デビューから今年で20周年を迎えたMy Little Loverが、およそ6年ぶりにニューアルバムを発表する。そのタイトルは、『re:evergreen』。おそらくすでにお気づきの方も多いだろう。そう、この作品は20年前にリリースされた1stアルバム『evergreen』への「返信」なのだ。
デビュー作に呼応した完全なる新作『re:evergreen』。そして、『evergreen』のボーカルトラックをそのまま使用しつつ、新たに演奏を録り直したリプロデュース作品『evergreen+』。この対となる2枚のアルバムによって構成された今作は、『evergreen』という作品のいまだ色褪せない輝きと、その輝きを放ちながら進みつづけているマイラバの「今」をストレートに伝えてくる。中でも驚くべきは、新作『re:evergreen』から聴こえてくるakkoの歌声。『evergreen』から20年のときを経た今も、彼女の可憐な声は当時のみずみずしさをそのまま宿しているのだ。
そこで今回は新作『re:evergreen』の内容を紐解くのはもちろん、マイラバの20年におよぶ歩みを振り返るべく、二人の当事者をお招きした。一人はもちろん、My Little Loverのakko。そしてもう一人は、『evergreen』と『re:evergreen』のジャケットデザインを手がけているデザイナー、信藤三雄。主にアートワークの観点から、あの頃のマイラバと現在のマイラバをここでつなげてみたいと思う。
たぶん若い頃って、永遠なるものを信じないというか、信じたくなかったんだと思うんですよね。(信藤)
―『evergreen』のリリースから20周年ということで、今日はお二人からマイラバがデビューした頃のお話もいろいろ聞かせていただけたらと思っています。
信藤:20年前のことですか? えーっと……。もう覚えていません!
akko:あははは(笑)。
―そこをなんとかお願いします(笑)。
信藤:(笑)。akkoちゃんに初めて会ったときのことはよく覚えていますよ。たしか、メルボルンだったよね?
akko:そう、メルボルン! 懐かしいな。たしかあのときは“My Painting”(“Man & Woman”との両A面シングルとしてリリースされたデビュー曲)のPVを撮ったんですよね?
信藤:そうそう。akkoちゃんはその頃、まだ学生さんで。よく覚えているのが、“My Painting”はあのときまだ出来上がっていなくて、小林(武史)さんはその場で曲のフレーズを考えたんだよね。あれはものすごくびっくりしたな。
akko:Dメロのフレーズでしたね。その場で「ここはこんなふうに口ずさんでほしい。それで撮っておいて」と指示されて、帰ってからそのパートを作ったっていう。
―PVを撮ったあとで曲を仕上げたってことですか! それはすごい話……。その後、信藤さんはあの有名な『evergreen』のジャケットを撮影することになるわけですが、あの写真を撮ったとき、信藤さんはakkoさんからどのようなイメージを浮かべていたんでしょうか。
信藤:たしか、あのときは「野球部のかわいいマネージャーさん」みたいなイメージをakkoちゃんに託そうとしたような……。ちょっと曖昧な記憶ですけどね。昔、そういうアニメがありましたよね?
―『タッチ』ですか?
信藤:そうそう、『タッチ』! あとはもちろん、『evergreen』というタイトルも重要でした。多分、あのときは「エバーグリーン」という言葉から、「永遠にピュアなイメージ」を思い浮かべていたような気がする。とはいえ、当時はこのタイトルについて、そこまで深く考えていたわけでもなくて。これが不思議なもので、むしろ今のほうが「エバーグリーン」という言葉は輝いて見えるんですよね。きっと、僕の中にある「エバーグリーン」への印象が変わったんだろうな。
My Little Lover『evergreen』ジャケット
―それはどのように変化されたんですか。
信藤:今の僕は、「エバーグリーン」という言葉から、あの頃に感じていなかったスピリチュアルなものを感じているんだと思う。というのも、たぶん若い頃って、永遠なるものを信じないというか、信じたくなかったんだと思うんですよね。「その時に一番良いものであれば、それだけでいい」みたいな心が、当時はあったんじゃないかな。
小林さんは『evergreen』が完成したとき、「よし、もうこれでマイラバはやめよう!」と言っていたんですよ。(akko)
―「信じたくなかった」というのは、本当はそういう普遍的なものが存在してほしいという気持ちも、どこかにあったということでしょうか?
信藤:まあ、本当の本当を言えば、そうですね(笑)。というか、僕は小さい頃からずっと、本当のことが知りたいと思っていたんです。難しい話になっちゃいますけど、「この世の真実」みたいなことって言えばいいかな。
―「この世の真実」?
