arko lemmingが静かに問う「こういう奴がいた方が面白くない?」

作詞作曲、ボーカル、すべての楽器演奏を有島コレスケが手がける「一人バンド」=arko lemmingが2ndアルバム『S P A C E』を完成させた。ポップス色の強い「OUTER」、ベッドルームミュージック的な「INNER」をテーマとした2枚組で、2曲を組み合わせると1曲になるという“dual”を収録するなど、コンセプチュアルな作風でありながら、有島の開かれたポップセンスが前作以上に感じられる、実に風通しのいい作品でもある。

有島といえば、高校の軽音部時代から活動を続けるtoldのベーシストであり、ドレスコーズにはベースで、0.8秒と衝撃。にはドラムで、それぞれサポートとして参加するなど、縦横無尽な活動が特徴。それに加え、2015年からarko lemmingがスタートしたこともあり、彼の全貌を捉えることは難しくなってきている。しかし、その自由な活動スタンスこそが有島らしさであり、結果的には「見えないルールに縛られるのではなく、柔軟な姿勢を持とう」という現代的なメッセージを放っているとも言えよう。有島にその行動原理を訊いた。

音楽って、不自由なものではないし。「楽しいのがいちばんいいじゃないか」という気持ちです。

―有島さんって、自己紹介をするときに何て言っているんですか?

有島:ああ、それ面倒くさいんですよ(笑)。自分の中で、「これを中心として活動してます」と言えるような感覚はないかもしれない。

有島コレスケ
有島コレスケ

―「toldとarko lemmingが中心」というわけでもない?

有島:toldは昔からやっているので、「toldのベースです」って言うのがわかりやすいんだけど……でも、「いろいろやってます」って言うのがいちばん早いですね(笑)。

―いろんな楽器をやっているから、「ベーシストです」と言うのも違いますもんね。

有島:いろんな楽器をほぼ同時に触り始めたので、「これ一本です」という意識がもともとないんです。いちばん触れてる時間が長いのはベースですけど、ドラムでもバンドをずっとやっているし、家ではギターも弾くし……この後『ベース・マガジン』の取材なんですけどね(笑)。

―曾祖父が小説家の有島武郎、祖父が俳優の森雅之と、芸術系のご家庭だと思うのですが、有島さんご自身にとっては、ずっと音楽が特別だったのでしょうか?

有島:そうですね。僕、本は全然読まないですし、イラストみたいなものは描いていましたけど、絵も別にそんなに得意ではなくて。でも音楽だけは違って、始めたときから得意だったんです。七五三でお寺に行って、和尚さんが叩く木魚に合わせて体を揺らしていたという逸話があるくらい(笑)、根っから音楽が大好きで、感覚的にはそのときのまま続いちゃっている感じですね。

―親族の方から影響を受けたりは?

有島:祖父は僕が生まれたときには亡くなっていたので会ったことがないんですけど、父は趣味でコーラスグループをやっていたので、身近に音楽がある環境ではありました。ただ、むしろ芸術方面に進むのは反対されていて、堅実な道を歩むように言われていたんですよね……でも、こうなっちゃいました。一時期までは、「いつまでやってんだ?」みたいな感じだったんですけど、もうさすがに諦めたっぽいです(笑)。

有島コレスケ

―「将来はミュージシャンとして生計を立てる」と決めたタイミングはあったんですか?

有島:あんまりそういう意識はなかったですね。ホントに部活のノリのまま、ずっと地続きなんです。部活の中だといろんな人とコピーバンドをやったりするじゃないですか? いくつもバンドをかけ持ちしているのは、今もそういう感覚だからなんです。たまに、かけ持ちすることについて否定的な人がいますけど、その感覚はよくわからないというか。

有島コレスケ

―別にひとつのバンドに絞る必要はないと。

有島:ないと思います。音楽ってそんなに不自由なものではないし。「楽しいのがいちばんいいじゃないか」という気持ちです。

志磨(遼平)さんもオタクで、一人っ子ですからね(笑)。7~8年くらい前から、何となくお互いの空気感は把握していた。

―小学生までは転勤族で、国内外のいろんなところに住まれたそうですが、その経験と今の自分の表現には、何らかのつながりがあると思いますか?

有島:転勤族だった頃に、自分の世界にこもりがちな部分が培われたのかな……「友達関係、またリセットか」みたいに思うことは当時からあって、僕の中の暗い部分はその時代の賜物な気がします。

有島コレスケ

―1stアルバムの『PLANKTON』、2ndアルバムの『S P A C E』というタイトルには「浮遊感」が共通していますよね。それは音楽的な意味合いもありつつ、それこそ転勤族だったから、「周りから浮きがち」みたいな、そういう感覚も表現の根幹にあるのかなと。

有島:どうなんでしょうね……僕の場合、一人っ子っていうのも大きいと思います。転勤族で一人っ子なんて、絶対一人遊びが得意になるじゃないですか。その集大成がarko lemmingのような気がします。

―遊び道具が楽器だったと。arko lemmingは、趣味で書きためていた曲をtoldの動きがなかったときに、作品にしてみようと思ったのがきっかけで始動したそうですね。

有島:そうです。自分で作って自分で聴くための曲だったんですけど、「いつか発表できる機会が来たらいいな」くらいの気持ちはあって。そのタイミングがたまたま来たというか。

―アコースティックや打ち込みのような、わかりやすいソロ作品ではなく、「一人バンド」を名乗ったのはなぜでしょう?

