Underworldが語る、ぎこちない関係を乗り越えた二人の友情物語

Underworldが前作『Barking』以来となる6年ぶりの新作『Barbara Barbara, we face a shining future』を完成させた。この6年の間に、カール・ハイドは初のソロアルバム『Edgeland』を発表し、2012年に開催されたロンドンオリンピックの開会式ではUnderworld名義で音楽監督を務めるなど、さまざまな課外活動を展開。長期のブランクを経て、ひさびさに取り組んだ新作は、新たなルール、新たなマインドの元にレコーディングが行われ、Underworldが30年目にしてさらなる未踏の領域を切り開いたことを実感させる仕上がりとなっている。「僕たち二人がこれまで本当の意味で『いい友人』だったことはなかったんじゃないか」とまで語るドラスティックな変化の背景を、カールの言葉と共に解き明かす。

Underworldと日本との深い絆

Underworldが『ミュージックステーション』で、新曲“If Rah”と代表曲“Born Slippy(Nuxx)”をプレイする。そんな情報にSNSがざわついたのは、日本とUnderworldの深い絆を改めて認識させられる出来事だった。もちろん、『Mステ』でもフィーチャーされていたように、今やオリンピックの開会式で音楽監督を務めるほどの世界的ビッグアクトであり、わざわざ日本との繋がりを強調しないまでも、テレビ出演が話題になるのは当然のこと。しかし、日本初の大規模野外レイヴとしてもはや伝説となっている1996年の『RAINBOW2000』をはじめ、『フジロック』『Electraglide』にはそれぞれ3度も出演(ソロ名義を除く)、そして東日本大震災直後には『SonarSoundTokyo』に急遽チャリティー出演するなど、特別な夜を何度となく共有してきたからこそ、Underworldは今も日本で多くの人々から愛され続けているのだ。

「あなたにとってUnderworldとの一番の思い出は?」と訊かれたら、その答えは人によって大きく異なるだろう。何せUnderworldの初来日は1994年。当時新宿にオープンしたリキッドルームのこけら落とし公演であり、日本とUnderworldの関係性はそれから22年に及ぶ。おそらく、映画『トレインスポッティング』が公開され、“Born Slippy(Nuxx)”が大ヒットした1996年当時のUnderworldが3人組であったことを知らない人も多いのかもしれない。1992年に加入したダレン・エマーソンは、Underworldの世界的な成功には欠かせなかった重要人物であったが、2000年に脱退。当初カール・ハイドとリック・スミスのデュオとしてのUnderworldを不安視する声もあったように思うが、彼らは2002年にアンセミックな“Two Months Off”を含む『A Hundred Days Off』でその不安を一蹴し、それ以来15年間世界のトップを守り続けてきた。

カールとリックの間には「ぎこちない関係性が続いてたと思う」

前述の「あなたにとってUnderworldとの一番の思い出は?」という問いに僕が答えるなら、カールとリックがデュオとして初めて登場した2003年の『フジロック』を挙げる。大雨の中、グリーンステージに集まった巨大なオーディエンスが彼らの曲に合わせて踊り、誇らしそうに肩を組んで声援に応えていた二人の姿は強烈に印象に残っている。デュオとしては15年、Underworldとして30年に及ぶ付き合いとなる二人の友情物語は、きっと語り尽くせないものがあるはず。しかし、新作『Barbara Barbara, we face a shining future』に関するインタビューの中で、カールは意外にもこんな言葉を口にした。「実は僕たちがこれまで本当の意味で『いい友人』だったことはなかったんじゃないかな」と。

カール・ハイド
カール・ハイド

カール:言うまでもなく、僕たちは長い間友達は友達だったんだ。でも、結構ぎこちない関係性がずっと続いてたんじゃないかと思う。ただ、この数年間で何かが起こったのか、そのぎこちなさがなくなって、お互いが真の友人だって呼べるようになった。その結果がこのアルバムなんだよ。僕はこのアルバムをすごく誇りに思ってるし、二人で今回のようにもの作りができたこと自体をすごく誇りに思ってるんだ。アルバムを聴いた人が「熱い情熱やエネルギーを感じた」って言ってくれるのは、まさに僕らの友情が音になって表れてるからだと思う。まあ、特別それを意識したわけではなくて、何も考えずに二人でノイズを鳴らしてるうちに、これになっただけでもあるんだけど(笑)。