信藤:たとえば、「宇宙に果てはあるのか」とか、「もし果てがあるんだとしたら、その先はどうなっているのか」とかね。そういうことを知りたいっていう気持ちが、僕にはずっとあるんです。だからこそ、「エバーグリーン」という言葉に対しては、「永遠に古びないことなんて、本当にあるのかな」みたいな感情が動かされたんでしょうね。それが今回の企画では、その「エバーグリーン」に「re:」が付くことになった。それによって、なんだかさらに深い意味をもつ言葉になったような気がしていて。
―すごく不思議な言葉ですよね。「『エバーグリーン』への返信」とでも言えばいいのかな。
信藤:うんうん。あるいは「再生」みたいな意味にも受け取れますよね。「もしかして、小林さんは20年後にこのタイトルの作品を出すことを想定して、『evergreen』を作っていたんじゃないか?」と思いたくなるくらい、『re:evergreen』はすごくいいタイトルだと思う。ほら、小林さんってものすごく先のことを考えているところがあるじゃない?
akko:そうですね(笑)。でも、小林さんは『evergreen』が完成したとき、「よし、もうこれでマイラバはやめよう!」と言っていたんですよ。それで私たちはみんな「まだ始まったばかりじゃないですか!」って(笑)。
信藤:へえ! それはおもしろい話だね。
―それほど、小林さんの中で『evergreen』の手応えは大きかったということですね。一方のakkoさんは、デビュー作のタイトルが『evergreen』になると告げられたとき、率直にどう感じましたか?
akko:あのアルバムに入っている“evergreen”という曲の最後に、「ラライヤ~♪」というコーラスのパートが入っていて。あのコーラスはLAでのレコーディング中、車で移動しているときに小林さんがパッと思いついたもので、ちょうどその瞬間に私は立ち会っていたんです。だから、あのコーラスを聞くと、今でもあのときに見た青空を思い出すんですよね。多分あの光景が、私にとっての「エバーグリーン」なんだと思う。
―あのコーラスはすごく印象深いです。すこしエキゾチックな節回しというか。
akko:そうですね。最初、あのパートは「ラララ~♪」とか「アアア~♪」みたいな感じで、コーラスの方に歌ってもらおうとしていたんです。そうしたら、現地にいたブラジル人の歌い手さんが「僕の国にある歌い回しで、ピッタリ合いそうなものがあるんだ」とおっしゃってくれて。そこであのコーラスを歌っていただいたときの感触は、今でもはっきりと覚えています。「この曲は、きっとこうなるべくしてなったんだな」みたいなことを、まさにあのとき感じていたので。
『evergreen』を出した頃は、まわりから見た自分のイメージとのギャップに少し悩んでいましたね。この20年間はそのギャップを埋めていく作業だったような気もします。(akko)
―“evergreen”の楽曲を聴いたときの印象は、信藤さんのデザインにどんな影響を与えましたか?
信藤:今の話は僕も初めて聞いたんだけど、そう言われると、たしかに自分もアメリカのノスタルジックなビジュアルを思い浮かべていたかな。それこそ、さっき話した野球のイメージだって、ある意味ではノスタルジックなイメージだと思うし。あと、今になってakkoちゃんの歌声を聴きながら気づかされることもけっこうあるんですよね。
―というのは?
信藤:端的にいうと、彼女は「松田聖子的な資質」を持っている人だと思うんですよ。つまり、マイラバにはそういうある種の芸能的なものと、僕らの好むポップスが、絶妙なバランスで成り立っていたんです。これって当時は気づいていなかったことなんですけど、今改めて『evergreen」を聴くと、一番の魅力はそこにあったような気がしていて。
akko:(驚いた表情を浮かべながら)ありがとうございます……。当時のことを振り返ると、私は言われたことに対して、とにかく「一生懸命やります!」と返すことしか出来なくて。あの頃は音大から卒業したばかりで、レコーディングの経験がなかったのはもちろん、それこそ撮影やインタビューだって初めてのことだったから、なにも要領良くなんか出来ないし、とにかく必死にやるしかなかった。だから、信藤さんに対しても、信藤さんが思い浮かべているイメージに、なんとかして自分から近づこうと思っていたんです。
―そんな中で制作された『evergreen』は、結果的に300万枚以上の大ヒットを記録しました。あれほど急激に知名度が上がると、リスナーが抱えるアーティスト像と、akkoさん本人の実像との間には、おのずとギャップも生まれそうな気もするのですが、その点はいかがでしたか?
