スウェーデンからやってきたJTRに訊く、ポップス大国の音楽事情

古くは1970年代のABBAから、近年ではDJ界を席巻しているAviciiまで、音楽輸出大国として知られてきたスウェーデンから、また才能あふれる新星が登場した。彼らの名はJTR。ジョン(John)、トム(Tom)、ロビン(Robin)の三兄弟が自らソングライティングもするポップグループで、2014年にデビュー。今年8月26日にはアルバム『Oh My My』で日本にも進出を果たした。そして、日本デビューに伴い来日中だった彼らをキャッチ。結成の経緯から直球ラブソングを歌う理由、スウェディッシュポップとJ-POPの違いまで、連日のイベント出演の疲れも見せず、こちらが次々と繰り出す質問に終始笑顔で答えてくれた。三人とも本当にナイスガイ!

音楽シーンでやっていくのは、簡単なことばかりではないということも両親を見て感じていました。でも、何をやるにしても、好きなことをやりたければ、リスクを背負って戦わないといけないときが必ずある。(トム)

―来日してから、毎日のようにイベントに出演されてますが、日本の印象はいかがですか?

ロビン:グッドフード!

ジョン:(日本語で)ホントにおいしい!

トム:ご飯だけじゃなくて、ファンのみんなもファンタスティック! 日本のファンは、歌詞も全部覚えてくれていて、一緒に歌ってくれるんです。ビックリしたし、とてもうれしかったですね。

左から:ジョン、トム、ロビン
左から:ジョン、トム、ロビン

―まだ日本ではJTRのことを知らない人も多いと思うので、基本的なことからお聞きしたいんですけど、三人は兄弟なんですよね。なぜ一緒に音楽活動をすることになったんですか?

トム:もともとはそれぞれが別のバンドをやっていたり、ソロ活動をしていたりしたんですけど、ある日一緒に曲を書こうという話になって。そのときにできた曲が、アルバムにも入っている“Touchdown”。それがとてもよかったので、このまま続けてみようかって。たまたまでした(笑)。


―ご両親も音楽の仕事をしているんですよね?

ジョン:そうです。一緒に音楽出版社をやっていて、二人とも作曲や編曲もしています。

―お父さんはThe Veronicas(オーストラリアのポップロックグループ)のプロデュースにも携わっているヘイデン・ベルさんで、お母さんは少女時代や倖田來未の曲も書いているサラ・ルンドバック・ベルさんですよね。

ジョン:よく調べていますね(笑)。

―お母さんが作曲に関わった少女時代の“I GOT A BOY”がとてもいい曲で、すごく印象に残っていたんです。JTRの三人は、ご両親の影響で音楽をやるようになったんですか?

ロビン:かなり影響は受けてますね。二人の姿を見て、自分の好きなことを仕事にできるなんて素晴らしいなと思っていたので。

ロビン

トム:音楽シーンでやっていくのは、簡単なことばかりではないというのも傍で見て感じていたんですけどね。でも、何をやるにしても、好きなことをやりたければ、リスクを背負って戦わないといけないときが必ずあるから。

―楽器の演奏や作曲の方法は、ご両親から教わったんですか?

ジョン:両親だけではないけど、両親から教わったことも多いです。曲の構成やストーリーの作り方、サビをキャッチーにするにはどうしたらいいとか。いろんなことを教えてもらって、とても勉強になりました。

ロビン:もちろん、他のアーティストからも影響を受けています。いまもレコーディングのときは、他のミュージシャンのプレイを見て、勉強していますね。

―三人が住んでいるのはスウェーデンのアリングソースという街ですよね。アリングソース出身のミュージシャンは多いのだとか。

トム:そう。人口3万人の小さな街なんですけど、たくさんのアーティストを輩出しています。アリングソース出身でスウェーデンの有名なオーディション番組に出た人も多くて、そういった人たちを小さい頃から見てきました。

ロビン:ブリトニー・スピアーズの“TOXIC”を書いたソングライター(共作した4人中3人がスウェーデン人)はアリングソース出身ですね。

トム:アリングソースの傍にあるゴーセンバーグ(ヨーテボリとも呼ばれる)という街まで含めれば、Ace of BaseやABBAのビョルン・ウルヴァースも出身ですね。有名なメタルバンドも多いです。

トム

―そうなんですね。首都のストックホルムの人とは、性格的にも違いがあるのでしょうか?

