雨のパレードのニューアルバム『Change your pops』は、そのタイトルが雄弁に物語っているように、彼らが日本の音楽シーンにおいてリスナー個々人のポップスの価値観を変革させるという気概を形象化した作品である。雨のパレードは、海外と時差のないサウンドプロダクションを漂白させることなく、日本人として表現する最先端のポップス像を追求し続けている。
あらゆるシーンにおいて「ポップ」という概念の細分化がドラスティックに表面化するであろう2017年だからこそ、メジャーレーベルに身を置き、クラブミュージックとバンドミュージックの境界線上で良質なポップスをクリエイトすることをあきらめない雨のパレードは、決定的にバンドの美学や指針を掲げるアルバムを提示する必要があった。バンドの首謀者である福永浩平が、自らの譲れないポップス論を語ってくれた。
ポップスって、人生の指針になったり、新しい居場所を確認できたり、その人に寄り添う音楽だと思う。
―アルバムが完成して、年が明けてからは落ち着いているんですか?
福永:年末まではバタバタだったんですが、年が明けて少し休みがあったので、ずっとNetflixを見てました。『フルハウス』を最初から最後まで全部見ちゃって(笑)。今はまた新曲を作ろうというモードになっています。
―ひとまずこのアルバムで表現すべきことをやり切れた実感がある?
福永:うん、一段落した感じはありますね。
―このアルバムは雨のパレードが、この国の音楽シーンにおけるポップに対する価値観の変化を促す、という気概を持って作ったわけじゃないですか。『Change your pops』って、それ相応の覚悟がなければ付けられないタイトルだと思うし。
福永:そうですね。僕らはもともと自分たちの音楽をポップスだと思いながら曲を制作していて。でも、「これはポップスじゃない」と感じる人がいるのもわかる。
だから、このアルバムは、たとえばロックバンドしか聴かない人にも、アンダーグラウンドな洋楽しか聴かない人にも、『Change your pops』という意味が通じるようにしたいなって。そういう人たちにも、僕たちの音楽はポップスで、ポップスってかっこいいと思わせたくて作ったんです。
―その大きなテーマは、雨のパレードがインディーズ時代から持ち続けているものだと思うけど、このタイミングで決定的な1枚を作らなきゃいけないと思ったんだろうなって。
福永:そういう大きいテーマに対する意識は常に持っていましたね。僕らは海外の新譜をたくさん聴いていて、そこから受けた影響を自分たちの制作にフィードバックしているんですけど、このタイミングで今作を出すということでいうと、今のこの時代の日本で、自分たちが作るポップスを認めさせたい、更新していきたいという気持ちがなにより強くて。
―日本でも、ポップスの捉え方やあり方は細分化されていると思うんですよね。たとえばSuchmosの音楽があれだけの広がり方をしたことは、間違いなくポップスの領域を広げたと思うし、KOHHのラップをキャッチーでポップなアンセムとして捉えているリスナーもいると思う。福永くんの思うポップスとはどういうものですか?
福永:ポップスって、人生の指針になったり、新しい居場所を確認できたり、その人に寄り添う音楽だと思います。僕は、そういうポップスを追求していきたい。同世代のアーティストはみんなそれぞれのポップス観を持っていて、だからこそ、そのあり方も細分化されていると思うんです。
当事者としてはそれぞれのポップスをぶつけ合って切磋琢磨しているという感覚があって。それぞれのポップスがちゃんと多くの人に届いて、日本の音楽シーンを底上げできたら最高だなという気持ちが、根底にあるんですよね。
―福永くんが雨のパレードを結成したとき、いつか『Change your pops』のようなアルバムを作るって想像していましたか?
福永:全然してなかったです。たとえばインディーR&Bのシーンが大好きな人たちが組んだバンドがいるとするじゃないですか。「インディーR&B」というパブリックイメージがあるバンドが、メジャーでオリジナルのポップスを追求していく姿を想像できるリスナーは、きっと少ないと思うんです。実際、僕もそのなかの一人でした。
でも、雨のパレードを結成したときから、他のバンドとは違うことがしたいという思いが強くて。去年メジャーデビューして、『New generation』というアルバムを、いわゆるバンドサウンドにこだわらない方法論を意識して作ったときに、「もっと自分たちなりのポップスを追求できる」と思えたんです。
子どものころから、「人に認められたい」という気持ちが人一倍強かった。
―そこからの変遷で言うと、福永くんにとっての今作はどういう位置づけになりますか?
福永:ポップスを追求するという課題を結実させることができたのが、このアルバムだと思ってます。だから、今のところはサウンド的にも、雨のパレードのポップスとしても、100点満点だと満足していて。
雨のパレード『Change your pops』ジャケット(Amazonで見る)
―雨のパレードはいわゆるアートバンド的な生き方を選ぶこともできたと思うけど、そうじゃなくて積極的に大衆と向き合っていこうと思った一番の理由はなんですか?
