5人組ツインドラムインストロックバンドjohannが、3年半ぶりのオリジナルアルバム『ZASHIKI-WARASHI fanfare』をリリースする。2000年代後半、日本でもポストロックがシーンとして盛り上がりを見せていた時代に活動を始めたjohannは、一介のポストロックバンドたちとは、どこか違っていた。俯きながらテクニカルな演奏を披露するのではなく、常に日本的な情緒を、音楽活動のなかに追い求めてきた。そしてjohannの音楽は、常に日本的な「祭り」の精神と共にあった。
詳しくはインタビューに譲るが、この3年半はjohannにとって決して順風満帆なものではなかったようだ。しかし、彼らが音楽という名の「祭り」をやめることはなかったし、むしろ彼らは、本気で日本の土着的なお祭り文化とコミットすることで、自分たち独自の活動スタンスを切り開き始めている。そう、ロックフェスやライブハウスだけが、バンドの生きる道ではないのだ。
一歩ではなく、半歩ずれているくらいの新しいことをやりたいなって、いつも思っているんですよね。(佐藤)
―CINRA.NETでは4年ぶりのインタビュー(前回:四畳半時代の悔しさをバネにして johannインタビュー)となりますが、当時johannは、クラウドファンディングを利用していましたよね。バンドがクラウドファンディングを利用するのは、かなり早かったのでは?
佐藤(Gt):そうですね。日本での前例は、まだほとんどなかったと思います。いつも他の人がやっていないことをやりたいし、でも、他の人がやっていなさすぎることをやると「なんだ、こいつら?」って思われるから、一歩ではなく、半歩ずれているくらいの新しいことをやりたいなって、いつも思っているんですよね。
それで当時調べていたら、CAMPFIREのクラウドファンディングサービスに辿り着いて。僕らが利用した次の年ぐらいから、NHKの番組でも取り上げられたりしたので、「先駆けたな」って、自己満足しています(笑)。
―そのときの支援者の方々に、今でも曲を送ったりしていますよね。
深津(Dr):そうですね。今回の作品のブックレットにも、『Haiku Days』のあとに出したLiaroid Cinemaとのスプリットアルバム(『話灯』)のブックレットにも、あのとき支援してくれた人たちの名前を載せているんですよ。今回の作品は今回だけのものではなくて、『Haiku Days』の経験を経て生まれたものなので、「あのときの支援があったから今も活動できています」ということを示したかったんです。
―この4年間で、バンドを続けていくことに対しての意識変化はありましたか?
佐藤:最近だと、「仕事があるうえでバンドをやっていく」という考え方の人が多いじゃないですか。それって、あくまで「生活のための仕事」と「音楽活動」を別々に考えているってことですよね。だけど、そうじゃなくて、一緒にしちゃいえばいいんじゃないかと思うんです。
―確かに、音楽活動で食べていくのが難しい時代になって、仕事をやりながらバンドをやる人も増えましたね。
佐藤:僕は今、個人で映像ディレクターやデザイナーの仕事もしているんですけど、そっちの仕事の名刺にもjohannのマークを入れているんです。今はもう、「音楽=映像」「映像=音楽」という価値観が当たり前じゃないですか。それなら、全部仕事にしちゃえばいいんじゃないかと思って。そうすることで、自分がバンドを始めたときの目標だった「音楽でご飯を食べていく」ということに繋がればいいなと思うんです。
ミュージシャンが演奏する以外でお金をもらっちゃいけないっていう決まりはないじゃないですか。ミュージシャンが、その感性を使って他のことを仕事にできればお金になるわけだから、それで活動を回していける風潮を作りたいなって。それができれば、すごく楽しいと思うんですよね。
―この4年間、johannにとってはどんな期間だったと言えるのでしょうか?
佐藤:もう、迷走ですね。
―迷走、ですか……?
佐藤:去年、31歳にして初めてフェスとかのオーディションを受けまくったんです。あらゆるオーディションに申し込んで、全部いいところまではいくんですけど、結局落ちるっていう(苦笑)。30歳過ぎてから落ちるのって、きついですよ。「あんたはダメ」って言われているようなものじゃないですか。
ロックバンドって、意外といろんな場所で演奏できるんだなって思いました。(佐藤)
―話が急にネガティブに舵を切りましたけど(苦笑)、そこまでオーディションをたくさん受けた動機はなんだったんですか?
