アルバムとしては約1年10か月ぶりとなる、RIP SLYME通算10枚目のアルバム『10』が完成した。4MCの個性が活かされた振り幅の広い楽曲が計15曲収録されており、ヒップホップをポップフィールドに押し上げてきた、まさしく「リップならでは」のポップネスが随所に感じられる本作。しかし、結成26年にもなる彼らが、改めて「リップらしい」作品を作り上げるまでの道のりは、思いのほか険しかったようだ。というか、そもそも我々が思う「リップらしさ」、そして彼ら自身が思う「リップらしさ」とは何なのか?
前回のCINRAのインタビューで、PESが「今まで通りにやっていてもダメだ」という問題意識を語るなど、グループとしてもひとつの節目となるであろう本作を機に、彼らのキャラクターからしか生み出すことのできないポップネスと、エロもシリアスも包括できてしまう特異性について、メンバー五人と考えてみた。
(リップらしさとは)キャラクターとバラエティーだと思います。つまり、ドリフだね(笑)。あるいはディズニーランド。(PES)
―前回のインタビューで、『10』が完成するまで「ずっと曲を作り続ける期間を過ごしてた」とおっしゃっていましたが、これまでのアルバム制作とはかなり違うプロセスだったのでしょうか?
RYO-Z:そうですね。前のアルバム(2013年リリース、『GOLDEN TIME』)を作り終えた後から、とにかくすごい量のデモテープを作ったし、途中で合宿に行ったりもしてました。1年10か月ぶりのアルバムって言ってますけど、ホントに1年10か月ぐらい、ずーっと作り倒していて。
SU:今回は、長かったね……。
―ということは、FUMIYAさん(今作では15曲中14曲のトラックメイキングを担当)は、この2年ぐらいのあいだ、相当な数の曲を作ってた?
DJ FUMIYA:ずーっと作ってました(笑)。今回はアルバムの完成形が見えないまま、とにかくいろいろなタイプのオケを作っていましたね。
―その結果、自由度がさらに増したと同時に、これまで通りのオリジナリティーも確実にあるアルバムに仕上がったと。アルバムを聴いて、僕も「ああ、リップっぽいな」と思いました。
RYO-Z:これまでとはまた違うポップネスを目指してやっていこうって考えて、スタッフも交えながら何度も何度もディスカッションを重ねていたんですけど、やればやるほど見えなくなるというジレンマもありつつ(笑)。
―(笑)。それは楽曲単位の話ですか?
RYO-Z:楽曲単位でもそうでしたし、全体的なムードとしてもですね。今回は、在日ファンクやchayをフィーチャリングに迎えたり、いしわたり(淳治)さんに1曲プロデュースしてもらったり、メンバー以外の人に作詞に入ってもらったりと、新たなトライもいろいろしているんですよね。そういった意味で、これまでとは違う僕らを演出してもらったり、引き出してもらったりしたところもあったとは思うんですけど、アルバムとして曲を並べてみると、すごく僕らっぽくなっているというか。いろいろチャレンジしながらも、結局「僕らは僕ら」というところに落ち着いていたんじゃないですかね。
―その「リップらしさ」って何だと思います?
RYO-Z:猥雑な感じじゃないですか(笑)。とりわけメッセージもないですし、ガチャガチャしてるというか。
PES:あとは、キャラクターだとも思うけどね。曲をやったときに、それぞれのパーソナリティーが少しでも浮かぶような感じというか。まとまったハーモニーがどうとか、そういうことではないですよね(笑)。キャラクターとバラエティーだと思います。
ILMARI:ドリフだ(笑)。
PES:まあ、ドリフだね(笑)。あるいはディズニーランド……いろんなキャラクターやアトラクションがあるけど、全体のバランスはちゃんとしてる。それに、怖いって言っても、ホーンテッドマンション止まりで、言うほど過激じゃないというか(笑)。
―なるほど。FUMIYAさんは「リップらしさ」について、どう思いますか?