ジョン:全然違うと思います。ストックホルムの人は真面目で、ちょっとプライドが高くて、ファッションもシュッとしているんですけど、ゴーセンバーグの人はオープンで、いつもリラックスしてて、ファッションもラフな感じです。

―音楽的にも、ストックホルムとゴーセンバーグでは違いますか?

ジョン:多少は違うと思います。僕らの地元の音楽は、インディーポップっぽいというか。

ロビン:歴史的な影響もあると思うんですけど、昔からゴーセンバーグはワーキングクラスの街だったから、ピリピリしていないというか、リラックスしたイメージ。ストックホルムはビジネスマンが多くて、いつも忙しくしているイメージですね。そういう違いが音楽にも影響しているかもしれないです。

スウェーデンの曲はシンプルにしようとする意識が強いと思うんですけど、日本の曲はもっと複雑にしようとしている印象があります。(ジョン)

―JTRは、YouTubeでJ-POPのカバーも披露していますよね。日本とスウェーデンの音楽の違いは、どのように感じていますか?

トム:日本の歌はとてもハッピーで、アップテンポという印象が強いです。

ロビン:メロディーとテンポは大きく違いますね。「あーなーたーとわーたしさくらんぼっ♪」(大塚愛“さくらんぼ”を歌い始める)みたいに。J-POPは、1曲の中でいろんなことが起こっているような印象があります。スウェーデンの曲とは全然違うから、カバーするのが楽しいんです。

ジョン:それと、日本の曲はコード感がとても難しい。スウェーデンの曲はシンプルにしようとする意識が強いと思うんですけど、日本の曲はもっと複雑にしようとしている印象があります。

―逆にスウェーデンらしい曲とは?

ジョン:とてもシンプルでわかりやすい曲かな。マックス・マーティン(世界的なヒット作を多数手がけているスウェーデン出身のソングライター、プロデューサー)の曲を聴いたらわかると思うんですけど、シンプルなメロディーが多いんです。ブリトニー・スピアーズとか、Backstreet Boysとかに提供した曲は、特にそういうシンプルさを感じますね。そういうバイブがある曲はスウェーデンっぽいなと思います。

―ちなみにYouTubeの映像では、英語でJ-POPを歌ってましたが、誰が歌詞を作っているんですか?

ジョン:みんなで一緒に。

―自分たちで翻訳を!?

ジョン:そう。歌詞をGoogleで翻訳して、でもそのままだと文法がグチャグチャだから、全体の意味を把握した上で、まったく新しい英語の歌詞として作り直しているんです。

左から:トム、ロビン

―そうだったんですね! 個人的には“どんなときも。”や“遠く遠く”など、槇原敬之さんのカバーが特に印象的でした。ぜひフルサイズでレコーディングしたものも聴いてみたいです。

ジョン:フルサイズを英語に訳すのは大変なので、いつも短くなってしまうんですよね(笑)。でも、そう言ってもらえてうれしいです。

ロビン:槇原敬之さんの歌は、僕たちもとても好きです。「どんなときも~どんなときも~僕が僕らしくあるーためにー♪」(と日本語で歌い出す)。



一番書きやすいのは、強い気持ちがあるもの。強い気持ちと言えば、やっぱり愛なので、ラブソングが多くなるんだと思います。(トム)

―JTRは、三人で作詞作曲をされているそうですけど、どういう流れで作るんですか?

ジョン:基本は三人で作っていて、他の人が加わる場合もあります。いつもは普通の部屋で、三人でリラックスして遊んでいるような感じから曲が生まれるんです。僕がギターをポロッと弾いているうちに、誰かがメロディーを思いついて、それを三人で少しずつ膨らませていくと言ったらいいのかな。

ロビン:誰が作曲とか、誰が作詞とか、担当が決まっているわけではなくて。みんなが思いつくことを言い合って、その場の雰囲気で決まっていく感じですね。でも、頭に残るメロディーやキーになるメロディーは、トムから出てくることが多いかな。

ジョン:ロビンはメロディーのアイデアをたくさん持っているよね。スイッチを押すとメロディーを鳴らしてくれる機械みたいに、「メロディーちょうだい」と言うと次々と出てくる。それを僕とトムが聴いて、「それは違う、次」と言ったらまた別のメロディーが出てくるんです。

―歌いたいテーマはどうやって決めているんですか?

ロビン:最初に思い浮かぶフレーズで、曲の内容が決まります。

―たとえば“OH MY MY”だったら、曲のタイトルにもなっている「oh my, my」のフレーズが思いついて、そこから他の歌詞が決まっていく?

