自分を偽って生きていく? THE★米騒動×白石晃士監督対談

ベッドの上で一人のたうちまわっていた女が、何かを決心したかのように外に出ると、過去に何かしらの関係があったと思われる男たちを、様々な方法で殺していき、死体を写真に収めていく……。無期限活動休止を発表したTHE★米騒動のサードアルバム『輝かしい未来へ』の収録曲“コケット”のミュージックビデオは、かなりの衝撃作であると同時に、何ともTHE★米騒動らしい、異様な爽快感を伴う作品でもある。

本作の監督を務めたのは、フェイクドキュメンタリーの手法で知られる日本ホラー界の奇才・白石晃士。表現の方法は違えども、両者の根底にあるのは、かっこいいロックに対する愛情はもちろんのこと、美しいだけではない、醜さも含めた物事の本質を見つめようとする姿勢。“コケット”のミュージックビデオが生まれたことは、やはり必然だったのである。

家族全員でホラー映画を見て、みんなで「ワーッ」って驚いてるような家だったんです。(石田)

―石田さんは昔から白石監督のファンだったそうですね。

石田(Vo,Gt):もともとスプラッターとかホラー映画が大好きなんですけど、高校3年生のときに白石監督の『グロテスク』(2009年)を見て、それにすごく感動したんです。「日本映画でこんなのあるんだ」っていうか、「ここまで(人間の体を)切り刻んでくれるんだ」っていう(笑)。

―(笑)。

石田:ストーリーのオチの感じもすごく好きで、ブログに感想も書くぐらい感動して。それで、今回のミュージックビデオを作るときに「最後だから好き勝手にやらせてください」と言って、スプラッターとかホラーの監督さんのツテがないかレーベルスタッフに聞いたんです。そしたら「白石監督って知ってますか? 監督がKING BROTHERSのファンなのでちょっとだけ知り合いなんですけど」ってメールが来て、「ぜひお願いします!」って。

左から:石田愛実(THE★米騒動)、白石晃士
左から:石田愛実(THE★米騒動)、白石晃士

―体を切り刻んだりする直接的な描写っていうのは、白石監督がこだわっている部分ですよね?

白石:アメリカ映画で育ってるので、Jホラーって言われるようなものがあんまり好きじゃないんです。怖いものやエグイものをちゃんと見せたり、幽霊と対決したりするのが好きなので、ジメッとした雰囲気で追いつめて、ちょっとだけ幽霊が出て怖がらせるみたいなのだと物足りないんですよね。できるだけ派手にやりたいし、隙あらば爆発とかできないかな? って常に思ってるので(笑)。エンターテイメントとしてお客さんを楽しませるということで言うと、ホラーはとにかく怖いものを見せて、怖がってもらって、それを楽しんでもらうっていうふうに考えてます。

―石田さんはいつ頃からホラーやスプラッターがお好きだったんですか?

石田:もともと見始めたのは、母親の影響で(笑)。

白石:いいお母さんですね(笑)。

石田:家族全員でホラー映画を見て、みんなで「ワーッ」って驚いてるような家だったんです。小学校に入る前から『リング』とか見せられてたので、ホラーに対する抵抗が全然なくて。

―逆にトラウマになりそうな気もするけど。

石田:まったくなかったですね。母親がとにかく映画大好きで、『ティンカーベル』みたいにキラキラしたのも好きなんですけど、ホラーもすごく好きで、ずっと一緒に見てました。でも、うちの母親はスプラッターは嫌がるんですけど(笑)。

―ちなみに、坂本くんはその手の映画は見る?

坂本(Dr):ホラーもスプラッターもまったく見ないです。そういうコーナーの横を通るのも怖いです(笑)。

坂本タイキ(THE★米騒動)
坂本タイキ(THE★米騒動)

―バンドの中でも全く違うんだ(笑)。白石監督はやはり小さい頃からホラー映画を見ていて、自然と映画監督を目指すようになったのでしょうか?

白石:好きは好きだったんですけど、自分で作るとは思ってなくて、ただ仕事の始まりが心霊ドキュメンタリーものだったので、その流れでホラーものの仕事ばっかり来るようになっただけの話なんです。ただ、もともとテレビの心霊番組やUFO番組がすごく好きだったので、それを考えると、何だかんだで収まるところに収まったのかなって気もしていて。今は喜び勇んでやってる感じですね(笑)。

人間の上っ面を引っぺがしたときに、ドロドロした汚いものもあるかもしれないけど、美しいものが見える瞬間もあるんじゃないか。(白石)

―石田さんがホラーやスプラッターが好きっていうことと、THE★米騒動の音楽とは関連があると言えますか?