DJ FUMIYA:オケのほうであまり盛らない、というのはひとつテーマとしてあって。MCが四人いるので、あまり音を盛ってしまうと、ちょっと曲が濃くなりすぎるんですよね。だから音にラップが乗ってる感じというよりかは、ちゃんと混ざっている感じを意識してる。そうじゃないと、聴いててすぐ飽きるんです。
だんだん羞恥心がなくなってきてるのかな。(RYO-Z)
―「リップらしさ」が結果的には全面に出たとはいえ、リリックに関しては、やはりこれまでとは違う何かがあるような気もして。たとえば、1曲目“Powers of Ten”とか、かなり意味深な歌詞ですよね。<始まりの終わり><終わりの始まり>って……。
RYO-Z:何かちょっと違う感じがしますよね。でも、そのあとに続くのが、“ピース”じゃないですか。そこですごい力が抜けますよね(笑)。
―確かに(笑)。で、その後に続くのが、リリース後「エロ過ぎ!」との声もあったシングル“POPCORN NANCY”のアルバムバージョンという。
RYO-Z:そうですね(笑)。それくらい振り切ってやってやろうとは思っていました。
―経験を積むことによって重みが出るのではなく、むしろやれることの領域が広がってるような。
RYO-Z:だんだん羞恥心がなくなってきてるのかな(笑)。
―それを言ったら、12曲目の“Vibeman feat.在日ファンク“なんて、ファンクの「ヴァイブ」を歌っているのかと思いきや、エロさどっぷりですもんね。
RYO-Z:“Vibeman”は、ハマケンくん(在日ファンクの浜野謙太)あってのエロさですから(笑)。一緒に何かやろうってことで、いろいろデモテープを聴きながらテーマについて話をしていたときに、ハマケンくんがいちばんフィールしたのが“Vibeman”だったっていう(笑)。
ILMARI:そこでいろいろアイデアは出たんですけど、帰り際にハマケンくんが言ったんだもんね。「僕、“Vibeman”、好きです……」って。
―(笑)。
RYO-Z:で、「じゃあやってみようか」って、やり始めてみたら、お互いのエロさに歯止めがかからなかった(笑)。
ILMARI:10枚目のアルバムだからこそ、こういうものをカジュアルにやってみようって思えたのかもしれないですよね。これがもし、メジャーデビューのタイミングとかだったら……まあ、そのときも、そんなに考えてなかったか(笑)。でも、これだけいっぱい曲を出していると、こういうドエロなものも、「僕らの表現の一部です」って提示しやすいというか。
―RYO-Zさんがおっしゃったように、今回のアルバムは、これまで以上に楽曲の振り幅が大きいというか、シリアスな曲とエロい曲、そして爽やかな曲が、入れ子状に並んでいますよね。
RYO-Z:そうですね。“いつまでも”みたいなラブソングと“Vibeman”って、同じグループのやつが歌ってる感じがしないですよね。
ILMARI:「青空」だって爽やかだもんね。
先々を考えると、ちょっと損した気になっちゃう。その志が挫かれる瞬間が絶対くるから。(ILMARI)
―ここまで振り切った表現を見せているのは、経験の蓄積もありつつ、前回のインタビューでPESさんが語っていた「このままじゃダメだ」という問題意識みたいなものからもきていると言えますか?
PES:その思いは、夢と消えましたね(笑)。
―えっ。
PES:特に僕はそうなんですけど、かつての“One”とか“黄昏サラウンド”みたいに、自分がイチから思いついたものをみんなに提案して形になったものが、今回1個もないんですよ。スタッフも含めて、まわりの意見を受け入れるだけ受け入れて……だから僕としては、今回のアルバムは結構客観的に様子を見ながら作っていたところがあって。で、できあがってみたら、それでもやっぱりリップらしいから、やっぱりリップって、そんなに多くを求めなくていいんだなと思って。
―というと?
PES:放っておいても、その瞬間瞬間に反応してやれば、リップっぽさが出るんだなって。それが出なくなったらもう終わりというだけで、そこに対して何か準備するということは、別にしなくていいんだなと思ったんです。
―逆に、自然体で向き合ったほうがいいと。
PES:そう。あんまり重く考えないほうがいいのかなって。だから、今回の制作は、個人的にはかなり勉強になりましたね。何か、いろいろ考えるのがバカバカしくなって(笑)。
―(笑)。
PES:でも、リップって、そういう世界観だと思うんですよね。真面目に何かを考えるというより、極端な話、もう人生やめちゃおうかなって思っている人が聴いても、なんかバカバカしくなって、飲みに行こうかなって思っちゃうような。そういう軽さがあると思うんです。
―確かに。でも、それはポップソングとして、非常に正しいような気がします。
PES:そうですね。
ILMARI:なんか先々の予定を考えると、ちょっと損した気になっちゃうところがあるじゃないですか。「こんな感じに歩んで行って、うまくまとめよう」とか考えていても、その志が挫かれる瞬間が絶対くるというか。
PES:そういうのは毎日あるよね。
ILMARI:だったら、あんまり考えないでやったほうがいいんじゃないかなって。
俺、「大人の男としてちゃんとする」ってこと、ちょっと無理だなと思った(笑)。(ILMARI)
―とはいえ、みなさん所帯を持たれたり、年齢を重ねたりすることで、人として、男として、中身や考え方が変わってきている部分もあると思うんです。そういうプライベートな部分が、リリックに影響したりはしないですか?
