スターダストレコーズが2014年から開催しているオーディションで発掘され、2016年4月に1stシングル『当流女』でデビューしたシンガーソングライター、出雲咲乃。北九州出身で現在19歳の彼女は、ほとんど不登校状態だった中学卒業後に音楽で生きていくと思い立ち、アコースティックギターを購入して曲作りを始めたという。
音楽的なバックグラウンドが一切ない状態で育まれた彼女のシンガーソングライターとしての作家性は、和のテイストや屈強な女性像を重んじたフィクショナルでストーリー性の高い歌を描くことが核になっている。振れ幅に富んだサウンドは、ジャズや管弦楽を通過したポップスに対する興味を強く感じさせる。瑞々しいポップネスが躍動している2ndシングル『世界のしかけ』のリリースタイミングで、謎多きその実像を簡明直截に語ってくれた。
髪の毛を金髪にしていたら先生に注意されて。反抗期だったのでだんだん学校に行かなくなったんです。
―出雲さんの出身地の北九州って、わりと治安の悪いイメージがあるじゃないですか。出雲さんが住んでいた周りはどうだったんですか?
出雲:ヤンチャしてる人が多かったですね。実際に男も女もよくケンカしてる感じで。今は昔に比べたら、街中の治安はよくなってきたみたいですけど、ちょっと中心地から外れるとバイクとパトカーのサイレン音でうるさいみたいな。私は高速道路に面したところに住んでいたから、余計にうるさかったですね(笑)。
―中学にほとんど行かなかったんですよね。それはどういう理由で?
出雲:学校に入れてもらえなかったんです。髪の毛を金髪にしていたら先生に注意されて。で、黒染めして行ったら、今度はスカートの長さがどうとか、ピアスの穴が開いてるからどうとか、いろいろ言われて。反抗期だったのでだんだん行かなくなったんです。
―内にこもって不登校だったとか、そういうことではないんですね。
出雲:そうなんですよ。よくそう思われるんですけど(笑)、友達もいたので。友達が学校に行っている時間は家で寝て、起きたら学校が終わったみんなと遊びに行ってみたいな。自由といえば自由な生活を送ってましたね(笑)。
―地元のことも好きだった?
出雲:好きでした。でも、ずっと都会に行きたいとも思ってたんです。地元は世界が狭いし、もっといろんな人と関わって生きていきたいと思ってたから。中学卒業後は、バイトをしていたんですけど、いろいろ命令されるのがめんどくさくて。自分の人生を考えたときに、誰にも命令されずに好きなことだけに集中したいと思ったんです。絵を描くのも好きだったから、漫画家になろうかなとも考えたんですけど、プロになるまでにお金も時間もかかりそうだなと思って。
―音楽もそうだと思うけど(笑)。
出雲:でも、歌は1曲作ったら3分くらいで表現できるじゃないですか。そっちのほうが楽しそうだなと思って。
―発想が極端だなあ(笑)。
出雲:何に対しても好きか嫌いしかないんですよね。
―なぜ選択肢が漫画家か音楽家だったんですか?
出雲:家で没頭できるから。ネイリストとか美容師だったら資格もいるし、専門学校とかに通うにも外に出ないといけないじゃないですか。外に出るのはめんどくさいから(笑)。
―でも、それまで音楽の道でプロになるとは思ってもみなかったんですよね?
出雲:全然思ってなかったです。小さい頃から歌うことは好きでしたけど、友達とカラオケに行くくらいで。あ、でも小学生のときにリコーダーは得意でした(笑)。
―リスナーとしての音楽体験は?
出雲:周りで流行ってるものを聴くくらい。日本のR&Bとか、バンドだったらORANGE RANGEとかが好きでしたね。
私、ビッグになってやるという目標があるんです。いつか浅草に「出雲城」という日本式のお城を立てたい。
―中学卒業後に「音楽家になろう」と決めてから、一気にスイッチが入ったんですか?
出雲:そうなんです。ギターのためにそれまでしていたつけ爪も全部取って。ギターを買って弾けるようになったら、すぐに曲を作れるようになると思ったんですよ。それで、地元の楽器屋で売っていた1万円くらいの初心者セットのギターを買って。お店の人が「何か不具合があったらいつでも来てね」とか言ってたんですけど、私がギターを買った3日後くらいにその店がつぶれたんですよ(笑)。
―あはははは(笑)。そこからギターの弾き方やコードを覚えて?
出雲:そうです。周りに音楽をやってる人がいなかったから、独学でめっちゃがんばりました。コードを覚えたら曲作りもいい感じにいけるかなと思ったら、予想通り、けっこういけたんですよ(笑)。最初はしょうもない曲ばかり作っていたんですけど、半年くらい経ったらだんだん自分でも納得のいく曲を作れるようになってきて。自分で納得のいくデモが20曲できた時点でオーディションに応募しました。
―曲作りの前段階で誰かの曲をコピーしたりしなかったんですか?
出雲:してないです。自分の曲を作るためだけにギターを買ったので。それに、その前に聴いていたのはR&Bとかだったから、ギターでコピーするのはしんどいじゃないですか(笑)。
―自分の曲を作りたいと思う前から、人前に出ることは好きだった?