有島:根がひねくれているので、1枚目は裏切りたい気持ちがあったんです。「ソロってこういうのでしょ」みたいな想像や期待とは全然違うものを作ろうって。

有島コレスケ

―有島さんがサポートも務める近年のドレスコーズも、「一人バンド」と言っていいと思うのですが、志磨遼平さんに対してシンパシーを感じるところはありますか?

有島:シンパシーと言うと偉そうですけど……志磨さんも、作詞作曲を全部一人でやっていますもんね。もともと7~8年くらい前から知り合いで、何となくお互いの空気感は把握していて。志磨さんもオタクで、一人っ子ですからね(笑)。やっぱり一人遊び系で、オタクっぽい人はこうなっちゃうんですよ(笑)。

有島がサポートでベースを弾いていた際のライブ映像

―志磨さんはロックスターへの憧れがあって、ずっと自分を否定して、「何者かになりたい」と思い続けていたと、以前のインタビューで話されていました(ドレスコーズはロックの継承者じゃない 志磨遼平の極限の決断)。有島さんにもその感覚がありますか?

有島:「何者かになりたい」っていう感覚はすごくあります。でも、「自分ではない誰かになりたい」みたいな感じがあって、そのモヤモヤは自分の原動力になっているというか……「褒められたい」みたいな願望があるのかなあ。

有島コレスケ

―ご家族からは芸術系の道に進むことを反対されていたという話がありましたし、そこに対する反発もあるのかもしれないですね。

有島:ああ、それはあるかも。「認められたい」みたいな欲求はきっとあるんでしょうね。

陽と陰で、「ふたつを合わせてひとつの自分である」という考えがそのまま曲になってますね。

―新作『S P A C E』は、「OUTER」と「INNER」の2枚組となっています。この形態になった経緯について話していただけますか?

arko lemming『S P A C E』ジャケット
arko lemming『S P A C E』ジャケット(Amazonで見る

有島:デモを作って、曲を並べていったときに、曲の傾向が2パターンに分かれているなって感じたんです。それを1枚にまとめて出してもよかったんですけど、明確にモードの違いがあったので、2枚組にしてはっきりと分けた方がよいのではないかという思いに至って。実際、2枚に分けると、自分としてもすごくすっきりしたんです。

―楽曲単位で聴かれることが多いこのご時世に、2枚組というのもある意味ひねくれていますよね(笑)。「OUTER」と「INNER」、それぞれのコンセプトはどうなっているのでしょうか?

有島:文字通りなんですけど、「OUTER」はポップスで、ポップで弾けているイメージ。「INNER」はベッドルームミュージックみたいな、もうちょっとインディーっぽい音を志向していますね。実際、「INNER」の方が打ち込みも多いし、ボーカルのリバーブも薄くした音をイメージしました。

―アルバムを象徴するトラックは間違いなく“dual”で、“dual-O”と“dual-I”を組み合わせると“dual-TRACK”になるというアイデアが非常に面白いですね。

有島:ふたつの面を表せる曲で何か面白いことができないかと思って、挑戦してみました。この曲はアルバムのことを非常にわかりやすく説明していると思います。“dual-O”は陽、“dual-I”は陰のイメージで、「ふたつを合わせてひとつの自分である」という考えがそのまま曲になってますね。

2016年は知り合いとか身内の訃報が多くて。でも、僕は死をそこまでネガティブに捉えていない。

―今おっしゃった「ふたつを合わせてひとつになる」というのは、アルバム全体のテーマでもあって、“dual-O”“dual-I”の歌詞でも言い表していますね。

有島:そうですね。「ふたつでひとつ」というアルバムのテーマと照らし合わせつつ、陰と陽のどちらも肯定して、結局はひとつのものだ、ということを言っているんです。発していることは同じなんだけど、聴こえ方が変わるように作りました。

―たとえば、“dual-O”では「全快」という言葉を使っているところが、“dual-I”だと「全壊」と歌っていたりします。

有島:そうです。“dual-O”だとポジティブに聴こえて、“dual-I”だとネガティブに聴こえる。

―<全然もう答えは出ず 本当は間違っている でも延々と続いてゆく それだけのことでしょう>という歌詞からはある種の「諦念」が感じられます。ただ、「諦念」というのも、そのままネガティブに捉えることもできるし、「何かを諦めることで、何かを手に入れられる」というポジティブな解釈をすることも可能ですよね。

有島:2016年は知り合いとか身内の訃報が多くて、その影響もちょっと出ていると思います。妙な達観というか。前回の映画のインタビューでも言ったんですけど(樹海で彷徨う生を描く『追憶の森』に見るガス・ヴァン・サント節)、僕は死をそこまでネガティブに捉えていないこともあって、その感じが出ているのかな。