佐藤:バンドマンにありがちだと思うんですけど、評価されることを怖がってしまうというか……「評価されるのが嫌」とか、「俺たちは俺たち」みたいな考え方が、俺はあんまり好きじゃないんですよ。今自分のやっていることは人生をかけてやっているわけだから、「自分が信じてやっていることは、周りからどういう評価をされるんだろう?」っていうことを確認したかったんですよね。で、結果、ダメでした。
深津:わっはっは!(笑)
―深津さん、めっちゃ笑っていますけど(苦笑)、オーディションを受けるのはメンバー全員で決めたことだったんですか?
佐藤:いや、僕が勝手に応募しまくりました(笑)。
深津:(笑)。でも、反対するとかはなく、僕もポジティブな感じでしたね。「そう言えばオーディションとか受けていなかったな、俺たち」って、今さらながら思って。それまでは、横の繋がりで呼んでもらって、ライブハウスとかでライブをして、来てくださった方々にCDを買っていただくっていうことを繰り返していたんですけど、不特定多数の人に聴いてもらったり、評価してもらうオーディションは今までやったことなかったから。
―でも、結果は芳しくなかった。
佐藤:そうなんですよねぇ……。でも、同じように去年から、地方のお祭りに呼んでもらえるようになったんです。地元のおじさんバンドのあとに、いきなり僕らが演奏する、みたいなことを結構やりました。お祭り会場に許可を得て、道端に機材を持ち込んで、いきなり演奏を始めてみたり。
あとは、代々木公園でやっているような「ラーメンフェス」みたいなイベントに、「演奏させてください」ってメール入れたりして。このあいだは、お台場であった『CHIMERA GAMES』っていう、ストリートカルチャー系のイベントで演奏したんですけど、それもこっちからメールを送ったら「ぜひ、演奏してください」って返事をもらえて。
―自らいろんな扉をノックしに行かれたんですね。
佐藤:そうしていると、ライブハウスでやっているときよりも世界が広がっていったんですよね。ロックバンドって、意外といろんな場所で演奏できるんだなって思いました。
新しい刺激は、別の業種の人たちからもらうことが多くて。「そんな考えがあったんだ?」って。(深津)
―そもそも、地方のお祭りでライブをやるようになったきっかけはなにがあったんですか?
佐藤:ふかっちゃん(深津)は千葉県の柏市出身なんですけど、これは誇張でもなんでもなく、彼と柏の街を歩くと、道行く人みんなとハイタッチするんですよ。そのぐらい、彼は地元で顔が広くて。このあいだ、スーツを着た固そうな人とハイタッチしていたから、「今の誰?」って訊いたら、「柏市議会議員の人」って(笑)。最初は、そんな地元密着型の彼の縁で、地元の団体の方から声がかかったんです。
深津:そこから、お祭りとかで演奏する活動を広げていこうって思ったんですよね。ライブハウス以外でも自分たちが演奏させてもらえる場所があるなら、ちょっと探してみようって。
自治関係の人たちは、「ライブハウスでやっているバンドなんて、お祭りには来てくれないよな」って思っているんですよ。本当は来てほしいけど、声をかけられないし、どこから声をかけていいかわからない。バンドマンはバンドマンで、本当はその辺の野外でライブをやってみたい人たちもいると思うけど、「俺らが出る幕じゃないよな」って思い込んでいる。
佐藤:そうだね。変に敬遠しているというか、先入観があるよね。
深津:でも、本当は向こうも求めているし、俺たちも求めている。それなら、結果はWin-Winになるじゃないですか。このあいだ、「中学校でやらないか?」っていう話が来たんですよ。
佐藤:運動場でやりたいねぇ!
