Acid Black CherryはV系か?サブカルを取り込んだ独自の哲学

今、日本の音楽シーンで、知る人ぞ知る存在として人気を博すアーティスト・Acid Black Cherry(以下、ABC)。Janne Da Arcのボーカリストyasuが展開するこのソロプロジェクトは、中でも女性ファンの心を掴んでやまず、アリーナクラスのライブを何度も成功させ、新譜リリースのたびにオリコンチャートの上位に必ずランクインする。「エロ」というインパクトあるコンセプトを武器に、パフォーマンス、CDアートワーク、アルバムのコンセプチュアルなストーリーテリングにもこだわるABCは、音楽活動のルーツだったヴィジュアル系ロックの枠に収まりきることなく、多様性に満ちたクリエイティブを発信している。そんな「知る人ぞ知る」ABCの魅力とは何か? Janne Da Arcの頃からyasuを知る音楽評論家・市川哲史と音楽ライター・武市尚子が語る、yasuの意外なルーツから紐解くアーティスト性と最新アルバム『L-エル-』。ABCが放つ独自の世界観がどこからやってきたのか、ここから見えてくる。

ヴィジュアル系が注目されていった1990年頃はJ-POP全盛の時代で、彼らはルックス的にも音楽的にも異端扱いでした。(市川)

―ABCを語る上で、まずJanne Da Arcの話は外せないと思います。Janne Da Arcはヴィジュアル系ムーブメントから登場しましたが、数あるヴィジュアル系バンドの中でも、少し異色の音楽性を持っていたと聞きました。ABCのルーツを探る意味でも、そこからお話をうかがいたいのですが。

市川:僕は創刊当時の1980年代後期から『ROCKIN'ON JAPAN』で原稿を書いていましたが、ちょうど1990年代前夜頃、X JAPAN、BUCK-TICK、その後のLUNA SEAといった、いわゆるヴィジュアル系と呼ばれるバンドがシーンの表舞台に現れ始めました。そして1990年代中盤に、L'Arc~en~Cielがメガヒットを連発すると当然、ほとんどのレコード会社がシーンに注目し、La'cryma ChristiやPENICILLINといった次世代ヴィジュアル系バンドをがばがば青田買いして、さらにムーブメントを肥大化させていきました。その中にJanne Da Arcもいたんです。

武市:まさにそうでした。Janne Da Arcのメジャーデビューは1999年ですからね。

市川:もっと言えば……ヴィジュアル系が注目されていった当時、J-POP全盛の音楽シーンにおいて、彼らはルックス的にも音楽的にも異端扱い。ロックとしても、まさに『ROCKIN'ON JAPAN』が当時扱っていた渋谷系や轟音ギターバンドなどとは当然、相容れない存在でもありました(苦笑)。しかし彼らのCDセールスやライブの動員数には目を見張るものがあった。異端というかイロモノ視されようが、その存在自体でJ-POPや邦楽ロックを実力でねじふせちゃったんです。X JAPANはもちろん、L'Arc~en~CielやGLAYはCDを何百万枚とセールスすることで、ヴィジュアル系という看板を越えて日本を代表するロックバンドとしての地位を確立するようになった。その時点でヴィジュアル系という新興ムーブメント自体はいったん、完結しました。潮目がちょうど2000年頃です。解散や活動休止しましたし、皆。

―まさに新世代のヴィジュアル系が、レコード会社主導で登場してきたときが境目だったと。

市川:ええ。もしくは、それまでが旧石器時代で、それ以降は新石器時代かなと(笑)。

武市:わかります、その感覚(笑)。

市川:旧石器時代と新石器時代では、「ヤンキー文化」という名の尾てい骨のある / なし、酒を呑んで暴れる / 酒を呑まない、体育会系 / 文化系、などの特徴の違いが散見できます(苦笑)。

「格好いいと思うものを全て混ぜてやっちゃえばいいじゃん!」というトゥーマッチな美意識が、それまでのロックの様式を破壊した。(市川)

