2010年に結成された7人組の生音ヒップホップバンド・AFRO PARKERが、5年ぶりとなる2ndアルバム『LIFE』を完成させた。2011年にクラウドファンディングで制作費を募ってリリースした1stアルバム『Lift Off』のリリース後、メンバーは全員就職。地方の勤務先に配属された者もいる中、地道な活動を続けてきた。『LIFE』では、ソウルやファンクなどのブラックミュージックを源泉とするグルーヴィーなサウンドに、現役の会社員だからこそ覚えるストレスやルサンチマンをタフなユーモアに変換したラップを乗せている。
その劇場型のエンターテイメント音楽の支柱になっているのは、AFRO PARKERでなければ体現できないヒップホップがあるという自負だ。『LIFE』を完成させるまでの道のりと本作に込めた思いを、2MCの弥之助&WAKATHUG、バンドの音楽的な中心軸を担っているキーボードのBOY GENIUSに語ってもらった。
「O.K.O.D.=オシャレでかっこよくて面白くてドープ」なバンドを標榜しようと思った。(BOY GENIUS)
―2010年の結成時に、なぜ「生」のヒップホップバンドをやろうと思ったんですか?
弥之助(MC):やっぱり、母体がバンドサークルだったからだと思いますね。ヒップホップサークルから始まっていたら、生バンドのメンバーを集めるのは大変だったと思うんですけど。母体となった大学の音楽サークルは、代によって音楽的な指向が異なるんですけど、当時はサークル内でネオソウルとかが流行っていて。自然な流れで生音の上にラップが乗っかっていったんです。
―MCの二人はそれ以前からラップをしていたんですか?
弥之助:いや、リスナーとしてヒップホップはずっと大好きでしたけど、ラップはしてなかったですね。
WAKATHUG(MC):僕も同じです。
弥之助:僕ら二人ともサークルではギターを弾いてたんですよ。でも、話の流れでラップすることになって(笑)。
WAKATHUG:ラップやるのはこの二人しかいないという空気もあったので(笑)。
―最初はノリで始まった感じが強かったと。
弥之助:今はAFRO PARKERで、ラッパーとして精進したいと思っていますけどね。
BOY GENIUS(Key):僕自身も最初はお遊び気分でやっていたんですけど、数曲作ってライブをやったら思いのほかウケがよくて。そこからバンド自体もどんどん本格化していった感じです。
左から:KNOB、弥之助、TK-808、BUBUZELA、WAKATHUG、BOY GENIUS、加地三十等兵
―曲を聴いてもBOY GENIUSさんのセンスがかなり濃く反映されているんだろうなと感じます。AFRO PARKERの前はどういう音楽をやっていたんですか?
BOY GENIUS:高校時代はヒップホップのビートを一人で作っていて、そのときも、自分の作ったビートに誰かラップを乗っけてくれないかなと思っていました。
その後、東京事変のライブDVDを見て、キーボード一つでこんなにいろんなことができるんだと思ってキーボードを始めて。大学でジャズフュージョンのオタクサークルみたいなところがあったので、そこに入ってフュージョンをやりながら修行して、またヒップホップやりたいなと思ったときに、今のメンバーに誘われたんです。
―AFRO PARKERは結成当初からコミカルなニュアンスがあったんですか? 1stアルバム『Lift Off』のムードは今よりももっとクールですよね。
BOY GENIUS:『Lift Off』(2011年)をリリースしてライブをしていく中で、コミックバンドみたいな方向性にだいぶ傾いた時期があって。今年の春くらいに2ndを作りたいねってなったときに、「AFRO PARKERってどんなバンドだっけ?」ってみんなで話したんですよ。「俺たちの音楽って面白いだけじゃないよな?」って。
―そこのバランスをどうするかが最大の肝ですよね。
BOY GENIUS:そうですね。それで「O.K.O.D.=オシャレで、かっこよくて、面白くて、ドープ」なバンドを標榜しようってなったんです。
―1stのリリースを経て、メンバー全員が就職し、勤務先の配属が地方になった人もいたのはバンドにとって大きなターニングポイントだったと思うんですけど。ちなみにここにいる三人の勤務地は……。
弥之助:僕は静岡です。
WAKATHUG:僕は福井です。
BOY GENIUS:僕は東京です。
メンバー全員が社会人ということも引っくるめて、経験を曲に反映させたら、絶対に僕らにしか作れないものが生まれると思った。(弥之助)
―メンバーが集まるのも難儀な状況になってもバンドが解体せずに続いた理由はどこにあったんですか?
BOY GENIUS:なんだろう……たしかにあんまり集まれない時期がけっこう長くて。とりあえず都内にいるベース(KNOB)とドラム(TK-808)と僕だけで練習していたときもあって。でも、モチベーションは上がらず……正直、僕は「楽しくねえし、そろそろ……」と思った時期もあったんですよ。
弥之助・WAKATHUG:えっ、そうなの!?
