東京から「Kawaiiカルチャー」を発信し続ける増田セバスチャンは、いまや日本のポップカルチャーを語る上では欠かせない存在だ。初期のきゃりーぱみゅぱみゅの美術演出を筆頭に、才能あふれるアートディレクターとしてその名が知られる彼は、「原宿Kawaiiカルチャー」をコンテクストにした作品制作に精力的に取り組み、常にセンセーショナルな話題を生んでいる。
そんな増田セバスチャンが昨年秋からDMM.makeとCINRA.NETによる新たなコラボレーションをスタートさせた。それが、DMM.makeの技術を使って、アート作品を新たな形でより身近に届けるプロジェクト「ディレクテッド・メッセージ・バイマシーン プロジェクト」だ。今回、約半年かけて制作されたプロトタイプが、ついに完成。増田セバスチャンがこだわりぬいた作品への想いとプロトタイプの制作過程を追いながら、「最先端のデジタル技術がアートワークに与えるもの」について話を聞いた。
日本ではアートよりもファッションやエンタメのほうが社会に対しての飛距離がある。
―増田さんは現在、コマーシャルなフィールドでアートディレクターとしても大活躍ですが、ここ数年はアーティストとしての活動も精力的に行われていますね。
増田:僕には活動の支えが3つあるんです。舞台やミュージックビデオ、コンセプトレストランのプロデュースなどに代表されるエンターテイメントと、1995年から続けている「6%DOKIDOKI」というブランドを軸としたファッション。そしてアート。その3つを使って、どうやって「社会にリンクするか」が、僕のテーマなんです。
―その3つは、ご自身の中でどういう関係性で共存されているのですか?
増田:それぞれの作品の構成要素というのは、やはり「原宿」や「Kawaii」のスピリッツが根本にありますし、実は同じものをアウトプットを変えてやってるだけとも言えます。でも、それぞれのジャンルで見え方が違うんですね。
例えばコンビニにアート雑誌って置いてないですよね? でも、ファッション雑誌は山ほど置かれている。その意味では、ファッションのほうが社会により多くリンクできています。
エンタメ雑誌もそうですよね? だから、日本でより社会にコミットできるのは、アートよりもファッションやエンタメで、そっちのほうが社会に対しての飛距離があるんですよね。
個展『Colorful Rebellion –Seventh Nightmare-』 Photo:GION
―たしかにそうですね。
増田:その意味で、3つのジャンルを横断しているのが、今の僕の状況です。単純に、エンタメ、ファッションのジャンルは、メッセージを発信する入口としてはとてもいい。
そこから、もう一歩進んでアートの世界に興味を持つと、「この作品はかわいく見えるだけじゃなく、こういうメッセージも含んでいる」とか、「何を考え、何に影響されてこの作品ができたのか」ということにも、次第に目が向いていきますよね。
一人ひとりの小宇宙を認め合うことで、もうちょっといい世の中になるんじゃないか?
―ジャンルを横断して通底するメッセージを追うことで、違うモノが見えてくる、ということですね。
増田:そのメッセージが様々な社会にリンクしているからこそ、見えてくるものがあると思うんです。アーティストには、すごくコンセプチュアルでミニマリズムな考え方の人もいる。それはそれで素晴らしいんですけど、入口がアートひとつしかないと、伝えたいことが狭まってしまう。だから、もっと入口を増やしたいというのがそもそもの動機なんです。
コンセプトレストラン「KAWAII MONSTER CAFE -HARAJUKU-」
コンセプトレストラン「KAWAII MONSTER CAFE -HARAJUKU-」
―その入口というのが、「Kawaii」の概念であり、思想なんですね。
増田:そうですね。僕が概念として言っている「Kawaii」は、自分だけの小宇宙を作ること。世の中には一人ひとり全員の小宇宙があります。それを認め合うことによって、もうちょっといい世の中になるんじゃないか? というのが僕の主張。それを「Kawaii」という言葉に置き換え、ビジュアル化してみんなに伝えたいというのが、アーティストとしてのメッセージなんです。
僕は最初、20歳の時に気づいたらアートの世界に足を踏み入れてたんですけど、作品はまったく認められなかった。そんな僕の作品を、最初に気付いて面白がってくれたのは、実はファッションの人たちだったんです。
そこから20年後、エンターテイメントの世界でも注目されるようになって、今やっともう一度アートをやれるようになったという経緯がある。だから、根本は変わっていないし、そんな20年越しの活動が今、アートにもう一度立ち返ったと言うこともできるのかな。
アーティストとしての覚悟というものを、学生にも身をもって体験してもらいたかった。
―アーティストとしてまったく認められなかったとおっしゃいましたが、その挫折の経験があってこそ、今があるということですか?