30年目に取り入れた、二人のルール

「この数年間」でUnderworldに何が起こったのか。それを説明するためには、まずは新作の制作にあたって二人が設けたルールについて触れる必要がある。リックが提案したというそのルールは、「毎回のスタジオで必ず新しいマテリアルに着手する」ということ。リックは「身一つで臨む」、カールは「先入観なしで臨む」とお互い心に決め、毎回セッションをして曲を作り、それをリックと前作からのコラボレーターであるHigh Contrastがブラッシュアップするというスタイルでの制作によって、今回のアルバムはトータルで1年足らずという、Underworldとしては極端に短い制作期間で完成に至っている。

カール:僕としては、今回「アルバムができなくてもいいや」くらいの感覚だったんだ。リックは秩序を重んじる人だから、「ちゃんと作品にしなきゃ」って思っていたと思うけど、僕としてはリックと一緒にスタジオに入って、何のコンセプトもなく、Underworldの制作であるということすら忘れて、とにかく楽しく二人で音楽を作ったらどうなるかということを体験したかった。即興に近い感じで、いわゆる音のキャッチボールをしながら、それによってどんな音楽が生まれるんだろうっていう、そこに興味があったんだよ。

この意識の変化は、まさに「この数年間」に起きた様々な出来事に起因している。前作『Barking』(2010年)の発表後、二人はUnderworldとしての制作からは距離を置き、カールは即興をベースとした初のソロアルバム『Edgeland』(2013年)を完成させ、さらにはブライアン・イーノとのコラボレーションを敢行。一方のリックは、『トレインスポッティング』でもタッグを組んだダニー・ボイル監督の新作『Trance』のサントラを手がけた。またUnderworldとしては、初期の代表作『Dubnobasswithmyheadman』(1994年)と『Second Toughest In The Infants』(1996年)の再発、および全曲再現ライブが行われていた。

カール:僕は即興をベースにした作品を3枚発表したわけなんだけど、そういうことを長年のパートナーであるリックとはやったことがなかったんだ。ライブでは長い間それをやってきたわけだけど、レコーディングをしたことはなかったんだよね。ちょうどその頃に、『Dubnobasswithmyheadman』の再発があったんだけど、あの作品の中には即興から生まれた魔法の瞬間があったことを思い出して、「僕たちは何でこれをやってこなかったんだろう?」ってすごく思ったんだ。リックはリックでオリンピックの音楽をはじめとした素晴らしいプロジェクトに関わる中、きっと同じように感じてたんだと思う。なので、出会いから30年以上が経った今、当然やるべきことをやっとやったって感じなんだ。それはホントにエキサイティングな体験だったんだよ。

カール・ハイド

「僕たちはいつだって『解散はしない』と心に決めていたんだ」

前作『Barking』はHigh Contrastをはじめとした若手とコラボレーションを行い、“Always Loved A Film”など、多くの人が想像するであろう高揚感たっぷりのUnderworld節をひさびさに鳴らした作品だった。しかし、今思えばそれはデュオとしてのUnderworldが限界を迎えていたことの裏返しだったのかもしれない。それぞれソロ活動を行った6年間のブランクの中、「解散」が頭をよぎったことはなかったのだろうか?

カール:そうだなあ……とにかく、僕たちはブレイクを必要としていたんだよ。Underworldの「外」に出ることで、それぞれのアイデンティティーを得ようとしていたんだ。毎回同じ顔ぶれの人々とばかり仕事をしていたら、それは不可能なわけだよね? で、こういう離散した状況から大半のバンドが引き出す結論というのは、得てして「俺たちは解散するしかないな」だったりするわけだけど、僕たちはいつだって「それだけはやらない」と心に決めていたんだ。まあ、この6年の間だって僕たちは一緒にツアーをやっていたし、ステージに揃ってライブをやっていたんだよね。そこでポジティブだったのは、毎回二人でステージに立つたび、とても素晴らしい時間を味わえたってこと。だから、僕たち二人の間には今でもスペシャルな何かが起きている、そこは明白だったんだ。