石田:自分ではないと思ってるんですけど、周りからはよく言われます。特にファーストとセカンドは鬱蒼とした感じで、曲調も全部マイナースケールだったので、「石田さんの趣味に通じますよね」って言われてました。なので、根底では通じるところがあるのかなって気もしますけど。

白石:僕が作るものの本質には、人間の上っ面の皮を引っぺがして、「本音を出したときにどうなるよ?」ってことを意図的にやってるところがあるので、そういう意味では、THE★米騒動の歌詞の世界観と通じるところはあるかなって思いますよ。

―確かに、ファーストなんかは大人に対する懐疑的な目線も強かったし、表層的な部分に対する違和感というのは、THE★米騒動の歌詞から常に感じられる要素ですよね。

石田:そうですね。ものごとの核に迫りたいというか、人の考え方にしても、「結局ホントはこういうことでしょ?」ってことを明らかにしたい。ファーストとセカンドは特にそういうことを歌っている曲が多くて……だから『グロテスク』が好きなのかなあ?

白石:だから僕もTHE★米騒動好きなのかなあ?(笑)

左から:石田愛実、白石晃士

―(笑)。白石監督がおっしゃっていた「上っ面を引っぺがす」というのは、「もっと本音で生きようよ」というメッセージを伝えたいのか、それとも「はがしてみたら面白いじゃん」っていういたずら心みたいなものなのか、どちらに近いと言えますか?

白石:まず、偽善が嫌いなんですよ。あとは、みんなウンコしてるし、SEXもしてるのに、そういうのを「私は何もしてません」みたいな面をしている人に叩きつけたいっていうのはありますね。そうやって上っ面を引っぺがしたときに、ドロドロした汚いものもあるかもしれないけど、美しいものが見える瞬間もあるんじゃないかと思っていて、そういうことを映画の中でやりたいと思ってます。

―やっぱりそこは「叩きつける」という感覚なんですね。「そっと差し出す」とかじゃなくて(笑)。

白石:なるべく、お客さんに挑むつもりで作ってます。映画は普段忘れてるものを思い出させてくれたり、覆い隠されてるものを見せてくれるものだと思うんですね。例えば、裸が出てくる映画だったら、女性の体が美しいとか、逆におばさんになるとこんなにたるむんだってこともわかるし(笑)。そういう普段見られないものを見られるのが映画だと思うので、その一環として、自分はエグイものと同時に、その根っこにある本質的なものから感じられる美しさを見せたいんです。

白石晃士

―一方で、時代的にはますます表現における規制が加速していると思いますが、それについてはどうお考えですか?

白石:社会がある以上、規制はしょうがないと思うんですけど、そこですぐにあきらめるんじゃなくて、過剰な表現をやってみた上で折り合いをつけるようにしてます。例えば、自分はフェイクドキュメンタリーを作るときには大体「キチガイ」という言葉を入れるんですけど、それだと衛星放送でも流せないから、結局「ピー」って自主規制音を入れることになるんです。それで、ときどきプロデューサーから、「どうせピー入れられるんだから、最初からなくしたほうがいいんじゃないか?」って言われるんですけど、「ここにはこの言葉があった」っていう爪痕を残すことが大事だから、あえて使うようにしてます。汚い言葉が世の中にはないようなふりはしないでほしいなって。

―石田さんは、自分が「上っ面を引っぺがす」ような歌詞を書きたくなるのは、なぜだと思いますか?

石田:さっきも言ったように、「ホントはこう考えてるんでしょ?」っていうのに迫りたいのもあるんですけど、一周回ってそれを愛したいっていう気持ちもあって。実際、私も思ってることを言わずに社会に従って生きてる時点で、自分を偽ってるんです。でも自分を偽らないと今の時代楽しく生きられないことも多いと思うから、隠すのも人間らしくて愛おしいよねって。“コケット”も<性を売りにしてここまできた><あなたの為に命を削るの>って、一見揶揄しているようにも見えるかもしれないけど、一周回ってそれも女の人の魅力というか、女として生まれたからには、性を売りにしていくことは正しいし、それが一番楽しく生きる方法だなって思えるようになったんですよね。

自分を偽って日常をこなしている女の子って、フタを開けてみたら結局女を売りにして生きていくしかない気がして。その問題提起として“コケット”は書いてます。(石田)

―では、実際の“コケット”のミュージックビデオについてですが、内容は曲や歌詞からイメージして作られていったわけですよね?