増田:そうですね。美大に入ると、アーティストというのは素晴らしいものだから、みんな目指しなさい! と言われることも多いらしいんです。でも、実際自分がなってみたら、まったく生活できない。
今でこそエンターテイメントの仕事をさせてもらっているので、なんとかなっていますけど、アーティストというのは、そんないいものじゃないんですよ。そこで、「なぜアーティストにならなきゃいけないのか?」という理由が必要なんです。
こういうメッセージを投げかけないと死んでしまう、というような、自分の人生と引き換えにやらなきゃいけないことがアートなんだと思います。そういうアーティストを見て、社会の人たちは、「ああ、この人を支えることで何か価値が生まれるんだ」と思えるんです。
―内から湧き上がる衝動を、社会的なメッセージに変えて発信するのがアーティストである、ということですね。
増田:そういうアーティストとしての覚悟というものを、僕が客員教授を務める京都造形芸術大学の学生にも、身をもって体験してもらいたかったんです。それが、昨年『New Generation Plant #2』という作品の制作を学生と一緒にやった意味でもありますね。
アートは存在しなくても困らないけれど、きちんと社会とリンクすることで、社会の潤滑油になれる。
―制作された『New Generation Plant #2』のコンセプトはどういうものだったのでしょうか?
増田:ニュージェネレーション、つまり次世代が作る「新しい生命」を表現したいと思って始めたプロジェクトの一環です。次の世代の代表として、京都造形芸術大学のウルトラファクトリーに集まった学生と共に制作をしたんです。
『New Generation Plant #2』制作風景 Photo:京都造形芸術大学ウルトラファクトリー
『New Generation Plant #2』制作風景 Photo:京都造形芸術大学ウルトラファクトリー
―それが先程の、美大生にアーティストとは何か、を体感してもらったという話に繋がるんですね。
増田:この作品は、架空の植物の型を作って、中にいろいろな材料とLEDライトを詰めて発光させているんですが、その中身の材料を学生に集めてもらったんです。その集め方も、自分の手元にあるものや買ったものではなく、京都の街に出て、いろんな人に頭を下げて材料をもらうことから始めた。すると、実は街に出るとアートというものが、一般的には受け入れられていないことが分かるんです。まずそこで現実を知れ! と。
―アートが一般的に受け入れられていないことを実感させるんですね。
増田:着物屋さんに「ハギレをください」、雑貨屋さんに「使っていないものをください」と、アートを作るから素材を提供してくださいと言っても、門前払いされる学生がたくさんいて。ある学生の子は、どうしても集まらないからと、美大生ではない友達に頼んだら、その場で食べてたアイスの袋紙を渡された。
―ゴミを渡されたわけですね。
増田:その子は、泣きながら帰ってきたんですよね。一生懸命、増田セバスチャンという人がいて、こういうアートを作るんだと説明したのに、渡されたのは本当にいらないものだった。それがすごくショックだったみたいで。そこでやっと、アートが社会でどういう認知のされ方をしてるのかについて気づいてくれた。芸術家なんてわけのわからない変わった人で、アートもわけがわからない……と思われて終わり。
アートは食べ物と違って、存在しなくても困らないものだけれど、きちんと社会とリンクすることでアートとして成立し、社会の潤滑油になれる。その覚悟を持って、アーティストになって欲しかったんです。
いろいろなこだわりを形にすると、さらにアイデアも膨らむ。
―『New Generation Plant #2』は、「アーティスト」という生命を生むための作品でもあったんですね。
増田:ある子は東京まで出てきて、ストリップ劇場の支配人にかけあって、使われなくなった衣装をもらってきたりしてました。そういう彼らの努力や素材の持つストーリーが加わることで、作品にもだんだん強度が増していくのがわかりました。
みんなが素材を持ち寄ることによって、18~20歳の子たちだから放つことができる、その一瞬にしか生まれないキラメキみたいなのが、ぎゅっと詰まった作品になったと思います。
ワタリウム美術館で展示された『New Generation Plant #2』
―全体像として、キノコをイメージさせる植物になっているのはなぜですか?
