導かれてここまで来た 窪塚洋介インタビュー

『池袋ウエストゲートパーク』でカリスマ性溢れるストリートギャングのヘッドを演じ、『GO』では自身のアイデンティティーと恋愛に揺れる在日朝鮮人の若者を演じた窪塚洋介。俳優、DJ、映像作家と多彩な顔を持ち、常に唯一無二の存在感を放ってきた彼が新たに挑むのは、20世紀を代表する芸術家、イサム・ノグチの人生を描く演劇作品『iSAMU』だ。意外に感じられるかもしれないが、これまで窪塚が出演した舞台は3本のみ。そのすべてが蜷川幸雄の作品であり、今回初めて宮本亜門による演出を受けるというから、彼にとっても挑戦作だ。共演に美波、ジュリー・ドレフュス、小島聖の実力派俳優を迎えた本作に向けた思いを語ってもらう中で、2つの国の間で葛藤したイサム・ノグチと、表現者としての窪塚の共通項が見えてきた。

映像で培ってきたことを最大限に昇華すると、演劇に至る。

―窪塚さんは2010年に初舞台を踏んで以来、これまで蜷川幸雄さんと3本の作品でタッグを組んできました。今回は初めて他の演出家、宮本亜門さんと仕事をすることになるわけですが、どんな心境ですか?

窪塚:この何年かの間、世の中的にも精神的な部分も含め、蜷川幸雄さんにも蜷川実花さんにも、正月は蜷川家に挨拶に行かなきゃってくらい、サポートしていただいてますからね。蜷川さんとの出会いがなかったら、舞台を始めることもなかった。

―お互いに厚い信頼があるんですね。

『iSAMU〜20世紀を生きた芸術家 イサム・ノグチをめぐる3つの物語〜』ポスター
『iSAMU〜20世紀を生きた芸術家
イサム・ノグチをめぐる3つの物語〜』ポスター

窪塚:ただ、『iSAMU』に出るのを決めた理由は、直感的に閃くところがあったから。そんなに詳しいわけではないけれど、もともとイサム・ノグチという人物に興味もあって、彼がデザインした椅子を目にしたこともあったり。それに宮本亜門さんが引き出してくれる新しい自分というものに期待もしていて。きっとドキドキできる何かがあるだろうと。


―まだ稽古は始まっていないそうですが、まさにこれから化学反応が起きていくんでしょうね。多くの人が意外に思っているのではないかと思いますが、窪塚さんが演劇をスタートして、まだ約3年ですよね。

窪塚:20代前半くらいからずっとお話はいただいていたんです。もちろん、やってみたいという思いはあったけど、当時の興味や情熱とシンクロしなかった。それでも蜷川さんがずっとオファーをくださっていて。

―ラブコールがあったんですね。

窪塚:距離をじわじわ縮めてきてくれて。初舞台は『血は立ったまま眠っている』って作品で、森田剛くんと寺島しのぶさんとやらせてもらったんですけど、すごく刺激がありました。集大成だなと思ったんですよ。

―これまでやってきた活動のですか?

窪塚:そうですね。映像で培ってきたことを最大限に昇華すると、演劇に至ると思うんです。一時期、舞台俳優の人がテレビや映画にどんどん出て来るようになった時期があったじゃないですか? あのときのことを思い出して、そりゃあ当然だなって。これだけ舞台で揉まれていたら、映像の世界だって自由自在だろうと。というのは、舞台の上に出たらすべてが露になって、隠せない。チンコまで丸出しじゃないですか。まあ、それはないですけど……(笑)。

―演劇によっては、全裸になるものもありますね。

窪塚:たしかに(笑)。まあ、何が言いたかったかっていうと、舞台の上はなんでもありというか、ガチ。聖地と思えるくらいフェアな場所だし、刺激がある。バンドに言い換えるなら「今日そう来るの?」「じゃあ俺こう行ってみるよ」みたいなジャム的な楽しみ方も覚えてきて、「俺、ここ好きだ」って思えるようになってきました。もちろん映像も好きだし、ライブも好きだけど、そこに新しく演劇が加わって、自分なりのフォーメーションができてきたんです。