市川:さらに言えば、ヴィジュアル系は、音楽的な在り方としても非常にユニークなものを内包していますね。そもそも、ヴィジュアル系の音楽的なルーツは洋楽です。そして「格好いいと思う音楽は全部やりたいんだもん♡」と既存の音楽ジャンルを無視し、ヘヴィメタルからプログレ、グラムロック、アヴァンギャルド、ハードコアパンク、ゴス、ニューウェイヴ、モダーンポップ……と、手当たり次第にとりいれたものだから、楽曲はひたすら賑やかで忙しなく展開してしまう。テンポも基本的に高速になり、誰よりも速くギターを弾き、誰よりも速くたくさんドラムを叩く。すると歌詞も、「手首を流れる血をおまえの身体に擦りつけ」たり、なぜか「哀しい色の瞳をした遠い日の僕を女神が抱いて」たりする。それでもって化粧もするし、髪も立てる。そういう、どこまでもトゥーマッチな美意識でそれまでのロックの様式を破壊したのが、原型ですね。

武市:たしかに、なにごとも極端でしたよね。だから若い人たちに支持されたんですよね。

市川:しかもこうした賑やかでまがまがしいファッションやスタイルと、日本伝統のヤンキー文化の根っこはほとんど同じなので、より日本オリジナルのロックとして成立してしまいました(笑)。しかし2000年以降のいわゆる新石器ヴィジュアル系バンドは、旧石器時代の先達に憧れてバンドを始めているので、もはや初期衝動が違うわけです。全然ヤンキーの香りがしないでしょ? 「様式を破壊して破滅する」こと自体が様式美化したことにより、どんどんソフィスティケイトされ、どんどんポップになり……と変容していきました。するともう現代ヴィジュアル系は、コテビ(コテコテなヴィジュアル)系にお耽美系、オサレ系、ネタ系、密室系、コスプレ系、白塗り系などと多様化し、とりあえず派手で化粧をしていればヴィジュアル系、と定着したようです。それでもより若い世代――例えばゴールデンボンバーは「何をやっても許される自由なジャンルが、ヴィジュアル系」と捉えていたりして、そうした世代による定義の変遷は面白いですよね。

武市:そう、今の若いヴィジュアル系バンドは、そういう考え方をしていますね。

市川:まぁ、「ヴィジュアル系=様式の破壊」という意味では、楽器を弾かないなどというエアバンドは立派な、ヴィジュアル系ですわなぁ。

yasuくんは、昔からヴィジュアル系そのものを意識していませんし、強い興味もなかったように思えます。(武市)

―なるほど、ヴィジュアル系と呼ばれるジャンルには、そんな変遷があるわけですね。そして、まさにJanne Da Arcがデビューした1999年頃は、ヴィジュアル系の旧石器時代と新石器時代の端境期だったと。

武市:私がJanne Da Arcを初めて取材したのが、ちょうどそのメジャーデビューのときでしたね。私は学生の頃、HR / HM(ハードロック・ヘヴィメタル)が好きだったのですが、その頃にはヴィジュアル系という言葉すら存在しませんでしたからね。フリーの音楽系のライターになってから、ヴィジュアル系というシーンを知り、とても新鮮に受け止めたのですが、私はそこで出会ったJanne Da Arcの音を、ヴィジュアル系の音だとは一度も感じたことがありませんでしたけど。市川さんは当時のJanne Da Arcの音楽に、どういう印象を持っていたんですか?

市川:世代的には、X JAPANやLUNA SEA、ラルクといった先達のフォロワー。ただJanne Da Arcは非常に楽器が達者だったし、例のヤンキー文化色が希薄だったので、純粋な楽器少年たちが憧れるアンサンブルに秀でたロックバンドだなと。むしろ正統派なロックの系譜を感じました。もう1つ、これはABCを語る上で大事なことだと思うんですけど――yasu本人のヴィジュアル系に対する執着のなさがうかがえましたよね、Janne Da Arcの頃から。

武市:それは私も感じました。yasuくんはDEAD ENDやL'Arc~en~Cielが大好きですが、一方で歌謡曲を聴いていたり、BOØWYの音楽に憧れていたりするので、昔からヴィジュアル系そのものを意識してもいませんし、強い興味もなかったように思えます。

Acid Black Cherry
Acid Black Cherry

市川:そもそも僕が知ってるyasuは、中学卒業までに漫画家を目指し、特にモンスターを描くのが好きで、自作の「冒険物」ゲームブックにはエレクトーンで有名RPGに影響を受けたようなゲーム音楽までつけていた、ゲーム少年だった男ですよ。旧石器時代のヴィジュアル系とは全く違うタイプなんです。しゃべると気さくな関西のお兄ちゃんだし。