―初耳なんだ(笑)。それはいつ頃ですか?
BOY GENIUS:2013年とか。でも、結局七人が集まったときに楽しいから続いたと思うんですよね。
WAKATHUG:でも、たしかにその頃モチベーションは低下していたよね。
弥之助:それは否めない。2013年ってメンバーの半分くらいが就職した年で。メンバーがいろんな地域に散らばって、バンドの活動の仕方がつかめてない時期だったから。
―当然、仕事も覚えなきゃいけないし。
弥之助:そう。週末に集まってスタジオで曲を作っても、実のあるものができなかったりしましたね。でも、俺はバンドを辞めるという選択肢は頭の中になかったです。働きながら週末に活動できればいいと思ってたし。
―むしろ週末にバンド活動ができることが、平日の仕事を乗り切るモチベーションにもなったという。『LIFE』の実質的なオープニングを飾る“After Five Rapper ~SHACHIKU REQUIEM~”は、まさに働くことの苦しさも歌いながら、週末はラッパーとして生きることを歌ってますね。
弥之助:実際にそういう曲もできましたしね。自分が社会で働く中で起きたこととかを、全部歌詞にしちゃえばいいと思ったんです。むしろメンバー全員が社会人ということも引っくるめて、いろんな経験を曲に反映させたほうが絶対に僕らにしか創れないものが生まれると思ったし。
―それでもやはりメンバーがすぐに集まれないことにストレスを覚えることもあるんじゃないかと思うんですけど。
BOY GENIUS:やっぱりすぐに集まれるバンドは羨ましいですよ。すぐに集まれたらもっといろんなことができるんだろうなとは思いますけど、それはしょうがない。
弥之助:それを補う絆があるからね(笑)。
BOY GENIUS:なぜバンドが解体しなかったかというと、みんなといるのが楽しいというのと、シンプルに「AFRO PARKERの音楽っていいでしょ?」という確信があるからなんです。だから、今回も2ndアルバムをちゃんと作りたいと思ったし。このまま終わるのは悔しいという思いはありました。
1stの頃はみんな学生だったし、その時期特有の勢いがあって。1stのリリース後、いろんなバンドとライブで共演するようになった矢先にみんな就職して勢いが一気に下がってしまって。それが悔しかった。もっとチヤホヤされたいって思ったし(笑)。
弥之助:そう、チヤホヤされ足りなかったから、辞める理由がなかったですね。辞めても東京に行く交通費が浮くくらいだし(笑)。
―そういった反骨精神をエンターテイメントに変換することが、『LIFE』というアルバムだと思います。
WAKATHUG:それはすごくありますね。
東京在住でバンド活動しながら書く歌詞と、週末に地方から東京に出てきて書く歌詞って全然違うと思います。(WAKATHUG)
―社会人の日常をそのまま歌にするからこそオリジナリティーが生まれる、という話がありましたが、地方に住んでいる人と東京に住んでいる人が混在しているからこそ歌えることもあるのでは?
WAKATHUG:そうですね。やっぱり東京在住でバンド活動しながら書く歌詞と、週末に地方から東京に出てきて書く歌詞って全然違うと思います。今、自分が住んでいる場所は東京から離れた福井で、週末には東京に来るからこそ、地元のシーンも東京のシーンも客観的に見られるところがあるなって思うんです。
―弥之助さんもそのあたりで共感するところが多いですか?
弥之助:かなりありますね。たとえば“Paper City”で歌っている内容につながるんですけど、僕はもともと都会が嫌いな千葉県民で、東京の満員電車とかもハリボテのように映るんです。でも、そこにはきっと嫉妬が多分に含まれていて、そういう都会に対する嫌悪感と憧れが気持ち悪く混ざったものが“Paper City”の歌詞になっています。
―今後、バンド活動が上向きになっても上京する気はない?
WAKATHUG:僕は福井が地元なんです。だから、地元に戻って就職したかたちだし、これからも一生福井にいるつもりですね。たとえば神戸在住で活動しているtofubeatsとかがいたりしますけど、バンドでも地方に拠点を置くメンバーがいても続けられる時代だと思うんですよ。
弥之助:僕も入社したときに上司から「君は、最低10年は静岡にいると思うよ」って言われて(笑)。そこで逆に踏ん切りがついたんですよね。静岡に10年いながらAFRO PARKERを続けるにはどうしたらいいかという発想になって。
―逆にBOY GENIUSさんは東京在住だからこそ意識していることってありますか? ちゃんと夜遊びして東京のムードを感じようとか。
一同:(笑)。BOY GENIUS:事務的なことも含めて、東京にいたほうが迅速にできることはあるのかなと思うので、その辺は意識しています。あと、僕はIT系の会社でエンジニアをやっていて。それもあってバンドのサイトを作ったり、マーケティング寄りの部署に所属しているのでSNSのフォロワーを増やすためのアイデアを考えたりしています。あと、業務的にヘッドホンを付けて仕事していてもなにも言われないのでずっと音楽を聴いていて。
WAKATHUG:羨ましいな。カルチャーショックだよ。信じられない(笑)。
―そのときに曲のネタが浮かんだりすることもあるだろうし。
BOY GENIUS:そうですね。かっこいい曲を聴いたら研究のためにメモをして。そうやって音楽的な引き出しを増やしています。
―メンバーがなかなか会えない状態で、『LIFE』の制作はどうやって進めていったんですか?