窪塚洋介 撮影:尾嶝太
窪塚洋介 撮影:尾嶝太

―映画、音楽、演劇が窪塚さんの中で自然につながってきているんですね。導かれるように。

窪塚:そうですね。昔の映画や音楽を通して、そのときのことを思い出したりすることってあるじゃないですか? ガキの頃のことや、あの子とデートしたこと、場所の匂いとか。俺の場合は、自分が出演した映画の作品でそういうことを思い出して、わーっとフラッシュバックすることがあるんです。いろいろなものに導かれてここまで来てるって実感がありますね。まあ、たまに導かれすぎちゃって落っこちちゃったりすることもあるけど……(笑)。でも、それも道の1つで、地獄めぐりツアーみたいな感じでどん底だった時期もあれば、だんだん上がってくるような時期もある。深い森に迷い込んでいたときに蜷川さんという妖精に会って、「こっちだよ」と誘われてついて行ったら、なんか明るい場所に出た、みたいな感じなんで。

―蜷川さんが妖精……けっこう貫禄のある妖精ですよね(笑)。

窪塚:森の長老的な感じですかね(笑)。妖精っていうか妖怪? ぬらりひょんみたいな……。

―亜門さんは亜門さんで、別の妖精かもしれないですね(笑)。

窪塚:ピクシーな感じですね。

自分を表現するいろんな手段が目の前にあるから、その瞬間に最大限遊ぼうとしている。

―イサム・ノグチはとても複雑な人生を歩んできた芸術家です。特に第二次世界大戦前後はアメリカと日本の狭間で自分のアイデンティティーを求めていた。窪塚さんの初主演作である『GO』も、若者が2つの国の間で自分の居場所を探す映画でしたが、今回イサムを窪塚さんが演じるというのは、運命的な気がします。

窪塚:『GO』も、朝鮮と日本の間で揺れる話でしたね。こないだ、スヌープ・ドッグのドキュメンタリーを観てたんですけど、スヌープがボブ・マーリーについて語っていて。ボブ・マーリーの生い立ちもイギリスとジャマイカの板挟みなんですよ。

―お父さんとお母さんの国籍が?

窪塚:そうです。ジャマイカに来たイギリス人の金持ちが地元の女の子をつかまえて、ボブ・マーリーが生まれるんだけど、すぐに親父はいなくなっちゃう。葛藤の中で、音楽だけが彼の心のよりどころだった。イサムにしても、手先が器用で、彫刻の天才とかミケランジェロの再来とか学校で言われてたけど、第二次世界大戦になると自分から日本人の抑留所に志願して入る。でも、日本人からは「こいつスパイなんじゃないか」と言われて、ここにはいられないと思ったら、アメリカ人からは「お前は日本人なんだから、いろ!」と言われて、出してもらえなかった。いろいろ不条理な目に遭わされた中で、表現することや、生きてることを世の中に刻むってこと、そういうところにさらによりどころを見つけるのかなと。

―日本でもアメリカでもなく、芸術によりどころを見つけたんですね。

撮影:尾嶝太
撮影:尾嶝太

窪塚:俺はボブ・マーリーやイサムのように国籍に関する葛藤はないけど、共鳴できるところがある。「役者がレゲエDJやりやがって」とか「なんで役者が歌ってんだよ」とか言われるんですけど、そういうこと自体がパワーになるというか。戦争があるから反戦するパワーが生まれてくるみたいに、葛藤とかネガティブなものもプラスに変えていけるし、それは大きい力になるから。

―陰と陽みたいな関係ですね。

窪塚:そういうバランス感覚は、きっとイサムにもあったと思うんです。彼の美術作品を見ると、空間を把握するセンスがすごく高い人だから、目に見えるものと目に見えないものとのバランスも、絶対取っていたはずで。対マスとか、対時代とか、形のないものに対する感性がすごく研ぎ澄まされていたと思うんですよ。父親(野口米次郎)も、西洋と東洋の融合を標榜していて、イサムはある意味申し子みたいに生まれてきましたよね。『iSAMU』の準備はこれから始めるところだけど、もっと彼のエピソードに触れたいし、実際に作ったものも出来る限り生で見たいと思ってます。まだ1冊の本も読んでない。

―最近イサムの作品に光が当てられる機会が多くあって、『ET IN ARCADIA EGO 墓は語るか』(武蔵野美術大学 美術館・図書館)や、『サイト―場所の記憶、場所の力―』(広島市現代美術館)などの展覧会でも、軸になる作家として紹介されています。

窪塚:いま展示が見られるんですか?

