音楽の聴き方は自由だが、Sawagiの最新作『Starts to think?』は、できれば曲名から自分なりの情景を想像しながら聴いてほしい作品だ。歌のないインストバンドであるにもかかわらず「人間味を出したかった」という同作には、バンド名通りのアッパーなロックチューン、やさしいメロディーが染み入るセンチメンタルな楽曲、さらにはエジプトの海底遺跡やCIAの暗号が曲名となったものまで、彼らが思い描くさまざまな感情や情景を音にした全11曲を収録。言葉を使わないからこそ、無限に想像が広がる作品となっている。1月25日からは南アフリカ13公演を皮切りにした異例のツアーも控えている彼らに、インストバンドならではの制作の裏側を語ってもらった。
一つひとつの演奏、1音1音でお客さんを感動させたいというメンタルの変化もあったのかもしれない。それがインストの強みでもあるし。(観音)
―『hi hop』(2009年)はダンスミュージックに寄った作品で、『Punch Games』(2012年)はじっくり聴かせて感動させることに重きを置いた作品でしたけど、今作は前半はロック色が強い派手な曲が多くて、後半はじっくりメロディーを聴かせる曲が多いですよね。どういうことを前提に制作したんですか?
nico(Dr):Sawagiは、1曲1曲に口ずさめるようなメロディーやフレーズがある曲作りをやってきたんですけど、それは今回も崩さず、いちばんは人間味と空気感を出したいなと。いままでのアルバムを自分たちで聴いたら、演奏している場を想像できるような空気感が足りないと思ったんです。やっぱり自分たちが聴いてきた音楽でも、ライブに行きたくなったり、印象に残ったりするものって、音源から人間性が伝わってくるものだと思うんですよね。
―でも、インストで人間性を出すって難しいですよね。
nico:そうなんですよね。やっぱり声が入ってないし、歌詞もないので。それにエレクトリックな音楽って、あんまり人間味がなかったりするじゃないですか。だから、ギターとかも歌い上げるような感情が入った弾き方を意識して、あたたかみのあるサウンドになるようにこだわりました。たとえば「プーン」って弾くのと「プ~ン」って弾くのでは、同じ音でも違うわけですし。
―「ここはもうちょっと感情込めて弾けない?」とか、そんなやりとりをしながらレコーディングを?
nico:それもあったし、逆に「感情こもりすぎて嫌です」って言ったりとか(笑)。
観音(Gt):「ここはそういうシーンじゃないねん」みたいな。
コイチ(Key):今回は楽器もいろいろ試したんです。レコーディングのときだけ、普段は使わない生のフェンダーローズ(エレクトリックピアノの名機)を使ったりとか。やっぱり生楽器にしか出ない中低域のふくよかさの上にギターが乗ると、それだけでも全然聴こえ方が変わるので。
―今回のアルバムって、たとえば1曲目の“fuss uppers”と10曲目の“How's your day”だけを聴いたら、派手な曲とやさしい曲で、「違うバンドの曲です」と言われても納得するくらいの振り幅があるじゃないですか。僕は人間性という意味では、「かっこつけたいときもあるけど、本当はセンチメンタルな人たちなのかな?」とか想像したんですよ(笑)。合ってるかどうかわからないですけど。
雲丹亀(Ba):いや、でもそうだと思います(笑)。
nico:でも、四人それぞれが曲を作るので、同じようなものが出てくるほうがおかしいと思うんですよね。
―この何年かのロックフェスシーンではわかりやすいエレクトロなサウンドや、BPMの速いギターサウンドが受けているじゃないですか。Sawagiも5年前に『hi hop』を出した頃は、ダンスミュージック+エレクトロのサウンドで、ライブでは映像やレーザービーム使ったりという印象が強かったんですけど、そこからすごく幅を広げましたよね。そこに対しては、どういうふうに考えてこの5年間やってこられたんですか?
雲丹亀:当時は歌モノのロックバンドと対バンすることも多くて、そっちに寄せるようなライブもしていたんですけど、ちょうどいい時期にバンドとしてハンドルを切って抜け出した感覚があるんですよね。それはブレたとかじゃなくて、イチ抜けたというか。
『hi hop』のリード曲“ibiza”のMV(2009年)
―何が違うと思ってハンドルを切ったんですか?
雲丹亀:お客さんやシーンに寄せた楽曲作りを長いことやり続けるのは無理やなって思ったのかもしれないです。5年前の作品も、曲自体は全然好きなんですけど……。
―それが「10年後20年後も聴かれる音楽なのか?」っていう疑問を感じた?