武市:はい(笑)。

誤解を恐れずに言えば……日本の音楽は全て歌謡曲的だと思うんです。その中でバンド仕様のものがロックと呼ばれているだけでね。(市川)

武市:1stアルバムの『BLACK LIST』の頃はまだバンド色が濃かったですが、今回の4thアルバム『L-エル-』を聴かせてもらって、ついにyasuくんのソロワークが完成型を見たのかな? と思いました。

市川:ABCの作品にもストーリー性が散りばめられていますけど、yasuってJanne Da Arcの頃からトータルコンセプトアルバムをリリースしていましたよね? 志向性の賜物というか、いまなお執着と憧憬が。


武市:Janne Da Arcだと、『ANOTHER STORY』(2003年)がそうでしたよね。

市川:作品の本質は実は、ここ35年ほど日本の若者を育んできたアニメとゲーム観に近いというか、サブカルっぽさをすごく感じますね。

武市:私もそう思います。アニメの音楽はHR / HMとも相性がいいと言われてきましたが、yasuくんの音楽もそこに近しいものを感じますね。歌謡曲的などこか切ないメロディーというのもそうですし。

市川:歌謡曲はね、35歳以上の日本人ミュージシャンで影響を受けていない人はまずいないですよ。そこは、yasuの年齢的なものもある。子どもの頃からテレビをつければ歌謡曲の番組をやっていて、街を歩けば有線放送が流れていた歌謡曲全盛時代を経ているから皆、メロディーが切ない、いい曲を書きます。yasuもその一人ですね。さらに誤解を恐れずに言えば――日本の音楽は全て歌謡曲的だと思うんです。J-POPを名乗ろうがR&Bを名乗ろうが、歌謡曲は歌謡曲。その中でバンド仕様のものが「ロック」と呼ばれているだけでね。

―歌謡曲がyasuのバックボーンにあることは、ABCが2008年、2010年、2013年と3枚リリースしている邦楽のカバーアルバム『Recreation』シリーズでも証明されていますね。

市川:そういう意味では、だからyasuは「自分の音楽」というものに対して、ただ正直に真摯に素直なことをやっているだけだと思いますよ。

Acid Black Cherry『Recreation 3』ジャケット
Acid Black Cherry『Recreation 3』ジャケット

シーンで最近目立っている現象には、日本の若者を根底で教育してきたサブカルチャーが集約されてきているように思う。(市川)

市川:もともとyasu本人が、ヴィジュアル系と呼ばれようが呼ばれまいが、どっちでもいいスタンスで生きてきたフシがある(笑)。

武市:うん、そうですね。

市川:というかこの2010年代において「ヴィジュアル系」という言葉は、知っていて当たり前の名称に過ぎないのかもしれないですね、もはや。さっき、yasuの根底には漫画やゲームといったサブカルチャーワールドがあると言いましたが、「アニソン」はLUNA SEAの出現以降、いまもなおヴィジュアル系的バンドサウンドが主流です。最近海外でも人気のBABYMETALは、アニメ的世界観とヴィジュアル系メタルサウンドに、アイドルまで合体してしまいました。そういう意味ではここにきて、アニメしかりゲームしかり漫画しかりアイドルしかり、そしてヴィジュアル系しかり、日本の若者を潜在的に根底で育んできたサブカルチャーが、あちこちで集約されてきていて、華を咲かせてる気がしますねぇ。もちろんABCも含めて。

武市:そのABCの現時点での集大成が、ニューアルバムの『L-エル-』だと思うんです。市川さんは『L-エル-』をどう聴かれましたか?

市川:武市さんは集大成とおっしゃったけども、たしかにyasuがもともと持っていた、RPG的世界観の難易度がバージョンアップしていますね。どうも彼はストーリーや設定がびっしりあるほうが、表現力が上がる男のような。優秀な「クリエイター兼声優」、なんでしょうなぁ。

武市:特に今回のストーリーブックはCDサイズではありますけど、100ページにわたる大作。yasuくんのアルバム制作は、楽曲を先に作って並べ、ストーリーをそこにのせて、両方を突き詰めていく形で作り込んだそうなのですが、ストーリーがなかったらこれらの曲は生まれてこなかったんじゃないか? と思えるほど、しっかりしたコンセプトに貫かれています。