akko:たしかに『evergreen』を出した頃は、そのギャップで少し悩んでいましたね。それこそ、活動開始当初はずっとライブをやってなかったのもあって、まわりから見た自分のイメージが一人歩きしてたところもあって。だからここ数年、ライブの場で自分の想いを伝えられるようになったことは、すごく大きかったんです。というか、この20年間はそのギャップを埋めていく作業だったような気もしますね。
信藤:マイラバの場合は、デビューするとすぐに、出す曲がみんな売れていたからね。
akko:なんかそれも、当時は自分のことじゃない気がしてたんですよね。だから、今振り返ると少し自分が怖くなるというか……。当時の私は、自分の身に起きていることが本当によくわかっていないまま、必死にやっているような感覚だったので。
信藤:なるほど。実際、僕の中にもあったからね。akkoちゃんに対して「デビューした頃の学生っぽい雰囲気を失ってほしくない」みたいな気持ちがさ(笑)。いいのか悪いのかわからないけど、今回のビジュアルにはそういう想いを込めたくなったところもあるんだ。つまり、僕は当時の彼女を悩ませていたギャップを埋めてあげるどころか、むしろそれとは逆のことをしていたのかもしれないね(笑)。
akko:さすがに今はもう、そこで悩んだりはしてないですよ(笑)。それこそ、当時と比べれば、今は『evergreen』を冷静に聴けるようになったし、改めて「これ、すごいアルバムなんだな」って。当時の自分にとっては、ものすごくハードルの高いデビュー作だったと思いますし。
―それから20年を経て制作された『evergreen+』は、演奏を再構築しつつも、ボーカルトラックだけは当時のものをそのまま使用されていますよね。歌い手の立場からすれば、「作品への理解が深まった状態で、改めて歌い直してみたい」という気持ちにもなりそうですが。
akko:たしかに「今の自分だったら、ここはこう歌うのにな」みたいに思う曲はいくつかあって。実は一度、小林さんにもちょっと遠慮気味に「歌い直すってことはないんですか……?」と言ってみたんですけど、キッパリ「それはないね」と言われてしまって(笑)。でも、実際にその通りなんですよね。小林さんからも「これは20年前の『evergreen』と『re:evergreen』を対峙させるための作品だから」と聞かされていましたし、そこでボーカルを録り直すと、セルフカバーになって作品の主旨が変わってしまうから。
「この20年間で自分はこれだけのことを学んできたから、今の自分はこうやりたい」みたいな気持ちは、一切省こうと決めていましたね。(akko)
―では、現在のakkoさんは『evergreen』をどう理解したうえで、今回の『re:evergreen』という新しい作品に取りかかったのでしょうか。
akko:私は、『evergreen』は直球勝負の作品だったと捉えていて。つまり、プロデューサーの小林武史さんが投げてくるボールを、私が一生懸命にフルスイングで返して、そうやってできたアルバムだったんですね。そして『re:evergreen』は、その直球勝負のポップスを今、もう一度やろうという作品だから、今回はまたあの頃のがむしゃらな気持ちで歌いたいなって。
―ということは、当時の歌い方もいくらか意識されたり?
akko:すごく意識していました。それに、「この20年間で自分はこれだけのことを学び、成長してきたから、今の自分はこうやりたい」みたいな気持ちは、一切省こうと決めていましたね。
―実際、僕も『re:evergreen』を聴きながら驚いたのはそこでした。akkoさんの歌声からは、『evergreen』の頃のみずみずしさがまったく失われていなくて。
信藤:うん。僕もあの頃と変わってないと思いました。あと、今回の作品に関しては、まずリリースのタイミングがすごくいいなと思って。というのは、僕はこの企画に関係なく、なんとなくまたマイラバが聴きたくなってきて……実際、好きだった曲を、また探し出したりして……。そんなときに今回のジャケットを頼まれたから、ものすごく嬉しかったよね。
―ちょうど信藤さんも、またマイラバを聴きたい気分だったと。
信藤:僕もそうだし、きっと世間もそうなんですよ。だから、多分このアルバムは売れるんだよね。
akko:わぁ! 今、すごく嬉しい言葉をいただいちゃいましたね(笑)。
―でも、たしかにそういう気分が今また巡ってきた感じは、僕にもなんとなくわかります。
信藤:わかるでしょ? 僕になにかの才能があるとしたら、その「時代の気分がわかる」ってことなんだと思うんです。実際、僕はまったく情報通ではないし、「今のトレンドがこうだからこれ」みたいな発想は全然ないんですよね。おそらく、僕は感度のいい受信機みたいな身体なんだろうな。イタコ体質というか(笑)。
マイラバって、デビューからずっと売れ続けてたでしょ? あの感じって、なんか魔法がかけられたみたいだなって、今ふと思ったんです。(信藤)
―(笑)。では、今回の『re:evergreen』に関しては、どのような発想からこのアートワークを考えたのでしょう。20年前のデザインを踏襲しつつ、変化も感じさせるデザインになっていますよね。
信藤:依頼をいただいた時点で、今回のアルバムタイトルと、『evergreen』を踏襲したデザインにするということは、みなさんの中でほぼ決まっていて。だから、ベンチに座っている姿勢はあのときとほぼ一緒なんです。考えなきゃいけないのは、撮影場所と、彼女が手にしているもの。つまり「20年前にダッグアウトのベンチに座っていた彼女は今、なにを手にしてどこに座っているか」ってことですね。そこでなんとなく「林檎はどうかな?」と思って、マネージャーに林檎を買いに行ってもらったんです。そうしたら、青林檎も買ってきてくれて。「あ、これだ」と。
―つまり、その青林檎が象徴しているものが……?
