「デザインはコミュニケーションであり、アートは関心事である」。これはその他の短編ズの新しいミュージックビデオ“コンガ”を手掛けたインドネシア在住のアーティスト / 映像作家であるナターシャ・ガブリエラ・トンティのプロフィールからの引用だ。その他の短編ズとは、2012年に福岡で結成された板村瞳と森脇ひとみによるガールズデュオ。フォークとラップをゆるゆると横断するような楽曲や、自ら制作したお面や小道具を用いての、演劇にも近いパフォーマンスが話題を呼び、過去には『シブカル祭。』への出演も果たしている。そして、彼女たちのもの作りの背景にあるのは、まさに「コミュニケーションと関心事」であり、だからこそ、そこに意味性は介在しないのだと思う。
ナターシャがミュージックビデオを手掛けた“コンガ”を含むニューアルバム『Conga』の制作に取り掛かるよりも前、2014年末のワンマンライブ終了時に、二人は一時「これで終わり」とも考えたそう。今回のインタビューでは、そこからどのようにして新作へと向かったのかを話してくれたのだが、それはお涙頂戴の「再生の物語」というようなものではない。しかし、二人が体現していることは、もっと本質的なアートとの関わり方の一例を示しているように思うのだが、みなさんはどう感じるだろうか?
何かを作るのは今も好きなんですけど、それを人に見せたいって気持ちは今年に入ってほとんどなくなってるんです。(森脇)
―その他の短編ズの音楽やパフォーマンスっていうのは、「何かを表現したい」みたいな感じじゃないと思うんですね。
板村・森脇:そうです、まさに。
―作為的な感じがしなくて、いわゆる自己表現だったり、承認欲求だったり、もしくは成功だったり、そういう目的ではない気がするんですけど、実際創作は自分にとってどんな意味があるとお考えですか?
森脇:自分では何でものを作ってるのかっていうのはよくわからないんですけど、でも一昨年くらいまでは結構承認欲求がありました。
―一昨年くらいまで(笑)。
森脇:小中高……今もそうですけど、私はあんまりコミュニケーションが得意な方じゃなくて、でも恥ずかしがり屋の目立ちたがりみたいな感じだったから、図工の時間とかに何かを作るとまあまあ褒められて、それが嬉しかったっていうのはあると思います。でも、去年くらいからもうそういうことはどうでもよくなってきて、何かを作るのは今も好きなんですけど、それを人に見せたいって気持ちは今年に入ってほとんどなくなってるんです。
―そんな心境下での新作リリースなんですね(笑)。板村さんも承認欲求みたいなものがありましたか?
板村:私はそこはあんまりよくわからなくて、ただ好きなことをやってるって感じ。何でやってるのかっていうのは……ずっと「何でだろう?」って思います。
―板村さんは小さい頃から音楽をやっていたそうですね。
板村:3~4歳から6年生くらいまで音楽教室に通ってたんですけど、ずっと頭痛になりながら通ってました(笑)。たぶん、決められたことをやるのが嫌で、「この曲を練習しなさい」みたいなのが面白くなくて、毎週月曜日はウーッて(笑)。でも、発表会は好きだったので、そこを目指して頑張ってた感じです。発表会は自分でやりたいことを選べたし、いろんな教室の人たちが集まって、大きいホールで演奏できたから、そういうのが楽しかったです。
―二人は同じ合唱サークルに入っていたことをきっかけに出会って、最初にスタジオに入ることを提案したのは板村さんだったそうですね。
板村:出会った当初に、森脇さんがやってた人形劇を観たんですけど、作ってるものの色とか形とかがすごくしっくり来て、単純にいいと思って。それまでの私は自分を作っていたというか、自分の考えていることは理解してもらえないと思っていて心に秘めてて、学校とかだと人に合わせてよくわからない会話でも頷いたりしてしまっていたけど、やっと自分の思う考えを話せるような人に会えたみたいな新しい感じがあったんです。森脇さんといるときはホントの自然な自分だなって思って、それがすごく嬉しかったですね。
―森脇さんにとっては板村さんはどんな存在だったのでしょうか?
森脇:今はまたちょっと違うんですけど、昔は「オリジナルのものを作る」っていうのが一番大事なことだと思ってたんです。でも、私は音楽はそんなに得意じゃないと思ってて、自分だけで作ると、できあがるものがわりとオーソドックスなんですね。絵とかの方が自分の好きに作れるんですけど、音楽はちょっと型にはまってるというか。そういう意味で、板村さんは私より音楽に慣れてる気がして、一緒にやると自由にできたんです。
「遠い大勢に認められないといけない」って思ってて、それって「愛されたい」ってことだったと思うんですけど、それを遠い大勢に求めなくてもいい気になってきたって感じかもしれない。(森脇)
―二人は感性が近かったからこそその他の短編ズを結成したんだと思うんですけど、どんな部分が似ているのかって、分析したことはありますか?