増田:新しい世代が生まれる息吹を表現するのに、キノコの生命力の強さはとても合っていますよね。僕自身も好きなモチーフでしたし。想像上の植物としても、キノコっぽいというのはイマジナリーでいいですよね。
―そんな、増田さんと学生さんの想いの結晶を、今度はDMM.makeとコラボレーションした作品へと昇華しようと思われたんですね。
増田:そうですね。『New Generation Plant #2』は大きさが2.5メートルほどあるオブジェなので、そこに込められた世界観、ストーリーをみなさんに持ち帰ってもらえるものが作れないか、というのが出発点でした。そこでDMM.makeさんとの共同作業として、3Dプリンターという最新技術を使ってやってみようということになったんです。
最初は僕も、すでに丹精込めた作品はあるので、工程を手伝うくらいの感じで考えていたんですが、いろいろなこだわりを形にすると、半年間の作業の中でまたアイデアも膨らみました。何度も通ってスタッフとかなり密にコミュニケーションを取りながら、やっとプロトタイプまで来た感じですね。
―具体的な作業工程を紹介していただけますか? 今回、制作作業のメインツールとなったのは、3Dプリンター。3Dプリントを行うには、複製するオブジェクト本体をスキャンして、3Dのモデリングデータを作るところから始まりますね。モデリングデータの作成は、2.5メートルの『New Generation Plant #2』をスキャンしたのですか?
増田:いえ、じつはそうではないんです。スキャンデータの元になったのは『New Generation Plant #2』の制作時に使用した原型模型なんです。模型を3Dスキャンし、大きな発泡スチロールで型を取って透明FRP(繊維強化プラスチック)を使い、手作業でキノコ形状の植物の外側部分を作りました。そこに「Kawaii」モチーフを詰め込んだ世界観を閉じ込めて、中身が見えるようにしているんです。
―先程、「Kawaii」は、自分の中に好きなもので小宇宙を作ることだとおっしゃっていましたが、まさにその「Kawaii」の思想が、作品にも表れていますね。そして、模型のスキャンデータから、3Dプリンター出力用の3Dモデリングを作成された。
増田:スキャンデータを元に、さらにボコボコした部分などを付け足したり、細部を新たに造形し直して3Dモデリング化し、3Dプリンターでキノコ形状の笠の部分といしづき部分を出力しました。出力したままでは外枠の形も美しくないので、表面を削り、透明度を増すためにクリアを塗ってもらっています。
中にはクマや星のマスコットやブロックなど「Kawaii」を象徴するモチーフと、小さなLEDライトが連なったコードを手作業で詰め込んでいます。詰め物のモチーフも、僕が用意したオモチャを3Dプリンターで多彩な大きさで複製・着色して作りました。『New Generation Plant #2』は、学生が集めた素材を詰めていますが、今回は商品化ということもあり、複製を考えてそうしています。
表現する自分のメッセージがしっかりあれば、デジタルツールは手作業ではできないことの可能性を広げてくれる。
―『New Generation Plant #2』と同じ模型をベースとしながらも、また新たな作品へと変容しているのが面白いですね。DMM.makeとのコラボレーションを通じて、増田さんがあらためてどんなことを感じましたか?
増田:正直なことをいうと、今回のプロトタイプは本当に実験的な試みですね。こちらも無理を言って、大きさもDMM.makeの工房で可能な限り大きくしてもらいましたし、素材の選定や加工もかなり吟味しました。最初は、もっとクリアな外枠になっていましたが、あえて透明度をくすませてもらったり。
でも実際、モチーフを詰め込むと、クリアパーツのほうが美しく見えて楽しいかな、とか未だ試行錯誤は続いていますね。原作全体の世界観を手軽に楽しんでいただけるもの、という意味では、とてもいい作品が仕上がりつつある手応えは大きいですね。
―以前、CINRA.NETのインタビューで、増田さんはご自身の作品、プロダクトは、手作業で魂を込めることがとても大事でこだわっていると話されていました。今回は、3Dプリンターというツールで造型を自動化されていますが、増田さんにとってデジタルツールはアート作品にとってどういう位置にあるものでしょうか。
増田:3Dプリンターにしても、他のデジタル技術にしても、手段でしかないとは思っています。あくまで「表現するものは自分のメッセージだ」ということがしっかりあれば、デジタルツールは手作業ではできないことの可能性を広げてくれますからね。最終的に、肉眼で鑑賞するものとしてどう整理するか。それはアーティストの手作業でしかできない仕事なので。
デジタルツールが進化しても、アイデアも含めてアナログなことがしっかりできていないと、アートにはならないと実感した。
―では、デジタルツールを活用することならではの、新しい発見はありましたか?