市川:あ、ストーリーを先に作ったわけではないんですか。

武市:はい、そう聞いています。楽曲から紡いでいったと。

市川:東野圭吾の小説のようですね。『新参者』(2009年刊行の東野圭吾の推理小説)のようにいくつもの短編が結びついて、最終的に長編として見事に成立するような。技巧的にも非常に進化していますなぁ。


音へのこだわりがハンパじゃないので、ミュージシャンもyasuくんと向き合って、「このデモをどう自分なりに表現しようか?」と考えるのがすごく楽しいみたいです。(武市)

武市:音作り関しても、今回は特にこだわりがすごくて、サポートミュージシャンの方々がみなさん驚いていましたね。yasuくんは全部の楽器ができるので、デモの打ち込み音源も自分で全て作るのですが、音へのこだわりがハンパじゃないんです。ドラムのゴーストノート、ギターのピッキングノイズまでも全部、打ち込みで再現してくるから、ミュージシャンもyasuくんと向き合うのがすごく楽しいみたいです。このデモをどう自分なりに表現しようかと。そこまでのめり込んだ音楽作りをする人は、そういないですよね。

市川:そこが、yasuが優れたオタクたるゆえんでしょうねぇ。

武市:クリエイターとしての意識が本当に高いですね。

市川:ええ。でもだからといって、奇をてらったような方法論を用いたりするわけではない。あくまでも自分が思い描く世界観を、自分が培ってきた表現方法や音楽性を組み合わせて具体化していく作業のレベルが、どんどん上がってきていますね。だからyasuにとってのニュースタンダードを追求したのが、ABCなんだなと、『L-エル-』を聴いて思いました。あと、特筆すべきは歌詞ですね。とても上手くなったと思う、巧妙だし個性的だし。

武市:ABCは、ただ曲を聴くのと歌詞を見ながら聴くのとでは、全然違う感覚があるんです。「譜割り」がとても独特なので、他の人が歌えないような歌い回しがある。とても面白いです。

市川:yasuは、日本人が大好きな王道ボーカルの系譜を受け継いでいますよ。高音のハリがありながらまろやかで、まさにロックとポップスのいいところを兼ね備えたスタイルというか。だから変にロックを意識して、わざわざ、ひねくれた歌い方をする必要もない。直球で歌うだけで充分表現力があるから、後ろでどんなに賑やかでトゥーマッチなヴィジュアル系バンドサウンドでも、ちゃんと主役として聴ける。

武市:ミディアムチューンだと、それがさらに際立つ。『L-エル-』の“眠れぬ夜”も、いかにも歌謡曲的で聴き応えがあります。

市川:yasuを呼ぶときは、「ボーカリスト」より、「ロック歌手」のほうがしっくりくると思うなぁ。

武市:あぁ、そうですね!

―まさに、ジャンルに囚われることのないyasuらしい呼称かもしれないですね。

市川:好みはあると思いますが、ABCをまだ聴いたことがない方にも、彼の音楽は面白く感じられるはずです。ヴィジュアル系も含めた日本特有のポップカルチャー群をトゥーマッチに体現しているのがyasuであり、ABCですから。過剰に作り込まれた作品は、掘り下げれば掘り下げるほど面白いというのが、サブカル魂の基本です(笑)。わははは。

演歌も女性目線の曲が多いですよね、作詞家も歌手も男なのに。どうも男は女性目線で制作すると異常にリビドーが分泌されるんじゃないか。(市川)

武市:ABCは8割から9割が、女性目線からのラブソングというのも特徴的ですよね。考えてみたら、それも男性アーティストとしてはすごいことだと思うんですよ。

市川:yasuがなぜ、わざわざ女子目線にしてしまうのか――わかる気がしますねぇ。ほら、自分のおちんちんを股に挟んで隠して、「いやーん♡」と女児の真似をする『クレヨンしんちゃん』ってお馴染みでしょ。アレって、男の子が絶対一度はやってることで。

武市:え!? 誰でもですか?(笑)

市川:そう、女の子の気分になってみたい願望は誰しもある! ほら、演歌なんてまさに女性目線の曲が多いですよね、作詞家も歌手も男なのに。どうも男は女性目線で制作すると異常にリビドーが分泌されるんじゃないか、と。だからyasuも「女の業」を描くのが上手いんでしょうねぇ。

武市:たしかに、恋愛にのめり込む女性の面倒くさい気持ちを、なぜあんなによくわかるのか? という疑問は持ちますね。

市川:それはね、彼が女性のことが大好きで、今の年齢になるまでずーっと女性の感情や行動を愛をもって観察してきたからこそ、ではないでしょうか。オタクならではの必殺技ですよ!(笑)

―肉食系と思いきや……。

武市:めっちゃエロいと思いますよ(笑)。

市川:yasuのエロには、実はリアリティーがない。

武市:え!? あれ以上にない露骨で赤裸々な表現を用いた歌詞なのに、リアリティーがないと?