PES:多かれ少なかれ、リンクしてるとは思いますけどね。もちろん、それは危険なところでもあるけど、プライベートな部分とステージに立って歌う自分がリンクしているほうがロックスターっぽいというか。やっぱりそうじゃないといけないという気持ちもあるんですよね。
―というと?
PES:やっぱり、そこがアーティストの醍醐味なわけじゃないですか。そうありたいから、やっているわけで。だから、いきなりアーティストとしての自分を変えようっていうのが、そもそも間違いなんだよっていうことに、ようやく最近気づいたんです(笑)。
―あ、なるほど。
ILMARI:そう言えば、俺こないだ「大人の男とは」みたいな取材が入って、ちょっと考えてみようと思って「40歳からのなんちゃら」っていう本を読んでみたら、「なるべく質のいいものを選んで買う」とか「持つ手帳はこんな感じ」とか、そういうことがいろいろ書いてあって。俺、そういう「大人の男としてちゃんとする」ってこと、ちょっと無理だなと思った(笑)。
SU:でもまあ、俺たちは、あんまりちゃんとしないほうが、みんな安心かなと思うんですよね。
PES:そうだね。それを程よくやっていけばいいんですよね。
ILMARI:まあ、そう言いながらも、こないだペンを買うときに、「やっぱこういうの1本持っておいたほうがいいのかな?」と思って、ちょっと高いのを選んでる自分もいたりして。俺は、そのレベルですね(笑)。
―リップっていうのは、そういう「かっこよさ」を曖昧にしたところが画期的だったと個人的には思っていて。リップのことを「相変わらずかっこいい」というのは、実は正確な言い方じゃなくて。「かっこいい / 悪い」の境界を曖昧にしてきたのがリップだったのではないかと。
ILMARI:確かに。「相変わらず適当ですね」のほうが正確かもしれないですね(笑)。
RYO-Z:もしくは、「相変わらずですね」とか。
ILMARI:それ、怒られるときに、俺、よく言われるわ……「お前、相変わらずだな」って。
ポップフィールドをキョロキョロ見ながら、流行りみたいなものに乗っかることは、よくも悪くもやってこなかった。(PES)
―ただ、後輩の数はやっぱり増えてくるわけじゃないですか。下の世代を見て気を引き締められることとか、「ちゃんとしなきゃ」と考える部分が出てきたりとかは?
PES:まあ、年上の人たちもガンガン活躍してますからね。僕たちは、全部フラットな感じで捉えてるというか。俺が面倒見てやるとか、そういうのはないかな。
SU:うん、全部フラットですね。
ILMARI:ただ、『真夏のWOW』(2013年から開催している、RIP SLYME主催フェス)を始めたから、そこに自分たちが単純にいいなと思っている人たちを呼んで、お客さんに観てもらうことはできるんじゃないかと考えてはいるんですけど。フェスのいいところって、そういうところじゃないですか。全然違うアーティストを観に行ったけど、他のアーティストを好きになっちゃったみたいな。
RYO-Z:僕ら自身も、そうやって評価を得てきたわけですからね。「フェスで初めて観たけど、すごい面白かった」とか、そう言ってもらえることは、普通にうれしいことですから。
ILMARI:うん。だから、具体的なことで言うと、そういうことは下の世代に対してできるかなって思うんですけど……。
―そういうスタンスを、リリックで表すみたいなことは?
ILMARI:いや、それは……言えることなんて、何にもないですから(笑)。そう、こないだ誰かに「リップって、横を見てないですよね」って言われたんですけど、横どころか下も上も、どこも見てなかったなって(笑)。
SU:横って何?
