっぱりここ(ステージ)」というMCがとても印象的でした。改めて、布袋さんにとって、ステージとは、ライブとは何かを教えてください。
布袋:ステージは自分がすべてを学び、感じ、そして育った場所。誰からも何も教わらなかったし、マニュアルなんか欲しくもなかった。自分が感じたままに表現することが出来るまで長い時間がかかったけど、だからこそ自分だけのスタイルを手に入れることができた。自分にとって神聖な場所だよ。
―番組をご覧になる方に、見どころやメッセージなどをお願いします!
布袋:何も考えず、ただ楽しめばいい。そしてドキドキしてほしい。
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- 『SPACE SHOWER TV “LIVE with YOU”〜布袋寅泰〜』
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2013年6月1日(土)21:00〜22:00にスペースシャワーTVで放送
※リピート放送6月10日(月)23:00〜、6月16日(日)20:00〜、6月20日(木)20:00〜、7月予定「あなたの側で、生きてる音楽。」をコンセプトに、スペースシャワーTVがトップミュージシャンと送るプレミアムライブ番組『SPACE SHOWER TV "LIVE with YOU"』。第四弾出演アーティストとして登場するのは、昨年ロンドンへ移住し、世界へ向けて更なる活動の場を広げるギタリスト、布袋寅泰! 今回は、ニューアルバムツアーで帰国中の彼に、スペースシャワーTVがプッシュする新進気鋭の映像クリエイター集団が挑む、一夜限りの音楽と映像のバトル! 世界照準のギタリストと映像クリエイター、そしてファンの熱気が産んだ、超刺激的な60分のライブ特番をお見逃しなく!
- プロフィール
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- 布袋寅泰
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日本を代表するギタリスト。伝説的ロックバンドBOØWY解散後、アルバム『GUITARHYTHM』でソロデビューを果たす。その後、吉川晃司とCOMPLEX結成・活動休止を経て、本格的にソロ活動を再開。「POISON」「スリル」「バンビーナ」など数多くのヒット曲を世に放ち、ロック・ギタリスト&シンガーとして独自のスタイルを確立。プロデューサー、作詞・作曲家としてもミリオンヒットを記録。50歳を迎えた現在も常にロックシーンのフロンティアとして走り続けている。
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- 四尾龍郎
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サイト・スペシフィックな美術作品という考え方で空間をデザインする空間演出チーム「RGBcreation」のプロデューサー。独自の観点で新しい価値観の提案を表現し、様々なイベントや野外フェスティバルの演出、プランニングを展開する。
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