板村:分析する感じになると「違う」って思うというか、考えようとした時点で、「いや、違うな」ってすぐなる感じなので、説明がなかなか……。
―それって、「意味性を排除したい」みたいなことなんでしょうか? これまでの作品のタイトルも数字とかアルファベットだったし。
森脇:ちょっと避けてるところはあるかもしれないです。「排除したい」っていうよりは、作ってて、意味のあるようなことが出てくると、「なんか違うな」ってなるから、自ずと記号っぽくなったり。
―そこにオリジナリティーを見出していたということかもしれないですね。でも、最初に話してくれたように、森脇さんは「作品を人に見せたい」という欲求がなくなってきたそうですが、それは何かきっかけがあったのでしょうか?
森脇:2014年に七針でマンワンライブをしたときに、「これで終わり」「もう気が済んだ」みたいな感じがして、去年は週5くらいでずっとバイトをしてたんです。スケジュール帳を見返すと、ライブはわりとやってたんですけど、気分的には2015年は引きこもってた感じで、その間に編み物をやり始めたり、誰にも見せないものを作り出して。オリジナルかどうかよりも、単純に、手を動かして何かができあがっていくこと自体が好きなのかなって思ったり。それまでは「遠い大勢に認められないといけない」って思ってて、それって「愛されたい」ってことだったと思うんですけど、それを遠い大勢に求めなくてもいい気になってきたって感じかもしれない。
―その「認められたい」「愛されたい」っていう欲求が、ワンマンライブをやったことで満たされたのかもしれないですね。そのときは「これでもうその他の短編ズが終わってもいい」くらいの感じだったわけですか?
森脇:……今もそう思ってるんですけど(笑)。
ナターシャからメールが来たときは「待ってました」って感じでした。(板村)
―新作出るのに(笑)。
森脇:「続けるぞ」って感じじゃなくて、「やってるなあ」っていう感じというか……。
―板村さんはワンマンライブを終えて、どんな心境でしたか?
板村:エネルギーを使い果たしたような、気分的には私も、「もうやらなくていいか」って感じでした。「こうなんですよね」「そうですね」みたいな感じで、不思議と同じような気分になっていたというか、だから私も2015年はバイトをよくしてました(笑)。
―ここまでの話からすると、なぜ今回アルバムができたのかがわかりません(笑)。
森脇:ホントそうなんですよね(笑)。(今回のリリース元であるnobleから)前からお話はいただいていて、それはまだやる気があるときだったので、「やりたいです」って言ってたんですけど、その後に「やっぱりやめたいです」ってなって、ああだこうだ駄々をこねてて。そうしたら、なぜか板村さんが「ミュージックビデオが作りたい」って言い出したんです。
板村:アルバムを作るよりも、今までの手法とは違うミュージックビデオが作りたくなって。
森脇:だったら、ボイスメモで録った音じゃなくて、ちゃんとレコーディングしなきゃだねって話で、「じゃあ、作ってもらったらいいじゃん?」って、その時点であった曲を集めて、アルバムにしました。
久保(noble):話が決まってからはめっちゃ早かったんですよ。その話をしたのが去年の年末くらいで、年明けにすぐレコーディングをして。
―めっちゃ最近じゃないですか(笑)。
板村:私が「ミュージックビデオは作りたい」って言ってからは……ダダダって進みました(笑)。
―そのミュージックビデオはクラウドファンディングで資金を募り、インドネシアのアーティスト / 映像作家のナターシャ・ガブリエラ・トンティを監督に迎えて、実際インドネシアに行って撮影をしてきたと。ナターシャからは去年直接「一緒にパフォーマンスをしたい」っていうメールが来て、『黄金町バザール』で共演してるんですよね。
板村:私たちの映像を見て、すごく気に入ってくれたみたいで、英語でワーッと書かれた長い文章のメールが来て。
森脇:それで彼女のInstagramを見たら、「あ、素敵」と思って、実際黄金町の展示を観に行ったら、やっぱりすごいいいなって。
―言葉の問題もあるし、話し込んだわけじゃなくて、感覚的なやり取りだったわけですよね?
板村:細かいことが全然しゃべれなかったので、ちょっとだけ大変でした。Skypeしても、「えーっと……?」って感じで。
森脇:でも、三人でいると楽しくて。
―誰か共通のアーティストが好きとかでもなかった?
森脇:全然わからない。未だにナターシャのことよくわかっちゃいないです(笑)。
―ミュージックビデオ撮ってもらってるのに(笑)。
板村:でも、共演依頼のメールが来たときは「待ってました」って感じでした。
―板村さんにとっては、森脇さんと出会ったときのような感動を、ナターシャにも感じたんじゃないですか?
