中田裕二×クリス松村 知っているようで知らない「名曲」の裏側

椿屋四重奏のギターボーカル / ソングライターとしてはもちろん、バンド解散後、2011年のソロデビュー以降は、ロックの枠を超えたフレキシブルな音楽性を武器に、シンガーソングライターとして活躍する中田裕二。

彼は個性的な楽曲を歌い継ぎながら、ニューシングル『THE OPERATION / IT'S SO EASY』のカップリングにORIGINAL LOVEの“接吻”や南佳孝の“モンロー・ウォーク”をオリジナルアレンジで収録するなど、自身のルーツである名曲カバーにも積極的に取り組んできた。

そんな中田裕二と、幼少時に歌謡曲に衝撃を受けて以来、アイドル歌謡から洋楽まで、様々な時代の音楽に精通し、音“楽”家(おんらくか)を名乗るクリス松村がクロストーク。二人の趣味に共通する1970年代、1980年代の歌謡曲、ニューミュージックを中心に、その魅力を語り合ってもらった。

クリスに「ずいぶん早熟ね!」と言わしめた中田の音楽ルーツとは?

―お二人がお会いになるのは、今日が初めてなんですね。

中田:そうなんです。でも僕は以前から、クリスさんがものすごく音楽に詳しいことは存じ上げていて。

クリス:え、どこでそんな情報を?(笑)

中田:テレビです。『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』(クリス松村は、2009~2012年まで『ハートにヒット」などの懐メロコーナーを担当)をよく拝見していて、クリスさんの音楽知識の深さと幅広さに驚いていました。

左から:クリス松村、中田裕二
左から:クリス松村、中田裕二

クリス:ああ! ご覧になってくれていて嬉しいですね。

―クリスさんは、ラジオでも週に3本の音楽番組でパーソナリティーを担当されて音楽をたくさんご紹介されていらっしゃいますし。

クリス:そうですね。昔からラジオDJが憧れだったから、今こうして私の好きな音楽を紹介できる番組を持てて嬉しくって……って、私のお話ばかりしていてもいけない(笑)。中田さんは、最初に興味を持った歌や、歌謡曲を好きになったきっかけは何だったんですか?

左から:中田裕二、クリス松村

中田:もともと両親が安全地帯が好きだったので、家の中で『安全地帯II』というアルバムがずっとかかっていたんです。3、4歳くらいのときの話なんですけど、すごく好きでしたね。

クリス:えっ! 3、4歳で安全地帯をいいと思ったの? ずいぶん早熟ね!

中田:(笑)。生活の中にそういう音楽があったので、聴いているうちに自然と好きになっていった感じです。

クリス:そうなんですね。中田さんの新譜『THE OPERATION / IT'S SO EASY』を聴かせていただいたら、“モンロー・ウォーク”をカバーされていますよね? 世代的にORIGINAL LOVEの“接吻”は同時代の音楽として歌われているんでしょうけど、南佳孝さんの“モンロー・ウォーク”は1970年代の曲だから、そこにどういうふうにいきついていったのか、気になる人も多いんじゃないでしょうか?

―中田さんは往年の邦楽をカバーされた『SONG COMPOSITE』(2014年発売)というアルバムも出していますし。

中田:そうですね。僕は1981年生まれで、実際は1970年代の音楽をリアルタイムで聴いていないんですが、両親が聴いていた音楽の影響や、小さい頃にテレビで懐メロヒットを紹介するテレビ番組をたくさんやっていたのが大きかったですね。それをすごく集中して見ていたから曲は知っているんです。

クリス:なるほどね。テレビで見ていたなかでは何にワクワクしました?

中田:来生たかおさんの“マイ・ラグジュアリー・ナイト”ですね。来生さんも両親がよく聴いていたんです。『SONG COMPOSITE』でカバーさせていただいた“シルエット・ロマンス”も好きですよ。大橋純子さんが歌って有名になった曲ですけど、僕は来生さんのセルフカバーも好きですね。

クリス:来生さんの曲は、ほかの歌手が歌ってヒットしているものがすごく多いですよね。“セーラー服と機関銃”も、歌詞を少しだけ変えて“夢の途中”として自分でも歌っているし……。あの時代は、曲を作った人と歌手とが同時に曲を発表している場合が多い。中田さんは、好きな曲やアーティストを聞くと、歌い上げる歌が好きなんですね。

中田:そうですね。熱唱する人が好きです。

クリス:じゃあ朱里エイコさんなんかも好きなんじゃない?