市川:そう。「ほらイヤらしいでしょ?」とこれでもかという表現は露骨だけど、男は聴いてもあまり興奮しない。説明が過剰すぎて逆に醒めちゃうのかもしれませんが(笑)。たぶん「照れ」がそうさせているのかはわかりませんが。

武市:照れていたらあんな歌詞は書けなくないですか?

市川:「ロックバンドのボーカリスト・yasu」としてだから、書けるんですよ!

武市:本名の「林保徳」名義じゃ書けないってことですか?

市川:本名のまま書いていたら馬鹿ですわ。

武市:クレジットは本名で書いてますけどね(笑)。でも、歌詞は、Acid Black Cherryのyasuとして書いているってことですね。

市川:そういうこと。「エロいロックボーカリスト」仕様になってるわけですよ。そんなキャラクターを演じていると設定すれば、自分を客観的にペイントすることもできるだろうし、本来の内気な性格でも開放的になれるだろうし。だからアニメ少年が、セル画に色を塗り重ねているようなもんじゃないですかねぇ。丁寧かつ大胆に。

―まさに、RPGの世界ですね。

市川:yasuは自分で自分を過剰に演出することで、バランスが衡れてるんじゃないかなぁ。そもそも昔から、女関係の話をしたことないし。

武市:すっごいまじめなんですよね。ロックスターみたいな感じにファンからは見えているかもしれないですけど、意外と出不精だし。音には人一倍こだわりを持っているし、本当に厳しく向き合う人だし。

市川:だからyasuが絶対できもしないことを全部集めると、「ロックスター」像になるんですよきっと(笑)。

―徐々に、yasuさんのパーソナルなところが見えてきましたね。

武市:yasu、すごいヘッポコじゃないですか!(笑)

市川:駄目駄目ですわ。

今の日本の音楽は、身近すぎる自己啓発ソングばかり。でも歌詞や楽曲の世界観というのは、手の込んだフィクションを見せてなんぼだと思うんですよ。(市川)

武市:(笑)。最近、yasuくんと恋愛観の話をしたとき、「若い頃は、見た目だけにしか目がいかなかったけど、最近は、この子もいつかお婆ちゃんになるんやなぁって思うようになった」って言ってたんです。今作に収録されている“Loves”を聴いたとき、そのyasuくんの言葉を思い出したんですよね。昔は書けなかった歌詞なのかもしれないなぁって。

市川:あー、そりゃ本名仕様の彼ですね。やっぱね、いくらロック者でもやがて自分の年齢が追い付いてくるというか、大人になればなるほど我を忘れるような恋愛はしなくなる――そういうもんだと思いますよ?

武市:なるほど。今作には、Acid Black Cherryのyasuではなく、林保徳が出ているなと感じた歌詞もたくさんありましたからね。そういう意味ではリアルもありますよね。yasuくんはインタビューでもよく言っていますが、10代は女の子に浮気されまくっていたらしいです(笑)。だから、女性目線のときも「愛してほしい」気持ちが、常に表れている気がします。『L-エル-』が最後に訴えるのも「欲しかったのは……愛」ですしね。

市川:だははは。さすがのオチです。「女の業」に関しては完全にフィクションっぽいですけど――だからこそ面白い。そんなフィクション性にこそ、実は真理があるわけで。今の日本のポップソングの歌詞って、なんかもう半径5cmもないような身近すぎるサイズで、しかも身近すぎる自己啓発ソングばかりでしょ。でも歌詞や楽曲の世界観というのは、手の込んだフィクションを見せてなんぼだと思うんですよ。その意味で、ABCというのはとてもいいサンプルだと、僕は思いますね。

リリース情報
Acid Black Cherry
『L―エル―』Project『Shangri-la』LIVE盤(CD+DVD)