有島コレスケ

―どこか客観視しているような視点も、有島さんらしさであり、「転勤族の一人っ子」的な視点と言えるかもしれないですね。

有島:わりと自分を観察する癖がありますね。身内の不幸を目の当たりにしたときに、自分がどう思うのかを観察している自分もいるというか。妙に冷静な自分もいて、その視線や考え方が歌詞に出てるのかなって思います。

僕が言いたいのは「もっと自由であれ!」ってことですね(笑)。

―「OUTER」と「INNER」には、「OUTER」が「想像上の、外の世界」、「INNER」が「本当の、外の世界」という裏設定もあるそうですね。

有島:前作では自分の思っていることがそのまま歌詞になっていたんですけど、今回はフィクションの歌詞を創作したかったんです。結局、完全に創作というわけではなく、自分が思っていることが混ざったりもしているんですけど、まずはストーリーや世界観を創作したうえで、その中の人の暮らしをイメージして、アレンジや作曲をしていきました。

―どこかSF的というか、ディストピア的な世界観が印象的です。

有島:架空の人間の暮らしている世界を思いながら作っていたんですけど、途中で「どうやらこの世界にはこの人しかいないぞ」と、自分の中で気づいて。そこから、「その人、一人しかいない世界」というのが裏設定になったので、自然音を入れてみたりしました。

―ディストピア的な設定に、なぜ自然音を?

有島:自然音を入れることで、人がいない感じを出したかったという意図があります。でもその自然音は、実際に録ってきた音ではなくて、PCやシンセに入っているプリセットの音を使っているので、妙な無機質さも出せるんじゃないかという狙いがあったんです。

有島コレスケ

―少し話を大きくすると、いわゆるSF的なテーマ性、「利便性を求めすぎる現代社会に対するアンチテーゼ」みたいな部分もあったりするのでしょうか?

有島:そうとも言えるかもしれないですけど、そこまでメッセージ性を込めたわけではないです。ただ設定として、そういう世界観でいこうって決めただけなので。ディストピア的な世界観は好きだし、バッドエンドが好きな人間ではあるんですけど、そこまで痛烈なメッセージはないですね。まずは作品として、サラッと聴いてもらえたらそれがいちばんいいかな。

―最初に「今も部活の延長」という話もありましたが、やはりメッセージ性というよりも、シンプルにいい作品、自分が面白いと思う作品を作ることが重要?

有島:根本はそうです。ただ、「こういう奴がいた方が面白くない?」っていう、世の中にプレゼンする気持ちもゼロではないので、それがメッセージと言えばメッセージですかね。もっと自由になって当然というか、そういう意味で僕の存在自体がメッセージ……って言うと、かっこつけた感じですけど(笑)、ひとつのロールモデルみたいになれればいいなと思います。

有島コレスケ

―じゃあ、今後もいろいろな活動を並行して行っていくと。

有島:今のところはそうですね。ありがたいことに、「手伝って」と声をかけてもらったものもあるし、能動的に関わっているものもあるし、そのときどきで……こう言うと、すげえ適当な奴に思われそうだけど(笑)。

―いや、既存の枠組みにハマらない活動の仕方というのは、「多様性」という観点において、とても重要なことだと思います。逆に言うと、周りのバンドマンを見ていて、「窮屈そうだな」って思うこともありますか?

有島:うーん……たまにあります。だって、オマー・ロドリゲス・ロペス(At The Drive-Inなどの活動で知られるアメリカのギタリスト)なんて、今年12枚もアルバムを出してるんですよ(笑)。あの人もバンドめっちゃかけ持ちしてて、他の人の作品に参加もしてるし、それが普通だと思うんですよ。なので、僕が言いたいのは「もっと自由であれ!」ってことですね(笑)。

有島コレスケ

リリース情報
arko lemming
『S P A C E』(2CD)

2017年1月11日(水)発売
価格:2,800円(税込)
XSCL-23/4

[CD1]
1. dual-O
2. ニューニュー
3. かなしみはそばに
4. Avéc
5. P.S.
6. Marvellous
7. 傍観者
[CD2]
1. dual-TRACK
2. NO
3. アロウ
4. 水槽の脳
5. weather report
6. at last
7. 夢の中でも
8. dual-I

イベント情報
CINRA×Eggs presents
『exPoP!!!!! volume93』

2017年1月26日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
arko lemming
馬喰町バンド
For Tracy Hyde
トレモノ
and more
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール
arko lemming
arko lemming (あるこ れみんぐ)

有島コレスケが全ての作詞作曲・演奏をこなす一人バンド「arko lemming」。2015年11月に1stアルバム『PLANKTON』をリリース。2017年1月11日には2枚組の2ndアルバム『S P A C E』のリリースを控える。自身が所属するバンド・toldのベースとして活動する一方、ドレスコーズではベースとして0.8秒と衝撃。ではドラムとしてサポート活動を行う。曾祖父は白樺派の文豪、有島武郎。祖父は黒澤明監督『羅生門』で知られる名優、森雅之。



記事一覧をみる
フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • arko lemmingが静かに問う「こういう奴がいた方が面白くない?」

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて