ニューヨークにあるソウルの殿堂「アポロシアター」で開催される、シンガーやパフォーマーたちが実力を競い合う大会『アマチュアナイト』にて、日本人としては異例の準優勝に輝いた実力派シンガーNao Yoshioka。彼女の待望のメジャーデビューアルバム『Rising』が、このたびリリースされる。ホイットニー・ヒューストンやビヨンセなどへの楽曲提供で知られるグラミー賞作家ゴードン・チェンバースや、「オランダのアレサ」との異名を持つシャーマ・ラーズら豪華アーティストが参加した本作は、本場のブラックミュージックに一歩も引けを取らないパワフルな彼女の歌声がとにかく圧巻で、「新たなソウルスタンダード」と言っても決して大げさではない仕上がりとなっている。
世界への道をひた走る彼女だが、実は過去に大きな挫折を味わっている。1度は歌をやめようとさえ思うほどの絶望の中、再び「音楽」という一筋の光を見い出し、導かれるようにここまできた。その道のりは、聞けば聞くほど驚きの連続で、しかも振り返ってみれば全てが「必然」ともいえるような、なんとも不思議で感動的な半生なのである。
何かひとつでも信じられるものがあって、一歩ずつ進んでいけば、きっと道は開ける。それを体現しているようなNao Yoshiokaのライフストーリーを、是非とも多くの人に知ってもらいたい。
(19歳のとき)音楽を続けてたら歌が大嫌いになってしまいそうで、歌うことも一切やめました。
―プロの歌手になりたいと思ったのはいつ頃ですか?
Nao:小さい頃からお風呂場で歌ったり、カラオケに行ったりするのが好きだったんですけど、高校で軽音部に入って人前で歌ったときに「これしかない! これが私のやるべきことなんだ!」と思ったのが、本気で歌に目覚めた瞬間でした。当時からゴスペルやソウルにも興味はあったんですけど、それ以外の音楽も好きで、バンドメンバーとは「日本版The Black Eyed Peasになろうぜ」なんて話してましたね。
―16歳のときに、1度オーディションに通過して、プロデビューの一歩手前まで行ったそうですね。
Nao:そうなんです。CDデビューオーディションを受けたら優勝して。その後19歳くらいまで、デビューに向けてボーカルトレーニングをしながらCD制作をしてました。でも、やってるうちに、自分が本当に何を歌いたいのか、なぜ歌いたいのか、そういう芯の部分が迷子の状態になって塞ぎ込んでしまったんです。
―「歌いたいけど、それを表現する手段が見つからない」みたいな。
Nao:そうですね。しかも、学校のこととか家庭のこととかいろんな問題が同時に重なって……鬱っていうか、家から出られない状態になってしまったんですよね。体調も崩してしまい、高校も中退して。音楽を続けてたら歌が大嫌いになってしまいそうで、歌うことも一切やめました。
―大好きな音楽が自分を追い込んでいたなら、相当辛かったでしょうね。
Nao:はい。16歳から19歳くらいまでの自分にとって音楽は全てだったし、「私、何のために生きてるんだろう」とまで考えてしまってましたね。
―しかもその頃、お友達を亡くしたことも転機になったとか。
Nao:そうなんです。同じように音楽のプロを目指していた友達が、私と同じタイミングで鬱になって、最後は自ら命を絶つ選択をしてしまいました。私も彼女の気持ちが痛いほどわかって、同じような気持ちになってしまう瞬間もあったんですけど、彼女が亡くなってしまったときに、「死ぬことでは何にも変わらないんだ」っていうのを目の当たりにして……。それからだんだんと「このままじゃいけない」と思うようになって、「よし、ニューヨークに行こう」って決心をしました。
―そんなどん底から、一体なぜ「ニューヨークへ行こう」なんて発想になったのですか……?
Nao:そのとき大阪にいた自分には、何ひとつ希望がなかったので、「ニューヨークに行ったら何か変わるかもしれない」って思ったんでしょうね。実際、そう決めたら心がワクワクし始めたんです。それまでずっと家で引きこもってて、外にでかけることもできないし、バイトもできない状態だったのに、「ニューヨークに行くならお金を貯めなきゃ」と思うとバイトができるようになって。自分の中でリハビリというか、「こんなこともできた!」「あんなこともできた!」っていう感じで、一歩ずつステップを踏むように進んでいきました。
―ちなみに、ニューヨークへ行くまでのバイトは何をやってたんですか?
Nao:兵庫県にある城崎温泉で仲居さんを住み込みでやったり。
―ええ? 引きこもりから住み込みって、すごい大きなチャレンジじゃないですか!?
Nao:そうですよね(笑)。「とにかく大阪から出てみよう」と思ったんです。そのあとは、姉が住んでいた東京へ移って、渋谷のサラダ屋さんでバイトしたり、「英語がしゃべりたい」と思って外国人がよく来るバーの店員をやったり。とにかく、「夢を叶えるためにお金を貯める」ということに夢中でした。
―じゃあ、ニューヨークに行くことを決意して働き始めてからは、体調を崩すこともなく?
Nao:はい。ストレスが重なると肌に症状が出たりするんですけど、働き始めてからはもう全然。
思いついたことを、とにかくやり続けてたんですよね。そんな毎日でも、引きこもってた頃と比べたら、確実に進化してるなって。
―その後、2009年に渡米をしたそうですが……すぐに馴染めましたか? 現地に知り合いとかはいたんですか?
Nao:いいえ、全く(笑)。mixiで、ニューヨークに住んでる日本人を探して片っぱしからメッセージを送りつけました。ボーカルスクールを見つけたくて、「私、歌を歌いたいんですけど、どこか知りませんか?」って(笑)。その中の1人が、私の恩師となったボーカルコーチを教えてくれたんです。だから、ニューヨークへ行って5日後にはレッスンを受けてました。
―すごい行動力ですね。
Nao:やることがないんですよ! ニューヨークに行ったからといって、道を歩いてても友達なんてできないし、なにしろ英語も話せない。着いて3日目くらいに「あ、私このままだとやばいぞ」と思って(笑)。
―ニューヨークって、すごくシビアな街だし、やわな気持ちだとすぐに押しつぶされそうじゃないですか。そんなところに何も決めず、病み上がりで行って……ネガティブな気持ちになることはなかったですか?
Nao:そこはもう、シンプルな思いだけでしたね。「歌を歌いたい」「じゃあニューヨークへ行こう」、「行ったらやることがない」「じゃあメール送ってみよう」みたいな。とにかく次の一歩しか見てない。思いついたことを、とにかくやり続けてたんですよね。そんな毎日でも、引きこもってた頃と比べたら、「働けてる自分がいる」「ニューヨークまで来ちゃった」「レッスン受けてるじゃん、私!」みたいな感じで、確実に進化してるなって。だから、未来を見据えてるというよりは、「今日も一歩前に進めた、大丈夫だ」っていう気持ちだけでした。
―ニューヨークで出会った恩師っていうのは、どんな人だったんですか?
Nao:褒められたことがほとんどないくらい、とにかく厳しい方で。レッスンに行くともうコテンパンにされるんですよ。どれだけ頑張っても、「違う違う違う違う違う違う違う」って(笑)。彼が求めているレベルにずっと届かない。それでも3か月に1回くらい、「お、いいじゃん」って言われるときがあって。そのために頑張ってましたね。
―超スパルタじゃないですか。
Nao:「私、気持ちを込めて歌ってます」だけでは認めてくれなくて、「気持ちを込めるために、どういう表現や技術を身につけると、それが伝わるようになるのか。プロフェッショナルなら学びなさい」って教えられて。感情は技術で補うものだっていうことを叩き込まれました。
―「気持ちさえあれば、技術がなくても届く」なんてことはないんですよね。
Nao:そうなんです。それはもう、確実に自己満足なんですよ。「すごく気持ちいい!」って自分で思ってても、それでは伝わらない。
―ダメ出しされ続けてて、よく挫けませんでしたね。
Nao:挫けそうになったことは何度もあったし、レッスンを休みそうになったこともあったんですけど、結局彼が言ってることは正しかったので、「この人についてこう」って。絶対に頑張ろうって思いました。
―3か月に1度ほめられたときはもう……(笑)。
Nao:泣いてましたよ(笑)。
「これからソウルミュージックを歌っていきたい」という理由が、ニューヨークで見つかりました。
―向こうでライブにも出演したんですよね?
Nao:はい。オープンマイク(飛び入りで参加できるステージ)にも出てましたし、ゴスペルの大会とか、アポロシアターの『アマチュアナイト』とかにも出ました。だからレッスンでは、大事なステージに向けて、2~3か月かけて1曲を学ぶという毎日だったんです。
―『アマチュアナイト』って、どんな雰囲気なんですか?
Nao:すごく独特な場所です。ガチの戦いなんですよね。ジャッジがお客さんの拍手で決まるし、ダメなパフォーマンスを見せたらブーイングで退場させられる。大会の最初に、「このステージでは何が起こるかわからない、マジカルな場所だから」ってMCの方が言うんです。もう緊張しすぎて声が出ないくらいだったんですけど、特別な経験でしたね、本当に。
―お客さんの反応はどうでした?
Nao:すごくよかったです。自分としては、自分を保つので精一杯だったんですけど、たくさん拍手をもらって準優勝をいただいて。2回戦に勝ち上がることができました。
―ニューヨークで得た、Naoさんにとっての一番大きな経験とは何でしょう?
Nao:「これからソウルミュージックを歌っていきたい」という理由が、ニューヨークで見つかったということですね。ニューヨークでの生活は辛いこともたくさんあったんですけど、ソウルは人の心を救うということを学びました。サム・クックの“A Change Is Gonna Come”という曲の「変化はいつか、必ず訪れる」というフレーズを歌っているときに、自分の気持ちと完璧にシンクロしたんですよね。自分の心と歌っている言葉がこれほどまでに一致するのが人生で初めての経験で、その曲を歌うたびに自分が元気になったり励まされたりして。「ああ、音楽って人をこんなに元気づけたり、人生すら変えられるほどのパワーがあるんだ」って。私は絶対、これからもこうやって歌い続けていきたいし、メッセージを伝えていく人になりたいって強く思いました。
―日本に帰ってこようと思ったのは、どんなタイミングで?
Nao:自分の中で「アメリカで学ぶことは学んだ」って思えたというか、「次に進まなきゃいけない」っていうふうに感じたんですよね。
―それで帰国されて、SWEET SOUL RECORDS(日本のソウルミュージック専門レーベル)と出会ったんですね。
Nao:はい。SWEET SOUL RECORDSが出してるコンピレーションアルバムを聴いて、「こんなすごい人たちがいるんだ!」と衝撃を受けて。そのリリースイベントに行ったときに、プロデューサーの山内さんに声をかけられたんです。山内さんも、私がニューヨークのジャムセッションで歌っている映像を、見てくださってたみたいで。
―出会う前から相思相愛だったということですね。
Nao:そうなんです。ニューヨークに住んでたときは、「日本に帰らなくてもいいかな」と思うこともあったんですけど、SWEET SOUL RECORDSに会うために帰国したんだなって今は思います。多分、あのままアメリカにいたとしても何も進まなかったし、今こうやって夢を共有しあえる仲間ができたことで、アルバムができたし自分も成長したし。運命だったと思いますね。
私はずっとコンプレックスが強くて、「愛されないんじゃないか」っていう不安と恐怖を抱えていたんです。でも、「自分にもできることがある」って、少しずつ自分を認められるようになった。
―そして、2013年の1stアルバム『The Light』を経て、今月ついにメジャーデビュー作となる『Rising』がリリースされますね。
Nao:はい。前作はカバー中心でしたが、今作は13曲中12曲がオリジナル曲で、よりNao Yoshiokaとしてのメッセージが表現できたんじゃないかと思います。ソウルミュージックのよさって、その人の人生が歌から感じられることだと思っていて。サム・クックも、自分の人生が歌詞の間から溢れ出しているところが大好きなんです。
―Naoさんも、そういうシンガーになりたいって思います?
Nao:思いますね。自分のライブに来てくださった方には、短編映画を見ているような気持ちになってほしいというか、「この人は、こんな人生を送ってきたのか」ってストーリーが見えるようなステージにしたいと思ってます。
―アルバムは、まさにNaoさんが今日話してくれたこれまでの人生から生まれた思いやメッセージが詰まっていると感じました。アルバム全体として、何かテーマはありましたか?
Nao:前作が『The Light』というタイトル通り、「一筋の光」をテーマにしていたとしたら、今回はその光に包まれ、自分自身も輝き出すというのがテーマでした。たとえば、4曲目の“Joy”は、光の中で輝いている女性というのがテーマで、「それってどんな人だろう?」と考えたときに、自分が愛する人に愛されている自信があって、大きな愛を抱えてキラキラ輝いているような女性が浮かんできて。自分もそういう人になりたいと思って作った曲です。英語の歌詞を和訳すると、「決して消えることのない愛を、私は持っている」ということを歌ってます。
―1曲目の“Love Is the Answer”から、「恐怖を越えて愛を選ぼう、愛こそが答えだ」と真っ直ぐにメッセージを投げかけてますもんね。
Nao:そうですね。大好きだからこそ、飛び込んでいくのが怖いっていう気持ちになるじゃないですか。でも自分が本当に愛しているなら、「恐怖」よりも「愛」を選んでいこうっていう決意表明なんです。私はずっとコンプレックスが強くて、「愛されないんじゃないか」っていう不安と恐怖を抱えていたんです。でも、『The Light』をリリースしてから、「自分にもできることがある」って少しずつ自分を認められるようになって、「私は、こんなにたくさんの人に愛されていたんだ」ってことを知ることもできた。それが今回のアルバム『Rising』のテーマである「光の中へ」につながって、“Love Is the Answer”のような強い曲を作ることができたんだと思います。
―自分を信じて愛せなかったら、誰かを愛することもできないですもんね。
Nao:そ、そんな、大人な……(笑)。でも、そうですね。やっと、それができるようになってきたと思います。
今までずっと言ってきた「日本と世界で活躍する」ということへまた一歩踏み出せると思うし、自分としてはここからが勝負だと思ってます。
―こうやって自分の夢に向かって一歩ずつ進んで、喜びと自信を積み重ねてきたNaoさんが歌う“Dreams”は、説得力がありますよね。
Nao: ありがとうございます。音楽を通して夢をシェアしていきたい、夢は絶対に叶うって歌っている曲で、このアルバムの光の部分を象徴している曲ですね。曲を作ってくださったゴードン(・チェンバース)とニューヨークでレコーディングしたんですけど、彼のディレクションが本当に素晴らしくて。「もっとソフトに、もっとソフトに」って言われて、こんなにソフトに歌ったことがないっていうくらいソフトに歌いました。あとから聴き返してみると、今まで聴いたことのない自分の歌声の質感があって、「ああ、こういうことだったんだ!」って感動しました。
―この曲は、この先の夢も叶えていきたいっていう強い思いと、ここまで来れたことへの感謝や温かい気持ちの両方が表現されているじゃないですか。それって、ゴードンさんの「ソフトに歌って」っていうディレクションがあってこその優しさと強さなのかなって。
Nao:わあ、嬉しいです……ありがとうございます!(笑) 以前、彼のレッスンを受けさせてもらったことがあって、それは自分にとってのブレイクスルーになったんです。彼が、「あなたのその歌声を、人を癒したり勇気づけたりすることに使いなさい」って言ってくださって。「私、この人と絶対にアルバムを作りたい!」と思ってたら、それが実現したんですよね。
―アルバムは、まさにNaoさんの人生が凝縮されていますね。
Nao:そうですね、本当にそう思います。私がそのまま入っていると思いますね。
―今、悩んでいる人たちとか、道を見失っている人たちにとって、Naoさんの作品がひとつの指針になるといいですよね。何かひとつでも信じるものがあって、その光に向かって一歩ずつでも進んでいけば、こうやって道は開けていくんだっていう。
Nao:そう思ってもらえると嬉しいですね。ほんと、自分がそうやってソウルに救われたので。
―世界で活躍できる日本人シンガーとして、これからも楽しみにしています。
Nao:今月、全米リリースが決まったんです。日本でもメジャーデビューができて、今までずっと言ってきた「日本と世界で活躍する」ということへまた一歩踏み出せると思うし、自分としてはここからが勝負だと思ってます。「今ぶちかまさないと次の自分はないぜ!」っていう気持ちで頑張ります!(笑)
- リリース情報
-
- Nao Yoshioka
『Rising』通常盤(CD) -
2015年4月8日(水)発売
価格:2,916円(税込)
YCCW-102591. Love Is the Answer
2. Just Go
3. LIVE
4. Joy
5. I'm No Angel
6. Rock Steady
7. Turning
8. Never Had Love Like This
9. Nobody
10. Awake
11. Dreams
12. I Need You
13. Forget about It
- Nao Yoshioka
-
-
2015年4月8日(水)発売
価格:2,916円(税込)
YCCW-102601. Love Is the Answer
2. Just Go
3. LIVE
4. Joy
5. I'm No Angel
6. Rock Steady
7. Turning
8. Never Had Love Like This
9. Nobody
10. Awake
11. Dreams
12. I Need You
13. Forget about It
14. Coming out of the Dark
15. Rise
-
- イベント情報
-
- 『NAO YOSHIOKA “RISING” SPECIAL LIVE -feat. Special Philly Musicians-』
-
2015年6月11日(木)
[1]OPEN 17:30 / START 19:00
[2]OPEN 20:45 / START 21:30
会場:東京都 表参道 Blue Note Tokyo
- 『NAO YOSHIOKA “RISING” RELEASE PARTY in Osaka』
-
2015年6月15日(月)
[1]OPEN 17:30 / START 18:30
[2]OPEN 20:30 / START 21:30
会場:大阪府 梅田 Billboard Live OSAKA
- プロフィール
-
- Nao Yoshioka (なお よしおか)
-
NY仕込みのパワフルなボイスと表現力、ヒストリーに根ざしながらもレイドバックとは異なるモダンなテイストを兼ね備えた進行形ソウルシンガーNao Yoshioka。2009年からニューヨークに2年半滞在し、アポロシアターのアマチュアナイトでは準優勝、トップドッグまで上り詰めた。アメリカ最大級のゴスペルフェスティバルでは40,000人の中からファイナリストに選ばれ帰国。2013年11月、待望のデビューアルバム『The Light』をリリース。和製アリシア・キーズと呼ばれ、渡米時にはグラミー受賞アーティストのGordon Chambersから称賛を受ける。日本代表として世界のソウルミュージックシーンに羽ばたく希望の光。2015年4月8日、メジャーデビューアルバム『Rising』をリリース。そして2015年4月28日、全米デビューも決定。
- フィードバック 8
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-