白石:今回、映像を作る曲を選ばせてもらったんですけど、1回聴いて“コケット”しかないって思ったんですよね。映像を作るときには、予算の有無に関わらず常にどう勝つかを考えるんですが、他のミュージックビデオと違うものを作りたいと思ったときに、人を殺してるところを見せるミュージックビデオってないなと思って。ホラー調っていうリクエストだったので、大丈夫だろうと(笑)。

―細かいプロットや設定も事前に作り込んでいたんですか?

白石:いや、現場に用意しなきゃいけないものがわかる程度のことだけ考えて、あとは即興的に作っていきました。「3人の男と過去に関係のあった女の子が主人公で、男を殺していくって感じです」としか役者さんにも説明せず、どういう殺され方をするかはみんな知らないまま、1人ずつ現場で殺し方を決めていきました(笑)。

―“コケット”の歌詞自体には細かい背景ってありますか?

石田:私ぐらいの年だと、波風が立たないように自分のことを偽って、みんなと一緒のレベルの生活をして、ただただ日常をこなしている女の子って結構多いんです。そういう子たちって、フタを開けてみたら、何か特技を身につけているわけでもないし、結局女を売りにして生きていくしかないような気がして。その状況を自覚してないようにも見えるし、「じゃあ、この子たちは何を思って生きてるんだろう?」ってすごく不思議で。それが悪いわけじゃなくて、「何でなの?」という問題提起として“コケット”は書いてます。

―そういう女の子が、ふとしたきっけかで殺人に手を染めて、なおかつ死体を写真に撮って残すところに狂気を感じました。

白石:主人公を演じた女の子と「こういう殺し方をしたいっていう希望とかない?」って話をしたんですけど(笑)、その子が「殺して、並べたいです」って言ったんですよ。一見普通の子だからちょっと印象的で。それが元になって、写真を並べることにしたんです。

―役者さんに関しても、皮を一枚はがしてみたら、隠れてたフェチが見えたとも言えそうですね。完成したビデオを見て、石田さんはいかがでしたか?

石田:ホントに感動しました。ミュージックビデオの制作で、うまく意思疎通ができなくて苦い思いをしたこともあるんですけど、今回はすごく嬉しかったです。

白石:できるだけ曲で描かれている世界を邪魔しないようにしようと思ってました。ミュージックビデオで、「これ、作り手がやりたいことやってるだけじゃん」っていう、曲と乖離してるものを見ると、嫌な気持ちになるので、曲に失礼のないようにってことだけを考えてすごくビクビクしながら作りましたね(笑)。

左から:白石晃士、坂本タイキ、石田愛実

流行りに合わせてヒットする作品を作るよりも、すごく難しいところで勝利したほうが気持ちいいし、今のところは自分の作るものが未来の誰かにとって価値のあるものだと信じてるからやれてます。(白石)

―最後に、THE★米騒動の無期限活動休止についても聞かせてください。

石田:THE★米騒動を結成したのが高校1年生のときで、それから7年間ずっと突っ走ってきたような状況だったんです。高校を卒業してからの進路もバンドのために変えたし、バンド以外のやりたかったことを一旦全部置いてバンドをやってきたので、若いうちにやれることを今のうちにやっておかなきゃっていう焦りが出てきて。

THE★米騒動
THE★米騒動

―『輝かしい未来へ』の歌詞には、その焦りが明確に反映されていて、表現者として生きることと、社会人として生きること、その間で揺れる葛藤が随所で描かれていますよね。

石田:THE★米騒動みたいな音楽って、今の音楽業界では絶対売れないと思うんです。私は「続けてればどうにかなる」っていう考え方がどうしてもできなくて、続けることに意味はあると思うけど、続けたところで「やり通した」っていう事実しか、私の味方にならない気がして。だったら、結果を出せる方向に自分から行くしかないと思ったんです。もし音楽で結果を出したいんだったら、THE★米騒動みたいなバンドじゃなくて、ポップスで4つ打ちやってるので(笑)。

―白石監督は、映画監督を目指す中での分岐点はありましたか?