板村:そうですね。全然しゃべれないけど気にならなくて、なんだかいいなって思いました。ナターシャの作品を見たり、一緒にパフォーマンスをやってみて、「グッド!」って思えるというか。
―グッド(笑)
森脇:インドネシアに行ってから、英語が流行ってるんです(笑)。
自然と生まれてきた状況にただ乗って行くというか、生活していくっていう感じが近いかもしれない。(森脇)
―実際の撮影は順調に進みましたか?
森脇:衣装とか場所は全部ナターシャが準備してくれて、私たちは言われるがままに動くって感じでした。盆踊りを踊ってるのも、ナターシャが「盆踊りがいい」って言ったからなんですけど、別に違和感なく。
板村:でも私、撮影のとき熱を出してしまって、意識はあるけど、頭の中がフワフワしていました(笑)。あと向こうでライブも組んでくれて、そのときにつけるお面とかも全部ナターシャが用意してくれて、すごいウケてました(笑)。
―“コンガ”はいつ頃作った曲なんですか?
板村:『13』(2015年2月)を出した後くらいにできた曲で、去年ナターシャとイベントをやったときにはもうできてました。
―<内緒ねって言っても全部 インターネットで世界へ>とか<想像してきたことが もう少しで過去に変わる 知らない運命が伝染し 未来の本当のダンスを練習する>っていう歌詞からして、国を超えて感覚を共有できる人に出会えた喜びが自然と表れてるのかなって思ったんですけど、出会う前にできてるんだ(笑)。
森脇:……ホントですね(笑)。
板村:なぜか前からインドネシア語の曲もあったんですよ。森脇さんが「インドネシア語が世界で一番簡単な言語だ」っていう情報を得て、「じゃあ、歌ったらいいんじゃない?」って。
森脇:ちょうどよかったです(笑)。
―“TEA”とかもちょっとガムランっぽいですよね。その他の短編ズの曲が持ってる瞑想の感じというか、ちょっとスピリチュアルな感じっていうのは、ガムランにも通じるかも。
森脇:私は自分が考えてることがスピリチュアルだなんて思ってなかったんですけど、遠い人と話をすると、全然違うなって思って、私の言ってることってスピリチュアルなんだろうなって思うこともあります。でも、私は偶然とか見えないことって普通にあると思っていて、それを特に意識はしてないんですけど……きっと比較的スピリチュアルなんだろうなって(笑)。
―板村さんが昔は自分を作ってたって話につながると思うんですけど、その他の短編ズは意識するしないにかかわらず、「こうじゃなきゃいけない」とか「こうあるべきだ」っていうところからは外れていて、そこが魅力だと思うし、ナターシャともハモったところなのかなって。
森脇:なるほど、そうかもしれないです。
―さて、目標だったミュージックビデオが完成したとなると、これからその他の短編ズはどうなっていくのでしょうか?
森脇:あんまり考えてないんですけど、決まってる予定があるので、それをやるって感じ。
―今も「オリジナルなものを作ろう」って感じじゃないわけですよね?
森脇:そうですね。5月にあるレコ発のフライヤーは、切り貼りしただけなんですけど、こういうコラージュみたいなのも、ずっと否定してたんです。「切って貼るだけじゃないか」って。でも、別にいいやって思って、今回初めてコラージュにしたんです。オリジナルだからいいってわけでもないなって思いますね。
―その他の短編ズがどうなるかはわからないけど、「何かを作る」ってことは続ける?
森脇:……まあ、作らないかもしれないし(笑)。自然と生まれてきた状況にただ乗って行くというか、生活していくっていう感じが近いかもしれない。
板村:このアルバムができあがったので、これに従ってというか、作った後の予定が決まっているので、またそのときに何かが生まれるのかなって。なので、これと言って決めずにですね。
- リリース情報
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- その他の短編ズ
『Conga』(CD) -
2016年4月15日(金)発売
価格:1,620円(税込)
NBL-2171. 洞穴
2. TEA
3. 地図
4. バグパイプ
5. 王
6. コンガ
7. 牧場と宇宙
- その他の短編ズ
- イベント情報
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- その他の短編ズ『Conga』レコ発ライブ
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2016年4月22日(金)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:愛知県 名古屋 K.D ハポン
出演:
その他の短編ズ
北村早樹子
料金:前売2,500円 当日2,800円(共にドリンク別)2016年4月25日(月)OPEN / START 20:00
会場:京都府 uzuビバレッヂ
出演:
HAMACHI
その他の短編ズ
料金:2,500円(1ドリンク込)2016年5月28日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京都 原宿 ストロボカフェ
出演:その他の短編ズ
料金:前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)
- プロフィール
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- その他の短編ズ (そのたのたんぺんず)
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2012年福岡で結成。板村瞳と森脇ひとみの二人組。 お面をつけての音楽の演奏や、絵と言葉を用いた劇のような表現を試みている。 これまでに「シブカル祭。」(2014年)や「黄金町バザール」(2015年)にも出演するなど、音楽シーン のみならず各方面から注目を集めている。
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