配信デビューシングル『デイドリームライダー』のリリースからおよそ1年にして、いよいよシシド・カフカが全国的なブレイクのきざしを見せ始めている。ドラムボーカルによるライブパフォーマンスへの反響が大きくなっているのはもちろん、「プリプリプップ♪」というフレーズが思わず頭から離れなくなるテレビCMを目にして、初めて彼女の存在が気にかかったという方もきっと多いのではないか。さらにはテレビ番組『新堂本兄弟』へのレギュラー出演が決まり、ラジオ番組や雑誌などの連載も抱えるなど、もはや彼女の存在はいわゆる音楽ファンだけに留まらない範囲で浸透しつつある。
そして、そんな勢いに拍車をかけるようなニューシングル『キケンなふたり』が届いた。連続ドラマ『ダブルス〜二人の刑事』のオープニングテーマに起用されている表題曲を筆頭に、ミディアムテンポでじっくりと歌い上げるナンバー“月の輝きかた”など、これまでは見せなかった側面が楽しめる4曲入りで、タイアップが付いたことの影響もあったのか、彼女による歌詞からも、より明確なテーマ性が感じられる。そこで今回はドラマの舞台でもある新宿にシシド・カフカをお招きし、ゴールデン街のとある店先で話してみることにした。ゴールデン街の街並みにシシドが見事に溶け込んだ美しい写真と共に楽しんでいただけたら幸いだ。
飲みに行く時間があまりないのもあって、寝る前に1杯だけ飲むようになっちゃったんですよね(笑)。
―今までにゴールデン街で飲んだことってありますか?
シシド:ありますよ。以前、よくこのあたりに連れてってくれる方がいたので、それこそ明るくなるまで飲むこともありました(笑)。
―シシドさんってすごくお酒が強そうなイメージあります(笑)。
シシド:弱いと言っても信じてくれる人はなかなかいませんね(笑)。でも私が飲むのって梅酒とかワインとかだし、まだかわいいもんですよ!
シシド・カフカ
―でも、最近はテレビの出演も増えてきているし、飲む場所も選ぶようになってきたんじゃないですか? ただでさえシシドさんは街にいたら目立つでしょうし。
シシド:どうなのかなぁ……。ありがたいことに最近は忙しくて飲みに行く時間があまりないのもあって、寝る前に家で1杯だけ飲むようになっちゃったんですよね(笑)。
―本当にタイトなスケジュールで動いているみたいですね。それこそ今回のシングルは表題曲“キケンなふたり”が新宿を舞台にしたドラマの主題歌で、まさにドラマの内容に合わせた歌になっているようですが。
シシド:今回はあらすじをいただいてから楽曲制作にとりかかりました。歌詞はもちろん、音もそこから作り始めて。
―具体的に先方からはどんな依頼があったのですか?
シシド:まず、疾走感のある楽曲であること。あとは主人公である二人の刑事の姿をイメージできるものにしてほしい、ということでした。でも、最終的には最初にいただいた設定から少し変わったんです。主人公が二人とも自分なりの正義に忠実なところは変わっていないのですが、初めはそれぞれの正義が対立するものだったのでもう少し仲が悪い感じだったというか。それが、最終的には同じ信念のもとにそれぞれの方法で突っ走っていく設定になったので、そこは考慮しましたね。
―なにかしらの題材があって、そこに合わせて歌詞を書くという試みは今回の制作が初めてですか?
シシド:今回ほど明確なあらすじをいただいたのは初めてですし、そもそもテーマを設けた上で作詞に臨んだこともなかったですね。今までは、もっとぼやっとしたところから1本の道筋を通していって、徐々に肉付けするような感じだったんですけど、今回は描く対象がはっきりしていたから、その対象のまわりをぐるぐる回るようにして考えていったんです。楽曲も“キケンなふたり”に決まるまで6曲くらいの候補があったんですけど、すべての曲にさまざまな視点の歌詞を乗せていて。
―ちなみにこうして発表されたもの以外では、どんな視点から歌詞を書いたんですか?
シシド:私が男性側の視点に立って相方を見たものもあったし、まっすぐ過ぎる男性の帰りを待つ女性の視点から書いてみたのもあったし……。最終的にはその男二人のケツを叩くような感じに落ち着きました(笑)。
―発注を受けて作詞する作業を実際にやってみて、どんな手ごたえを感じましたか?