福永:それは子どものころから、「人に認められたい」という気持ちが人一倍強かったからだと思います。今もそうですけど。
―そのうえでアート性の高いサウンドを漂白させない。その美学と多くの人に認められたいという思いがせめぎ合っているんだろうし、そのせめぎ合いのダイナミズムこそ、雨のパレードのポップスの核心なんだろうなと思います。
福永:もともと最前線で前衛的な表現をやっている人にすごく憧れがあって、自分もそうでありたいと思うから、サウンド面でポップを意識しすぎるつもりは一切ない。だからこそ、今回のアルバムは特にメロディーと歌詞をポップにすることで、入口にしようと思いました。そこに関してのプライドはすごくありますね。メロディーも、単純なものではなく、日本のポップスっぽさと洋楽のポップスっぽさの融合ということも意識していて。
―歌という意味では、前のインタビュー(雨のパレード・福永、「人を救える歌を書く」と決めた背景を告白)で玉置浩二の“田園”に救われたというエピソードがあったじゃないですか。その経験が雨のパレードのポップスを紐解くうえで大きいのは間違いないと思う。
福永:そうですね。僕は幼少のころ母親の影響で聴いていたユーミン(松任谷由実)さんが日本のクイーンオブポップだと思っていて。ユーミンさんの曲って、スタンダードなポップスとして受け入れられているけど、音楽としては相当実験的なことをしていると思うんです。僕もそういうことを今の時代にやりたいという思いがあります。
引きこもっていたときの自分は本当に見ている世界が狭かったです。
―今回のアルバムで“Take my hand”という曲がすごく印象的でした。福永くんがこんな父性だったり、兄貴感がある曲を書くんだと思って。
福永:この曲は本当に全国民の兄になったつもりで書きました(笑)。こういう明るいオケって、自分たちの楽曲の中では、今まであまりなかったんですよね。TOTO(1977年にロサンゼルスのスタジオミュージシャンを中心に結成されたバンド)とかSting(イギリス出身のミュージシャン。The Policeのベースボーカルとしても活躍した)みたいなイメージのオケになったなって。それもあって、歌詞も明るい気持ちで楽しみながら書けました。
―“Hey Boy,”も、メロディーはR&B然とした色気があるんだけど、歌詞に兄貴感があるんだよな(笑)。
福永:そうですね(笑)。この曲も“Take my hand”も、小学生から中学生にかけて引きこもっていた時代の僕自身と、ラフに会話している感じで歌詞を書いたんです。こうやって、今の自分と昔の自分が対話しているように書いたのは初めてでした。
―当時の自分に対して、どういう思いがあるんですか?
福永:引きこもっていたときの自分は「そんなことで悩んでたんだ」というレベルで、本当に見ている世界が狭かった。未来に対してすごく怖がっていたけど、たいしたことなかったんですよね。
過去にいても、未来にいても、地元の鹿児島にいても、東京にいても自分は自分でしかない。「実感」なんてものはこの世にないんだなということが上京してからわかって。
場所がその人を変えるんじゃなくて、その人がその場所にいて変わらなきゃいけないんですよね。
―「実感なんてものはない」という感覚を、もうちょっと詳しく説明してもらえますか?
福永:上京するときもそうだったんですけど、「明日から東京に住むのか」「今日から東京に住むんだ」「東京に来てもう2か月経ったんだ」ってだけ、なんとなく感じていたというか……自分が空想していた東京にいる実感はずっとなかったんですよね。それは、なにか変化を求めて海外に移住したりしてもそうだと思うんですよ。結局、場所がその人を変えるんじゃなくて、その人がその場所にいて変わらなきゃいけないんですよね。
当時の引きこもっていた自分も、周りが変えてくれるわけじゃなくて、自分で変わらないといけないだけだった。当時も友だちが家に来て一緒に遊んでくれたりしていたけど、友だちも先生も僕のことを変えられなくて。「明日から学校に行こう」って自分で決意しないと意味がない。自分を変えられるのは自分でしかないんですよね。
―それはいつ気づいたんですか?
福永:自分で学校に行きだしたタイミング……高校に入るときくらいですね。
―場所が自分たちを変えるわけじゃないというのは、インディーからメジャーに移籍したときもあった意識とも言える?
福永:そうかもしれないです。
―『Change your pops』というタイトルも、君のポップスの価値観を変えるきっかけになりたいけど、本当にそれを変えるのは君自身だということですよね。
福永:その通りです。
―押しつけじゃなくて、託しているんだよね。リスナーを信じているとも言えると思うし。
福永:そうですね。きっと誰もがいいものはいいってわかる可能性を持っている。それは僕のエゴかもしれないけど、それを信じたいんですよね。
―変化を促す大きなきっかけって、忘れがたい体験だと思うんですよね。音源もそうだし、ライブもそうだし、雨のパレードはそういう特別な体験の提示ができるバンドだと僕は思っているので。
福永:ありがとうございます。僕も体験ってすごく大事なことだと思っていて。五感のすべてを使ってその場を感じるというか。僕自身も忘れられないくらい美しい景色を見て、脳を感化された経験があるので。
―それはどういう景色だったんですか?