雲丹亀:そうですね。そのへんを考え始めた時期があって。
観音:それと、一つひとつの演奏、1音1音でお客さんを感動させたいとか、そういうメンタルの変化もあったのかもしれない。それがインストの強みでもあるし。
―Sawagiは流行りって意識しますか?
nico:してないですね。
―むしろ流行りと違うところにいこうという意識もあるんじゃないかと思ったんですけど。
nico:いや、そんな感じでもないですね。新しい音楽を聴いて、かっこいいと思ったら取り入れようって思いますし。日本のフェスによく出るバンドと一緒にやることも多いですけど、そこにいるお客さんが楽しそうな状況になっている現実があって、自分らにできないことをやっているのに、簡単にダサいと言うのは違うと思うんで。ぶっちゃけた話、音楽が全然好きじゃないと思ってたバンドでも、仲よくなったらライブがよく見えてしまうこともありますしね。年取ったからかもしれないですけど。僕らがハタチくらいのときにかっこいいって言ってたバンドも、当時30代だった人はダサいとか、パクりとか言うてたのかもしれないですし。
もう1回「Sawagi」という名前とリンクしたものをリードトラックとして出してみようと。始まって5秒でかっこいいかどうかが伝わることって大事やと思うんです。(nico)
―今回リード曲になっている“fuss uppers”は、いかにもライブで盛り上がりそうな、スケールの大きいロックになっていて、わかりやすい方向に振ってきましたよね。どういう流れでこれをリードにしようという話になったんですか?
nico:Sawagiって、自分たちで言うのもおかしいですけど、すごいバンド名じゃないですか(笑)。前のアルバムから2年半経って、僕らも30歳を超えて、自然とやさしいものが多く生まれてくる時期もあったんです。でも、Sawagiに求められているのは、もっとバンド名とリンクしたものなのかもしれないと思ってできた曲なんですよ。
―バンド名の文字通り、騒いでいるような?
nico:はい。前回のアルバムでは、わりとおとなしめの“kyakkya”をリードトラックにしていて、それがどう受け止められたのかはっきりとはわからないですけど、もう1回1枚目の“ibiza”みたいな、「Sawagi」という名前とリンクしたものをリードトラックとして出してみようと。やっぱり試聴機やYouTubeで聴いてもらうことも多いと思うんですけど、始まって5秒でかっこいいかどうかが伝わることって大事やと思うんです。
(“Thonis”は)エジプトの古代文明の海底都市で、最近になって海底遺跡が発見されたんです。そのロマンに感動したのがちょうどこの曲を書いてるときだったんです。(コイチ)
―それぞれの曲名は作った人が決めてるんですか?
nico:そうですね。
―曲名を意識して聴くか聴かないかで、全然楽しみ方が違うなと思って。インストバンドでも、タイトルという唯一のヒントを意識して聴いてほしいという人と、インストバンドだからこそ何の情報も入れずに聴いてほしいという人がいると思うんですけど、Sawagiはどっちですか?
nico:曲によって、作った人の意図が詰まっているものもあれば、ないものもあるかな。
観音:“Jag Jag”は完全に意図が詰まってますね。「jag」は「酔っ払う」という意味なんですけど、酒の席というか、みんなが楽しくやってる雰囲気を出したかったんですよね。僕は、曲にメッセージや情景を込めることよりも、やってたようでやってなかった音楽性を取り入れたいと思って。“Jag Jag”に関しては、変拍子やけどポピュラリティーがある曲にしたかったんです。
―曲名を意識すると、“Thonis”とか“Kryptos”とかすごく面白くて。“Thonis”は調べてみても正解がよくわからなかったんですけど、エジプトの古代文明の街のことですか?
コイチ:そうです。
―やっぱり! それを意識して聴いたら、すごい想像力が掻き立てられたんですよね。
コイチ:そうやって聴いてもらえるのがいちばんうれしいです。情景をイメージしてほしいという意図でつけたタイトルなので。
nico:よかったなぁ、調べてもらえて(笑)。
―“Thonis”はどんな街なんですか?
コイチ:エジプトの古代文明の海底都市で、ずっと幻じゃないかと言われていたんですよ。それが最近になってある学者が、ヘラクレイオン(Heracleion)という都市とトーニス(Thonis)は、もしかしたら同じ都市じゃないかという仮説を出して、調べたら海底遺跡が発見されたんです。
―実在した街だったんですね。
コイチ:そうなんです。紀元前に栄えていた都市で、遺跡は2000年に発見されたんですけど、ずっと海底に保存されていたから状態もよかったみたいで。そこで見つかった石碑とかに「ここは貿易の拠点だった」と書かれていて、そのロマンに感動したのがちょうどこの曲を書いてるときだったんです。
雲丹亀:レコーディングしてるときにめっちゃ言ってくるんですよ、「ここで水にバーッと潜って見つけたみたいな感じ」とか。「わからんわ!」って(笑)。
― “Kryptos”はCIAにある暗号が書かれた彫刻のことですか?