中田:あ、はい。この前EPを買いました。『北国行きで』(1972年発売)を(笑)。そういえば、そのなかに映画『ゴッドファーザー』のテーマも入っていました。

クリス:“ゴッドファーザー 愛のテーマ”は、当時すごく流行っていたんですよ。たくさんの方が歌ってる。昔は洋楽ヒットをライブでも何人もの方が歌っているから、どなたのバージョンがカバーの代表なのかが難しくて(笑)。

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中田:“ゴッドファーザー 愛のテーマ”は、みなさんがカバーしていたんですね。

クリス:そうそう。スティービー・ワンダーの“愛するデューク”も多くの人が歌っていたし、みんな洋楽に憧れていた時代だったのか、オリビア・ニュートンジョンとかダイアナ・ロスも、女性アイドルを中心にカバー率がすごいんです。中田さんは、アイドルだとどういう方が好き?

中田:アイドルだと、中森明菜さんの曲が家でたくさんかかっていました。“スローモーション”が好きで、僕もカバーさせていただいています。ほかのアイドルにはない、マイナーキーの曲調がすごく好きで。

左から:中田裕二、クリス松村

クリス:デビュー曲なのに、すごく哀しげな歌詞でね。明菜さんは次の“少女A”が大ヒットしたけど、“少女A”や“1/2の神話”のような曲よりも、“スローモーション”や“セカンドラブ”のようなバラード路線が明菜さんご自身は好きだったんですよね。そういえば“スローモーション”も来生たかおさんの曲ですね。

中田:そうなんです。誰が作られた曲か知らないで「この曲好きだな!」と思ったら、たいてい作詞が来生えつこさん、作曲が来生たかおさんの、来生姉弟の曲だったりするんです。

クリス:来生さんの曲はソフトな雰囲気だから、中田さんの声にも合っているのかな? でも、中田さんの歌声には、こぶしも入っていますよね。あれはどこからきたの?

中田:子供の頃に聴いたCHAGE and ASKAの影響があると思います。最初に自分で買ったCDはCHAGE and ASKAの『TREE』(1991年発売のアルバム)でした。

クリス:ああ、なるほどね。中田さん、本当に色々聴くんですね(笑)。今作もソフトな入りだと思って聴いていたら、「ここでこぶし入れるの?」と気になっていたんですよ(笑)。あれは中田さんの特徴ですね。ASKAさんの影響なんですね。

中田:そうですね。ボーカリストだとほかには、久保田利伸さんや田島貴男さんも大好きです。

クリス:だから新譜で来生さんの“モンロー・ウォーク”と、田島さんの“接吻”をカバーしているんですね。来生さんの歌がお好きなら、こぶしを封印して歌ってみるとまた面白いかもしれないですよ。今までやっていたことを一度置いてみると、新しい自分の一面が見えてくると思います。

中田:そうかもしれないですね。そういう意味で言うと、玉置浩二さんも、誰にも真似できない感じで素晴らしいですよね。

クリス:玉置さんは唯一無二ですよね。井上陽水さん、山下達郎さんも。陽水さんなら、1979年のアルバム『スニーカーダンサー』もぜひ聴いてほしいですね。高中正義さんが作曲や編曲をしていて、吉田美奈子さんも1曲コーラスで参加しているシティポップです。シティポップという言い方は、当時はなかったですけど。

左から:中田裕二、クリス松村

中田:そうなんですか。今、巷ではシティポップが流行っているんですよ。そういった音楽から影響を受けたような若手のバンドが増えてきています。

クリス:あ、そうなんですね! シティポップという括りはすごく難しいんですけど……例えば、どんな音楽をシティポップの元祖と感じますか?