カール・ハイド

―その信頼の上で、二人がそれぞれの活動をすることに意味があったと。

カール:やっぱり、フラストレーションがたまるようになってきていたんだよね。だって、「リックの仕事相手は常に僕だけ」だなんて……そんなの悲惨に決まってるよ!(笑) だから、この6年間の経験はすべて、どれも本当に重要なものだったんだ。たとえば、リックがロンドンオリンピック開会式で音楽監督を務めたことはものすごく大事で、彼は僕から離れたところで、ああいうことをやってみる必要性があった。リックが彼自身のアイデンティティーを見出し、自信をつけていく必要があったんだ。うん、課外活動のすべてが本当に重要だったね。というのも、あの経験なしには、きっと僕たちは「もうこれ以上、この二人でやっていられない」と感じるような、お互いに最低の気分だとしか思えないような、そんな地点にたどり着いていたんじゃないかと僕は思うから。

「アーティストは子供のままであることを許されるべきだと思っている」

こうしてそれぞれのアイデンティティーを確立した上で、再びUnderworldに戻ってきたからこそ、即興をメインにした自由なコラボレーションを行うことができたというわけだ。しかし、普通に考えれば、Underworldというもはや二人だけのものではない巨大プロジェクトを再び動かすということは、「Underworld的な創作や活動を求められる」ということでもあるだろう。ソロ活動を経ての6年ぶりの新作となれば、それはなおさらのこと。にもかかわらず、カールの言うように「Underworldであるということすら意識しなかった」という制作が可能だったのは、二人をサポートする人々がいたからこそだ。

カール:僕たちのマネジメントはとても大事な意見を述べてくれてね。「いいか、君たち、いったんUnderworldのことは忘れてごらん。とにかく自分のやりたいと思ったことを存分にやってみたらいい。二人で集まって、ただ純粋に自分たちがやりたいと思ったことをやってごらん」って言ってくれたんだ。彼らは気づいたんだよ。「今こそがそれをやるいいタイミングだ。この回転し続ける大きなマシーンから解放されて、二人が好きなことをやってみるのにちょうどいいタイミングは今だ」って。で、彼らは正しかった。彼らは僕たちが好きなように、もろもろのプレッシャーとは一切関係なしに思う通りに、制作ができる環境に身を置くべく励ましてくれたんだ。

カール・ハイド

―素晴らしいチームですね。

カール:僕たちのチームは今、いろんな類いのプレッシャーから僕たちを守ることに多くの時間を割いてくれている。「二人とも、ハッピーか?」「やりたいことをその通りやってる?」「何をやりたいの?」「どんな夢がある?」なんて調子でこっちに対してコミュニケーションしてくれるんだよ。マネジメントも含む僕たちのチームの主な役割というのは、思い描いたファンタジーの数々を僕たちが探究するのを可能にすることなんだ。と同時に、僕たちが好きなだけ一緒に過ごせるようにすること、僕たちが一緒に創作する時間をなるべく確保するっていうのが、彼らの主な仕事になっているんだよ。

―そういったサポートがあったからこそ、Underworldであることすら意識せず、自由な制作ができたわけですね。

カール:アーティストには、そういう腕のいい羊飼い的な存在が必要なんだよ。というのも、僕はアーティストは子供のままであることを許されるべきだと思っていてね。心は子供のまま、砂場で遊んでいるようなものっていう。だからアーティストをマネジメントする側、そして音楽産業の面々の仕事というのは、そういう子供たちを保護することであり、かつ、彼らが子供らしくいられる環境を促進するものだろうと。そうやって、彼らのような「子供たち」が世界に向けて何かを発信できるようにしてあげることだというね。自分はそれを理解してくれているチームと仕事ができていて、本当にラッキーだと思う。