弥之助:曲ごとに、土台を作ったメンバーがLogic(音源制作ソフト)のファイルをクラウドに上げて、そこに音やラップを加えていって。そこからスタジオに集まったときにバンドで合わせてアレンジを詰めていくという感じですね。
―現代的な制作ですね。
弥之助:インターネットの恩恵はかなり受けてますね。Skypeで打ち合わせしたりするのもそうだけど、距離が関係ないから。さっきバンドのスランプの話になりましたけど、当時はネットの活用の仕方もわかってなかったんです。でも、今はLogicファイルをベースに曲を作って、Skypeを使って週イチで会議すればいいというバンドの動かし方が固まっているので。そのやり方を見つけてから活動が上手く回りだしましたね。
バンドが上手くいかなくなったときにブラックミュージックが盛り上がる時流がきて、「クソッ!」ってなった。(BOY GENIUS)
―今の日本の音楽シーンは総体的にブラックミュージックに対する感度がどんどん高くなっているじゃないですか。それは1stをリリースした4年前とは格段の違いがあると思うんですけど。裏を返せば、AFRO PARKERは今の時流に乗っかって結成されたわけではなくて。
WAKATHUG:そうそう、そうなんです!!
―時流に乗っかってこういう劇場型の生音ヒップホップバンドを結成したというなら、「ああ、カウンターを狙ってるな」ってなるんだけど、そういうことでもないわけで。
BOY GENIUS:そうなんですよね~。バンドが上手くいかなくなったときにちょうどブラックミュージックに影響を受けた音楽が盛り上がる時流がきて「クソッ!」ってなったというか。
―そういった状況が『LIFE』の制作のモチベーションになったところもあるのではないかと。
弥之助:うん、それはありますね。
BOY GENIUS:それこそ反骨心も含めて、ブラックミュージックから派生した音楽を鳴らしている今のバンドを見て「俺らのほうがかっこよくね?」って思うこともあれば、「うわっ、かっけぇ!」って打ちのめされたり、いろいろ思うことがあって。
弥之助:当時で言うと、GAGLE、韻シスト、Ovall、オーサカ=モノレールとかとライブを一緒にさせてもらったことがあって、見るたびに反省会してました。あと、GAGLEのアルバム『VG+』のリリースパーティー(2014年5月6日に渋谷VUENOSにて開催)のオープニングアクトで僕らが呼んでもらったときにSANABAGUN.も出演していて。特に彼らは同年代でバンドの形態も似ていたので、すごいなと思ったし、だいぶ落ち込みましたね。
BOY GENIUS:そのライブの2か月前にはNegiccoとfhanaの対バンのオープニングアクトをやったんですよ。そのときのライブはお客さんの反応がすごくよくて、バッコンバッコンに盛り上がって爆笑をかっさらうことができたんです。それでGAGLEのリリースパーティーでも意気揚々とライブをしたら、お客さんの層が全然違ってスベってしまって(笑)。
一方で、僕らのあとにライブしたSANABAGUN.はガッチリ盛り上げていて、かなりヘコんだんですよね。その次のライブでは同じ思いをしたくなかったから、がっちりライブを作り上げていったんです。そこから今の劇場型のライブのスタイルができあがりました。でも、そこからコミカルすぎるほうに突き進んじゃったんですよね。
―そういう時期があったからこそ、コミカルな劇場型のスタイルに音楽的な説得力がないとスベることをよく理解しているはずで。
BOY GENIUS:はい、そこで重要なのはさっき話に出た「O.K.O.D.」ですね。
弥之助:ふざけすぎちゃいけないし、ふざけるのであれば曲がかっこよくなければいけない。
BOY GENIUS:面白い方向に走ったほうがラクはラクなんです。そもそもかっこつけるのは得意ではないし。ただ、大事なのはいかにヒップホップであるかということで。「O.K.O.D」における「ドープ」は、ヒップホップであれということなんです。そこをちゃんとキープしようとなると「オシャレ」と「かっこいい」も必要になってくる。
ラップの内容が今の自分たちが置かれている人生について歌っているものばかりだった。(弥之助)
―そしてアルバムでは、「LIFE=人生」というコンセプトも劇場型のスタイルを立体的にしている。
BOY GENIUS:そうですね。最初はアルバムの全体像を描けてなかったんですけど、「結局、俺らってどんなことを歌ってるんだろう?」と思ったときに、「『LIFE』だよね」ってなったんです。
弥之助:ラップの内容が今の自分たちが置かれている人生について歌っているものばかりだったので、自然と「LIFE」というテーマに集約されていきました。
―アルバムのイントロのスキット“The Awakening”で、入眠したリスナーがストーリーテラーの老婆に導かれて夢の中で『LIFE』の世界に入り込むという設定も効いてますよね。アラームが鳴って、AFRO PARKERにとってはモロに現実的な曲の“After Five Rapper ~SHACHIKU REQUIEM~”が始まるという。