―はい。イサムってやっぱり変わった人で「爆撃で大地を彫刻して、公園を作りたい」とか言ってるんですよ。例えば『クロノス』っていう彫刻作品では、ギリシャ神話に登場する神さまをモチーフにしていますが、『クロノス』は自分の権力を子どもに奪われるという予言を受けて、5人の息子を食べてしまうという神話が土台になっている。イサムが「父との葛藤」という主題に反応して作品を制作したことも、運命的なものを感じますよね。しかも、この作品を作った年は父親の野口米次郎が亡くなった年でもあって。

窪塚:イサムのエピソードを読むと、父親が結構冷たい感じですよね。イサムと母親が日本に訪ねてきたときには、もう別の家庭を持っていたでしょう?

―その一方で、米次郎は母親のレオニーに仕事を紹介したりもしていて、結構複雑な関係なんですよ。さらに父親だけでなく母親も強烈で、真っ当な仕事に就こうとしていたイサムに「お前は芸術家になれ」と言っていたらしくて、両親の間で板挟みになっていた。イサムって、結果的に日本人にもアメリカ人にもなれなかったという感じがします。それを反映しているのか、ニューヨークにある『レッドキューブ』とか、作品もすごくアンバランスな構造のものが多い。

窪塚:面白い人ですよね。やっぱりそういう風に作品に出てきちゃうんですね。

―表現者としていろいろな要素を抱えていた人だなと思います。窪塚さん自身も、「窪塚洋介」っていう名前だけじゃなくて、「卍ライン」だったり「空水」だったり、いろんな名前を持っていますよね。共感する部分がありますか?

窪塚:イサムって、彫刻も庭もデザインもやってましたけど、何をやるにしても、たぶん自分の中で切り替えてなかったと思うんですよ。ただ咲く花が変わっているだけで、根っこは実は一緒というか、この根っこにこんな花も咲くんだ、花が咲かないのもあるんだ、っていう感じだったと思うんですよね。俺もそれにすごく近くて。1つのマインドを持った自分がいて、そこに映画があったり、舞台があったり、レゲエDeeJayがあったり、映像ディレクションがあったりするけど、別にそんなに切り替えてるわけじゃない。すごくシンプルに言うと、大事なのは自分がドキドキ出来るかっていうところだから。そういうとらえ方でいうと、ノグチもきっと分けてないですよね。自分を表現するいろんな手段が目の前にあるから、その瞬間に最大限遊ぼうとしている。

個人の目線の強さも重要だけど、一つひとつの出会いが自分に与える影響も大切にしてる。それこそが、生きることの真髄なのかな。

―『iSAMU』の準備はこれからということでしたが、どのようなイサム・ノグチ像を思い描いていますか?

窪塚:ありったけのエピソードに触れて、外見はともかく魂の部分でリアリティーのあるイサムをやりたいです。歴史上の人物というほど没後から時間が経っていないですし、まだ彼を直接知っている人も多いですから。この舞台を経て、イサムさんの人生が僕の力に変わるようにさせてもらいたいなと思います。

―イサムは交流が幅広いですよね。コンスタンティン・ブランクーシの弟子で、シュルレアリスムの芸術家と交流があったり。北大路魯山人とも交流があったし、文化を超えた人脈を持っていた。

窪塚:自分の知らない土地に行って、自分と同じようなことを好きな人たちと情熱を持ってクリエイトしていく……わくわくしたでしょうね。「戦後の混乱期の日本が、僕の一番好きな日本です」みたいな言葉も残していますし。そういう刺激の中から、また新しい作品が生まれていった。

―当時の芸術家は、自分の経験が常に作品にフィードバックされている感じがありますよね。出来過ぎな喩えですが、ヒップホップの応答のような。あいつがやるなら、俺はこう行くぞ、っていうマインドを、イサムや岡本太郎から感じます。

窪塚:個人の目線の強さも重要だけど、一つひとつの出会いが自分に与える影響も大切にしてる。それこそが、生きることの真髄なのかな。

撮影:尾嶝太
撮影:尾嶝太

―窪塚さん自身、いろんな人との関わりの中で表現をしてきたと思うのですが、出会いは重要ですか?