福永:“Noctiluca”(『New generation』収録)という曲でも書いたんですけど、ハタチくらいのときに、地元の吹上浜という場所に遊びに行ったりしていて。砂浜が延々と続いていて、灯りが全然ないから星が驚くほどきれいに見えるんです。あと、夜光虫がいて海が光るんですよ。その景色を見て、自分自身が覚醒するような感覚を覚えて。
―そこには一人で行っていたんですか?
福永:いえ、職場の先輩たちとです。当時働いていたバーの店長が、常連さんたちと深夜まで飲んで、最後はシャッターを閉めて、お客さんと一緒に店で寝ちゃうみたいな人で(笑)。起きたら店長がいなくて、昼くらいに帰ってきて「ゴメン、コンビニの前で寝ちゃってた(笑)」っていうようなときもあった。
お客さんもおもしろい人が多かったんですよね。上京する直前までそのバーで働いていたんですけど、その2、3年は僕にとってすごく刺激的な時間でした。
世界基準のクオリティーを提示して、日本のシーンを底上げしたい。
―『Change your pops』は今後の雨のパレードにとって大きな軸となるアルバムになったと思いますが、『Change your pops』以降の展望をどう描いていますか?
福永:オケの完成度をさらに高くして、自分たちの音楽がより多くの人に届くようにという部分は変わらないです。次の作品で、今作とは表情を変えようかなと。
―表情を変えるっていうのは、どのように?
福永:次は、もうちょっと歌詞を抽象的に書きたいんですよね。このアルバムは、メロディーと歌詞が聴いてくれる人の入口になるように作ったので、その反動だと思います。もしかしたら、楽曲的には二極化していくかもしれないです。
―ディープな曲と開けた曲で?
福永:開けるといっても、たとえば“Rollin' Rollin'”(七尾旅人×やけのはら)とか“光と影”(ハナレグミ)とか“ナイトクルージング”(フィッシュマンズ)だったり、ああいう開き方だと思うんですけど。
―それはメロウに開けるということなのでしょうか?
福永:うん、やっぱり基本的にメロウな曲が好きなんですよね。でも、ただメロウというだけじゃなく、僕たちも世界基準のクオリティーを提示して、日本のシーンをみんなで底上げしたいという気持ちがやっぱり強いです。
―みんなでっていう思いも出てきたんだ。
福永:前は個で変えようと思っていたけど、『New generation』を出したときから、みんなで変えたいという意識が強くなっていますね。そのためにも『Change your pops』を多くの人に届けたいです。
- リリース情報
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- 雨のパレード
『Change your pops』初回限定盤(CD+DVD) -
2017年3月8日(水)発売
価格:3,780円(税込)
VIZL-11161. Change your mind
2. free
3. stage
4. Count me out
5. Take my hand
6. perspective(Interlude)
7. You
8. feel
9. Hey Boy,
10. intuition(Interlude)
11. 寝顔
12. 1969
13. speech(Interlude)
14. morning
- 雨のパレード
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- 雨のパレード
『Change your pops』通常盤(CD) -
2017年3月8日(水)発売
価格:3,024円(税込)
VICL-647171. Change your mind
2. free
3. stage
4. Count me out
5. Take my hand
6. perspective(Interlude)
7. You
8. feel
9. Hey Boy,
10. intuition(Interlude)
11. 寝顔
12. 1969
13. speech(Interlude)
14. morning
- 雨のパレード
- イベント情報
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- 『雨のパレード・ワンマンライブツアー 2017 「Change your pops」』
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2017年3月24日(金)
会場:新潟県 CLUB RIVERST2017年3月31日(金)
会場:北海道 札幌 COLONY2017年4月2日(日)
会場:宮城県 仙台 LIVE HOUSE enn 3rd2017年4月6日(木)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO2017年4月8日(土)
会場:広島県 CAVE-BE2017年4月9日(日)
会場:福岡県 graf2017年4月12日(水)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO2017年4月14日(金)
会場:東京都 赤坂 BLITZ
- プロフィール
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- 雨のパレード (あめのぱれーど)
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福永浩平(Vo)、山崎康介(Gt)、是永亮祐(Ba)、大澤実音穂(Dr)。2013年に結成。ポストダブステップ、80's POP、インディーR&B、エレクトロハウス、アンビエント、TRAPなど様々なジャンルを超えたその音楽性はもちろん、アナログシンセやサンプラー、ドラムマシーンなどを取り入れた、バンドという形態に拘らないサウンドメイクで大きな注目を集めている。2016年3月に1stフルアルバム『New generation』でメジャーデビューし、同年7月にリリースしたメジャー1stシングル『You』はSSTVのヘビーローテーション「POWER PUSH!」をはじめ、各地のラジオ局でも続々とローテーションを獲得、リリース後に行われた渋谷クアトロワンマンを含む東名阪ツアーは全公演チケット即日ソールドアウト。12月21日には2ndシングル『stage』(TBS系テレビ「CDTV」のエンディングテーマ)をリリースした。2017年3月からはアルバムと同タイトルの全国ツアー『Change your pops』を開催する。
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