中田:1970年代でいえば、大滝詠一さんが思い浮かびます。

「70~80年代の音楽を語るのに、シンガーソングライターのことだけ話をしていてはいけない」。クリスが教える大滝詠一の裏話

クリス:だとしたら、はっぴいえんどにも遡らないといけないですね。はっぴいえんど、ティン・パン・アレーの傾向が枝分かれして、ロックの流れにいくとサディスティック・ミカ・バンドにも行き着く。でも、今でこそみなさんビッグネームですけど、山下達郎さんや大貫妙子さんが在籍していたシュガー・ベイブなんかも当時は爆発的には売れていなかったんですよ。リアルタイムで売れていたシティポップの元祖といえば、ユーミンなんです。“あの日に帰りたい”が唯一ヒットしていた。

中田:そうなんですか! “あの日に帰りたい”もカバーさせてもらっています。

左から:中田裕二、クリス松村

クリス:ユーミンは、後から名曲と呼ばれるものがたくさん語られたけど、1970年代だとヒットはそれくらいですし、1977年にソロになられた山下達郎さんも、大滝詠一さんも、火がついたのは1980年代に入ってから。じゃあ売れない間どうしていたかというと、アイドルに曲を提供していたんですよね。

中田:なるほど!

クリス:だから1970年代、1980年代の音楽を語るのに、シンガーソングライターのことだけ話をしていてはいけない。アイドルポップスや歌謡曲を無視することはできないんですよ。そうそう、大滝詠一さんの作った“夢で逢えたら”という曲のエピソードも面白いですよ。

あの曲はラッツ&スターが歌って初めてベスト10に入ったんですけど、もともとは、ガールポップをやりたいと思った大滝さんが、アン・ルイスさんのために書いた曲だったんです。1970年代半ばの話ね。でも、大滝さんご本人の話によると、当時、彼女はロック路線でいきたいから歌えないといってボツになったそうなんです。

中田:そんな裏話があったんですね。

左から:中田裕二、クリス松村

クリス:そうなんです。でも、ちょっと話が合わないんですよ。“夢で逢えたら”は76~77年に吉田美奈子さんらが歌うんだけど、同時期にアン・ルイスさんは“甘い予感”という曲を出している。それはユーミンの曲なんだけど、全然ロックじゃないんです。

アン・ルイスさんがロックを歌い出すのは78年。もうご存命じゃないから、大滝さんに真相がお聞きできないのが残念なんですけど。……というように、「シティポップ」という単語ひとつでも、音楽は歴史や影響力が脈々と続いていますから、お話ししたいことは山ほど出てきちゃいますね(笑)。

中田:ほんとですね。すごく勉強になります! 今、シティポップがブームになっている現象は、クリスさんにはどう映りますか?

左から:中田裕二、クリス松村

クリス:そうですね。実際どういうバンドが、どんな曲をやっているか詳しくないので、大きなことは言えないですけど……みなさん必ず、過去の音楽からいろんな影響を受けていらっしゃるはず。

中田:ネオ渋谷系ブームというのもありますし。

クリス:ね、それも渋谷系とは何か? みたいなところから始まるでしょう? ルーツ的な音楽をもう一度聴こうとか、それにプラスして自分たちの新しい才能で、先人たちができなかったくらい、その世界を広げてもらえたらいいなと思いますね。

中田:分かります。サウンドは時代によって流行り、また沈んで、また繰り返すというのもありますし。それでいえば、バンドマンにとってはシティポップの前、2000年代はギターロックが主流でしたしね。僕も10数年前、バンド(椿屋四重奏)をやっていた初期の頃は、それに近い感じの音楽をやっていましたけど(苦笑)。

クリス:そうだったんですね! でも、ソロではもっとブルージーな色もあったり、スタイリッシュな音楽をやられていますよね。

中田:自分ではソウルミュージックもすごく好きなんです。プリンスも好きだし、先ほどクリスさんにご指摘を受けたこぶしや歌い方の感じや、フェイクなんかも黒人音楽の影響は大きいと思います。1970年代の歌謡曲も音楽はすごく横ノリでファンキーなものが多いので、そこもかぶっているのかなと思います。

中田が語る椿屋四重奏時代の音楽と「歌手としての挑戦」

クリス:プリンス的なソウルまで。『THE OPERATION / IT'S SO EASY』のジャケットがあまりに爽やかだから、もっとシティポップの方向にいくのか思いましたけど、それもちょっと違うのかな?