白石:僕はフリーター時代が長かったけど、映画しかできることがないと思ってたし、他の道はもう閉ざされていたのもあって。でも、「やれるんじゃないか」っていう可能性は自分の中に見出してたんです。自分がやりたいことをやれれば、世の中の人が面白いと思ってくれるものを作れるという、いわゆる根拠のない自信があって(笑)。周りからは信じてもらえなくて、「あ、そう、じゃあ作れば?」って感じでしたけど、自分だけを信じて、しがみつきながらやってきて、今何とか仕事になってるかなって感じですね。

―白石監督が手掛けられているような強い表現を伴う映画というのも、いわゆる売れ線の映画とは違うわけで、そのあたりの葛藤に関してはいかがですか?

白石:その辺はバランスを取りつつですけど、「これじゃ売れない」って思われるものでも、人目にちゃんと触れれば売れることもあるし、自分がこの先の未来を繋いでいけるような作品を作ってると思ってるんです。さっきの話じゃないけど、表現に対する規制もより強くなってるご時世ですので、なかなか面白いものを大きな規模ではやれないんですけど、流行りに合わせてヒットする作品を作るよりも、すごく難しいところで勝利したほうが気持ちいいし(笑)。可能性を感じなかったらやりませんが、今のところは自分の作るものが未来の誰かにとって価値のあるものだと信じてるからやれてます。

―今の話を受けて、改めて石田さんはどう思いますか? もちろん、THE★米騒動の音楽でチャレンジしたい気持ちもまったくなかったわけではないと思うのですが。

石田:高校3年生のときは、その可能性を信じていたんだと思います。『閃光ライオット』で優勝して、「この音楽でも通用するんだ!」と驚いて、盤を出して、フェスに出て、トントン拍子に進んでいったんですけど、じゃあセカンドを作ろうってなったときに、どうしたらいいのかわからなくなっちゃったんです。そのときは頑張って作って出したものの、私的にはあんまりしっくりこなかったというか、ちょっと疲れちゃって。

―初めて取材をさせてもらっときから、「音楽で食えるとは思ってない」って言っていたし、最初からシビアな目線を持ったバンドだったよね。

石田:夢が見られないんですよ、きっと(笑)。

―坂本くんは今後どうするんですか?

坂本:僕は夢を見る側の人間なので、上京してバンドをやります。札幌で今組んでる別のバンドの3人で東京に来るつもりなんですけど、こっちの面白い人と新しい音楽ができたらいいとも思うし。

―それこそCDが売れないってずっと言われてるわけだけど、それでもやっぱり音楽がやりたい?

坂本:白石さんがそうだったみたいに、僕も音楽しかないと思ってるから。変な自信もあるし(笑)。

―白石監督からすれば、若かりし頃の自分を見ているような感覚かもしれないですね(笑)。

白石:僕よりずっと自信があると思いますけどね(笑)。

―じゃあ最後に、堅苦しい感じじゃなくてもいいので、白石監督から今後のTHE★米騒動の二人に何かエールをもらえますか?

白石:音楽をやってるっていうだけで僕にとっては憧れの存在なので、送るエールもないんですけど……幸せな人生を歩んでください。

石田:幸せな人生、歩みたいですね。

―THE★米騒動をやってきたことによって、最後に憧れだった監督と一緒に作品を作ることもできたし、他の人にはなかなか体験できない人生を歩んでこれたことは間違いないと思いますよ。ちなみに、『輝かしい未来へ』っていうタイトルはどうつけたんですか?

石田:これ……すごくウケると思ってつけたのに、みんなわりとマジに捉えていて、私たち的にはどん滑りなんですよ(笑)。

坂本:滑ったねえ。スタジオでめっちゃ笑いながら決めたのにね。

石田:そこはちょっと切ないよね。最終的に滑ったっていう(笑)。

リリース情報
THE★米騒動
『輝かしい未来へ』(CD)

2014年5月14日(水)発売
価格:2,160円(税込)
WhiteRiot / UK.PROJECT / WRT-003

1. コケット
2. 錠剤
3. てじめ
4. 真直ぐ
5. ボーイミーツガール~feat.MC死後硬直~
6. セルアウト
7. 国道36号線のバスタ
8. HOLA

プロフィール
THE★米騒動(ざ こめそうどう)

石田愛実(Gt,Vo)、坂本タイキ(Dr)、沖田笙子(Ba)。北海道札幌市平岸高等学校軽音部にて結成。札幌を中心に活動中。2010年8月、10代限定オーディション「閃光ライオット」にてグランプリを獲得。2014年5月3rdアルバム『輝かしい未来へ』をリリース。同年5月30日のライブにて無期限活動休止予定。



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