信藤:そう。「エバーグリーン」ということでしょうね。
My Little Lover『evergreen』ジャケット
akko:信藤さんは、撮影している最中に「来た」と言うときがあるんですよ。その「来た」が聞こえたら、もう安心(笑)。その撮影はもうOKなんです。
信藤:僕は素直ですからね(笑)。そういえばさ、My Little Loverを最初に「マイラバ」と呼び始めたのって、誰だったの?
akko:誰だったんだろう……。でも、小林さんはけっこう最初の頃から「マイラバ」と呼んでいたような気がします。
―なぜ今それが気になったんですか?
信藤:いや、マイラバって、デビューからずっと売れ続けてたでしょ? あの感じって、なんか魔法みたいだなって、今ふと思ったんです。
―魔法ですか。
信藤:そう。マイラバが出すものはみんな、すべてがよく聴こえたし、よく見えたし。そういう魔法ですね。もしかするとその魔法は、My Little Loverが「マイラバ」と呼ばれるようになったときにかかったんじゃないかなって。それに、今のマイラバにはまたその魔法がかかってるような気もする。なんとなく、ですけどね(笑)。
- リリース情報
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- My Little Lover
『re:evergreen』(2CD) -
2015年11月25日(水)発売
価格:3,456円(税込)
TFCC-86537[DISC1]
『re:evergreen』
1. wintersong が聴こえる
2. pastel
3. 星空の軌道
4. 今日が雨降りでも
5. バランス
6. 夏からの手紙
7. 舞台芝居
8. 送る想い
9. ターミナル
10. re:evergreen
[DISC2]
『evergreen+』
1. Magic Time
2. Free
3. 白いカイト
4. めぐり逢う世界
5. Hello, Again ~昔からある場所~
6. My Painting
7. 暮れゆく街で
8. Delicacy
9. Man & Woman
10. evergreen
- My Little Lover
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- My Little Lover
『ターミナル』 -
2015年10月28日(水)から配信スタート
- My Little Lover
- プロフィール
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- My Little Lover (まい りとる らばー)
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1995年にシングル“Man&Woman/My Painting”でデビュー。わずか3か月の間に“白いカイト”“Hello,Again~昔からある場所~”と、後にMy Little Loverの代表曲となる3曲を連続リリースし、1stアルバム『evergreen』がトリプルミリオンのセールスを記録。現在はセルフプロデュースによるアコースティックライブ『acoakko』の他、絵本『はなちゃんのわらいのたね』の出版など、アーティストとして、オーガニックなライフスタイルを大切にする一人の女性として、活動の幅を広げている。デビュー20周年プロジェクトとして、メモリアルな2枚組CD『re:evergreen』をリリース。
- 信藤三雄 (しんどう みつお)
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アートディレクター、映像ディレクター、フォトグラファー、書道家、演出家、空間プロデューサー。松任谷由実、ピチカート・ファイヴ、Mr.Children、MISIA、宇多田ヒカルなど、これまで手掛けたレコード&CDジャケット数は約1000枚。その活躍はグラフィックデザインにとどまらず、数多くのアーティストのプロモーションビデオも手掛け、桑田佳祐『東京』では、2003年度の『スペースシャワーMVA BEST OF THE YEAR』を受賞。近作に、世田谷美術館「東宝スタジオ展」広告宣伝デザイン、AKB48 single「GreenFlash」デザイン、三上博史主演舞台「タンゴ・冬の終わりに」宣伝美術デザイン、スーパーガンダムロワイヤルCMディレクション、等々。
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