―バンドや音楽が求められているのは、ライブハウスやフェスだけではない。
深津:そう思います。バンドマンの仲間と繋がっていると、もちろん音楽の話は深くできるけど、新しい刺激は、別の業種の人たちからもらうことが多くて。「そんな考えがあったんだ?」っていうことを、それこそ中学校の先生から与えてもらったりするんです。そうすると、僕らのなかでも、また新しいものが生まれたりもするし。
佐藤:向こうもこっちも、新しい刺激は求めているんだよね。
―今の話は、先ほどの「仕事を混ぜていく」話にも繋がる気がしますね。フェスのオーディションに落ちまくっても、johann、すごくポジティブじゃないですか。
佐藤:そう、意外と大丈夫なんですよ。フェスとかのオーディションで落ちまくって、「俺たちってダメなんじゃないか」って思ったけど、前知識のない人に見てもらうと好反応だったりして。
だから最近、なにが本当でなにが正解か、わからなくなってきて……音楽が好きな人には「ダメ」のハンコを押されたけど、音楽を知らない人たちからは好反応がある。「これはどういうことなんだ?」って。音楽業界のセンスがないのか、なんなのか……そういう疑問が1個できました。
―今、佐藤さんが仰ったことは大事な問題提起だと思うんですけど、周りの評価は関係なく、今のjohannにとって居心地がいいのは、どこなんですか?
佐藤:それは、祭り会場かなぁ。浴衣の女性も多いし(笑)。
深津:まぁね(笑)。お祭りではみんな構えてないというか、「今日はなにか楽しいことがあるかな」ぐらいの空気感でいると思うんですよ。だから、そのなかでバンドが出てくると、聴いてくれる人もオープンに、あんまり力を入れずに楽しんでくれたりするのかなって思うんですよね。
―フラットに「楽しいこと」を求めている人たちに、johannの音楽はフィットするわけですよね。johannって、「ツインドラムで~、インストで~」という形で言葉にすると、難解なポストロックと思われるかもしれないけど、根本的に、そういう音楽ではない。キャッチーだし、歌謡性が高いですよね。
佐藤:そうですね。やっぱり、johannには昂揚感があるというか。お祭り会場や路上で演奏したときに反応がいいっていうことは、聴く人にとってスッと入ってくる音楽だっていうことだと思うんですよね。入り口が開かれている。
僕は元々、横浜銀蝿とSOPHIAが好きだったので、結局「歌」が好きなんですよね。ボーカルが見つからなかったから今の形でやっていますけど、本当は、インスト嫌いですから。
「やらなくていいこと」をひとつやっていると、それがアイデンティーとか、自分特有の「生きている意味」に繋がっていく。(深津)
―インスト、嫌いなんですか?(笑)
佐藤:johannを始めた頃って、インストバンドが大量生産されていた時代で。それが嫌だったんですよね。俺は、技巧的なフレーズを弾くことより、単純でキャッチーなメロディーを弾くことが好きなんです。
あと、やっぱりjohannって、ふざけている感じがいいのかなと思って。他のインディーズバンドって、キメキメじゃないですか。そういう部分は他のバンドに任せて、俺たちはちょっと外しながらやったら面白いんじゃないかとは思っていますね。
―新作『ZASHIKI-WARASHI fanfare』には、BEGINの“島人ぬ宝”のカバーも収録されていますけど、この選曲もjohannならではですよね。それこそ、お祭りの会場でやったら盛り上がりそうだし。
佐藤:みんな知っている曲なので、ライブでも間口が広がりますね。そもそもは、僕が毎年行くぐらい沖縄が好きだから入れただけなんですけど(笑)、でも、たとえばLITE やtoeが“島人ぬ宝”のカバーをやっても、彼らの世界観には合わないですよね。じゃあ、僕らがやってあげますよ、と(笑)。
―クラウドファンディングにしろ、お祭りでのライブにしろ、“島人ぬ宝”にしろ、johannは一貫して「人と違うことをやる」ということに重きを置いているし、自分たちで自分たちを盛り上げて、「楽しさ」を見つけていこうとする力がすごく強いですよね。この原動力はどこから生まれてくるんですか?