シシド:すごく面白かったです。今回は自分の中から何かを切り取る作業から始めたわけではないので、とりかかりやすかったかもしれないですね。「この楽曲に対してどういう思いを抱いて、どう言葉を乗せるか?」という書き方よりも、最初からクリアな気持ちで臨んでいたかもしれない。デッドラインが近かったからというのもありますけど、歌詞はものすごい勢いで書きました。
―じゃあ、いつものように自分の内面を切り取っていくような作業よりは、比較的楽な気持ちで臨めたんですね。
シシド:でも、次に同じことをやってそうなるかはわからない(笑)。ビギナーズラックじゃないといいんですけど。
―一方で表題曲に続いて収録されている2曲“月の輝きかた”“ワンダーガール”は、それぞれ内容は違うけれど、女性同士の関係性を描いたものになっていますね。しかもちょっとエグみのある愛憎劇というか。
シシド:確かにそんな感じですね(笑)。
―つまり、今回のシングルは同性同士の関係性を描いた楽曲で貫かれていると感じたのですが。
シシド:そこは特に意識してなかったかな。“月の輝きかた”に関しては、楽曲を作曲した平出さんから「ドロドロでよろしく!」と言われて、メモ書きの中からヒントを探したんです。そしたら「太陽がいるから輝ける月の恋」というメモを見つけたので、そのイメージに当てはめて書きました。メモを書いてる場所も、手帳からケータイ、歌詞ノートまでバラバラなんですけど、言葉の断片でも文章でも、とにかく思いついたものをその場ですぐに残すようにしてるんです。
悪いことだとわかっていてもやめられないことって、言葉にするのがなかなか難しいと思う。
―“月の輝きかた”って、ある意味ベタな舞台設定というか、演歌とか昭和歌謡に出てきそうな歌詞だなと思って。シシドさん自身はそのあたりの音楽は聴かれるんですか?
シシド:むしろ“月の輝きかた”は、最近のポップスを参考にしようと思っていくつか聴いてみたんです。そしたら、たとえば「これは本物の想いだから大切にしよう」、あるいは「絶対に彼を奪ってやる」みたいな感じで、両極な歌が多いことに気づいて。でも実際に“月の輝きかた”で歌われているような状況に置かれたときって、きっとそんなに強い心でいられないし、ものすごく微妙な心理じゃないかなと思ったんです。悪いことだとわかっていてもやめられないことって、言葉にするのがなかなか難しいと思うし、自分に向けられる愛情が100パーセントじゃない関係の方が気楽だと感じる人もいるかもしれないですよね? だったらそういう微妙なラインを歌にしようと思いながら書きました。確かにそれって演歌っぽいのかもしれないですね。
―ちょっと客観的な視点からのお話でしたけど、シシドさん自身が“月の輝きかた”みたいなシチュエーションに置かれたらどうなんでしょう。
シシド:私ですか!? たぶんこういうのは向いてないと思います……。けっこう独占欲というか縄張り意識が強い人間なので(笑)。
それぞれ点だったものがちょっとずつ繋がってきている感じ。
―シシドさんの音楽の入り口はやっぱり洋楽だったんですか? それこそ海外で生活していた時期もあるから。
シシド:最初は讃美歌で、その次はJ-POPですね。当時は歌詞なんてあまりよくわからなかったし、メロディーとリズムを楽しんでいた感じだったから。音楽であればなんでも良かったといったら身も蓋もないけど、音楽にはかなり疎い人間だったので、洋楽を聴くようになった時期はむしろ遅かったんです。
―じゃあ、シシドさんの歌詞に漂うこのレトロな匂いはどこから来てるんでしょう?
シシド:最近はずっと、ちあきなおみさんのアルバムをかけっぱなしにしてましたね。特に“伝わりますか”っていう曲がものすごく好きで。あの曲は「ちょっといたずらしたくなる乙女心を出してもいいですか」みたいな感じだから、それをハードリピートしていた影響が出てるのかも。でも“月の輝きかた”は、楽曲自体がものすごくポップなミディアムテンポなので、それをどうドロドロに表現するか考えていったら、自然とああいう曲ができあがったんです。
―それに、今回のシングルは収録されている4曲の流れにはっきりと緩急がついているんですよね。これまではとにかく勢いのいい曲が並んでいたので、ちょっと新しい展開だなと思って。
シシド:そうなんです。“キケンなふたり”と“ワンダーガール”が前のめりなサウンドだったので、“月の輝きかた”は違う雰囲気に仕上げようと意識しました。
―あとは“Hunger×Anger”ですね。これはシシドさん本人が出演されているプリッツのCMのイメージソングですが、CMは海外で撮影されたそうですね。
シシド:チェコのプラハで撮影していて、エキストラもすべて現地の方なんですよ。そういえば「カフカ」ってチェコ語だし、実はちょっと縁がある国なのかも。まあ、チェコに着いてから気づいたんですけど……(笑)。でも、私はまだCMのスケール感がよくわかっていないんです。いろんな場所であのCMが流れているのを見たし、見てくれた方が声をかけてくださったりもするんですけど、その状況がどういう規模のものかいまだに実感がわかなくて。
―でも、こうしてコンスタントにシシドさんの姿がテレビで拝見できるようになると、本当にわかりやすく周囲の反応は変わるでしょう。
シシド:そうですね。ちょっと前まではやっぱり「プリッツの人」とよく言われてたし(笑)。それが4月になって『新堂本兄弟』が始まったり、ラジオ番組をやらせてもらったりしていく中で、それぞれ点だったものがちょっとずつ繋がってきている感じはしていて。やっぱりCMという大きなカードをいただいたことの影響は大きいと思います。
―『新堂本兄弟』は、まさにドラマーとして番組に出演されているわけで、きっとすごくやりがいを感じているんだろうなと思ったんですが。
シシド:もう難しいことだらけですよ〜!(笑) 2日前に曲がきて、それを30分で仕上げて収録に向かうっていう、あのスピード感はホントにすごくて、いまだに緊張がハンパじゃないです。その30分間で構成が変わることもありますし。この状況を楽しめるようになったら、もっと強くなれるんでしょうけど、今はまだ不安の方が大きくて。
―でも、シシドさんには下積みの時期がありましたよね。やっぱりその経験がデビューしたての若手ミュージシャンと差をつけている部分もあるんじゃないかなと思うのですが。
シシド:どうなのかなあ。でも、確かに新人ミュージシャンという枠の中で紹介していただくことは多いんですけど、その中で他の方より落ち着いているように見えるらしいですね。私の心の中はいつも緊張で大変なことになっているんですけど(笑)。
本名の自分とシシド・カフカっていう存在がまだ近すぎるように感じています。
―一方でこうして活動範囲が大きくなっていくと、演奏家として腕を磨くことに集中するのもなかなか大変なのでは?
シシド:それはそうなんですけど、それ以上に、ライブをお客さんと一緒に作っている感覚をすごく実感できるようになってきて。ライブに来てくれた段階で曲を知っていて、一緒に歌ってくれている人が1人でもいてくれる状況って、やっぱりすごいパワーになりますよ。これまではみんなの肩を叩いて「ねえ! 聴いて!」みたいな感じだったから。
―やっぱり曲が認知されていくとライブの雰囲気も変わりますよね。
シシド:お客さん側の発するパワーが変わってくるから、相乗効果が生まれている手ごたえはあります。だから最近ライブへの意気込み方が変わりつつあるし、ライブパフォーマンスにも表れてるんじゃないかな。
―自分のミュージシャンとしてのエゴイスティックな部分より、お客さんが求めているものをやりたいっていう気持ちが大きくなってるのでしょうか?
シシド:お客さんからの視点を意識するという意味では、まだ私は甘いと思います。でも、単純にお客さんが楽しんでくれることをやろうという意識は前よりもずっと大きくなっていますね。まあ、自分自身のキャラクターを押しつけようという気持ちはもともとないし、なんにせよ日々戦いであることは変わりませんけど(笑)。ステージ上からお客さんと音で会話できているっていう手ごたえが掴めてきたから、それをどうやって広げていこうかなと思っているところです。
―また新しい段階に突入したって感じですね。
シシド:そうですね。なにかにチャレンジすると、必ずまた新しくチャレンジしたいことが出てくるもので。だから可能性は膨らんでいく一方です。
―では、ここからはどういう攻め方をしていきますか?
シシド:年内にはアルバムを出せるように進めていきます。夏にはフェスへの出演なども徐々に決まってきていますし。そういうところで自分がなにを見せられるのかなと思うと、どんどん緊張感が高まっていくんですよね。
―さっき、家で飲むことも増えてきたとおっしゃってましたけど、こうして今お話しさせてもらっているシシド・カフカさんと、それとは別のプライベートなシシドさんの姿もあるわけですよね。その切り分けがうまくいかなくなったりはしませんか?
シシド:むしろ、私は本名の自分とシシド・カフカっていう存在がまだ近すぎるように感じています。もうちょっとそこが離れていけばいいのにと思っていて。こういうインタビューの場もそうだし、最近だったらラジオで話す機会も増えているんですけど、どうしても私はガツガツ自分のことを口に出してしまうんです。たとえばテンションのマックスが10だとすると、今は5くらいで話していて、ラジオのときは12くらいでやってるんです。「さあ! 今夜も始まりましたー!」って(笑)。
―つまり、こうして言葉で自分自身を伝えていく作業も楽しめているということでしょうか?
シシド:うーん。今はがむしゃらだからなぁ。どこかで線引きしている余裕もなく活動している感じです。でも、こういう忙しい状況で過ごしているうちに、自然と見えてくるものがきっとあると思う。たとえば私がここまでのシングルで見せてきた側面を分度器で測ったら、まだ60度くらいまでしか見せてないと思ってて。まだまだ見せてない振れ幅はあるし、そこをもっと追究できるアルバムを作りたくて、今は試行錯誤している最中なんです。
―分度器って独特の表現ですよね。楽曲制作陣にも自分の意思を工夫しながら伝えているんですね。
シシド:プロデューサーにも「私の中でこの曲は分度器のこのへんなんですよ」みたいな感じで話してます。やっぱり私はチームとして動いているので、そこはみんなに理解してもらいたくて。それに、シシド・カフカを見せていく上で私が自己プロデュースし切れないところがまだたくさんあるから、そこはどんどんコミュニケーションをとっていきたいんですよね。とにかく今はすべてが楽しさ半分、怖さ半分。しばらくはこういう状態が続いていくんじゃないかな。
―正直にいうと、前回お話したときにはちょっとお疲れのように見えたんですが、この3か月くらいでまたペースを掴んだような感じがしますね。
シシド:『music』をリリースした頃よりやることはグッと増えているんですけど、今の方が気負いはありません。いろんな方とセッションする機会が増えたのが大きいかもしれないですね。もちろんそこで悔しい思いをすることもあるんですけど、そういうことがたくさんやれる状況に自分の身を置けていることが嬉しくて。『新堂本兄弟』の収録なんて、「食事が喉を通らないってこういうことか」っていうくらいの経験をさせてもらってるんですけど、それがすごく好きなんですよね。そういう実感を今は久々に味わえているのかもしれない。やっぱり私は音で会話を交わすのが好きなんでしょうね。
- リリース情報
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- シシド・カフカ 『キケンなふたり』(CD+DVD)
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2013年5月22日発売
価格:1,500円(税込)1. キケンなふたり
2. 月の輝きかた
3. ワンダーガール
4. Hnger×Anger
[DVD収録内容]
・“キケンなふたり”MV
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- シシド・カフカ
『キケンなふたり』(CD) -
2013年5月22日発売
価格:1,200円(税込)1. キケンなふたり
2. 月の輝きかた
3. ワンダーガール
4. Hnger×Anger
5. キケンなふたり〜ROUDOKU〜(ボーナストラック)
- シシド・カフカ
- プロフィール
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- シシド・カフカ
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ドラムボーカル。6月23日生まれ、175cm。メキシコで生まれ、アルゼンチンで中学時代を過ごし、14歳のときにドラムを叩き始め、18歳でプロミュージシャンに。数々のバンドでドラマーとして活動後、ドラムボーカルとしての才能を開花させ、2012年5月16日「デイドリームライダー」で配信デビュー。以降、様々なメディアで取り上げられ大きな話題を呼び、2012年9月19日『愛する覚悟』でCDデビュー。2013年2月20日にシングル『music』を発売。江崎グリコ「PRETZ」のCMでも話題に。4月からはフジテレビ系『新堂本兄弟」にドラマーとしてレギュラー出演。2013年5月22日テレビ朝日系 木曜ドラマ『ダブルス〜二人の刑事」のオープニング曲『キケンなふたり』をリリース。
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