窪塚:大事ですね。FacebookとかLINEとか、つながろうと思ったら世界中どこでもつながれる時代だからこそ、気が付いたら自然とできていた生のつながりが大切。日本のことわざで言う「袖振りあうも多生の縁」じゃないけど、そういうものを大事にしていけたら、人生がもっと豊かになって、いつか幸せにつながってくると思う。いまって、「バビロンシステム」で言うと、白人至上社会の優位性が変わっていく真っ最中、もしくは最後の断末魔の状態なんです。日本にしても「なんかおかしいじゃん」ってみんな感じていますよね。そういう疑問に対するアンチテーゼが、自分の力の源になっている。でも同時に、そういう既存のシステムの中で俺たちは生きているわけだから、全否定もできない。矛盾を抱えながらも、人生を謳歌して、自分のスタイルに落とし込んでいくっていうことが自分にとっては必要ですね。

―本来、アーティストってそういう存在だと思います。社会に対して分かりやすい反逆を示すだけじゃなくて、時代の問題点や、未来を指し示すものを作品の中に暗号のように込めていく。50年後、100年後に向けて、かつてあったこと、その時代に人はこう考えていたということを残すのも、アーティストの役割だと思います。窪塚さんは34歳ですよね。イサムは84歳まで生きたので、まだ半分もいってないわけですけど、『iSAMU』を経験することによって、また次のステップに移っていくことができるのではないでしょうか。

窪塚:このタイミングでイサムを演じるっていうのはきっと必要なことなんだろうな、って考えたりもするんですよ。自分が選んだということもあるけど、選ばれたってことでもあるだろうし、いろんな目線から見て、導かれてここに来てるというか。芝居をしているときにすごく実感するんですが、自分のダイレクトな目線と、観客の目線、そして全体を俯瞰で見てる第三の目線があって、そのすべてが満たされる瞬間が幸せなんですよね。日本に昔からある「三方良し」の心得っていうのかな。「俺良し、お前良し、ってことはあいつも良し」、っていうのが一番いい形だと思います。

―三位一体型のWin-Winの関係ですね。それが演劇をやる大きな理由ですか?

窪塚:すごく夢中になって芝居をやっていて、役そのものになりきっている自分と、それをものすごく客観的に見ている自分がいるのが気持ちいいですよね。「ああ、もうちょっと右足後ろだな」とか、俯瞰的に自分の演技を把握できている感じ。舞台に立つと、すべての感覚が研ぎ澄まされていって、場合によっては、古代にも未来にもつながっていける感じがするんです。

イベント情報
パルコ劇場40周年記念 パルコ・プロデュース公演
『iSAMU〜20世紀を生きた芸術家 イサム・ノグチをめぐる3つの物語〜』

原案・演出:宮本亜門
脚本:鈴木哲也、宮本亜門
出演:
窪塚洋介
美波
ジュリー・ドレフュス
小島聖
大森博史
ボブ・ワ―リー
犬飼若博
神農直隆
植田真介
天正彩
池袋遥輝
ほか

東京公演
2013年8月21日(水)〜8月27日(火)全9公演
会場:東京都 渋谷 パルコ劇場(渋谷パルコパート1 9F)
料金:一般7,800円 U-25チケット4,000円(25歳以下対象)

神奈川公演
2013年8月15日(木)〜8月18日(日)全4公演
会場:神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 ホール
料金:S席6,800円 A席4,500円 高校生以下割引1,000円(枚数限定) U24チケット3,400円 (24歳以下、枚数制限、S席のみ) シルバー割引6,300円(65歳以上、枚数限定)

高松公演
2013年8月30日(金)19:00開演(18:30開場)
会場:香川県 サンポートホール高松 3階 大ホール
料金:一般6,000円 会員5,500円

プロフィール
窪塚洋介 (くぼづか ようすけ)

1979年生まれ。俳優、歌手。1995年テレビドラマ『金田一少年の事件簿』でデビュー。2000年ヒットドラマ『池袋ウエストゲートパーク』での怪演で注目される。映画『GO』では史上最年少で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。2006年から卍LINEの名義でレゲエDeejayとしても活動。アルバムを4枚リリースしている。2010年1月蜷川幸雄演出『血は立ったまま眠っている』で舞台初挑戦。2013年8月、宮本亜門演出による舞台『iSAMU』に出演予定。今年秋には映画『ジ、エクストリーム、スキヤキ』が控えている。



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