雲丹亀:そうです。これは構成とかメロディーとかほとんど僕が作ってきて、それから他のメンバーに丸投げして完成した曲なんですけど、完成間際に「ギターの音をスパイ映画っぽい感じにしたら面白いんちゃう?」って話をして。メロディーの折り重なり方を暗号っぽくして、そういう雰囲気も踏まえてタイトルをつけたんです。
―タイトルは後付けが多いんですか?
nico:9割は後付けですね。だいたい曲をどんな内容にするかというイメージは最初にあるので、仮タイトルがそのまま曲目になることもありますけど。
雲丹亀:今回だと、“atride”はそのパターンやね。
―“atride”はどういう意味なんですか? Google翻訳で言語を自動検出したらデンマーク語になって、よくわからなかったんですけど。
雲丹亀:造語ですね。特に意味はなく、ライドシンバルを叩くのが先か後かっていう。
―「後」に「ライド」ということなんですね(笑)。
雲丹亀:だからタイトルが「先ライド」になる可能性もあったんです(笑)。でも、後にライドシンバルを叩くほうが、曲としていい感じだったので。
―それは検索しても出てこないわけですね。
雲丹亀:『ファイナルファンタジー』とかに出てきそうな言葉ですよね。「アトライド鉱石」みたいな(笑)。
ジャケットは、祭事用に飾り付けされてるインド象がモチーフになっていて、よく見ると象が何匹か重なっているんですよ。(nico)
―今回のジャケットは、過去2作とは雰囲気が違いますよね。
nico:これは祭事用に飾り付けされてるインド象がモチーフになっていて、普通は象の体にペイントするんですけど、ジャケットは生ではできないペイント感を出せたらいいなと思って写真の上にペイントしているんです。よく見ると象が何匹か重なっているんですよ。
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―確かによく見ると、目とか耳とかわかりますね。いままではスタイリッシュなジャケでしたけど、今回はかなりカオスな感じじゃないですか。そこは「人間味」というキーワードとも関連してくるんですか?
nico:それもありますね。インド象の写真を自分の携帯の待ち受けにもしてるんですけど、この写真が好きで、前作のときから案としてはあったんです。
テレビは本当のこと言ってないってネットの人たちは言ってるけど、誰が本当のことを言ってるかわからないじゃないですか。一人ひとりがちゃんと考えないと、世の中どうなっていくんやろうなって。(nico)
―アルバムタイトルの『Starts to think?』は、直訳すると「考え始めませんか?」という意味だと思うんですけど、これは何に対しての問いかけなんでしょうか?
nico:なんていうか……ナイーブな話ですけど、デング熱のこととか、選挙のこととか、僕らが戦争行かなアカンかもしれへんとか、誰が本当のことを言ってるかわからないじゃないですか。テレビは本当のこと言ってないってネットの人たちは言ってるけど、どうやって確かめたらいいかもわからへん。一人ひとりがちゃんと考えないと、世の中どうなっていくんやろうなって。すごくいろんなことに対して思います。
―Sawagiは、それぞれが作る曲に必ずしもメッセージを込めているわけではないですけど、アルバムタイトルにはメッセージを込めたと。
nico:込めましたね。ただ、無茶苦茶メッセージ性が強いバンドでもないですし、いろんな取り方をしてもらっても面白いかなとは思ってます。ちなみにCDでは「考え始めませんか?」と投げかけたんですけど、ツアータイトルは「?」を取って、『Starts to think Tour』=「考え始めました」にしたんです。
―1月から南アフリカのダーバンからツアーをスタート(南アフリカで13公演、日本で18公演予定)する予定だそうですね。そもそもなんで南アフリカなんですか?
nico:大阪のFLAKE RECORDSのDAWAさんが、SHORTSTRAWとDESMOND & THE TUTUSという南アフリカのバンドを日本に呼んだんですけど、そのツアーに両方ともSawagiが帯同させてもらって、すごく仲よくなったんです。それで「お前ら南アフリカに呼ぶわ」って言われて、俺らも「行くわ」って言ってたんですけど、まぁ実現するとは思わなかったですよね(笑)。
―アメリカやヨーロッパなら、そういう話もよく聞きますけど、まさかの南アフリカ! 13本まわるそうですが、南アフリカのライブ会場って、どういう場所なんでしょう?