「現代は人類史上もっとも平和な時代なんだよ。前向きな考え方を鼓舞していかなくちゃいけないんだ」

『Barbara Barbara, we face a shining future』というアルバムは、まさにUnderworldが30年目にしてまたしても新たな境地へとたどり着いた作品となった。力強いビッグなビートが二人の帰還を告げる“I Exhale”に始まり、Underworld節を受け継ぎつつ、より即興性の高い自由度を手にした“If Rah”へ。ラテンアメリカ音楽で使われる4弦ギター、クアトロをフィーチャーした“Santiago Cuatro”のような新機軸があれば、今回のセッションで最初にすぐできたという、Underworldらしいミニマリズムを持った“Ova Nova”もある。アウトロの「Come With Me」のリフレインが耳に残るラストの“Nylon Strung”で幕を閉じる40分台のコンパクトな作品であり、リピートするたびに新たな発見がある、そういうタイプの作品だ。

印象的なアルバムタイトルは、昨年亡くなったリックの父親がこの世を去る前に、妻のバーバラに残した言葉だという。

カール:リックにその話を聞かされた途端、僕は即「これを自分たちのアルバムのタイトルに使わなければ」と思った。今僕たちは悪いニュースに取り憑かれているよね。メディアは常に、絶え間なく嫌な事件や悪いニュースを垂れ流していて……でも、たまに考えさせられるんだよ。「これって、何か大きな陰謀なんじゃないの?」って。僕たちを怖がらせておくためにメディアはネガティブなニュースを続々報じているんじゃないか、そうやって僕たちが進化したり、あるいは変化するのを食い止めようっていうマスタープランが存在するのでは? ってね。まあ、僕にも分からないんだけどさ(笑)。

―そうかもしれないですね(笑)。

カール:この間どこかで読んだんだけど、僕たちがこうして過ごしている今の時代というのは、人類の歴史上もっとも平和で穏やかな時代なんだそう。戦争で命を落とした人間の数が現在ほど少ない時代は、人類史上他にないっていう。ところが一方で、今の僕たちには過去のどの時点とも比較にならないレベルのコミュニケーション力が備わっているわけだよね? で、そのすごいレベルのコミュニケーションの力のせいで、僕たちは「今は昔よりも悪い時代だ」と信じ込まされているのかもしれない(笑)。でも、事実はどうなのかと言えば、さっきも話したように、現代は人類史上もっとも平和な時代なんだよ。もちろん、今だって恐怖は存在するし、不安定な要素はある。ただ、だからこそ僕たちはポジティブさに向かっていかなければならないし、物事のポジティブな面に目を向け、前向きな考え方を鼓舞していかなくちゃいけないんだ。

カール・ハイド

―まさに、そのポジティブな力こそが、Underworldの何よりの魅力であるように思います。

カール:歳をとると、恐れや不安だので頭ががんじがらめになるということもなくなると同時に、今自分が存在している地上における残り時間は僅かだってことも悟るわけで、だったら、なるべくハッピーでいることを心がけるに限るよね。で、自分たちの周囲にあるものをできるだけエンジョイし、かつ、お互いに対して気持ちよく接する方がいい。結局、輝かしい未来を感じられるかどうかは、すべて気持ちの持ちようなんだ。だからこそ、ポジティブな気持ちを持ち続けることが、何よりも大事なんだよ。

リリース情報
Underworld
『Barbara Barbara, we face a shining future』日本盤(CD)

2016年3月16日(水)発売
価格:2,646円(税込)
Smith Hyde Productions / Beat Records / BRC-500

1. I Exhale
2. If Rah
3. Low Burn
4. Santiago Cuatro
5. Motorhome
6. Ova Nova
7. Nylon Strung
8. Twenty Three Blue(ボーナストラック)

プロフィール
Underworld
Underworld (あんだーわーるど)

カール・ハイドとリック・スミスから成るUnderworldは、世界で最も影響力のある草分け的エレクトロニックグループの1つとして20年以上活躍してきた。その20年間で、Underworldの音楽は、ダンスフロアを超越し、1990年代を代表するアイコン的映画(トレインスポッティング)から、2012年ロンドンオリンピックの開会式(彼らは音楽監督として抜擢された)まで、ありとあらゆるものに起用されてきた。厳密なレコーディングプロセスの成果となった7枚目のアルバム『Barbara Barbara, we face a shining future』では、Underworldの創造的再生が披露され、自然発生と狂乱を最高峰まで極めたUnderworldのすべてが凝縮されている。日本盤は2016年3月16日にリリース。



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