出雲:好きでした。小さい頃から目立ちたがり屋ではあって、小学校3年生くらいからヒップホップダンスをやっていました。それも、骨折グセがついちゃってやめたんですけど(笑)。でも、そういう性格だったのもあって、音楽に没頭できたんだと思います。コードを覚えたりするのはめんどくさかったけど、目立ちたいし、いろんな人を見てジェラシーも感じるし。
―たとえば?
出雲:テレビに出ている人とか、他人からキャーキャー言われてる人全員に、ジェラシーを感じるんですよ。だから、人のライブを観るのもあまり好きじゃない。ちゃんと曲を作って、自分が注目されるようになったら外に出たいなと思ってます。
私、ビッグになってやるという目標があるんです。いつか浅草に日本式の城を立てたくて。「出雲城」みたいな(笑)。欲が強くて熱中するタイプだから、だいたい願いは叶うと思っていて。
―強欲だと自覚してる。
出雲:そうですね。超欲張りだと思います。
椎名林檎さんは好きなんですけど、椎名さんの曲を聴くようになったのは曲作りを始めてからですね。
―オーディションに応募したデモはギターの弾き語りで作ったんですか?
出雲:最初は弾き語りで作ってたんですけど、それだけだと自分が目指す音楽性が伝わらないと思ったので、オーディションに応募する2か月くらい前に無料の音楽制作ソフトをダウンロードして打ち込みを覚えたんです。
―DTMの方法論もそこで覚えたんですね。
出雲:今はLogic(音楽制作ソフト)を使ってるんですけど、それを使いだしてから、いかに最初に使っていたフリーソフトがショボかったかがわかりました(笑)。Logicも独学で覚えましたね。アレンジャーにデモを渡す前にできるだけ完成形に近づけておきたくて。
最近は、「歌」というよりも、「音楽」を作りたいってよく思うんです。何かのサウンドトラックになっても活きるような音楽を作りたいなって。
―音楽的には椎名林檎さんからの影響も強く感じるんですけど、昔から愛聴していたわけではないんですか?
出雲:椎名林檎さんは好きなんですけど、椎名さんの曲を聴くようになったのは曲作りを始めてからですね。ポップスをちゃんと聴くようになったのは最近なんです。
曲作りをするようになって気づいたのは、私はバンドサウンドがあまり好きじゃないということで。椎名さんって、ソロの曲ではいろんな楽器を使ってるじゃないですか。そういう音楽的な挑戦をしているところがかっこいいなと思って。あと、清竜人さんもめっちゃ好きなんですけど、彼が作る曲もサウンドや使用楽器に制限がないのがいいなって思うんです。
―実際に出雲さんの曲はアレンジが多様ですよね。たとえば1stシングル『当流女』の4曲目“三津子の女優革命”は、ミュージカルソングを彷彿させるビッグバンド風のジャズサウンドが鳴っていて。清竜人さんからの影響も頷けるというか。
出雲:そうなんですよ。いろんなサウンドアレンジをしているけど、ちゃんと私だけの色がある曲を作りたくて。だから、椎名さんの影響を感じる云々ってよく言われるんですけど、それだけじゃないということをもっと証明しなきゃいけないと思ってます。
―“三津子の女優革命”と“当流女”のアレンジを手がけているのはクラブジャズ系のインストバンド・JABBERLOOPですけど、これは出雲さんからのリクエストで?
出雲:そうです。JABBERLOOPはリスナーとして大好きで。“当流女”は、デモの段階ではロック調のサウンドだったんですけど、スタッフに「誰にアレンジをお願いしたい?」って訊かれて、「JABBERLOOPがいい」と提案しました。“三津子の女優革命”は打ち込みのアレンジにしようと思ってたんですけど、JABBERLOOPがジャズアレンジにしてくれて生楽器をたくさん使ったら断然かっこよくなって。
あと、『当流女』の3曲目に入ってる“少女の如く、女の如く。”のアレンジをしてくれたTOMISIROは、普段サウンドトラックを作ってる方々なんですね。JABBERLOOPやTOMISIROとの制作を通して、サウンドトラックやインストの曲をお手本にしようと思うようになりました。そこで重要になってくるのが、和のテイストだと思うんです。
―“当流女”は、琴など和楽器の音が映えていますよね。
出雲:せっかく日本人に生まれたんだから、ちゃんと日本的な音楽にしたいと思って。だから、歌詞も英語は極力使わないようにしているんです。一貫したテーマとしては、少女から女に変わるときのことを書いていきたいと思っているんですけど、それもあくまで日本的に書きたい。カタカナ英語とか、日本人が独自に改造した言葉は好きなんですけどね。あと、自分で作った曲を歌ったときに、「なんで私の歌はこんなにコブシが効いてるんだろう?」って自分で思ったんです。
―歌唱のスタイルも椎名林檎さんの影響ではなく、ナチュラルに歌ったらこうだったという感じなんですか?