佐藤:毎日を死んだような目で過ごすのは嫌だし、生きているからには、みんなが楽しくなるように過ごしたいし、自分自身も楽しみたい。来年でバンドを始めて10年なんですけど、人生のかなりの時間をかけてやると決めているんだから、楽しまなきゃダメでしょう。そもそも、バンドってやらなくてもいいことじゃないですか。誰かに「やれ」って言われているわけでもないし。
―そうですね。
佐藤:「やらなくてもいいこと」をやっている。だからこそ「型」を崩していきたいし……そもそも、本当は「型」なんてないはずなんですよ。俺は他人と同じことをやるのが嫌なんじゃなくて、知らないうちに自分の頭が固くなっちゃうのが嫌なんでしょうね。
たとえば、「バンドはライブハウスでライブをやることが当たり前だ」って自然と考えてしまう、そんな自分に対して「あ、頭が固くなっているな」って感じる瞬間がふとあるんです。それを柔らかくするために、違う発想を考えているのかも。
―「やらなくてもいいことをやっているんだ」ということに自覚と誇りを持つことは、大事なものかもしれないですね。
深津:現代において、「やらなくていいこと」をひとつやっていると、それが個々のアイデンティーとか、大袈裟にいうと、自分特有の「生きている意味」に繋がっていくんじゃないかと思うんですよね。
お金を稼いで、食事をして……それで、たしかに生命は維持されるんだけど、でも、食べたり寝たりっていう生命維持とは関係ないことをやることで、自分が飽きないし、人として生きること、「人生」に、自分特有のものが生まれるんじゃないかと思う。
佐藤:「やらなくてもいいこと」をやっているから、ロマンチックなんだよね。
座敷童子って、幸せを呼ぶ妖怪なんですよね。johannは、幸せを運ぶおっさん五人です(笑)。(佐藤)
―johannは、今後どうなっていくんでしょうね?
深津:これだけライブハウスじゃない場所でもできるんだってわかってきたので、ライブハウスじゃない場所だけを回るツアーとかやってみたいですよね。全国の夏のお祭りだけを回る、みたいな。「johannの、こんな場所でライブやっちゃいましたシリーズ」(笑)。
佐藤:それいいね。それでいうと、両国駅に、今は使っていないホームがあって、そこでライブができるんですよ。反対側のホームからライブが観られるっていう。あそこでもやりたいね。
深津:あと、屋形船とかでもやりたい。もちろん、『FUJI ROCK』も出たいけどね。山のなかで演奏したいなぁ。
佐藤:そうだね。『FUJI ROCK』はね、絶対に出たいんです。そもそも、johannで曲を作り始めたときって、『FUJI ROCK』に出るために作り始めたんですよ。19歳のときに初めてスタッフで『FUJI ROCK』に行って、「次に来るときは絶対に出演者で来る!」って思ったんです。12年くらい前の話ですけど、それ以来『FUJI ROCK』には行っていなくて。なので、それは絶対に叶えたい。
―10代の頃の夢は、そこにあり続けているんですね。
佐藤:そうなんです。でも、『FUJI ROCK』に出たら目標はひとつ達成されるけど、そのあともバンドは絶対に続いていくわけだから。「より、どう楽しむか」っていうことは、追い求めていきたいですね。
―ちなみになんですけど、今作『ZASHIKI-WARASHI fanfare』のタイトルの由来はなんですか?
佐藤:僕が妖怪大好きだからです(笑)。座敷童子って、幸せを呼ぶ妖怪なんですよね。一応、僕ら五人が座敷童子っていう設定です。johannは、幸せを運ぶおっさん五人です(笑)。
- リリース情報
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- johann
『ZASHIKI-WARASHI fanfare』(CD) -
2017年4月19日(水)発売
価格:1,700円(税込)
TTPM-21. 虹色商店街
2. やさしいしと
3. 島人ぬ宝
4. 鬼泣峠
5. 今夜あなたと
- johann
- アプリ情報
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- 『johann / Haiku Days + "DEMO-2009"』
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料金:1,600円(税込)
互換性:iOS 8.0以降(iPhone、iPad、および iPod touch に対応)
- プロフィール
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- johann (よはん)
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2008年結成のツインドラムインストロックバンド。TOKYO JAPANESE WABI SABI TATAMI PRIDEというスローガンを掲げ、日本の情緒、文化を独自の解釈でロックミュージックに乗せて表現している。『earth garden』『TONE RIVERJAM』、お台場で開催された『CHIMERA GAMES』、地方の祭り会場等、野外フェスにも多く出演。また、スウェーデンのLAST DAYS OF APRIL、テキサスのHIKESのツアーサポート等、来日した様々なアーティストとも共演を重ね、着実に経験を積んできている。日本最後のサムライ五人組が奏でる、音の紡ぎに是非耳を傾けて欲しい。
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