弥之助:そのアイデアを提案してくれたBOY GENIUSの功績は大きいですね。
BOY GENIUS:ドラえもんの『のび太と夢幻三剣士』(1994年公開)という映画がすごく好きで。のび太が夢の中に入っていって、ストーリーが進むうちに夢と現実の世界が混同していく話なんですけど。このアルバムもそういう構成にしたいなと思ったんです。あと、ディズニーランドに行った帰り道も好きなんですよね。夢の世界から現実の世界に帰っていくあの感じが。
―それで最後にアラームが鳴ってリスナーが現実の世界に戻るような構成になってるんですね。
BOY GENIUS:そうなんです。
―ライブでも長尺のステージだったらこの設定を活かした演出をしても面白そうだなと。このバンドならではの劇場型のエンターテイメント性を提示できると思うし。
弥之助:たしかに。最近はライブも曲調だけではなく「この曲の次にこの曲をやる意義にこだわろうよ」という意識が高まっていて。そこもしっかりこだわっていきたいですね。
―あらためて、このバンドだからこそ成し遂げられることはなんだと思いますか?
弥之助:仕事をしながら活動しているバンドも多いと思うんですけど、そういう人たちが「AFRO PARKERもいるしがんばろうぜ」って思ってもらえるような存在になりたいですね。あとは、いかに「俺たちはヒップホップをやってる」って言い張れるかだと思うんですよね。『LIFE』にはいろんな曲が入っていて、ヒップホップとは言い難い曲も少なくないと思うんですよ。でも、「これも含めてヒップホップなんだぜ」って言える軸があるのがAFRO PARKERなので。そこは堂々と提示したいですね。
- リリース情報
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- AFRO PARKER
『LIFE』(CD) -
2016年10月5日(水)発売
価格:2,300円(税込)
para de casa / PDCR-0091. The Awakening (Intro)
2. After Five Rapper~SHACHIKU REQUIEM~
3. The Rapper In The Rye
4. H.E.R.O.
5. Your Yosa, Our Yosa
6. Fallin'
7. Paper City feat. MC BLARE
8. ROHPA β
9. Honesty
10. El Qui Tejo
11. Get On The Mic
12. We Choose Organic
13. Still Movin' On
14. Life Is Good
15. The Awakening (Outro)
- AFRO PARKER
- イベント情報
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『THIS IS "LIFE" ~2ND ALBUM RELEASE PARTY~』
2016年10月15日(土)
会場:東京都 渋谷 Vuenos
出演:
AFRO PARKER
wonk
umber session tribe
『タワーレコード渋谷店 インストアライブ』
2016年11月20日(日)
会場:東京都 TOWER RECORDS 渋谷店
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- プロフィール
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- AFRO PARKER (あふろ ぱーかー)
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2MC+5人の楽器隊からなる生音ヒップホップバンド。2010年結成。R&B、JAZZ、FUNKをルーツに持つ楽器隊のアンサンブルと、対照的な2MCの掛け合いを特徴とし、HIP HOPを軸とする幅広いアプローチで東京を中心に活動。2012年にリリースした1stアルバム『Lift Off』はAmazon MP3 StoreのHIP HOP部門で1位を獲得。その後も柔軟な音楽性と劇場型のライブパフォーマンスを武器にGAGLE、韻シスト、Creepy Nuts(R-指定 & DJ松永)、Negiccoといったアーティストとの共演を果たす。2016年10月にはレコーディングエンジニアにIllicit Tsuboi氏を迎えた2nd album『LIFE』をリリース。レーベルpara de casaから初の全国流通を実現し、勢いのあるヒップホップバンドシーンに殴り込みをかける。尚、全メンバーが月金で日本経済を支えるサラリーマンであり、各々の人事発令に従い東海、東北、北陸へ散らばりつつもそんな不都合はものともせずに鋭意活動中。
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