出雲:そうなんですよ。最初から、自然と演歌みたいなニュアンスがありました。
私、毎年携帯番号を変えてリセットするんですよ。「いらんもんは排除」みたいな。
―出雲さんの歌詞はどれもフィクショナルで、架空の主人公が存在していますよね。裏を返せば自分語りをしていない。
出雲:そうですね。私はヒーローソングみたいな、男らしいかっこよさのある曲が好きで。でも、男が希望を歌ったらかっこいいんだけど、女が希望を歌っても理想に聴こえてしまうと思うんです。そこに闇や弱さが付きまとうから。それを強調したくはないから、女の弱さではなく、女の強さを武器にしたいんです。
ラブソングも好きじゃなくて。私はリスナーとしても、他人の恋愛やそこに付随する闇を歌った曲とか、どうでもいいと思うから(笑)。だから、物語を妄想して、「この曲にはこの楽器を使ったら面白いやろうな」って考えるほうが楽しいんです。
―ストーリー性のあるソングライティングをするにあたって参考になった作家などはいるんですか?
出雲:中学を卒業するまでは読書なんて全然したことがなかったんですけど、曲を作り始めてからめっちゃ本を読むようになりましたね。なかでも中原中也の詩が好きです。言葉も全然知らなかったから、中原中也の作品で言葉を覚えたようなところもあります。“世界のしかけ”の<ぼくが画いた頁を遺すんだ>とか、歌詞で旧字をよく使うのもその影響ですね。
―ホントに音楽制作を始めて生活も趣味嗜好も一変したんですね。
出雲:今、地元の友達に会ったら「誰?」って言われると思います。
―今、地元の友人たちと連絡はとってないんですか?
出雲:とってないです。2、3人の連絡先は知ってますけど、それ以外の人たちとは関係を切りました。ときどき寂しくて会いたくなりますけどね。今年の春に上京したんですけど、新しい友達も全然できないし。
でも、遊んじゃいけんなと思って。音楽をやるならとことんやりたい。誘われたら遊びたいって思っちゃうから、そうならないように携帯番号も変えて。私、毎年携帯番号を変えてリセットするんですよ。「いらんもんは排除」みたいな感じですね。慣れ合いはしたくないから。
―腹を括ったんですね。
出雲:そうじゃないと成功できないと思うので。
勘違いされやすいんですよね。暗い人間だと思われやすいのは誤算でした。
―2ndシングル『世界のしかけ』の表題曲は、一人称も「ぼく」で、少年のような男性目線で描かれていますね。
出雲:今までは考えられなかったタイプの曲になりましたね。ずっと強くてかっこいい女の歌ばかり作りたいと思っていたので。でも、この曲は希望的な歌だし、男の子の目線で書きたいなと思ったんです。
“世界のしかけ”は、ドラマ(日本テレビ・読売テレビ系『遺産相続弁護士 柿崎真一』)の主題歌なんですけど、主演の三上博史さんが以前、中原中也を演じていたことがあって。ドラマの主人公の柿崎真一のイメージに沿いつつ、どこかで中原中也の存在を意識してこの曲の歌詞を書きました。『当流女』の4曲目も、『女優堕ち』(BS朝日)というドラマのために書き下ろしたんですけど、何かの物語に合わせて曲を書くことが好きなんですよ。
―それこそサウンドトラックを制作するように。
出雲:そうです。そのほうが曲作りも楽しいんですよね。他人が描いた物語を受け入れて、私が音楽で表現する物語と融合させたいという思いが強いです。
やりたいアイデアはいっぱいあるんですけど、今はまだ音楽業界に自己紹介するための曲を作っていかなきゃいけないですね。勘違いされやすいんですよね、病んだ方向に見られてしまいがちというか。暗い人間だと思われやすいのは誤算でした。実際初めて会った人に「人見知りしないんだ?」ってよく言われるんですけど、「別にせんわ!」みたいな(笑)。
―僕も今日話してみてよくわかったけど、それは出雲さんが最も望んでない方向ですよね。
出雲:そうなんですよ。だから、もっと自分でちゃんと説明して、曲でもっと強く自分の理想を表現しなきゃいけないと思ってます。
- リリース情報
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- 出雲咲乃
『世界のしかけ』(CD) -
2016年8月31日(水)発売
価格:1,080円(税込)
ZXRC-10831. 世界のしかけ
2. はないちもんめ
- 出雲咲乃
- プロフィール
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- 出雲咲乃 (いずも さきの)
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強烈な歌詞と頭から離れないメロディーを紡ぎだす、北九州生まれ育ちの新世代シンガーソングライター。十六歳の時にギターを購入し制作活動を開始。半年ほどで納得いく曲が二十曲出来たので、オーディションに応募したところ、スターダストが実施しているSDRオーディションの審査員の耳にとまる。唯一無二の咲乃ワールドが広がるデモテープを聞いた人から口コミが広がり、BS朝日のスペシャルドラマ『女優墜ち』の主題歌に抜擢され、2016年4月にヴィレッジヴァンガード下北沢店限定発売の1stシングル『当流女』でデビュー。
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