nico:僕らもわからないんですけど、小さい会場でも500~600人のライブハウス、大きいところだと8000人キャパの野外フェスらしくて。
―すごい! 南アフリカで8000人の前でライブをやるなんて貴重な経験ですね。
コイチ:これだけ南アフリカでガッツリやらせてもらえるのって、ひょっとして日本のバンドでは初めてじゃないかと思うんですよ。なので南アフリカを移動しながら、SNSとかで写真や情報をたくさん発信していきたいと思ってます。
nico:たぶん日本の人に風景を見せるだけでも、めっちゃ面白いですよね。治安や健康面でいろいろ気をつけないといけないって聞いているんですけど、帰ってきたら自分の中でいろんなものが変わってるやろなと思って。「考え始める」ツアーになったらいいなと思いますね。
- リリース情報
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- Sawagi
『Starts to think?』(CD) -
2015年1月14日(水)発売
価格:2,500円(税込)
SOPHORI FIELD COMPANY / SPFC-00061. fuss uppers
2. Jag Jag
3. Thonis
4. imbalance
5. rush around in circles
6. Kryptos
7. horoscope
8. colors.
9. atride
10. How's your day
11. Trophy
- Sawagi
- イベント情報
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- 『Starts to think Tour』
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2015年1月24日(土)
会場:南アフリカ共和国 ダーバン Live The Venue2015年1月25日(日)
会場:南アフリカ共和国 プレトリア Park Acoustics2015年1月27日(火)
会場:南アフリカ共和国 ケープタウン Fiction2015年1月28日(水)
会場:南アフリカ共和国 ケープタウン The Assembly2015年1月30日(金)
会場:南アフリカ共和国 ステレンボッシュ Klein Lib2015年1月31日(土)
会場:南アフリカ共和国 スウェレンダム2015年2月1日(日)
会場:南アフリカ共和国 ケープタウン The Assembly2015年2月4日(水)
会場:南アフリカ共和国 ブルームフォンテーン Mystic Boer2015年2月5日(木)
会場:南アフリカ共和国 ポチェフストルーム The Tap2015年2月6日(金)
会場:南アフリカ共和国 プレトリア Arcade Empire2015年2月7日(土)
会場:南アフリカ共和国 ヨハネスブルグ Kitcheners2015年2月13日(金)
会場:南アフリカ共和国 ヨハネスブルグ Bassline2015年2月14日(土)
会場:南アフリカ共和国 ヨハネスブルグ Marks Park2015年3月6日(金)
会場:鹿児島県 SR HALL2015年3月7日(土)
会場:宮崎県 FLOOR2015年3月26日(木)
会場:茨城県 club SONIC mito2015年3月27日(金)
会場:宮城県 enn 2nd2015年3月29日(日)
会場:長野県 ALECX2015年4月2日(木)
会場:島根県 松江 AZTiC canova2015年4月3日(金)
会場:福岡県 Kieth Flack2015年4月4日(土)
会場:広島県 福山Cable2015年4月5日(日)
会場:兵庫県 神戸1082015年4月17日(金)
会場:埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-12015年4月18日(土)
会場:神奈川県 club Lizard YOKOHAMA2015年4月23日(木)
会場:広島県 HIROSHIMA 4.142015年4月24日(金)
会場:高知県 X-pt.2015年4月25日(土)
会場:香川県 KITOKURAS2015年5月10日(日)
会場:愛知県 池下CLUB UPSET
※ワンマンライブ2015年5月17日(日)
会場:大阪府 Shangri-La
※ワンマンライブ2015年5月23日(土)
会場:東京都 WWW
※ワンマンライブ2015年6月28日(日)
会場:沖縄県 Output
※アフターショー
- プロフィール
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- Sawagi (さわぎ)
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ダンスミュージックをコンセプトにロック、ジャズ、ファンク、エレクトロなどのエッセンスを取り入れたボキャブラリー豊富なアレンジを凝らす4人組インストゥルメンタルバンド。2009年に発売された1stアルバム『hi hop』はタワーレコードのレコメンド「タワレコメン」にも選ばれ、同時に洗練されたライブパフォーマンスも噂となり『SUMMER SONIC ’09 大阪』にも出演を果たす。2012年8月に1stフルアルバム『Punch Games』をリリース。そのサウンドやライブスタイルは各方面から注目を浴び、数々のアーティストのツアーサポート、来日アーティストLotus、Shortstraw、Maya Vi、Proviant Audio等と共演。Aira Mitsukiのプロデュースや、CASIO KIDA、Low Frequency Club、藤井リナのリミックスも行っている。
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