中田裕二『THE OPERATION / IT'S SO EASY』ジャケット
中田裕二『THE OPERATION / IT'S SO EASY』ジャケット(Amazonで見る

中田:そうですね、憧れはレニー・クラヴィッツですね。シンガーソングライターとしてルーツミュージックをすごくリスペクトしながら、いいバランスで常にアップデートしてる。それが理想です。

―1970年代、1980年代音楽のカバーも、中田さんのルーツミュージックへのリスペクトだと思いますが。

中田:それもありますし、カバーの良さは過去のいい曲を、僕という歌手を通じてみなさんにも聴いてもらえることです。シンガーソングライターとしてオリジナルを聴いてもらうだけでなく、ひとりの歌手として、名曲をどう歌うかの挑戦でもあります。

僕がバンドをしていた2000年代くらいは、みんなそうでしたけど、かなりデジタルに頼った音作りをしていました。コンプレッサーをかけて、音圧を上げるのを良しとしていた。でも、やっぱり僕のルーツはアナログ時代の音楽だし、デジタルな音には飽きてしまったんです。

椿屋四重奏時代のアルバムは、今ちょっと自分でも聴けないというか……耳がキーンとなってしまって(笑)。だから今回『THE OPERATION / IT'S SO EASY』に収録した“接吻”のカバーも一発録りですし、生身のままの音楽はぜひ今後も続けていきたいですね。

クリス:一発録り!? すごいですね!

中田:海外の僕世代のシンガーソングライターの人たちは、完全にアナログ回帰していますしね。レコーディングもテープでやるのが当たり前だし、演奏もあえて直さない。その人間らしさにすごく魅力を感じるんです。

クリス:中田さんは、ポリシーがあっていいですね。自分の昔の音が聴くに堪えないと思うところまでいって、でもそこを修正してまた挑戦していくって。お話しをしていて、中田さんは音楽をたくさんご存知で、歌謡曲から何から、いろんな音楽が大好きなのが伝わってきました。

それを、どう自分のワールドに変えていくかという可能性をすごく秘めていらしゃるから、これからも楽しみ! ルーツ全部入りで、なおかつオリジナルな中田ワールド、期待してますよ!

中田:はい、誰にも代わりの効かない音楽を作っていきたいですね。

左から:中田裕二、クリス松村

リリース情報
中田裕二
『THE OPERATION / IT'S SO EASY』(CD)

2016年8月24日(水)発売
価格:1,620(税込)
TECI-512

1. THE OPERATION
2. IT'S SO EASY
3. 接吻
4. モンロー・ウォーク
5. 不時着

番組情報
『MUSIC FAIR』

2016年9月24日(土)18:00~18:30までフジテレビで放送
出演:
岩崎宏美&国府弘子
ナオト・インティライミ
中田裕二
ももいろクローバーZ

プロフィール
中田裕二
中田裕二 (なかだ ゆうじ)

1981年生まれ、熊本県出身。2000年にロックバンド「椿屋四重奏」を結成、フロントマンおよびすべてのレパートリーのソングライターとして音楽キャリアを本格的にスタート。2011年1月のバンド解散後、東日本大震災の被災地 / 被災者に向けて作られた『ひかりのまち』の発表を機にソロへ。これまでに、5枚のオリジナルアルバムと1枚のカバーアルバムをリリース。確かな歌唱力に裏打ちされた艶のある歌声、幼少時に強く影響を受けた70~80年代の歌謡曲 / ニューミュージックのメロディセンスを核にあらゆるジャンルを貪欲に吸収したバラエティに富むサウンドメイクと様々な情景描写や人生の機微をテーマとした詞作によるソングライティングは中毒性が高く、多くの熱心な信奉者を惹きつけている。

クリス松村 (くりす まつむら)

オランダの政治都市ハーグで誕生。日本に帰国後も、学生時代にアメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、フランス、オーストリア、ポルトガル、エジプト、ギリシャなどの海国、各都市をまわる。邦楽、洋楽問わずの音楽好きが高じて、番組出演にとどまらず、テレビやラジオの番組監修、CDの音楽解説、航空会社の機内放送オーディオプログラムの構成、ナレーションなども手掛けた。アナログ盤、CD、DVDなど約2万枚所有、現在も収集中。大物アーティストとの対談もこなすなど、アーティストからも認められるほどの、大の音楽ファン。



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