2015年2月25日(水)発売
価格:5,184円(税込)
AVCD-32241/B

[CD]
1. Round & Round
2. liar or LIAR ?
3. エストエム
4. 君がいない、あの日から...
5. L―エル―
6. Greed Greed Greed
7. 7 colors
8. ~Le Chat Noir~
9. 黒猫 ~Adult Black Cat~
10. versus G
11. 眠れぬ夜
12. INCUBUS
13. Loves
14. & you
[DVD]
1. Greed Greed Greed
2. Murder Licence
3. 楽園
4. 蝶
5. 1954 LOVE/HATE
6. 黒猫~Adult Black Cat~
7. 君がいない、あの日から...
8. Maria
9. so...Good night.
10. ピストル
11. 罪と罰 ~神様のアリバイ~
12. Black Cherry
13. シャングリラ
14. doomsday clock
15. scar
16. SPELL MAGIC
17. 20+∞Century Boys
※コンセプトストーリーブック付き

Acid Black Cherry
『L―エル―』Project『Shangri-la』ドキュメント盤(CD+DVD)

2015年2月25日(水)発売
価格:4,860円(税込)
AVCD-32242/B

[CD]
1. Round & Round
2. liar or LIAR ?
3. エストエム
4. 君がいない、あの日から...
5. L―エル―
6. Greed Greed Greed
7. 7 colors
8. ~Le Chat Noir~
9. 黒猫 ~Adult Black Cat~
10. versus G
11. 眠れぬ夜
12. INCUBUS
13. Loves
14. & you
[DVD]
・『Project「Shangri-la」』完全密着ドキュメントムービー
・“Greed Greed Greed”PV
・“黒猫~Adult Black Cat~”PV
・“君がいない、あの日から...”PV
・“INCUBUS”PV
※コンセプトストーリーブック付き

Acid Black Cherry
『L―エル―』通常盤(CD)

2015年2月25日(水)発売
価格:3,240円(税込)
AVCD-32243

1. Round & Round
2. liar or LIAR ?
3. エストエム
4. 君がいない、あの日から...
5. L―エル―
6. Greed Greed Greed
7. 7 colors
8. ~Le Chat Noir~
9. 黒猫 ~Adult Black Cat~
10. versus G
11. 眠れぬ夜
12. INCUBUS
13. Loves
14. & you
※44Pフォトブック付き

書籍情報
『誰も教えてくれなかった本当のポップミュージック論』

2014年4月19日(土)発売
著者:市川哲史
価格:1,728円(税込)

プロフィール
Acid Black Cherry (あしっど ぶらっく ちぇりー)

ロックバンド・Janne Da Arcのボーカリストyasuのソロプロジェクトとして2007年始動。通称ABC。2007年シングル『SPELL MAGIC』でデビュー。現在までシングル19枚、オリジナルアルバム3枚、カバーアルバム3枚をリリース。2012年3月21日にリリースした3枚目のアルバム「『2012』」では自身初のオリコンウィークリーチャート初登場1位を記録し20万枚を超える作品となった。収録曲でもある15枚目のシングル『イエス』は2012年USEN年間J-POPリクエストランキングで1位を獲得し、youtubeの再生回数は865万回を超えるなど、ABCを一般層へと広げたきっかけの楽曲となる。2013年8月からは、「ABCの音楽を通して少しでも笑顔になってくれる人がいるならば、近くに行って唄いたい」という主旨で“Project『Shangri-la』”をスタート。全ての会場がSOLD OUTした全都道府県TOURと、追加公演として行われたアリーナTOURも含め自身最多の18万人を動員。

市川哲史 (いちかわ てつし)

1961年岡山生まれ。音楽評論家。1980年に大学時代より『ロッキング・オン』デビュー。1993年に独立して『音楽と人』を創刊。現在では、邦洋ロックのみならずジャニーズや多人数アイドルにまで守備範囲が拡がり、自由な文筆活動を展開。最新作は『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック・エンタテイメント刊)。

武市尚子 (たけいちなおこ)

1968年12月15日生まれ。愛知県出身。名古屋芸術大学美術学部卒業後、株式会社BIGI GROUPに 勤務し、PINK HOUSE PRESSに所属。退職後、アイドル雑誌の編集を経てフリーライターに。音楽雑誌を中心に、バンド、ソロアーティストを幅広くインタビュー。ライター・編集以外にもラジオ・イベントのMCなども担当。



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