増田:ありましたね。手作業のアートというのは、1点ものだということに価値があるわけですが、メッセージを発信している以上、やはり自分の作品をより多くの人に手にとっていただきたいというのはあります。そういう意味でも、3Dプリンターを使うと、コンセプトは崩さずに容易に複製は可能。作品をより多くの人に届けられるのは、とても魅力的です。
あと、作品を作るツールが新しくなれば、それでできることに合わせて、作品自体が変わっていくこともあると思います。僕は、けっこうそういう影響を受けやすいですから(笑)。
―3Dプリンターを使った今回の作品は、精密な複製でありながら、完全なコピーでもなく、完全な1点ものでもない。その中間点というのも新しく、面白いところですね。
増田:そうですね。制作過程も、想像以上に楽しかったです。3Dプリンターという最新技術を使いましたけど、そこに介在したものは意外にも、DMM.makeチームとのアナログなコミュニケーションでした。だから、プロジェクトチーム全体で、アナログなものを作り上げた感触が強い。
最終的に中の素材を詰めるのも、結局、みんなでああじゃない、こうじゃないかと言いながら、アナログな手作業でしかできなかったですしね。そのアナログさが、想いとして確実に作品に込められたなと。デジタルツールが進化しても、アイデアも含めてアナログなことがしっかりできていないと、アートにはならないと実感しました。
石巻に、新しい息吹の象徴として『New Generation Plant #2』を置きたい。
―現在、プロトタイプが完成したわけですが、実際の商品化に向けて、さらに何か加わりそうですか?
増田:はい、たぶん。作品の中に詰める素材も、僕が連作している『カラフルリベリオン』シリーズ同様に、世界中から買い付けてきた素材から選んでもいいかと思いますし、最後に素材を詰める作業をワークショップ化して、作品を買ってくれた方に僕らとの共同制作を体感してもらうのも楽しそうです。アイデアは広がりますね。
―ちなみに、今回のプロジェクト名をまだ伺っていませんでした。お決まりですか?
増田:あ、そういえば、まだ付けていませんでしたね(笑)。そうだなぁ、プロジェクト名は、「ディレクテッド・メッセージ・バイマシーン プロジェクト」ですかね。略称DMMプロジェクト。チーム感があっていい(笑)。
―お披露目の時期も気になりますね。
増田:じつは、7月22日から9月10日まで、宮城県石巻市で行われる『Reborn-Art Festival 2017』に参加するんですが、そこで石巻に『New Generation Plant #2』を展示することが決まっています。石巻は、東日本大震災の甚大な被害から、再生している土地なんです。
今、現場に行ってみると、復興ボランティアとして訪れた人がそのまま住み着き、新しい町ができているのが分かります。街そのものが、若く生まれ変わっているんですね。そこに、新しい息吹の象徴として『New Generation Plant #2』を置きたいと思い、今回実現します。
なので、今回の作品も一緒にお披露目できたらなと考えています。実際にその場で販売できるのか? といった詳細は、これから決めていきますが、ぜひ多くのみなさんに手に取って、見ていただきたいですね。
- イベント情報
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- DMM.make 3D PRINT
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DMM.make 3Dプリントは、モノづくりの経験者と初心者がクロスする“つくって・売って・買える”サービスを提供しています。プロ向けデザインワークから趣味のフィギュア作りまで、ネットから気軽に高品質3Dプリントが実現できます。3Dデータをアップロードし好きな素材を選択して3Dモデルを楽しんでいただけます。各素材で最高レベルの高性能プリンターを利用しており、素材によっては、医療や飛行機、自動車の部品開発でも使われているプロ向けのプリンターも利用しています。また、アップロードした3Dデータをもとにクリエイターとしてショップを開設し、出品することもできます。出品した商品が購入されると、DMMが商品の造形を行い、購入者にお届けします。また、販売価格から造形価格や事務手数料、源泉徴収税等を引いた分を利益としてクリエイターにお支払いいたします。
- 『Reborn-Art Festival』
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2017年7月22日(土)~9月10日(日)
会場:宮城県 石巻(牡鹿半島、市内中心部)、松島湾(塩竈市、東松島市、松島町)、女川町
- プロフィール
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- 増田セバスチャン (ますだ せばすちゃん)
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アーティスト / アートディレクター。演劇・現代美術の世界で活動した後、1995年にショップ「6%DOKIDOKI」を原宿にオープン。きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」MV美術、「KAWAII MONSTER CAFE」のプロデュースなど、原宿のKawaii文化をコンテクストに作品を制作。現在、2020年に向けたアートプロジェクト「TIME AFTER TIME CAPSULE」を展開中。
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