ロビン:そうですね。コードの雰囲気で歌詞が決まるというか。「このコードはこういう気持ちが伝わるね」とか、そういうことを考えながら歌詞を作っていきます。

―アルバムに収録されている曲は、誰かを好きになったときのエキサイティングな気持ちを綴ったラブソングが多いと思うんですけど、それもメロディーやコードから自然と浮かんできたんですか?

トム:一番書きやすいのは、強い気持ちがあるもの。強い気持ちと言えば、やっぱり愛なので、ラブソングが多くなるんだと思います。

―僕は<Just the way you are You don't have to be a movie star>(和訳:ありのままの君が素敵だから ムービースターになる必要はないよ)と歌う“Movie Star“の歌詞がとても好きです。

トム:いまの時代の女の子は、一生懸命ムービースターや雑誌に出てくるモデルみたいになろうとしているけど、そんなことをする必要はまったくない。それをいまの女の子に伝えるのはとても大事なことだと思うんです。

左から:ジョン、トム

ロビン:「みんなのマネをしなくていいよ」「自分らしくいよう」と、特に若い女の子たちに伝えたいんですよね。それとは真逆で、「もっとかわいくなりたい」とか「新しいドレスを着なきゃ」って思ってる子たちが多いから。

トム:自分が好きな子だったら、ムービースターかどうかなんて関係なく、いつだって一番かわいく見えますよね。

やっぱりアーティストには責任があるから、聴いてくれた人にポジティブな気持ちになってほしいんですよね。(ロビン)

―アルバム前半の曲は、「誰かを好きになるのは楽しいことだよ」というメッセージが伝わってきて、とても幸せな気分になりました。

ジョン:サンキュー! いつも曲を書くときは、ポジティブなメッセージを伝えることを大事にしているし、演奏するときは聴いた人を笑顔にすることを考えているので、そういったレスポンスをもらえるのはうれしいです。

ロビン:僕たちはとにかくいいメッセージを伝えることを大切にしています。やっぱりアーティストには責任があるから、聴いてくれた人にポジティブな気持ちになってほしいんですよね。

―でも、前半は「君が好きで毎日楽しい!」みたいなことを歌っていたのに、後半は“Save It”で<You broke my heart>(和訳:君は僕の心をボロボロにした)と歌っていたり、“Drive On By”で<So done with you>(和訳:もう君とは終わりだ)と歌っていたり、正反対な曲が多いですよね。

トム:どんな人生のストーリーにも必ず2つの面がありますからね。

ロビン:そう、人間だから。ポジティブなこともネガティブなこともあって当たり前。

―こういうラブソングは、実体験を基にしているんですか?

ジョン:できるだけ自分の経験を入れようとしているんですけど、曲を膨らませていくうちに違うストーリーが浮かんで、変わっていくことも多いですね。

―兄弟に自分の恋愛話をするのは恥ずかしくないですか?

ロビン:なんでも素直に言いますよ。

トム:アドバイスが必要なときは、だいたい兄弟に相談します。

―誰が一番恋多き男なんですか?

ロビン:それはやっぱり年上のジョンが(笑)。これまで数人と付き合ったよね?

トム:僕とロビンはいままで1人しか付き合ったことないですよ。

ジョン:でも、ロビンは6~7歳のときに、クラスの女の子全員と付き合ってたよね。

ロビン:それはゲームみたいな感じで、みんなに「付き合ってくれない?」と言いまわってたんですよ。「とりあえず告白してみよう」みたいな(笑)。子どものときにみんなやるでしょ?

左から:トム、ロビン

―スーパープレイボーイじゃないですか!

ロビン:ははは(笑)。1日しか続かない関係ですけどね。

―いま、日本は「男性の草食化」が問題になっていて、恋愛に積極的ではない男性が増えている傾向にあるんです。

トム:スウェーデンでも似ているところがあるかもしれない。

ロビン:スウェーデンはシャイな男が多いんですよ。気軽に告白したりしないから。アメリカとかだと「Hey! あなた美しいね」って気軽に声をかけたりする文化があると思うんですけど、スウェーデン人は、友達から始めて、少しずつ距離を縮めていくことが多いです。だから、日本人とは恋愛観が合うかもしれないですね。

新しいマーケットに入っていくためには、その文化のことを知って、何が一番いい方法かを知る必要があるから、日本のことをいろいろ調べました。(ジョン)

―日本で音楽活動をやっていくうえで、スウェーデンとは違う意識をしていることはありますか?

トム:日本ではスウェーデン出身であることを強みにしたいから、「スウェーデン人だよ」というアピールをするけど、スウェーデンではもちろんやらないですよね。スウェーデンだと、他のスウェーデン人とは違うことをやったほうがいい。そこが一番大きな違いかな。

―“OH MY MY”の歌詞にもSpotifyが出てきてますけど、音楽の聴き方にも違いを感じますか?

ロビン:Spotifyは僕も2009年から使ってますけど、スウェーデンではそのときから音楽の楽しみ方が変わってきたなと思います。いま、スウェーデンではCDを買う人がまったくいなくて、みんなSpotifyなどのサブスクリプションサービスを使っているんです。だから日本に来て、みんながパッケージを買っていることを知って、素敵だなと思いました。もちろん、サブスクリプションのいいところもありますけど、音楽を単にケータイに入れているより、棚に飾ったりするほうが特別な気持ちが湧きますよね。それに、日本はまだアルバムのセールスがいいですもんね。他の国ではアルバムがほとんど売れなくなってしまったけど。

―Spotifyが音楽の聴き方の主流になっていることで、曲を作るときに何か意識することはありますか? たとえば、「曲を短くしよう」とか「耳に入りやすい歌詞にしよう」とか。

ジョン:Spotifyで聴かれるから、ということを特に意識はしないかな。作る側としては、Spotifyがあると世界中の音楽がすぐに聴けるから、曲を作るときにすごく助かっています。世界中のトレンドがわかるし、パッと曲を聴いて「こういうのいいバイブだよね」ってみんなと言い合ったり、クリエイティブの参考にしていますね。

―ビジュアル面に関して、スウェーデンで出した作品と日本で出した作品とでは、少し違いますよね。それはどういう理由からですか?

ジョン:日本のリスナーの好みに合わせたいと思って。新しいマーケットに入っていくためには、その文化のことを知って、何が一番いい方法かを知る必要がありますよね。だから日本のことをいろいろ調べました。そして、日本のスタッフからも、親しみやすくてカラフルなほうがいいという意見をもらって、こういうジャケットにしたんです。

JTR『OH MY MY』日本盤ジャケット
JTR『OH MY MY』日本盤ジャケット

スウェーデンでのビジュアルイメージ
スウェーデンでのビジュアルイメージ

―JTRは、自分たちで曲を書いて演奏もする「シンガーソングライターグループ」であると思うのですが、ビジュアル面からBackstreet BoysやOne Directionのようにアイドル的に見られることに抵抗や違和感はないですか?

ジョン:特に気にしてないですね。自分が好きな音楽をやっているので。どう言われても問題ないです。

ロビン:他人の声に惑わされず、自分が思っていることを心のままにやることが大切だと思います。日本のリスナーの方々にも、素直な気持ちで音楽を聴いてもらえたらうれしいですね。

リリース情報
JTR
『Oh My My』初回生産限定盤(CD+DVD)

2015年8月26日(水)発売
価格:3,200円(税込)
SRCP-432/3

[CD]
1. Oh My My
2. Touchdown
3. Ride
4. Movie Star
5. I'm In Love
6. Save It
7. I Want What I Can't Have
8. Call On Me
9. Twisted
10. Drive On By
11. Shut Out The Lies
12. Leave With Me
13. All That She Wants
14. Mamma Mia
15. All That She Wants (Cage and One Eye Remix)
[DVD]
1. Ride (Music Video)
2. Oh My My (Music Video)

JTR
『Oh My My』通常盤(CD)

2015年8月26日(水)発売
価格:2,100円(税込)
SRCP-434

1. Oh My My
2. Touchdown
3. Ride
4. Movie Star
5. I'm In Love
6. Save It
7. I Want What I Can't Have
8. Call On Me
9. Twisted
10. Drive On By
11. Shut Out The Lies
12. Leave With Me
13. All That She Wants

プロフィール
JTR (じぇい てぃー あーる)

John・Tom・Robinの3兄弟。3人の頭文字をとって「JTR」。父も母も音楽業界で成功を収めており、音楽一家のもとで育った彼ら。3人それぞれがソングライティグを担当。2013年にX factor・オーストラリアに出場。トップ7に勝ち残ることで知名度をあげて、アルバム『TOUCHDOWN』をオーストラリアでリリース。2014年11月にはSony Music スウェーデンよりメジャーデビュー。2015年3月にヨーロッパ最大の音楽コンテストである『Eurovision Song Contest』のスウェーデン代表を決める『Melodifestivalen』に出演。見事決勝の舞台に立った事で、スウェーデンは元より、ヨーロッパ全土にその人気が拡大中。



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