PES:ポップフィールドをキョロキョロ見ながら、今だったら、たとえばEDMを作ってみたりとか、そういう流れみたいなものに乗っかるということを、よくも悪くもやってこなかったっていう。
ILMARI:一応、他の人の曲は聴いているんですけど、順位とかそういうことは気にしないというか。そう、前にPESが「とりあえず身体を動かしていれば何とかなるんじゃないか」って言っていて、それはすごくいい言葉だなって思ったんですよね。何もしないでじっと考えて、計画みたいなものを立てるよりも、とりあえずいろいろやってみるみたいな。僕らにとってはそれがライブなのかな。
―さっき話した「リップらしさ」を維持する上でも、やはりライブは重要だったんじゃないですか?
RYO-Z:そうですね。今年はほとんどライブができてなかったので、これからツアーが始まるし、「やっとライブの時間がやって来た!」っていう感じなんですよね(笑)。
リップの場合、あんまり計画性を持ってもダメだと思うので……遠くに希望を持ちつつも、目の前のことには期待しない。(RYO-Z)
―では最後、一応10枚目という節目のアルバムでもありますし、今後に向けた決意をひと言ずつお願いします。
PES:まずは関係者各位に迷惑をかけない(笑)。
DJ FUMIYA:じゃあ僕は……感謝の気持ちを大切に。
SU:相手の立場になって物を考える。常に、思いやりの心を忘れないようにしたいです。
RYO-Z:ええと……じゃあ僕は、健やかであることですかね。健康じゃないと、ライブができないですからね。
ILMARI:僕はやっぱり、あいさつですかね。やっぱりあいさつって大事じゃないですか、今までもやってますけど(笑)。
―わかりました(笑)。リップ全体としては、何かありますか?
RYO-Z:さっきのILMARIくんの話じゃないですけど、リップの場合、あんまり計画性を持ってもダメだと思うので……遠くに希望を持ちつつも、目の前のことには期待しない。そんな感じで、これからもやっていきたいですね(笑)。
- リリース情報
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- RIP SLYME
『10』(CD) -
2015年9月30日(水)発売
価格:3,240円(税込)
WPCL-122401. Powers of Ten
2. ピース
3. POPCORN NANCY(Album ver.)
4. KINGDOM
5. だいたいQuantize
6. いつまでも
7. 青空
8. 気持ちいい for Men
9. TIDE
10. Happy Hour
11. JUMP with chay
12. Vibeman feat.在日ファンク
13. メトロポリス
14. この道を行こう
15. 時のひとひら
※初回プレスはデジパック仕様
- RIP SLYME
- イベント情報
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- 『RIP SLYME “Tour of Ten”』
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2015年10月30日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:千葉県 市川市文化会館 大ホール2015年11月2日(月)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール2015年11月3日(火・祝)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:静岡県 静岡市民文化会館 大ホール2015年11月12日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:兵庫県 神戸国際会館こくさいホール2015年11月14日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:広島県 広島文化学園HBGホール(広島市文化交流会館)2015年11月15日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:愛媛県 松山氏民会館 大ホール2015年11月23日(月・祝)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:茨城県 茨城県民文化センター 大ホール2015年11月27日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:北海道 わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)2015年11月29日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:宮城県 仙台サンプラザホール2015年12月5日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:石川県 金沢本多の森ホール2015年12月6日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:新潟県 新潟県民会館 大ホール2015年12月15日(火)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:岡山県 倉敷市民会館2015年12月17日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:熊本県 市民会館崇城大学ホール(熊本市民会館)2015年12月19日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール2015年12月21日(月)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:大阪府 大阪フェスティバルホール2015年12月22日(火)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:大阪府 大阪フェスティバルホール2015年12月26日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:愛知県 名古屋 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール(名古屋市民会館)2015年12月27日(日)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:愛知県 名古屋 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール(名古屋市民会館)2016年1月9日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 九段下 日本武道館2016年1月10日(日)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:東京都 九段下 日本武道館料金:各公演 前売7,500円
- プロフィール
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- RIP SLYME (りっぷ すらいむ)
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RYO-Z、ILMARI、PES、SU、DJ FUMIYAからなる4MC&1DJヒップホップユニット。1994年に結成。2001年3月にシングル『STEPPER'S DELIGHT』でメジャーデビュー。幅広い層に親しまれる洗練された独自のポップセンスと、コアなリスナーをうならせる高次元で織り成されるラップのかけ合いを両立させたサウンドが魅力。国内のヒップホップユニットとして初めての日本武道館ワンマンライブを行い、日本にヒップホップ文化を広く浸透させる。2015年9月30日、待望の10thアルバム『10』をリリース。
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